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76.結婚(1)
しおりを挟む(カレー……美味しかったなぁ……)
ほんわりとした心の温かさを感じ、マイナはあくびをした。
あれだけ寝たというのにまだ眠い。
レイに後ろから抱きしめられているからだろうか。
それともこの庭の日差しが暖かすぎるのか。
バアルのカレーは具が溶け込んでいて、サラサラでスパイシーだった。
焼いた野菜も添えられていたから、少しスープカレーに似ていた。
(なんていうか、とても上品なのよね)
マイナは野菜がゴロゴロしたカレーも、甘口のカレーも、辛口のカレーも、本格スパイシーカレーもバターチキンカレーも、とにかくカレーならなんでも大好きなのだ。
カレーうどんもいい。
(そうだ、カレーうどんが食べたい!!)
「レイさま、うどん、踏んでいいですか?」
「駄目だな」
「ですよねぇ」
一応聞いてみた。
捻挫してるくせに聞いちゃう、この馬鹿っぽい感じ、記憶を失っていたときのマイナっぽくないだろうか?
そっと胸に手を当てて考えてみた。
お妙さんのカレーうどんは、出汁がきいていて美味しかった。
具は少しの玉ねぎと豚肉だけだった。
そこにチーズを入れたら祖父に怒られたっけ……。
(うん、やっぱりシャンタルさまが痛みを分け合ってくださっている……)
惨劇よりも三人で過ごした平和な日々のほうが強くこみ上げる。
三度しか術を施せないのではなくて、おそらくは二度で咀嚼できるとふんでいたのだろう。
(今ごろどうなさっているのかしら。大丈夫なのかしら)
シャンタルが心配になった。
陛下はよからぬことを考えていたような気がするからだ。
そんな人の記憶を呑み込むのは苦行だろう。
(エラルドの怪我の具合も心配ね……)
聞くところによるとヨアンの弟分らしき人物とやり合ってしまったらしい。
どうしてそんなことになったのかマイナにはわからないが「あいつは普段うまく隠してるけど、結構荒っぽいんだ」とレイが言っていた。
(お義父さまが連れ帰ると仰ったようだけれど……あぁ、駄目だ……レイさまの膝の上が心地よすぎて……)
瞼が落ちてくるのを止められなかった。
術の後は眠ることが多いと、父が言っていたような気がする。
遠のいていく意識の中で、レイの手が髪を撫でていた。
* * *
目覚めたらニコとヨアンの結婚が決まっていた。
この疎外感は何だろう。
もっとリアルタイムで知りたかった。
「わたくし、肝心なときに寝てしまったわ!!」
「マイナさまはお疲れなんですから、休んでくださらないと困ります!!」
そう言って慰めてくれるミリアは可愛いけれど。
デレデレのヨアンが目の前にいるのだ。
どうしてくれよう!!
「ヨアン、ニコを泣かしたら承知しませんからね!?」
「はぁい! 僕は一途なので絶対浮気しません!!」
「よろしい。男に二言はないわね!?」
「ありませーん!!」
「ではちょっと、部屋を出てなさい」
「何でですかー!?」
レイはマイナをベッドに寝かせたあと執務室で仕事をしているらしい。
この隙に、ニコから色々聞いておかねばならない。
「カール、お前もよ」
「えー。兄貴だけじゃダメなんですかぁ!?」
「駄目、ここからは女性だけの話があるから」
「なるほど。了解しました!!」
なぜかカールが満面の笑みになり、ヨアンを引っ張って出て行った。
カールの「なるほど」ほどあてにならないものはない。
だが今は都合がよかった。
「で? いつからヨアンのことが好きだったの?」
「……やっぱり、そこからですか?」
げんなりした顔でニコが項垂れる。
マイナはベッドの横の椅子に座るようニコを促した。
「あの、マイナさま。私もカールたちと外に……」
マイナとニコを交互に見て、ミリアは困った顔をした。
「ミリアもこっちに来て座ってちょうだい」
「ええっ、私もですか!?」
「そう。なぜなら……」
「「なぜなら?」」
「わたくし、生まれて初めての恋バナがしたいのっ!!」
前世ではモテなかった。
現世でもモテていないというのが大変痛いところではあるが。
前世での恋バナは聞くばかりで、経験がないから相槌を打つぐらいのことしかできなかった。
いざ恋人ができたときには、友だちは恋バナを卒業していた。
(しかも、あの男!! 犯罪者だったし!!)
惨劇が頭をよぎったが、今は頭の隅に追いやることにする。
そのぐらいできなくては、この記憶を持ったまま現世を生きることはできないだろう。
そしてそして。
現在、女の子の友だちはエレオノーラしかいないのだ。
(しかも、エレオノーラさまは恋バナより領地運営やら店舗経営の話ばかりなさるからー!!)
マイナは女子の会話に飢えていた。
「と言う訳であなたたち。大好きな彼のことをわたくしに、詳細に、事細かく、詳らかにしなさい」
「職権乱用!! 横暴です!!」
ニコが叫ぶ。
そんなものは知らん。
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「いいえ、います」
震えながら首を振るミリアに断言した。
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「……ですが、その」
「道ならぬ恋なのですね?」
「……どうかお許しください」
ミリアが罪を告白するような顔で唇を引き結んだ。
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