99 / 125
99.ロマンス小説
しおりを挟む
「ごきげんよう、マイナさま」
「ごきげんよう、エレオノーラさま」
ボルナトを店主に据えた、マイナの店舗『金木犀』に、今日も麗しいエレオノーラが訪れてくれた。
前世の漫画内であったならば芍薬の花がバックに咲き乱れたことだろう。
華やかでありながら知性を感じるたたずまいである。
甘やかなピンクをまとっていても、けぶるような色気は消えない。
(今日も素敵……)
タルコット公爵家に義母が滞在中ではあるが、昨日は実家へ、今日は新店舗へとマイナは忙しなく動き回っている。
エレオノーラには開店前にお店を見せる約束をしていたのだ。
商品のラインナップは前世風の服と靴、鞄や小物がメインになった。
なぜかと言えば、マイナが欲しかったからである。
(鞄も靴も正式な場では使えないんだけど……どれも可愛いわ!!)
前世でいうところのセレクトショップである。
眺めているだけで楽しい。
特にブーツをたくさん仕入れた。
この世界ではパンプスばかりなので、久しぶりに見たブーツが可愛くて仕方がなかった。
こっそり何度も足を入れてしまったぐらいだ。
マタニティ用ワンピースと赤ちゃん服は少しだけ置いてある。
それをメインにしてしまうと店のコンセプトが揺らぎそうだったので、一揃えずつにした。
ちなみに、どれだけ売れるかなどの採算は考えていない。
売れたものを増やせばいいか、ぐらいの気楽さである。
「まぁ! なんて素敵なお店なんでしょう。優しい雰囲気がマイナさまのようですわ」
淡いベージュの店内に、カーテンや小物をオレンジ色で統一した。
可愛らしい店内に、異国情緒溢れる品、そこに立つボルナトはエキゾチックなイケメンだ。
「こちらのお洋服は、赤ちゃん用ですか?」
「そうです。ボルナト、お品の説明を」
「はい、奥さま」
綺麗なお辞儀を披露したボルナトは、スナップをプチプチと外したり留めたりしながら説明をする。
感心したように頷くエレオノーラは、一セット購入したいと言い出した。
「贈り物でしたらお包みしますよ」
「いえ、実はわたくしの……」
「まぁ!! それは……」
「ええ。まだ気が早いのですが」
「それはそれは。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「大事なお体ですのに、ご足労いただきまして恐縮でございます」
「いいえ、とても楽しみにしておりました。わたくし、貴族とは名ばかりの男爵家で育ちましたから、こう見えて体がとても丈夫なのです」
胸を張るエレオノーラはどことなく自慢げであった。
儚さを全面に押し出すことはあっても、丈夫さを自慢する貴婦人は珍しい。
マイナは思わず声を出して笑ってしまった。
「グートハイル夫人、奥さま、こちらの椅子へどうぞ」
ボルナトが窓際に二つ椅子を運んで来てくれた。
窓際の暖かな日差しのさす場所である。
角の店舗特有の日当たりのよさである。
ここに商談のためのテーブルを置いてもいいかもしれない。
エレオノーラは侍女の手を借りながら腰をかけた。
「もう、旦那さまが過保護になさるので、わたしく暇で暇で。お誘いいただき、とても嬉しかったのですわ」
エレオノーラはため息を吐く様まで美しかった。
マイナは思わずコクコク頷いてしまった。
「わたくしがエレオノーラさまの旦那さまでしたら、もっと過保護にしますわ。屋敷からは出しません」
「まあ! それは過保護というよりヤンデレではないですか」
「ヤンデレ!?」
「マイナさまはご存知ではありませんか? 市井で流行っているロマンス小説に出てくるヒーローのことですわ」
「よく知っておりますよ!? ですが、エレオノーラさまも、そういった小説をお読みになりますの?」
「ええ。この子の勧めで」
チラリと侍女を見つめる。
この子と言うからには年下だろう。
頬にそばかすが散った、愛嬌のある可愛らしい子だ。
「最初は退屈で感情移入できないと思っていたのですけれど、あり得ない世界で必死に生きる主人公たちを追っているうちに好きになってしまいました」
「まあ! よーく、わかりますわ!!」
「ですが、あんなヤンデレな男性なんて、いらっしゃらないと思いますけど」
「ヤンデレな男性……」
「ええ。少々大袈裟でしょう? 貴女の瞳に映るのは私だけであって欲しいだなんて」
「ええ……ええ、そうですね?」
(そこがいいのだけど……でも、どうしてかしら? レイさまの顔が思い浮かんでしまうわ……)
「ですが、実在しないから安心して読めるということもあるのですね。なかなか頻繁に外出とはいかないので、そういった本を最近は気晴らしに読んでいるんです」
「そ、そうですか……」
「室内を抱っこで歩いたり、馬車にのれば直ぐさま膝の上に乗せたり……ご飯は赤ちゃんのように、お口にアーンなんて。どれも架空のことと思えば微笑ましいですわね」
「ソ、ソウデスネ……」
どれもこれも身に覚えがあり過ぎた。
マイナはこの日初めて、レイがヤンデレかもしれないと思ったのである。
「あらっ、そちらのワンピースはどういった用途のものですの?」
ボルナトがトルソーに着せているマタニティ用のワンピースが気になったらしい。
胸のレースで上手く隠れているが、授乳用時にも使用できるよう胸元にボタンが付いている。
ボルナトに説明するよう指示しながら、レイは病んでない、病んでない、と脳内でしきりにレイのヤンデレ説を否定していた。
(レイさまは、ただのデレ! デレッデレのデレ!! 溺愛!! 超溺愛なだけの普通のデレ!!)
マタニティのワンピースに興味津々なエレオノーラを眺めながら、動悸が止まらないマイナであった。
「ごきげんよう、エレオノーラさま」
ボルナトを店主に据えた、マイナの店舗『金木犀』に、今日も麗しいエレオノーラが訪れてくれた。
前世の漫画内であったならば芍薬の花がバックに咲き乱れたことだろう。
華やかでありながら知性を感じるたたずまいである。
甘やかなピンクをまとっていても、けぶるような色気は消えない。
(今日も素敵……)
タルコット公爵家に義母が滞在中ではあるが、昨日は実家へ、今日は新店舗へとマイナは忙しなく動き回っている。
エレオノーラには開店前にお店を見せる約束をしていたのだ。
商品のラインナップは前世風の服と靴、鞄や小物がメインになった。
なぜかと言えば、マイナが欲しかったからである。
(鞄も靴も正式な場では使えないんだけど……どれも可愛いわ!!)
前世でいうところのセレクトショップである。
眺めているだけで楽しい。
特にブーツをたくさん仕入れた。
この世界ではパンプスばかりなので、久しぶりに見たブーツが可愛くて仕方がなかった。
こっそり何度も足を入れてしまったぐらいだ。
マタニティ用ワンピースと赤ちゃん服は少しだけ置いてある。
それをメインにしてしまうと店のコンセプトが揺らぎそうだったので、一揃えずつにした。
ちなみに、どれだけ売れるかなどの採算は考えていない。
売れたものを増やせばいいか、ぐらいの気楽さである。
「まぁ! なんて素敵なお店なんでしょう。優しい雰囲気がマイナさまのようですわ」
淡いベージュの店内に、カーテンや小物をオレンジ色で統一した。
可愛らしい店内に、異国情緒溢れる品、そこに立つボルナトはエキゾチックなイケメンだ。
「こちらのお洋服は、赤ちゃん用ですか?」
「そうです。ボルナト、お品の説明を」
「はい、奥さま」
綺麗なお辞儀を披露したボルナトは、スナップをプチプチと外したり留めたりしながら説明をする。
感心したように頷くエレオノーラは、一セット購入したいと言い出した。
「贈り物でしたらお包みしますよ」
「いえ、実はわたくしの……」
「まぁ!! それは……」
「ええ。まだ気が早いのですが」
「それはそれは。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「大事なお体ですのに、ご足労いただきまして恐縮でございます」
「いいえ、とても楽しみにしておりました。わたくし、貴族とは名ばかりの男爵家で育ちましたから、こう見えて体がとても丈夫なのです」
胸を張るエレオノーラはどことなく自慢げであった。
儚さを全面に押し出すことはあっても、丈夫さを自慢する貴婦人は珍しい。
マイナは思わず声を出して笑ってしまった。
「グートハイル夫人、奥さま、こちらの椅子へどうぞ」
ボルナトが窓際に二つ椅子を運んで来てくれた。
窓際の暖かな日差しのさす場所である。
角の店舗特有の日当たりのよさである。
ここに商談のためのテーブルを置いてもいいかもしれない。
エレオノーラは侍女の手を借りながら腰をかけた。
「もう、旦那さまが過保護になさるので、わたしく暇で暇で。お誘いいただき、とても嬉しかったのですわ」
エレオノーラはため息を吐く様まで美しかった。
マイナは思わずコクコク頷いてしまった。
「わたくしがエレオノーラさまの旦那さまでしたら、もっと過保護にしますわ。屋敷からは出しません」
「まあ! それは過保護というよりヤンデレではないですか」
「ヤンデレ!?」
「マイナさまはご存知ではありませんか? 市井で流行っているロマンス小説に出てくるヒーローのことですわ」
「よく知っておりますよ!? ですが、エレオノーラさまも、そういった小説をお読みになりますの?」
「ええ。この子の勧めで」
チラリと侍女を見つめる。
この子と言うからには年下だろう。
頬にそばかすが散った、愛嬌のある可愛らしい子だ。
「最初は退屈で感情移入できないと思っていたのですけれど、あり得ない世界で必死に生きる主人公たちを追っているうちに好きになってしまいました」
「まあ! よーく、わかりますわ!!」
「ですが、あんなヤンデレな男性なんて、いらっしゃらないと思いますけど」
「ヤンデレな男性……」
「ええ。少々大袈裟でしょう? 貴女の瞳に映るのは私だけであって欲しいだなんて」
「ええ……ええ、そうですね?」
(そこがいいのだけど……でも、どうしてかしら? レイさまの顔が思い浮かんでしまうわ……)
「ですが、実在しないから安心して読めるということもあるのですね。なかなか頻繁に外出とはいかないので、そういった本を最近は気晴らしに読んでいるんです」
「そ、そうですか……」
「室内を抱っこで歩いたり、馬車にのれば直ぐさま膝の上に乗せたり……ご飯は赤ちゃんのように、お口にアーンなんて。どれも架空のことと思えば微笑ましいですわね」
「ソ、ソウデスネ……」
どれもこれも身に覚えがあり過ぎた。
マイナはこの日初めて、レイがヤンデレかもしれないと思ったのである。
「あらっ、そちらのワンピースはどういった用途のものですの?」
ボルナトがトルソーに着せているマタニティ用のワンピースが気になったらしい。
胸のレースで上手く隠れているが、授乳用時にも使用できるよう胸元にボタンが付いている。
ボルナトに説明するよう指示しながら、レイは病んでない、病んでない、と脳内でしきりにレイのヤンデレ説を否定していた。
(レイさまは、ただのデレ! デレッデレのデレ!! 溺愛!! 超溺愛なだけの普通のデレ!!)
マタニティのワンピースに興味津々なエレオノーラを眺めながら、動悸が止まらないマイナであった。
5
あなたにおすすめの小説
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます
鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────
私、この子と生きていきますっ!!
シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。
幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。
時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。
やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。
それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。
けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────
生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。
※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~
藤原ライラ
恋愛
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――
子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。
彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。
「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」
四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。
そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。
文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!?
じれじれ両片思いです。
※他サイトでも掲載しています。
イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)
英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない
百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。
幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。
※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。
辺境伯夫人は領地を紡ぐ
やまだごんた
恋愛
王命によりヴァルデン辺境伯に嫁ぐことになった、前ベルンシュタイン公爵令嬢のマルグリット。
しかし、彼女を待っていたのは60年にも及ぶ戦争で荒廃し、冬を越す薪すら足りない現実だった。
物資も人手も足りない中、マルグリットは領地の立て直しに乗り出す。
戦しか知らなかったと自省する夫と向き合いながら、少しずつ築かれていく夫婦の距離。
これは、1人の女性が領地を紡ぎ、夫と共に未来を作る「内政×溺愛」の物語です。
全50話の予定です
※表紙はイメージです
※アルファポリス先行公開(なろうにも転載予定です)
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる