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52.お友だち
しおりを挟むマイナは朝から張り切っていた。
今日は麗しのエレオノーラ・グートハイル侯爵夫人がいらっしゃるからだ。
(異世界で初めての女の子のお友達と二人だけのお茶会!!)
レイがまだ起きぬうちから目を覚まし、綺麗なレイの睫毛を眺めたあと、少しだけ生えてる髭を確認してから起き上がった。
(毎朝キスされるけど、お髭がくすぐったいんだよねぇ。お父さまやお兄さまの超剛毛な髭を見てるから、レイさまなんて生えてないに等しいはずなのになぁ。お母さまはお父さまの超剛毛なお髭とどうやって付き合ってきたんだろう? 今度聞いてみようかな?)
なんてことを考えていたからだろうか。
せっかく起き上がったのに横から伸びてきたレイの手に掴まって、お布団の中に連れ戻されてしまった。
(今日はバアルとシフォンケーキを作るのに―!! ひっくり返すだけだけどー!!)
なんやかんやあって、いつも通りの時間に起き上がることになってしまった。
* * *
「ねぇ、ニコ。変じゃない?」
「いつも通り、可愛らしいですよ?」
「そう? ミリアもそう思う?」
「はい。とても素敵です。マイナさまの白い肌によくお似合いです」
今日はニコが絶対に被らないからと、オレンジ色のドレスを出してきたのだけれど、オレンジ色だとなんで被らないのかはよくわからなかった。
結局のところ、それほどドレスに興味がないのである。
マイナの思うお洒落とは、やはり前世風の洋服だ。
そわそわと待つこと一時間、到着したエレオノーラのドレスは菫色だった。
(うわぁぁぁぁ。人妻感あるぅぅぅ)
マイナも人妻である。
見た目が少々幼いが。
……いや、年齢も幼かった。
(最近なんだか忘れがちだけど、私ってば幼妻だった……っていうかエレオノーラさまも十代なのに、なんでこんなに色っぽいの? お胸すご……)
下世話なマイナであった。
「ごきげんよう、タルコット夫人。お招きありがとうございます」
「ごきげんよう、グートハイル夫人。ようこそいらっしゃいました」
軽やかに挨拶を交わし、庭園のテーブルについた。
残念ながら金木犀は散ってしまったけれど。
ニコやメイドたちは離れた場所に待機してくれた。
マイナがあまりにも「初めてのお友だち」と喜び過ぎていたせいだろう。
「グートハイル夫人は普段どんな本を読まれるのですか?」
本の話は無難である。
娯楽の少ないこの世界で、大抵の人は何かしら読んでいるからだ。
「最近は領地経営の本でしょうか」
思ったより無難な話にならなかった。
「まあ、それは素晴らしいことです」
おほほ。
マイナもお勉強で読んだりはしたが、娯楽として読むのはもっぱらロマンス小説だ。
エレオノーラは見た目によらず、とてもシャキッとした方だった。
お話も面白いが、前世でお仕事をバリバリされている方と話しているような気持ちになった。
マイナの話の中でエレオノーラが一番くいついてくれたのは、今度オープンするお店の話だった。
シフォンケーキは美味しいと言ってくれたが、それほど興味はなさそうで残念だった。
見た目通り中身までふわふわしてるわけではなかった。
(いやでもこれだけしっかりなさっていたらグートハイル侯爵家は安泰だわ……)
「バルバリデ王国の商品をこのタイミングでお売りになるなんて、さすがタルコット夫人、先見の明がおありですわ」
(ん? 何の話だ? 私にそんなものはないぞ?)
とは思ったが、こういうときは、しれっと微笑んでおくのが正解だ。
どのようなお品が、とか。
どのような経緯で、とか。
好奇心を刺激されたのか、そこからは怒涛の質問が始まり、最後には前世風ワンピースなど、ボルナトから買った服をニコに持ってきてもらい披露していた。
(グートハイル夫人には教えてもいいってレイさまが言ってたし、大丈夫よね?)
「斬新ですが、刺繍も美しいですし、とてもよいお品ですね」
感心しながら頷いている。
後れ毛が揺れて艶めかしいのに、やはりキリッとした表情はビジネスウーマンである。
(これでは婦人会の茶会なんて本当に馬鹿らしかっただろうなぁ……)
マイナでさえ退屈だったのだ。
領地経営や店舗開店に興味を示す人には、下世話な夫人たちの会話はくだらなくて仕方がなかっただろう。
「これからは女性もお仕事を持つ時代になるのではと思っているのですが、マイナさまはどうお考えですか?」
最終的には名前で呼び合うぐらい仲良くなった。
それはいいが、相変わらずお仕事方面の話に終始する。
ちなみに旦那さまである侯爵の話題はひとつも出てきていない。
「そうですね。わたくしは女性が輝ける場所が増えるといいなと思っておりますが……それには少々、ドレス姿というのは不便ではないかと感じておりますの」
単純に前世風の服に変わっていってくれたら楽なのに、と思うマイナである。
深い意味はない。
「なんと。衣装から女性の働きやすさをお考えとは。素晴らしいですわ」
(うーん、違うの! そんな高尚なものじゃないのー!!)
という心の叫びは口にできない。
さんざんボルナトの持ち込んだ衣装を褒められた後である。
話が合わないわけではない。
彼女もまた美しいものが好きなようで、タルコット公爵家の庭園を絶賛していた。
その表情に嘘はなかった。
けれども、やはり。
「お店の立地はどのような観点でお決めになりましたか?」
(それもほぼレイさまとエラルドが選んだのー!! ごめんなさいー!!)
ビジネスの話がお好きなエレオノーラに、終始圧倒されつつ何故か申し訳ない気持ちになるマイナであった。
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