死に戻り令嬢は、歪愛ルートは遠慮したい

王冠

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「……あら…?」


目を覚ますと、真っ白な空間にいた。
目の前にはピンク色のふんわりした髪に虹色の瞳の女性がいて。
見た事のない綺麗な瞳に思わず見惚れた。


「起きた?あなた無茶するわねぇ!」


そして、いきなりそう突然話しかけてきた。
私の知り合いではないが、どこかで会ったような気もする。


「…どちら様でしょうか…?私…死んだはずじゃ…」


そうだ。
私は自分で心臓を貫いた。
確かに死んだはず。
なのに何故…こうして話が出来てるの…?


「死んだわよ、あなた」
「え、やっぱり?そうよね、私…確実に心臓を…」
「でもね、私の我儘であなたをここに引っ張ってきちゃった」
「…は?」


この女性は一体何を…?
それに、誰!?


「私が誰だかまだわからない?あなたが死ぬ直前に、目の前にいたけど」
「は…?目の前…って…」


蒼白なジャスティンと慌てた大神官と、後は…女神像くらいしか………え?


「…め、女神様…?愛の女神…ティデロ様…?」
「やだぁ!愛の女神だなんて!!照れるじゃないの!!」


目の前の女性は顔を真っ赤にさせて、バンバンと床を叩いている。
…女神…これが…?


「…で、女神様が私に何か用…なんでしょうか…?」
「あっ!そうそう!大変なのよ!ちょっとこっちに来て!」
「は、はい…」


手招きをされて私は女神様の近くに移動した。
そこには水鏡みたいな物があって、何かが映し出されている。


「これ…あなたが命を絶った後の光景よ」
「え?」


指差されるままに水鏡を覗くと、神殿を中心に王都が火の海に包まれていた。
燃え上がる街の様子に、思わずひゅっと喉が鳴る。
どうして、私が死ぬ前までは火なんて上がってなかったのに。


「これね、ジャスティンの魔力が暴走したのよ」
「え…。ジャスティンが魔力暴走…?あの魔力コントロールが得意な人が…?何で…」


あるわけがない。
魔力のコントロールなんて、ジャスティンは3歳からやっているのに。
私でさえ彼が暴走した所なんて見た事がない。


「あなたが命を絶ったから、ジャスティンは絶望して魔力暴走を起こしたの」
「そんなわけ…」


ないでしょう、と女神様の顔を見たら虹色の瞳で私をまっすぐに見つめていた。


「あるのよ、ミリオネア。あの子にとって、あなたが全てだったの。だから…」
「は…」


ジャスティンにとって、私が全て…ですって?
だから…?だから何?


「…だから、何だって言うんです?彼の側にはもう行けないのに」
「ジャスティンのした事は間違ってたわ。幼稚で最低だった。ミリオネアが怒るのも、拒絶するのもわかるの」
「私に出来る事はありません」
「ある…と言ったら?」
「だって死んでるんですよ?私。亡霊になって彼の側にいろとでも?」


思わず乾いた笑いが出た。
死んでしまった私に出来る事などない。
それに、彼が嫌で自ら命を絶った私にまだ何をさせるつもりか。
もう二度とあんな思いはごめんだ。


「亡霊にはならないわ。それに…ジャスティンもそろそろ限界だわ。ほら、見える?あなたを腕に抱いて、泣いて叫んでとうとう精神が崩壊したみたい」
「な……」


それ以上の言葉が出て来なかった。
私の骸を腕に抱き締め、涙でぐしょぐしょになった頬を寄せ呆然と動かない私を見つめるジャスティンから目が離せない。


「ど……して……」


どうして?
そう、聞きたかった。
他の女を腕に抱いていた時、私は何度も目を逸らした。
そして、誰もいない部屋で何度も泣き崩れた。


「あの子も素直じゃないし、あなたも我慢しちゃうから、どこかで拗れちゃったのね」
「だからって…やっていい事と悪い事があるでしょう。捻じ曲がりすぎた愛なんて、理解したいとも思わないわ」
「そうよね、私だってアレは嫌だわ」
「だったら、私を解放して下さい」
「私はね、ジャスティンもミリオネアも2人共好きなの」
「何の関係が…」


あるのか、と言いかけた所で女神の虹色の目から涙がぽろりと零れ落ちた。


「ジャスティンが命を絶ったわ」
「……!」


女神様は、はぁ…と溜息を吐いた。
それには悲しみや呆れ、悔しさなどが感じられて。
私は何故か申し訳ない気持ちになった。


「私が我慢していれば…良かった…?」


ぽつりと出た呟きに、女神様は首を横に振る。


「我慢してする結婚では、2人ともがダメになる。だから、やり直して欲しいの」
「…やり直す…?」
「そう、私の我儘は、もう一度…ジャスティンと出会った時からやり直して欲しい」
「…嫌だ、と言ったら…?」


あんな思いをもう一度したら、私は間違いなく狂う。
そしてジャスティンを殺そうとするだろう。


「そうね…。その時はあなたは新たな人生を待ち、ジャスティンは無限空間に引き摺り込まれるわね」
「無限空間…?」
「彼は自分を呪いながら死んでしまったから、普通の魂が導かれる場所には行けないの」
「自分を呪う…?」


ジャスティンが呪うとすれば、私なんじゃない?そう思った。


「あの子は、ミリオネアに対して酷い事を沢山したからミリオネアが自分を拒絶して命を絶ったんだって理解している。そして何よりも大切なミリオネアを奪ったのは俺だって、どうしても自分を許せなかった」
「馬鹿じゃないの…自業自得よ…」
「気付くのが遅いわよね。素直に気持ちを言葉にすれば、今頃は誰もが立ち入れない仲になっていたと言うのに」
「私だって、彼を真剣に愛してたのよ…?」
「知っているわ、あなた達の波長の良さはまるで優雅な曲のように心地良かったから」


女神様はうっとりと目を閉じた。
本当に私達は波長が合うのだろうか。
いや、合っていたはずだ、数ヶ月前までは。


「ジャスティンもミリオネアも、私の愛し子なの。生まれたすぐから2人は可愛くて。魂がとてもキラキラしていたのを覚えてるわ」
「愛し子…」
「ジャスティンは昔から結婚にいい思いを抱いてなくて、逆にあなたは結婚に希望だけを抱いていた」
「愛する人とするのが結婚だと思っていました」


小さな頃は、絵本で読んだ幸せなお姫様になれると思っていたのだ。
現実は違ったけれど。


「考えも、理想も、何もかもが正反対の2人が出逢って、想いを寄せ合って、幸せになる…そんな日を楽しみにしていたのに…」


女神様はしゅんと俯いてしまった。
ぎゅっと拳を握り締め、微かに震えているみたい。
そんなに楽しみだったの…?
私とジャスティンが幸せになる姿を見るのが…。
何だかめちゃくちゃ申し訳なくなって来たんだけど…。


「女神様…私……や、やり直しましょうか…?」


あまりに女神様が落ち込んでいるから、私は咄嗟にそう口にした。


「いいの!?本当!?やだ!夢みたいだわ!!」


ぱっと顔を上げた女神様はキラキラとした目をしていて。
まるで少女のようだった。


「本当にね!ジャスティンったら、ミリオネアが好きで好きで仕方ないくせにカッコつけちゃって!!あぁ、思い出したら腹が立って来たわ!!」
「め、女神様!?」


突然ぷんすかと怒り出した彼女は、虹色の瞳を吊り上げている。
そしてとんでもない事を言い出した。


「ジャスティンが隠してた事全部暴露してやるんだから!!」
「は!?ば、暴露!?」
「そうよ!!ジャスティンったらね、ミリオネアに一目惚れして父親にミリオネアを婚約者にしなきゃ一生結婚しないって1ヶ月間ずっと父親を洗脳してたのよ!」
「…せ、洗脳…」


驚いた、ただの政略結婚かと思ってた。


「それにね、ミリオネアに近付こうとする男の子達を脅したり、ミリオネアに嫌がらせしようとした女の子の家ごと潰したり、他にも色々ありすぎて省くけど、後は…そう、あの子はまだ童貞よ!!」
「は………」


ど…どうて…。
いやでも、思いっきり刺さってましたけど!!
私見ましたけど!!


「幻影魔法を練習して、ミリオネアに見せてたのよ!!自分とする時怖がられないようにって!!相手の子はその間眠らせてたのよ!」
「…え…?えぇっ!!?」
「馬鹿でしょ!!あの子馬鹿なのよ!!誰よ拗らせ男子は可愛いなんて言った神は!!そのせいで2人とも自殺したじゃないの!!許さないんだから!!」
「こ、拗らせ…可愛い…?全然可愛くありませんよ!?」
「ほんとよね!!全くイライラするばかりでちっともキュンキュンしない!!ミリオネアは嫌な思いばかりするし!!あぁ、私の愛し子…辛かったわね…時の神に相談しといて良かったわ…」


しくしくと今度は泣き出した女神様は私を抱き締めて泣いていた。
ほんわりと心が温かくなる。


「ミリオネアは私の加護を付けてあげるわ、聖魔法が使えるようになるわよ。記憶は残っちゃうけど、その方がジャスティン見ても面白いでしょ」
「ふ、ふふ…ありがとうございます」
「ジャスティンをもう一度好きになれたらそれでいいし、なれなければ違う人と恋をして欲しいわ。18歳で命を絶つなんて辛すぎるもの」
「わかりました。とりあえず頑張ってみます」
「ありがとう。じゃあ、ミリオネア…あなたをジャスティンと初めて会った10歳の誕生日に戻してもらうわ」
「…はい、お願いします」


女神様は優しく私の頬を撫で、ぎゅっと抱き締めた。
私はほわほわ、ふわふわとした気分で眠気に包まれて。
最後に見た女神様が何か慌てていたけど、私はそのまま目を閉じた。
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