【完結】愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。

王冠

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「ゆっくりですよ、ティアラ様」
「はい!リーン様!」


 リーン様の助言通りにしていると、竿先につんつんとアタリがあった。
 まだ!まだダメ!いつもここで竿を上げちゃって失敗したじゃない!!待つのよ、私!!
 ぐっと我慢をして、待ちの姿勢を保っていたら突如竿が強い力で引かれた。


「今!竿を立てて!!」
「はいっ!!」


 ぐぐぐ…と海に引き摺り込まれそうな力が持った竿から伝わる。私は足に力を入れて必死で耐えた。


「ティアラ様!やりましたよ!ターイです!」
「くっ…凄い力…っ!!」
「俺も手伝います!!」
「お願いします!」


 リーン様は私の背後から手を回し、一緒に竿を上げてくれる。ターイは逃げ切りたいのか暴れ回って沖に行こうと力強く引っ張っていく。


「ティアラ様!行きますよ!これかなりデカいですよ!」
「絶対釣り上げるわ!!」
「じゃあ、せーのっ!!!」
「きゃあっ!!」


 どすんという音と、どん!という音が響き、私は何が起きたのか一瞬わからなかった。ただ、勢い余って転けたという事はわかるのだが。少しの間、ぽかんとしたがはっとした私は叫ぶ。


「モニカ!!ターイを!!」
「すでに捕らえてございます!お嬢様!!」
「さすがモニカ!!!」
「当然です!!」


 私は起きあがろうと手をついた。すると、硬くて温かいものが私の下にある事に気付く。そっと顔を上げると、そこには真っ赤になったリーン様の美しい顔があった。


「わぁっ!!リ、リーン様っ!!あっ!!すみません私…!!」


 なんと、私はリーン様の上に乗っかっていたのだ。ターイを釣り上げた拍子にバランスを崩した私を抱き締めて庇ってくれていた。急いでリーン様の上から降りたが、パニックになって言葉が出て来ない。


「わ、私…何て事を…!」


 あわあわと慌てる私を支えながら、リーン様は「怪我はないですか?」と優しく立たせてくれた。
 怪我はない、怪我はないけれども淑女としての何かが完全に壊れたわ!!私ったら何してるの!!


「どこか痛い所が!?」
「え、は、あの…ない!ないです!!」
「あ…良かった」
「はい…すみません…」


 慌てたように聞くリーン様の真剣な表情を見て、ぷしゅうぅぅと音が聞こえそうなほどに熱くなる私の顔。思わず両手で顔を覆った。
 恥ずかしすぎる。これは人生でトップクラスに入る恥ずかしさだ。


「ちょっと転けちゃいましたけど、見て下さい。かなり大物のターイですよ」


 リーン様は何もなかったように普通に話しかけてくる。もう顔も赤くない。うぅ、私だけが真っ赤なままなんて…気まずいわ…。そう思いつつ、モニカの方に目をやると私は驚きで固まってしまった。


「お嬢様!おめでとうございます!とても大きなターイですよ!」


 またしても赤子を産んだかのような掛け声に笑いそうになりつつも、モニカが手にしているターイから目が離せない。それは、私の顔二個分の大きさだったからだ。


「…わ…!こ、これ……わ、私が!?」
「そうですよ!お嬢様!とても立派で重いです!」
「陸からこのサイズが釣れるなんて…あの仕掛け…売れるな」


 リーン様はキランと目を輝かせ、ぶつぶつと計算を始めている。あぁ…完全に商人の目だわ…と原価の計算をしだしたリーン様を見て笑った。


「これは食べ応えがありそうね!」
「奥様にもお出ししましょうね!」
「もちろん!!」


 きゃっきゃとはしゃいでいる私達の横で、リーン様は「よし、これで行こう」と満足げな顔をしていた。制作から売り出しまでの計画が出来上がったらしい。


「リーン様、ありがとうございます!あんな大きなターイを私が釣る事ができたのはリーン様のおかげですわ!!」
「いやいや、俺は上げるのを手伝っただけだよ。ティアラ様の腕がいいんだ」
「まぁ!リーン様ったら!!」


 笑いながらリーン様を見ると、目がばっちりあってさっきの光景を思い出した。お互いにぼっと頬が染まる。


「あ、あの…支えて頂いてありがとうございます。リーン様はお怪我はありませんか?」
「あ…ない、です」


 しーん、私達は何とも言えない雰囲気に黙ってしまった。


「あら、芽生え~ですか?」
「やだ!釣りの才能なんて芽生えてないわよ!」
「あ、そっち行っちゃったんですね」
「え?」
「いえ、何でもないです」


 モニカがさっさとターイを網に入れて帰り支度をしだした。早く料理長に渡したいんだろうなと思い、私も支度をする。


「リーン様、私達はもう帰りますね。今日は本当にありがとうございました」
「いえ、こちらこそ。仕掛けの試作で大物が釣れる事を証明して頂きありがとうございました」
「ふふふ…お役に立てて良かったです。では、ご機嫌よう」


 ご機嫌な私とモニカはリーン様に挨拶をして、話をしながら屋敷に帰った。


 この時、私は知らなかったのだ。


 一部始終をじっと見ている人がいる事も、リーン様が蹲って「マジかよ」と赤くなっていた事も。



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