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しおりを挟むそうして17歳になったエリーサベトに、転機が訪れた。
月に一度の儀礼的なレオナルドとの茶会に向かう途中、王宮の庭園を歩いていたら、すってんころりん。濡れていた石畳で転び、頭を打ってしまったのだ。
侍女や護衛は叫んだ。
「お嬢さまのお身体がー!!」とか。
「お嬢さま、いま医者をー!!」とか。
王宮の騎士たちも駆けつけ、大騒ぎになった。
当のエリーサベトはというと、それどころではなかった。エリーサベトとして生まれる前の記憶が押し寄せていたから。
(待って!? レオナルドって、めっちゃムッチーに似てね!? ってか、ムッチーじゃん!!)
ムッチーこと、村内柊。
ロックバンド『デンジャラス』のボーカルで、前世の推し。
村内だからムッチーと呼ばれていた。
決して、40歳を超えて太ったからムッチーと呼ばれていたわけではない。決して!!
(ムッチーが転生した!? それとも、ただ似てるだけ!?)
頭の痛みなど忘れて起き上がり、待ち合わせ場所である庭園の奥深く、幼少の頃よりレオナルドの遊び場であったガゼボに向かって走る。
背後から「お嬢さまー!!」という侍女の悲鳴にも似た声が聞こえたが、それどころではない。
令嬢にしては足が速いエリーサベトではあるが、護衛と騎士には敵わなかった。もう少しでガゼボというところで行く手を塞がれてしまった。
「エリーサベトさま、どうか、救護室へ!!」
「邪魔しないで!! 殿下との待ち合わせに遅れてしまうじゃない!!」
いつもなら面会時間を短くするために、わざと遅刻するくせに、という護衛の顔は見なかったことにする。
「何ごとだ?」
騒ぎを聞きつけたレオナルドが、ガゼボから出てきた。
風に吹かれた髪を撫でつける仕草が様になっている。
(めっちゃ若い頃のムッチーじゃん!! めっちゃかっこいい!! ってか美人だな!!)
ムッチーは年とともにムチムチになって、口の悪いファンからSNSで痩せろなどと書き込まれたりしていた。
『だが、顔がいい……』
口の悪いファンは痩せろと言いながら、最後には『だが、顔がいい……』と呟くのがお約束だった。
ムッチーは太ってしまったが、バンドマンにしては珍しく愛妻家で、浮気のうの字も聞かなかったし、ムチムチならムチムチで愛嬌があって可愛かった。
天然でアホだった性格も愛くるしかった。
(え、やっぱ、レオナルドって、ムッチーじゃね!?)
レオナルドのポンコツぶりも、天然だと思えば愛くるし……い?
王子という立場を考えると、やはり厳しいか―――
「だが、顔がいい……」
「なに?」
「……お顔が好きです」
「なにっ!? 正気か!? 頭でも打ったか!?」
「はい。先ほど打ちました」
「なんだと!?」
途端に、キリっとした顔で護衛を睨むレオナルド―――
(キエェェェェ!! なんて顔してんの!! デビューアルバム『カリスマ』の表紙のよう!! 初期はめちゃくちゃ細くて美人だった!! まさに『カリスマ』だったあのころを彷彿させるお顔!! イギリスで録音された最高傑作!!)
レオナルドのあまりの美しさに卒倒するエリーサベト。
抱きかかえる護衛、顔を覗き込んでくるムッチーの顔をしたレオナルド。
(もう無理……尊い……)
拝むエリーサベトの合掌を見たレオナルドの声が響く。
「しっかりしろ!! 死ぬな!! エリィ!!!!!!」
(なんて?)
レオナルドが突然、愛称で叫びだした。
(ムッチーが私のことを愛称呼びとか……初期のムッチーの破壊力、マジ半端ないよ……)
エリーサベトは気絶した。
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