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121.お披露目(2)
しおりを挟む祖父が帰ったあと、軽く放心していたマイナを心配したレイは、レイの部屋へマイナを連れて来てくれた。
ケンちゃんは、乳母とニコを呼んでマイナの部屋で見てもらっている。
「どうしたの?」
「お妙さんがアデリアちゃんだって」
「……まさか」
「聞いてからずっと、グートハイル侯爵対おじいちゃんの図が頭から離れなくて……」
エレオノーラは柔軟なので大丈夫だとは思うが、娘を溺愛していると聞くグートハイル侯爵は、相手が王族でも抗うような気がする。
そして祖父はどんな手を使ってもお妙さんをお嫁さんにするはずだ。
泥沼の攻防戦が始まりそうでマイナはぶるりと背を震わせた。
「よりによって叔父上のところに……意外と柔軟な母上と違い、叔父上はとても紳士だけれど頑固なんだよね……確かにお祖父さまとは相性が悪いかもしれない……でも、叔父上には申し訳ないけれど、ちょっと安心したよ」
「安心?」
「うちに生まれなくて」
「あぁ!!」
それは確かに嫌だ。
娘なのにお妙さんだとしたら、マイナはうっかりペコペコしてしまうだろう。
十歳の祖父にひれ伏す自分を経験しているだけに、それは避けたい。
前世にまつわる全てにおいて、この世界のマイナよりも前世のマイナの性格が強く影響してしまうのだ。
「よかった!! うちじゃなくて本当によかった!!」
マイナとレイは手を取り合って歓喜した。
ついでにキスもした。
そうすると、なんとなく落ち着いてきた。
「レイさま、おじいちゃんに連絡してくれてありがとうございました。おじちゃんが自分で結婚式まで来ないと言っていたのに、それを曲げて来てくれるなんて思わなかったからすごく嬉しくて……書までもらえるなんて思ってもみなくて。レイさまに買ってもらえって言ってたのに……レイさまが頼んでくれたんですよね?」
ふふふと笑うマイナをレイが抱き上げようとするのでそれは阻止しておいた。
なんとなくそういう流れにもっていかれるような気がしたからだ。
おそらくは照れもあるのだと思うけれど。
「今日はこれからが本番なんですからね!?」
マイナが突っぱねると、レイが口を尖らせた。
「何もしないよ。喜ぶマイナが可愛かったから抱き上げようとしただけ」
「いえ、なんか怪しいので駄目です。そんな顔しても駄目ですからね!?」
懇願するような瞳を前髪の奥に見つけてしまったけれど、レイの胸を手で押して拒否した。
マイナはレイのおねだりに弱い。
目を見ないようにして必死に回避していた。
レイと戯れること一時間。
本日三台目の馬車が到着した。
タルコット公爵家の家紋の付いた馬車から降りて来たのは、レイに変装した陛下であった。
ヨアンが馬車で城へ行き、そこにエラルドに変装したミケロとレイに変装した陛下が乗り込んだというわけである。
陛下を安全にタルコット公爵家へ招くためにヨアンとレイが考えた策だ。
馬車が襲われても、ヨアンとミケロの二人を相手に陛下に傷を付けられるような手練れはいない。
二人と互角かそれ以上であったウリッセは、少し前に自害したらしい。
ヨアン曰く、影は生きることを簡単に手放すように教育されているため、あっさりと死を選ぶのだという。
「むしろ今までよく死ななかったなって思います」と、ウリッセのことを話すヨアンは淡々としていたけれど、最後に「僕はマイナさまに出会えたら、今は生きることに貪欲です」と笑ってくれたのが嬉しかった。
「ようこそお越しくださいました」
レイと共に礼をとったマイナはすぐに顔を上げた。
髪を茶色に染めた陛下と目が合う。
懐かしい眼差しにマイナの胸がキュンと音を立てた。
「お久しぶりでございます」
「あぁ……そうだな。とても長く感じたよ」
困ったような顔をした陛下が頷く。
慣れたような仕草で屋敷を歩く姿を見て、マイナはむずむずとした感情が沸き起こるのを押さえられなかった。
以前のマイナは気付いていなかったが、陛下は長らくマイナのことを想っていてくれていたのだ。
(今さらそれがわかったところで何があるわけでもないんだけど!!)
かつての自分の鈍感さが恥ずかしかった。
思い出深い数々の出来事の中には、かなりあからさまに好意をぶつけられていたこともあったからだ。
しかも、王子だったころのヴィヴィアンと結婚前のレイに囲まれたマイナに、それでも近付こうとしていた男性がいたことまで、戻った記憶からうっすらと感じ取ってしまう。
加えて、その男性を想う女性からはよく思われてはいなかったことにも気付いてしまった。
(その全てをまるっと無視できてたの、ある意味凄いわよね!?)
第六感を対価にしていてよかったのかもしれない。
色々なことに気付き過ぎるのも考えものである。
食堂の上座へ座った陛下はニコが抱いていたケンちゃんを見せてくれと手招いた。
ニコがゆっくり近づき、陛下に見えるよう少し屈んだ。
「あぁ、いい子だ。可愛いね。マイナ夫人にそっくりだ」
「陛下、恐れながらケンは私似です」
なぜかレイが食い気味に否定していた。
「いやいやこの頬は夫人似だろう? 色もそっくりだ」
「よく見てください。顔立ちは私似でしょう?」
「いいや、夫人だ」
「私です!」
「どう見てもマイナだろう!?」
「「マイナはどう思う!?」」
(仲良しかよ!!)
マイナは顔を引き攣らせながら、首を傾げた。
わからないふりをしつつ「そうですね、色はわたくしで、顔立ちはレイさまのよいところを受け継いだかと思います?」と半疑問形で答えておいた。
どちらに肩入れしても面倒なことになるような気がしたからだった。
不服そうな二人の視線がささるが、目を逸らして誤魔化すマイナであった。
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