【完結】なんちゃって幼妻は夫の溺愛に気付かない?

咲楽えび@改名しました(旧 佐倉えび)

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119.菜の花

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 ミリアとエラルドは無事にまとまったようで、エラルドの軽口と笑顔が戻ってきた。
 重苦しいエラルドなど、息が詰まる。
 誕生会も楽しかったらしく、ミリアも珍しく屈託ない笑顔を見せていた。
 怪我のほうも軽傷だったようで、とりあえずは一安心といったところだろう。

 エラルドに、たまには軽口も叩いてもらわねば気が抜けないと言ってみたところ、惚気顔丸出しで「そうっすねぇ」なんて言うので頭を軽く叩いておいた。
 ミリアに思いが通じたのが嬉しくてたまらないと、珍しく感情を吐露していた。

 そして今日、ようやく両親が帰領した。
 晩餐でのパーティの間も、母とマイナが抱き合って泣いており、さすがの父も困った顔をしていたが、無事に出発できてよかった。
 焦る父の顔というのも珍しく、こっそり観察していたら気付いた父が苦い顔をしたので笑ってしまった。

 金木犀は売れ行きのいいお店ということで窃盗団に目を付けられたようだ。
 ヨアンと話し合い、隙のない警備体制を整えた。
 ボルナトは嫌がっていたが、店にいる間だけでなく、常に護衛を付けることにした。
 これには「いくら人を雇おうとも、ボルナトがいなければこの店は続けられない」というマイナからの手紙が効いた。
 そこまで言われてしまえば、と渋々頷いてくれた。
 公爵家に関わるというのは不自由さも付きまとうものだ。
 慣れない人には少々辛いものだろう。

(マイナのお願い以外は、ひとまずやれることは全てやったかな?)

 そうしてレイとマイナは、久しぶりに二人きりの晩餐を迎えていた。
 ケンは乳母とニコが見ており、マイナが久しぶりに厨房で料理を作っていた。

「今日は菜の花のパスタです!!」

「……それ、お花だよね?」

「食べられるお花ですよ?」

「食べられるの?」

 緑の茎のような部分からちょこんと見えている黄色い花は可愛らしいが、本当に食べられるのだろうか。
 これも和風食材だという。
 一体いつの間に仕入れたのだろう。
 段々と和風食材に詳しくなるバアルの柔軟性には驚かされてばかりいる。

「オリーブオイルとニンニクと鷹の爪なので、味付けに抵抗はないと思います。海老も入れ……」

 海老、と呟いたところでマイナが泣きそうな顔をした。
 母のために好物の海老を取り入れた料理を提案してくれていたぐらいだ。
 母を思い出してしまったのだろう。

「母上のことなら寂しがらなくて大丈夫だよ。すぐにゾラの子が生まれるし、そのうち、またこちらにも来るはずだから」

 せっかく久しぶりに二人きりになれたのに、泣き顔ばかりでは寂しいので必死に宥めた。
 マイナはコクンと頷いて気を取り直したように再び説明を始めた。

「菜の花だけでも美味しいのに、海老とホタテも入れちゃいました。美味しそう!!」

「これ、もしかして、まかないでも出るの?」

「はい!! タルコット公爵家のご飯は福利厚生ですから」

「なるほど?」

「ご飯が美味しければ大抵のことは我慢できます」

「そうかもねぇ。こっちの料理は?」

「あさりの酒蒸しです。これはもう絶対に美味しいと決まっているものなので、一緒に日本酒を呑みましょう!!」

「いいね」

 給仕がお猪口に日本酒を注いでいく。
 お気に入りの日本酒を最近はケースで仕入れている。
 べイエレン公爵に贈ったところ、大層気に入ってくれた。

「そういえば、ご両親にケンを見せなくていいの?」

「そうですねぇ。そろそろとは思うのですが、お義姉さまもいらっしゃいますし、嫁いだ妹が帰るというのもどうかと思っていまして」

「なら、お呼びしてはどうかな? 私の名で招待しようか?」

「ありがとうございます。母もソワソワしているみたいなのでお願いします」

「ソワソワしているのは知ってるんだ?」

「手紙のやり取りはしてますから」

「近いのに気軽には来れないなんて、貴族って面倒だよね」

「それは仕方ないですよ」

 母もグートハイル侯爵家には気軽には立ち寄れない。
 本来であれば、マイナが実家にしょっちゅう帰っていたことのほうが異例なのだ。

「……あれ、これ少し苦いんだ? 美味しいね」

 菜の花をおそるおそる口にしてみたが、何ともいえない苦みが日本酒にも合う。
 とても美味しい。
 食べられる花は、大人の味だった。

「ふふふふ。絶対レイさまはお好きだと思ったんですよ。見つかってよかったー!!」

「探してたの?」

「それはもうずーーーーっと探してたんです。見つかったとバアルから昨日聞いて、今日届いたんですよ」

 海老とホタテの焼き加減もいい塩梅だ。
 少し生ぐらいのほうが好きなレイにとって火を通し過ぎないというのは重要である。

「あさりもシンプルな味付けなのに美味しいね」

「お酒がすすんじゃいますね」

「マイナは久しぶりだから、少しずつね?」

「はい」

 少しずつね、とは言ったものの。
 美味しいご飯があれば酒はどうしたってすすむ。

 産後の体に日本酒は強かったらしく、ふらつくマイナを抱き上げて部屋に戻ることにした。

「ふふふ……ケンちゃんイケメンね……」

 うとうとし始めたマイナは何か夢を見ているらしい。

「イケメンてなに?」と、以前聞いたことがある。
「レイさまみたいな人のことですよ」と言われてはぐらかされてしまった。

 日を追うごとにレイに似てくるケンに、マイナはいつもイケメンねと呟いて可愛がっている。


「マイナが無事で、本当によかった」


 ベッドに優しく降ろしながら、マイナの額に唇寄せて呟く。

 この世界の出産はとても危険だ。
 マイナが前世を知ってるが故の、この世界の医療の脆弱さに怯えていたことには気付いていた。

(私はちゃんと安心させてあげることはできていたのだろうか……)

 子どもは何人いてもいいよとは言ったけれど、そんなに簡単なことではないだろう。

 眠るマイナの頬を撫でながら、思いに耽るレイであった。



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