前世の推しに似てる不仲の婚約者に「お顔が好きです」と伝えましたところ

咲楽えび@改名しました(旧 佐倉えび)

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 エリーサベトが前世の記憶を取り戻してから二週間が経ったころ。
 父とレオナルドから絶対安静を言い渡されていた期間が過ぎ、ようやく公爵邸の庭なら出てもいいよという許可が下りた。

(なんという過保護ぶり……)

 庭のテーブルに、エリーサベトの好物のスイーツがずらりと並んでいる。
 しかも、なぜかレオナルドがいて、プリンを口に入れようとしてくる。
 今まで熱を出そうが怪我をしようが、レオナルドからは見舞いの品が贈られてくるだけだったというのに。

「自分で食べられますわ」
「よい。気にせず口をあけろ」

「パティシエが見てますわ。恥ずかしいです」
「アレのことは気にするな」

「そうはいきません」

(無茶振りもいいとこだわ!! いくらレオナルドがムッチーに似てるからといって、パティシエの前でそんな)

 チラリとパティシエの顔を見るエリーサベト。

ゆうさま!?」
「なに?」

 パティシエに釘付けになったエリーサベトとパティシエの顔を交互に見るレオナルド。
 キョトンとした顔で思わずエリーサベトを見つめてしまうパティシエ。

(なんで今まで優さまのこと忘れてたの!? 優さまが作った曲、めっちゃ好きだったのに!!)

『デンジャラス』のリーダーで、ギター担当の高杉優たかすぎゆう
 名前も顔立ちも女の子みたいで、体の線も細く、一見するとか弱そうに見えるのに、奏でる音は超絶ロック。
 テクニックもさることながら、作る曲は激しくも切なく胸に迫る。
 デンジャラスがデビューするなり爆発的に売れたのはリーダーの楽曲あってこそだと評判だった。神と崇めるファンは後を絶たなかった。
 パティシエの顔は、その高杉優そのものだったのだ。

「神ィ……!!」
「なんだと!?」

「お、お初にお目にかかります、わたくしは」
「待て、神とはなんだ!? まだ一口も食べていないだろ!?」

「食べずともわかります」
「何を言ってる!! もうしばらく休養が必要か!?」

「やめてください、ちょっと、神の顔が見えませんわ!! どいてくださいまし!!」
「どかぬわ!!」

 パティシエとの間に割って入るレオナルド。押しのけるエリーサベト。

「私がどれだけ優さまに感謝してるかわかりませんか!?」

 デンジャラスはインディーズ時代、長く低迷した。
 ムッチーの顔のファンばかりで、彼らの楽曲はなかなか評価されなかったのだ。
 そうしているうちに、それまでの楽曲路線のままではメジャーデビューが遠のくと言って、リーダーは新たな創作活動に乗り出す。
 それまではギター一本で作曲していた曲に、ピアノの旋律を加え、激しさの中に繊細さを加えたのだ。
 それからのデンジャラスは一気に売れ出した。

「優さまの曲があったから、私は貴方(ムッチー)に会えたのですよ!?」
「はぁ!?」

「ですから!! レオナルドさまの顔が好きとか言っていられるのは、出会えたからなんです!!」

(だってそうでしょう!? デンジャラスがデビューした時、中学生だった私が、インディーズのロックバンドなんて知る術もないし!! 売れてくれたから会えたのよ!!)

「エリィ!! しっかりしろ!! 俺もお前の顔が好きだぞ!!」

(顔!? 顔なの!?)

 ムッチーはSNSでファンから『声が一番好き』と言われると、返事を書いていた。
 その気持ちが今ならわかる。
 顔だけじゃないって言いたかったのだろう。
 歌に命を懸けていたムッチーは、自分の声を大切にしていたから。

(だが、顔がいい……顔は武器だよムッチー……あぁ、レオナルドもポンコツ王子とか言われて傷ついていたんだろうな……でも……)

 しっかりしろ!! と叫ぶレオナルドの顔が薄れていく。

(私も……レオナルドの顔が好きだからおんなじかぁ……)

 エリーサベトはまた、気絶した。
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