【完結】なんちゃって幼妻は夫の溺愛に気付かない?

咲楽えび@改名しました(旧 佐倉えび)

文字の大きさ
60 / 125

60.魔女

しおりを挟む
 


 魔女の森までの道すがら、夜盗の襲撃にあった。
 なんなく退けるヨアンは、マイナを抱えたまま片手で剣を振っていた。
 セラフィーナは、そんな時でも足を止めることなく進み、ヨアンを助けるように動いていた。セラフィーナは大きな体をどう駆使するかを心得ているようだった。
 マイナたちは、一度も歩みを止めることなく、二時間ほどで魔女の森に到着した。

 魔女の家は外から見ればただのログハウスで、彼女に用のある者にしか見えないらしい。
 扉をノックをすると、五秒ほど経ってから「入れ」という返事があった。静かに古びた扉を開ける。
 セラフィーナはいつの間にか小屋の横にある水飲み場で水を飲んでいた。

 ヨアンと共に室内に入ると、こじんまりとした空間に魔女がつまらなそうな顔をして座っていた。

(懐かしい……)

 ここに来るのは三度目である。

 一度目は三歳のとき。
 二度目は六歳のとき。

「ごきげんよう、シャンタルさま」

「……来るころだと思ってたよ」

 前世でいう煙管のようなものを口にした魔女シャンタルは零れ落ちそうなほどの胸をギリギリのところまで見せたドレスを着ている。
 十年前と変わらないその姿に、ただただ懐かしさを感じる。

 暖炉の火の揺らめきも、テーブルの上の乱雑さも、それでいてベッドの周りは美しく整えられている、ちぐはぐな魔女の家の、懐かしい景色。
 この全てを昨日、ようやく思い出した。

(間に合ってよかった……)

「思い出したんだね」

「ええ」

「わかっているとは思うが、三度目が最後だよ? 最後が一番危険なんだ。お前さん、前に来たときのように取り乱してないじゃないか。むしろスッキリした顔をしている。ここに来る必要はあったのかい?」

 ふぅ、と煙をはきだしてシャンタルは頬杖を突いた。
 僅かばかり開いているテーブルの隙間に、上手く肘を突いているのが可笑しい。

「今回は解毒薬が欲しいの」

「解毒ぅ?」

「ヴィヴィアン殿下が意識不明よ。救わなければ国が揺らぐわ。そうなればお父さまも、今までのように動けるかわからないわ。レイさまとを人質に取られるようなものだから」

「それは困ったね。アタシがここで自由に生きていられるのもべイエレン公のお陰だしねぇ」

 この世界で言う魔女は魔術を使う。
 シャンタルはどういうわけかこの森が好きで、ここに住みたいがために父に囲われている。
 べイエレン公爵家の領地内、ここを知る者しか踏み入ってはならない場所である。

「どんな毒でも治せる薬をちょうだい。対価は、私と殿下の想い出よ。一応聞くけど、私が対価として差し出した想い出を思い出したら毒が回るなんてこと、ないわよね?」

「アタシを誰だと思ってるんだい。そんな三流の魔女が作るような薬なんざ作らないさ。でもね、三度目は危険なんだ。他に誰か対価を払える者は居ないのかい?」

「対価として十分な量の想いがある人という意味では、ここの秘密を守れる人の中にはいないわ。探してる時間もないの」

「その想い出に混じる、大事な人との想い出も消えるって、わかってる言ってるんだね!?」

「わかってるわ」

 迷いはない。
 記憶は、いつか取り戻せるということを知っているからだ。
 抜けてしまった記憶のざわめきにも慣れている。
 心のどこかがポッカリと穴があいたかのような虚しさも。

 もう二度も経験した。

 でも。

 いまヴィヴィアン殿下を失えば、殿下だけでなくマイナが大好きなレイも失うだろう。
 この胸騒ぎは尋常ではない。
 記憶と共に第六感が戻ったからわかるのだ。

 レイを思い通りに動かすためなら、今の陛下は何でもする。

「……顔に合わない喋り方するんじゃないよ。記憶を失った後のぼんやりしたあんたのほうが可愛くてアタシは好きだよ」

「じゃあ、やってくれるのね? 対価は足りる?」

「アンタたち幼馴染だろう? 多いぐらいだよ。一つ聞くけど、殿下への恋心は? 人妻なんだし、むしろそっちを対価にしたほうがスッキリするよ?」

「全くもってこれっぽっちも艶めいた感情はないの。純粋な友情だけよ?」

「そうかい。気の毒なことで」

「なんでよ!?」

「まったく色気がないねぇ……ま、できるだけ負担がかからないようにやってやるよ。とはいえ繊細な作業で疲れるんだ。アタシみたいな婆さんにやらせるんじゃないっつうの。あーいやだ。ホントにね、今日は酒も呑まずに待ってたんだよ。信じられないよ、このアタシが。丸くなっちまってさ、歳かね!?」

「まだお綺麗よ」

「そうかいそうかい。あんたはいつになったら、おっぱいがおっきくなるんだよ。ぺったんこじゃないか」

「失礼ね! 私だって脱いだら凄いのよ!!」

「どうだか」

 シャンタルはテーブルの上のたくさんの物を手で払いのけた。
 ガシャガシャと音を立てて物が落ちていったが、いつものことだ。
 前回、同じものを見たヨアンも涼しい顔をしていた。

「お前、またいい男になったね。そろそろアタシの男にならないか?」

「お断りします」

「つれないねぇ……」

 シャンタルは煙管を置き、マイナに手をかざした。

 マイナは目を瞑る。
 脳内を何かが巡るような気配と共に意識が遠のいていった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
恋愛
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

辺境伯夫人は領地を紡ぐ

やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。 しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。 物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。 戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。 これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。 全50話の予定です ※表紙はイメージです ※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...