3 / 5
3.
しおりを挟むエリーサベトが前世の記憶を取り戻してから二週間が経ったころ。
父とレオナルドから絶対安静を言い渡されていた期間が過ぎ、ようやく公爵邸の庭なら出てもいいよという許可が下りた。
(なんという過保護ぶり……)
庭のテーブルに、エリーサベトの好物のスイーツがずらりと並んでいる。
しかも、なぜかレオナルドがいて、プリンを口に入れようとしてくる。
今まで熱を出そうが怪我をしようが、レオナルドからは見舞いの品が贈られてくるだけだったというのに。
「自分で食べられますわ」
「よい。気にせず口をあけろ」
「パティシエが見てますわ。恥ずかしいです」
「アレのことは気にするな」
「そうはいきません」
(無茶振りもいいとこだわ!! いくらレオナルドがムッチーに似てるからといって、パティシエの前でそんな)
チラリとパティシエの顔を見るエリーサベト。
「優さま!?」
「なに?」
パティシエに釘付けになったエリーサベトとパティシエの顔を交互に見るレオナルド。
キョトンとした顔で思わずエリーサベトを見つめてしまうパティシエ。
(なんで今まで優さまのこと忘れてたの!? 優さまが作った曲、めっちゃ好きだったのに!!)
『デンジャラス』のリーダーで、ギター担当の高杉優。
名前も顔立ちも女の子みたいで、体の線も細く、一見するとか弱そうに見えるのに、奏でる音は超絶ロック。
テクニックもさることながら、作る曲は激しくも切なく胸に迫る。
デンジャラスがデビューするなり爆発的に売れたのはリーダーの楽曲あってこそだと評判だった。神と崇めるファンは後を絶たなかった。
パティシエの顔は、その高杉優そのものだったのだ。
「神ィ……!!」
「なんだと!?」
「お、お初にお目にかかります、わたくしは」
「待て、神とはなんだ!? まだ一口も食べていないだろ!?」
「食べずともわかります」
「何を言ってる!! もうしばらく休養が必要か!?」
「やめてください、ちょっと、神の顔が見えませんわ!! どいてくださいまし!!」
「どかぬわ!!」
パティシエとの間に割って入るレオナルド。押しのけるエリーサベト。
「私がどれだけ優さまに感謝してるかわかりませんか!?」
デンジャラスはインディーズ時代、長く低迷した。
ムッチーの顔のファンばかりで、彼らの楽曲はなかなか評価されなかったのだ。
そうしているうちに、それまでの楽曲路線のままではメジャーデビューが遠のくと言って、リーダーは新たな創作活動に乗り出す。
それまではギター一本で作曲していた曲に、ピアノの旋律を加え、激しさの中に繊細さを加えたのだ。
それからのデンジャラスは一気に売れ出した。
「優さまの曲があったから、私は貴方(ムッチー)に会えたのですよ!?」
「はぁ!?」
「ですから!! レオナルドさまの顔が好きとか言っていられるのは、出会えたからなんです!!」
(だってそうでしょう!? デンジャラスがデビューした時、中学生だった私が、インディーズのロックバンドなんて知る術もないし!! 売れてくれたから会えたのよ!!)
「エリィ!! しっかりしろ!! 俺もお前の顔が好きだぞ!!」
(顔!? 顔なの!?)
ムッチーはSNSでファンから『声が一番好き』と言われると、返事を書いていた。
その気持ちが今ならわかる。
顔だけじゃないって言いたかったのだろう。
歌に命を懸けていたムッチーは、自分の声を大切にしていたから。
(だが、顔がいい……顔は武器だよムッチー……あぁ、レオナルドもポンコツ王子とか言われて傷ついていたんだろうな……でも……)
しっかりしろ!! と叫ぶレオナルドの顔が薄れていく。
(私も……レオナルドの顔が好きだからおんなじかぁ……)
エリーサベトはまた、気絶した。
120
あなたにおすすめの小説
5年経っても軽率に故郷に戻っては駄目!
158
恋愛
伯爵令嬢であるオリビアは、この世界が前世でやった乙女ゲームの世界であることに気づく。このまま学園に入学してしまうと、死亡エンドの可能性があるため学園に入学する前に家出することにした。婚約者もさらっとスルーして、早や5年。結局誰ルートを主人公は選んだのかしらと軽率にも故郷に舞い戻ってしまい・・・
2話完結を目指してます!
女騎士と文官男子は婚約して10年の月日が流れた
宮野 楓
恋愛
幼馴染のエリック・リウェンとの婚約が家同士に整えられて早10年。 リサは25の誕生日である日に誕生日プレゼントも届かず、婚約に終わりを告げる事決める。 だがエリックはリサの事を……
【完結】真実の愛のキスで呪い解いたの私ですけど、婚約破棄の上断罪されて処刑されました。時間が戻ったので全力で逃げます。
かのん
恋愛
真実の愛のキスで、婚約者の王子の呪いを解いたエレナ。
けれど、何故か王子は別の女性が呪いを解いたと勘違い。そしてあれよあれよという間にエレナは見知らぬ罪を着せられて処刑されてしまう。
「ぎゃあぁぁぁぁ!」 これは。処刑台にて首チョンパされた瞬間、王子にキスした時間が巻き戻った少女が、全力で王子から逃げた物語。
ゆるふわ設定です。ご容赦ください。全16話。本日より毎日更新です。短めのお話ですので、気楽に頭ふわっと読んでもらえると嬉しいです。※王子とは結ばれません。 作者かのん
.+:。 ヾ(◎´∀`◎)ノ 。:+.ホットランキング8位→3位にあがりました!ひゃっほーー!!!ありがとうございます!
義弟の婚約者が私の婚約者の番でした
五珠 izumi
ファンタジー
「ー…姉さん…ごめん…」
金の髪に碧瞳の美しい私の義弟が、一筋の涙を流しながら言った。
自分も辛いだろうに、この優しい義弟は、こんな時にも私を気遣ってくれているのだ。
視界の先には
私の婚約者と義弟の婚約者が見つめ合っている姿があった。
四の五の言わず離婚届にサインをしてくれません?
白雲八鈴
恋愛
アルディーラ公爵夫人であるミレーネは、他の人からみれば羨ましいと思える立場にいた。
王妹の母譲りの美人の顔立ち、公爵夫人として注目を集める立場、そして領地の運営は革命と言えるほど領地に潤いを与えていた。
だが、そんなミレーネの心の中にあるのは『早く離婚したい』だった。
順風満帆と言えるミレーネは何が不満なのか。その原因は何か。何故離婚できないのか。
そこから始まる物語である。
病弱令嬢…?いいえ私は…
月樹《つき》
恋愛
アイゼンハルト公爵家の長女クララは生まれた時からずっと病弱で、一日の大半をベッドの上で過ごして来た。対するクララの婚約者で第三皇子のペーターはとても元気な少年で…寝たきりのクララの元を訪ねることもなく、学園生活を満喫していた。そんなクララも15歳となり、何とかペーターと同じ学園に通えることになったのだが…そこで明るく元気な男爵令嬢ハイジと仲睦まじくするペーター皇子の姿を見て…ショックのあまり倒れてしまった…。
(ペーターにハイジって…某アルプスの少女やんか〜い!!)
謎の言葉を頭に思い浮かべながら…。
このお話は他サイトにも投稿しております。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
私に婚約者がいたらしい
来栖りんご
恋愛
学園に通っている公爵家令嬢のアリスは親友であるソフィアと話をしていた。ソフィアが言うには私に婚約者がいると言う。しかし私には婚約者がいる覚えがないのだが…。遂に婚約者と屋敷での生活が始まったが私に回復魔法が使えることが発覚し、トラブルに巻き込まれていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる