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「俺がいる…ねぇ?じゃあ、あなたは私が殿下に声を掛けられた時、何をしてたの?パーティー会場で、私が1人でいた時、誰と、何を、してたの?教えてくれる?」
「う、それは…」
「それは?何?言えない?どうして?ねぇ、どうして?」
「…俺はお前を裏切った事なんてない!」
ハルトの必死な顔が、何だかとてもおかしくて。
笑い出さないようにするのが大変だった。
私にばっちり見られてるのに、今更、だ。
「裏切りってなぁに?ノックスさんと腕を組んで歩いてた事?それとも、私を放っておいて庭園でノックスさんと抱き合っていた事?私のいた方向からだとあなたからキスしたように見えたけど違うのかしら?でもまぁ、もうどうでもいいわね」
「違う!抱きつかれたのは合ってるけど、キスなんてしてない!!匂いを嗅いでただけだ!!それに、どうでもいいってどういう事だ!!どうでも良くないだろ!?」
匂いを嗅ぐ!?とんでもない趣味ね!?
「まぁ、独特な趣味をお持ちなのね。大丈夫、秘密に致しますわ。前にリリア・ノックスさんのようになれと言われていましたわね?大変申し訳ないのですが、私、彼女のようにはなれませんし、なりたくもありません。婚約者がいる殿方に抱きつくようなはしたない事…できませんわ。まぁ、それを″簡単に″許した殿方にも私は怒りを覚えますけれど」
「それは…ごめん…」
「いいんですのよ、元々ノックスさんみたいな方がお好きなんですものね?でしたら、相思相愛みたいですし、そちらと婚約されたらいかが?」
「なっ!!俺はリリアを好きじゃない!!お前は俺と婚約破棄してもいいのかよ!!?」
ハルトの悲痛な声があたりに響く。
だんだん馬鹿馬鹿しくなってきた。
「私にそれを聞きますか?」
「も…、その喋り方やめろ!いつものヴィーに俺は聞きたいんだ!!」
いつもの私。猫を脱いだ私。
たしかに、そっちが私の本音だし?
「……そうね。じゃあ遠慮なく。あなたと婚約破棄してもいいのか、だって?そう思わせてるのは自分でしょ。いくら私が好みじゃないからって、陰でコソコソと抱き合うくらいならさっさと破棄しなさい!何なの?嫌がらせなの?見せつけるプレイなの?」
「違う!!俺は…!」
「だいたい、他の女性と抱き合ってるヤツに、殿下との事をとやかく言われる筋合いはないでしょ。あなたこそ、殿下に何を言われたの?」
「…ヴィオレットは…私が貰うって…」
「あの人はまた…そんな冗談を…」
ふふ、と笑ってしまう。誰にでもそんな冗談は言うべきじゃない立場の方なのに。
まったく何を考えているのやら…。
「冗談なんかじゃない!あれは本気だ!!」
「あら、じゃあ殿下にお世話になろうかしら。浮気しなさそうだし」
「浮気じゃない!!俺はお前が!!」
「言葉だけなら何とでも言える。私だって、言葉だけなら殿下に愛してるって言えるわ」
「なっ…!!!」
ハルトの顔から表情がごっそりと抜け落ちた。
「で?破棄は私から言えばいい?あなたから公爵様に言う?」
「な…!俺は絶対に破棄なんかしない!!」
「もう隠さなくていいのに…。ノックスさんとお幸せに」
「ヴィー!!」
視界が暗く染まる。背中に回る腕がぎゅうぎゅうと身体を締め付けてくる。
抱き締められて、いる。
ハルトのコロンがふわりと鼻を通り抜けた。
「お前と離れるのは嫌だ」
「あらあら、困った人。放して?」
「嫌だ」
「まぁ、言う事聞かない駄犬には躾が必要かしら」
すっと腕を後ろに引いて、思い切りハルトの鳩尾に拳を埋める。「ぐぅっ!」と呻いて、ハルトがずるずるとその場に崩れ落ちた。
「抱き締める相手が違いましてよゼノシス小公爵様。では、ご機嫌よう」
「待っ……ぐぅ…」
動けないハルトを置いて、私はその場を去り馬車で家に帰った。シャラ、と鳴るネックレスにそっと触れ、悲痛な表情のハルトを思い浮かべる。
「何をしてるんだろう、私」
ノックスさんでも、他の誰かでも好きな人が出来たと打ち明けられたなら、すんなり引く事が出来る、むしろそうなって欲しいと思っていたのに。
「何で、こんなに胸が痛いのかしら…」
ずきりずきりと心臓が悲鳴を上げている。
気付きたくなかった、こんな気持ち。
知らなければ痛みも切なさも感じなくていいのに。
「このまま領地に移り住もうかな…」
目の前の問題から逃げ出したい気持ちが強かった。
「う、それは…」
「それは?何?言えない?どうして?ねぇ、どうして?」
「…俺はお前を裏切った事なんてない!」
ハルトの必死な顔が、何だかとてもおかしくて。
笑い出さないようにするのが大変だった。
私にばっちり見られてるのに、今更、だ。
「裏切りってなぁに?ノックスさんと腕を組んで歩いてた事?それとも、私を放っておいて庭園でノックスさんと抱き合っていた事?私のいた方向からだとあなたからキスしたように見えたけど違うのかしら?でもまぁ、もうどうでもいいわね」
「違う!抱きつかれたのは合ってるけど、キスなんてしてない!!匂いを嗅いでただけだ!!それに、どうでもいいってどういう事だ!!どうでも良くないだろ!?」
匂いを嗅ぐ!?とんでもない趣味ね!?
「まぁ、独特な趣味をお持ちなのね。大丈夫、秘密に致しますわ。前にリリア・ノックスさんのようになれと言われていましたわね?大変申し訳ないのですが、私、彼女のようにはなれませんし、なりたくもありません。婚約者がいる殿方に抱きつくようなはしたない事…できませんわ。まぁ、それを″簡単に″許した殿方にも私は怒りを覚えますけれど」
「それは…ごめん…」
「いいんですのよ、元々ノックスさんみたいな方がお好きなんですものね?でしたら、相思相愛みたいですし、そちらと婚約されたらいかが?」
「なっ!!俺はリリアを好きじゃない!!お前は俺と婚約破棄してもいいのかよ!!?」
ハルトの悲痛な声があたりに響く。
だんだん馬鹿馬鹿しくなってきた。
「私にそれを聞きますか?」
「も…、その喋り方やめろ!いつものヴィーに俺は聞きたいんだ!!」
いつもの私。猫を脱いだ私。
たしかに、そっちが私の本音だし?
「……そうね。じゃあ遠慮なく。あなたと婚約破棄してもいいのか、だって?そう思わせてるのは自分でしょ。いくら私が好みじゃないからって、陰でコソコソと抱き合うくらいならさっさと破棄しなさい!何なの?嫌がらせなの?見せつけるプレイなの?」
「違う!!俺は…!」
「だいたい、他の女性と抱き合ってるヤツに、殿下との事をとやかく言われる筋合いはないでしょ。あなたこそ、殿下に何を言われたの?」
「…ヴィオレットは…私が貰うって…」
「あの人はまた…そんな冗談を…」
ふふ、と笑ってしまう。誰にでもそんな冗談は言うべきじゃない立場の方なのに。
まったく何を考えているのやら…。
「冗談なんかじゃない!あれは本気だ!!」
「あら、じゃあ殿下にお世話になろうかしら。浮気しなさそうだし」
「浮気じゃない!!俺はお前が!!」
「言葉だけなら何とでも言える。私だって、言葉だけなら殿下に愛してるって言えるわ」
「なっ…!!!」
ハルトの顔から表情がごっそりと抜け落ちた。
「で?破棄は私から言えばいい?あなたから公爵様に言う?」
「な…!俺は絶対に破棄なんかしない!!」
「もう隠さなくていいのに…。ノックスさんとお幸せに」
「ヴィー!!」
視界が暗く染まる。背中に回る腕がぎゅうぎゅうと身体を締め付けてくる。
抱き締められて、いる。
ハルトのコロンがふわりと鼻を通り抜けた。
「お前と離れるのは嫌だ」
「あらあら、困った人。放して?」
「嫌だ」
「まぁ、言う事聞かない駄犬には躾が必要かしら」
すっと腕を後ろに引いて、思い切りハルトの鳩尾に拳を埋める。「ぐぅっ!」と呻いて、ハルトがずるずるとその場に崩れ落ちた。
「抱き締める相手が違いましてよゼノシス小公爵様。では、ご機嫌よう」
「待っ……ぐぅ…」
動けないハルトを置いて、私はその場を去り馬車で家に帰った。シャラ、と鳴るネックレスにそっと触れ、悲痛な表情のハルトを思い浮かべる。
「何をしてるんだろう、私」
ノックスさんでも、他の誰かでも好きな人が出来たと打ち明けられたなら、すんなり引く事が出来る、むしろそうなって欲しいと思っていたのに。
「何で、こんなに胸が痛いのかしら…」
ずきりずきりと心臓が悲鳴を上げている。
気付きたくなかった、こんな気持ち。
知らなければ痛みも切なさも感じなくていいのに。
「このまま領地に移り住もうかな…」
目の前の問題から逃げ出したい気持ちが強かった。
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