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番外編
愛妻家の会
しおりを挟む城から遅い時間に帰宅したレイとエラルドは、使用人側の食堂が賑やかなことに気付いた。
予算会議の時期は、日付が変わるころの帰宅になることがしばしばある。
今日は出迎え不用と伝えてあった。
「ずいぶん盛り上がってるな」
レイは食堂へ向かい、賑わう使用人たちに皆に声をかけた。
祝い事でもあるなら酒をふるまうべきだろうと、そんな気持ちからだった。
「旦那さま、おかえりなさいませ。出迎えもせず、申し訳ございません」
レイの言葉にいち早く反応したのはシモンだった。
彼が時間外に食堂で皆と話しているのは珍しい。
「「旦那さま! おかえりなさい!」」
ヨアンとカールが揃ってレイに頭を下げた。
この師弟コンビは昔から似ていたが、最近ますます似てきたように感じる。
「若さま、働きすぎっすねぇ。若奥さまはもうおねむですよ……」
酒の入っていたグラスを下ろしもせずに言ったのはヘンリクだ。
タウンハウスに両親が滞在中のため、他にも領地組が数人混ざっていた。
「どういう集まりなんだ?」
「愛妻家の会です!!」
ヨアンは挙手してキリッとした顔で答えた。
「……そうか」
嫌な予感がする。
ここは酒をふるまって、さっさと夜食を済ませて寝ているマイナの顔でも眺めたほうがいい。
「酒を差し入れるから、そのまま続けるといい」
踵を返そうとしたレイを引き留めたのは、エラルドだった。
「お前、裏切るつもりか?」
「そんなつもりはないんですが、この会、案外面白いんでレイ様も参加しませんか?」
「嫌だ。絶対に嫌だ。嫌な予感しかしない」
「まぁまぁ」
「まぁまぁじゃない!!」
「ヨアン! バアルさんに夜食もらってきて」
「りょうかーい!!」
シュンッと消えたヨアンが鯛茶漬けを持ってきたのは三分後だった。
皆、酒のつまみやら夜食やら好きなものを食べたり飲んだりしている。
「本来なら旦那さまをこんな場所に座らせちゃ駄目なんですけど、やっぱり、タルコット公爵家の一番の愛妻家はレイ様じゃないですか?」
「お前、前世は詐欺師だっただろ?」
レイはエラルドを睨んだ。
「そんな、褒めないで下さいよ」
「褒めてない。予算会議のこの時期が忙しいのは諦めろと言ったはずだが」
「ストレスが溜まってるんです……」
エラルドの顔から何かがごっそり抜け落ちた。
「ついでにナニも溜まってるってな!!」
ヘンリクはゲラゲラ笑い、つられるようにして皆が笑い出した。
ゾラが二人目を妊娠中だから溜まってるのはお前だろう、とレイは思う。
「シモンがここにいることに、正直驚いているんだが……」
ちらりと顔を見れば、シモンはまんざらでもなさそうだった。
「アンが恥ずかしがり屋なので私も不参加としたかったのですが、彼女の所作の美しさについてだけは一言自慢しておきたくなりまして」
「……お前、年取ったな?」
シモンは晴やかな顔で静かに頭を下げた。
「つまり、妻の自慢をする会か?」
レイが見渡せば、確かに愛妻家と呼ばれる面々が揃っているようだ。
エラルドに指示を出し、皆に酒をふるまいながら夜食を食べる。
その間、各々好きなように妻自慢をしていた。
特に、最近結婚したカールは意気揚々としていた。
「カール、新婚なのに部屋に戻らなくていいのか?」
「いまアルヤさんは仮眠中なので邪魔したくないんです」
「あっそう……」
「寝ている間にふくふくのほっぺをツンツンしても楽しいんですけど、我慢します」
「ふーん」
好きな女の子なんていませんよ、という顔をしながらカールはあっという間に婚約を結び、きっちり一年後に結婚した。
相手は学園の同級生だ。
今は彼女と一緒にタルコット公爵家の夫婦用の使用人部屋に住んでいる。
「レイさま、さっさと奥さま自慢してくださいよ」
バアルから大きな肉をもらったエラルドは息を吹き返したらしい。
表情が抜け落ちたあと、しばらくフリーズしていたのに。
(そのまま気絶してればいいものを)
レイが気付かないようなことまで気付くエラルドの脳は相当疲れているはずだ。
「マイナ様の一番可愛いところはどこですか!?」
ヨアンが聞いてきた。
「むしろ私が聞きたいな。ニコの一番可愛いところはどこなんだ?」
「気が強いのに、僕の前でだけ弱音をはくところです!!」
「……それは可愛いな」
思わず呟いたレイにヨアンが誇らしげに頷く。
「お前は?」
カールに聞いてみた。
「一生懸命強気なことを言うのに足が震えているところです!!」
「……少々マニアックだな……お前は?」
ヘンリクに聞いてみた。
「気取ってるくせに、可愛く喘……ってえな!!」
ヘンリクの隣に座っていたエラルドがヘンリクの頭を殴った。
「嫁との閨事は人に話すなって言っただろ!?」
「ンだよ、ちっとぐれぇいいじゃねぇかよ!! 盛り上がらねぇじゃねぇか。お前だって、めちゃくちゃ嫁の尻んんんんんんん」
エラルドに口を押さえられたヘンリクは顔を真っ赤にしていた。
鼻まで押さえられているから苦しそうだ。
「ヘンリクがすいません……えっと、俺がミリアを可愛いと思ってるところは、ご飯を美味しそうに食べるところです。で、レイさまは?」
一斉に皆の視線がレイに注がれ、静まり返った。
ヘンリクのぜえぜえという荒い息が響き渡る。
「全部だ」
口を拭ったナプキンを置き、立ち上がって踵を返した。
背後でヨアンとカールが「キャアー!!」と令嬢のような声をあげ、ヘンリクは「それはずりぃよ若さまぁー!! 俺だってゾラのこと全部可愛いって思ってるのにぃ~!!」とごね出し、エラルドにまた頭を叩かれて――
タルコット公爵家の長い夜はその後もしばらく続いていた。
「平和だな……」
寝室で愛しいマイナの寝顔を眺めながら、ぽつり呟くレイであった。
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カールがヒーローの
『好きでもない婚約者に酔いしれながら「別れよう」と言われた』
というお話をアップしました。
お読みいただけると幸いです。よろしくお願いします。
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