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118.誕生会
しおりを挟む「これ以上ややこしいことになると困るわね。ニコ、行きましょう」
「かしこまりました」
ニコを伴って玄関ホールまで来ると、ちょうどそこへミリアを抱えたエラルドが到着した。
カールはエラルドの後ろに立っており、花束は厩舎に行っていたはずのヨアンが持っていた。
(さらにややいこしいことになってた!!)
「奥さま、ただいま戻りました」
「お帰り、エラルド、ミリア。ご苦労さま」
従僕が荷物を抱えていたのでお使いは果たしたようだが、なぜお姫さまだっこなのだろう?
ミリアは大人しく抱かれているが、顔は真っ赤だった。
「奥さま、申し訳ありません。ミリアを怪我させてしまいました」
「なぜ!?」
「金木犀から出たところで引ったくりにあいまして、ミリアが突き飛ばされてしまいました」
「なんですって!? その者は捕らえたの!?」
「えっ、ええ……やっぱり駄目でしたか?」
「駄目って、なに!? 逃がしたの!?」
「まさか。ミリアが突き飛ばされたのを見てカッとなって、ちょっとやり過ぎたぐらいです」
「そのぐらいでちょうどいいわよ。騎士に引き渡したわね!?」
「ええ……まぁ、よかったんで?」
「もちろんよ!! ヨアンッ!!」
「はーい!!」
「ティモと金木犀へ行って警備の強化を指示して」
「了解でーす!!」
ヨアンは門の警備をしていたティモを伴い、即座に屋敷を出て行った。
その前に薔薇の花はニコに手渡されている。
(ますますややこしい!!)
「カール」
「はい! 僕は坊っちゃんの護衛ですか!?」
「いいえ、ケンちゃんにはヘンリクが付いているので大丈夫。それよりお医者さまを連れて来て」
「了解しました。馬車で行くので時間がかかります」
「わかったわ。応急処置ができる者を……アン、アンはどこ!?」
できるメイド長、アンを探しキョロキョロすると、食堂からアンが小走りでやってきた。
シモンはレイに連絡をするためにすでにホールから立ち去っている。
「奥さま、お呼びですか」
「ミリアの応急処置をお願い。怪我をしたみたい」
「かしこまりました」
「ミリア、侍医がすぐに診れるよう客室で処置をするわ。エラルド、そのまま運んでくれる?」
「もちろんです」
頷いたエラルドは客室へミリアを運んだ。
先ほど外の様子を見ていた部屋で、ソファーに座らされたミリアは恐縮したように身を縮ませていた。
「あの、怪我といっても以前のマイナさまのような大怪我ではないのです。再度お店を出るときは歩けたのですが、馬車の中で少し痛み始めて……ですが、本当に大丈夫です」
ミリアの言うとおり、庇うようにしている足は、見た目では腫れた様子もない。
でも痛いということは、何かしらがおきているということだ。
「そんなことを言って、あとあと古傷が痛むようなことがあっては大変です。きちんと治療しますよ。アン、応急処置をよろしくね」
「お任せください。ニコ、冷やす物を持ってきてちょうだい」
「かしこまりました」
ミリアのことはアンとニコに任せ、マイナはエラルドと共に部屋を出た。
「エラルドちょっとこっちに」
すっかり準備の整った食堂へと誘う。
メイドたちは持ち場へ戻ったようで誰もいなかった。
一歩踏み入ったエラルドは壁に貼られた「ハッピーバースデーミリア」の文字と飾り付けられた花を見て目を丸くしていた。
「ミリアの誕生日って来月ですよね!?」
「知ってたの?」
「もちろんですよ」
「怪我をしてしまうなんて、とんだお誕生日になってしまったわね……実際は来月だけど」
「そのことなんですが……」
「何か気になることでも?」
「引ったくりは、奥さまというか、ヨアンの仕込みではないんですか?」
「何のこと!?」
「……ってことは、アレは本物の引ったくりだったのかぁ」
顔に手を当てたエラルドは天を仰いでいた。
マイナは首を傾げる。
「すみません、実は奥さまたちが、俺とミリアをくっつけようと奔走してくださっていたことに気付いてまして」
「あなたなら気付くでしょうね」
「なので、今日の引ったくりも仕込みだと思ってたんです」
「わたくしはそんな危険な計画は立てないわ。それに、あなたたちは明らかに両思いなんですもの。大したことなどしなくとも、キッカケさえあればくっつくでしょ?」
「あー、はい、確かに……ですが、奥さまの仕込みだと思ってたんで、今だろうと意気込んで口説いちゃったんすよ」
「あら、よかったわね」
「いいんですか!?」
「いいわよ。じれったくてたまらなかったわ。うまくいったんでしょ?」
「はい。なんとか。俺の立場がどうのこうのとか言うんで、俺が孤児だから体面が悪いのか聞いたら、そんなわけないと怒りだして、むしろ没落寸前だった貴族令嬢なんて迷惑だろうと」
「ミリアらしいわね」
「そうっすね。俺も自分の気持ちにいい加減気付いてたんで、なりふり構っていられなくて。とにかく好きだ、付き合ってくれと迫りました」
「やるじゃない!! で!?」
マイナはウキウキしていた。
できたてほやほやの恋バナである。
母親になった今もなお、恋バナを聞くのはやっぱり楽しい。
「とりあえず付き合ってはもらえそうなんですが……」
「なに? 何か問題が!?」
「さっきのカールを見て、これからが奥さまの計画の本番なのかと……それなのに馬車内で突っ走っちゃったんで、どうしようかと焦ってしまいました。俺、あんまり演技上手くないかもしれないんで、合わせられるか不安で」
「心配しなくても、わたくしの計画なんてずさんなものよ? レイさまに話したら爆笑されたもの。カールを当て馬にして、もう一度エラルドに告白をさせて、その後みんなでパーティーしましょうっていう計画だもの」
「平和っすね」
「カール以外はね」
「確かに。最初は俺だったのに、厩舎から顔を出したヨアンに花束を向けちゃうから、最後はヨアンに告白したみたいなオチになってましたよ。あれは一体何だったんでしょうね?」
「ややこしかったわね。あなたたちがまとまったのを瞬時に理解して、機転をきかせたのかしら? カールならできるかも」
「有能っすね」
「あの子あれで演技派だし、ためらいもなくやり切る天才なの。それより、ミリアのワンピースはボルナトのお店のよね?」
「そうです。従業員割引で買わせて頂きました。ありがとうございます」
「とても似合ってたわ。わたくしはミリアに可愛らしく着飾ってもいいのだと知ってもらいたいのよ」
「お任せください。好きな子を着飾る楽しみを知っちゃったんで。これでも結構稼いでるんで、生活面でも不自由はさせません」
頷いたエラルドは最近見れなくなっていた笑顔を浮かべていた。
「やっと笑顔が戻ったわね。そのほうが素敵よ」
「あー……えっと……ご心配をおかけして、本当にすみませんでした」
エラルドは深々と頭を下げた。
「全くよ。エラルドらしくもない」
「絶対に結婚してみせますんで」
「期待しているわ!!」
マイナはエラルドと固く握手を交わした。
その後、カールが連れてきた医者に診てもらうと、ミリアの怪我は軽傷らしく、冷やしていれば一日か二日でよくなるとのことで、皆で胸を撫でおろした。
マイナは、パンパンと手を叩く。
出てきたメイドたちに声をかけた。
「さあ、ミリアのお誕生日会を始めましょう!!」
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