【完結】なんちゃって幼妻は夫の溺愛に気付かない?

咲楽えび@改名しました(旧 佐倉えび)

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99.ロマンス小説

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「ごきげんよう、マイナさま」

「ごきげんよう、エレオノーラさま」

 ボルナトを店主に据えた、マイナの店舗『金木犀』に、今日も麗しいエレオノーラが訪れてくれた。
 前世の漫画内であったならば芍薬の花がバックに咲き乱れたことだろう。
 華やかでありながら知性を感じるたたずまいである。
 甘やかなピンクをまとっていても、けぶるような色気は消えない。

(今日も素敵……)

 タルコット公爵家に義母が滞在中ではあるが、昨日は実家へ、今日は新店舗へとマイナは忙しなく動き回っている。
 エレオノーラには開店前にお店を見せる約束をしていたのだ。

 商品のラインナップは前世風の服と靴、鞄や小物がメインになった。
 なぜかと言えば、マイナが欲しかったからである。

(鞄も靴も正式な場では使えないんだけど……どれも可愛いわ!!)

 前世でいうところのセレクトショップである。
 眺めているだけで楽しい。
 特にブーツをたくさん仕入れた。
 この世界ではパンプスばかりなので、久しぶりに見たブーツが可愛くて仕方がなかった。
 こっそり何度も足を入れてしまったぐらいだ。

 マタニティ用ワンピースと赤ちゃん服は少しだけ置いてある。
 それをメインにしてしまうと店のコンセプトが揺らぎそうだったので、一揃えずつにした。

 ちなみに、どれだけ売れるかなどの採算は考えていない。
 売れたものを増やせばいいか、ぐらいの気楽さである。

「まぁ! なんて素敵なお店なんでしょう。優しい雰囲気がマイナさまのようですわ」

 淡いベージュの店内に、カーテンや小物をオレンジ色で統一した。
 可愛らしい店内に、異国情緒溢れる品、そこに立つボルナトはエキゾチックなイケメンだ。

「こちらのお洋服は、赤ちゃん用ですか?」

「そうです。ボルナト、お品の説明を」

「はい、奥さま」

 綺麗なお辞儀を披露したボルナトは、スナップをプチプチと外したり留めたりしながら説明をする。

 感心したように頷くエレオノーラは、一セット購入したいと言い出した。

「贈り物でしたらお包みしますよ」

「いえ、実はわたくしの……」

「まぁ!! それは……」

「ええ。まだ気が早いのですが」

「それはそれは。おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「大事なお体ですのに、ご足労いただきまして恐縮でございます」

「いいえ、とても楽しみにしておりました。わたくし、貴族とは名ばかりの男爵家で育ちましたから、こう見えて体がとても丈夫なのです」

 胸を張るエレオノーラはどことなく自慢げであった。
 儚さを全面に押し出すことはあっても、丈夫さを自慢する貴婦人は珍しい。
 マイナは思わず声を出して笑ってしまった。

「グートハイル夫人、奥さま、こちらの椅子へどうぞ」

 ボルナトが窓際に二つ椅子を運んで来てくれた。
 窓際の暖かな日差しのさす場所である。
 角の店舗特有の日当たりのよさである。
 ここに商談のためのテーブルを置いてもいいかもしれない。

 エレオノーラは侍女の手を借りながら腰をかけた。

「もう、旦那さまが過保護になさるので、わたしく暇で暇で。お誘いいただき、とても嬉しかったのですわ」

 エレオノーラはため息を吐く様まで美しかった。
 マイナは思わずコクコク頷いてしまった。

「わたくしがエレオノーラさまの旦那さまでしたら、もっと過保護にしますわ。屋敷からは出しません」

「まあ! それは過保護というよりヤンデレではないですか」

「ヤンデレ!?」

「マイナさまはご存知ではありませんか? 市井で流行っているロマンス小説に出てくるヒーローのことですわ」

「よく知っておりますよ!? ですが、エレオノーラさまも、そういった小説をお読みになりますの?」

「ええ。この子の勧めで」

 チラリと侍女を見つめる。
 この子と言うからには年下だろう。
 頬にそばかすが散った、愛嬌のある可愛らしい子だ。

「最初は退屈で感情移入できないと思っていたのですけれど、あり得ない世界で必死に生きる主人公たちを追っているうちに好きになってしまいました」

「まあ! よーく、わかりますわ!!」

「ですが、あんなヤンデレな男性なんて、いらっしゃらないと思いますけど」

「ヤンデレな男性……」

「ええ。少々大袈裟でしょう? 貴女の瞳に映るのは私だけであって欲しいだなんて」

「ええ……ええ、そうですね?」

(そこがいいのだけど……でも、どうしてかしら? レイさまの顔が思い浮かんでしまうわ……)

「ですが、実在しないから安心して読めるということもあるのですね。なかなか頻繁に外出とはいかないので、そういった本を最近は気晴らしに読んでいるんです」

「そ、そうですか……」

「室内を抱っこで歩いたり、馬車にのれば直ぐさま膝の上に乗せたり……ご飯は赤ちゃんのように、お口にアーンなんて。どれも架空のことと思えば微笑ましいですわね」

「ソ、ソウデスネ……」

 どれもこれも身に覚えがあり過ぎた。
 マイナはこの日初めて、レイがヤンデレかもしれないと思ったのである。

「あらっ、そちらのワンピースはどういった用途のものですの?」

 ボルナトがトルソーに着せているマタニティ用のワンピースが気になったらしい。
 胸のレースで上手く隠れているが、授乳用時にも使用できるよう胸元にボタンが付いている。

 ボルナトに説明するよう指示しながら、レイは病んでない、病んでない、と脳内でしきりにレイのヤンデレ説を否定していた。

(レイさまは、ただのデレ! デレッデレのデレ!! 溺愛!! 超溺愛なだけの普通のデレ!!)

 マタニティのワンピースに興味津々なエレオノーラを眺めながら、動悸が止まらないマイナであった。


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