死に戻り令嬢は、歪愛ルートは遠慮したい

王冠

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魔獣討伐の出発を前に、私達は王宮に集まっていた。
我がハーヴェスト家からはお兄様と私が出る。
私とお兄様は防御魔法が幾十にも掛かったローブをお父様から手渡され、それを着用している。
お父様のお手製だから、恐ろしい程緻密に組まれた魔法なんだろうなと思わず笑った。


「ミリオネア、体調は大丈夫か?」
「お兄様、もう5回目よ?大丈夫よ」
「お兄様は心配で…いくら聖女とはいえ、まだ15歳の令嬢を討伐に参加させるだなんて…」
「令嬢という枠にハマらない程に鍛え上げた本人が何を言っているのかしら?」
「お前は天才だ。魔法も剣術も一級品だ!」
「だから討伐に参加しても大丈夫でしょ?」
「それとこれとは…!」


あぁ、うるさい。
朝からずっとこんな感じで落ち着けないわ!!
王宮前から街を出るまではパレード方式でゆっくり進むし、お兄様と私は所属する部隊が違うからその時には静かになるかしら。


「聖女殿、調子はどうだ?」
「あ、殿下。ばっちりですよ。お兄様がうるさいくらいで」
「リチャード殿は妹思いだからな」
「だったらもう少し静かにしてくれないかしら」
「はは…無理だろうな」


ジャスティンはこの隊の総指揮官だから、真っ黒の軍服に金色のラインが入った物を着ている。
これはマズイわ。
鼻血が出そう。


「聖女殿、視線が痛い」
「軍服が似合い過ぎて…何だか腹立たしいわ」
「褒められてると受け取っておくよ」
「本当に何着せても似合うなんて反則よね!」
「くっくっ…いつも通りで安心したよ」


ぷんすかと怒る私を笑いながら見ているジャスティンに、みんなは唖然としていた。
彼は普段、表情筋が旅に出ていると言われる程、無表情だからだ。
ジャスティンが隊長を務める部隊…通称、金獅子は隊員全員がぶっ飛んだ性格をしていて変人の巣窟と言われているが戦力は抜群に高い。
私は今回、その隊に入って移動する事となるのだが。


「隊長の嫁さん、綺麗っすね」
「おい、隊長って笑えんだな」
「隊長が笑ったら誰か死ぬって噂は本当かな」


さっきから王太子に失礼な事しか言ってない。
それに私はジャスティンの嫁じゃない。
婚約者ですらない。
あくまで候補だ。


「おい、うるさいぞ」


ジャスティンが視線を向けると、途端に静かになる。
本能でわかるのかしら。
この中でジャスティンが一番危ない人だって。


「隊長、いつになったら紹介してくれるんすか。みんなそれが聞きたいから騒ついてんですよ」
「そうですよ、隊長ー」


またやいのやいのと騒ぎ出す。
他の部隊は行儀良く整列してるのに、それすらしていない。
列ってなぁに?な勢いだ。


「聖女殿、自己紹介を頼む」
「あ、はい。ミリオネア・ハーヴェストです。聖女として参加させて頂きます。討伐終了まで殿下の部隊でお世話になります。よろしくお願いします」
「みんな、聖女殿に指一本でも触れたら、後方から心臓を撃ち抜かれるからな」


ジャスティンがそう告げると、みんなは一瞬しんとなる。
そして、わっと騒がしくなった。


「隊長から飛んでくるヤツだよな、それ」
「嫁さんに触ったら殺すぞ、だよな、今の」
「やべー!隊長が人間に見える!」


口々に好き勝手な事を言い出した。
残念ながら、ジャスティンは嫉妬なんてしないわよ、今は。
私に興味はないだろうから。


「殿下!!」


鈴を転がしたような可愛らしい声がして、そちらに目を向けるとクリスティ様とカイラ様が二人揃ってジャスティンに会いに来た。
クリスティ様は蜂蜜色の髪を優雅に巻き、新緑色の瞳をきゅるんとさせているし、カイラ様は赤い髪を結いあげ、青い瞳をうるうるとさせている。
ふわふわの派手なドレスが、この列の中では違和感しか生まない。
けれど、男性はこんな風に見つめられたら嬉しいものなんだろうな、と思った。


「殿下、お気を付けて!これ、手作りの御守りですわ」
「殿下、必ず無事で帰って来て下さいませ!わたくしもハンカチを…」


うわぁ、凄い熱烈。
私はちょっと引いてしまって、自分の馬の確認に行こうとした。


「聖女殿、こちらへ」
「は?はい」


ジャスティンに呼び止められて、仕方なくそちらに足を向けるとギラッとした彼女らの視線が飛んでくる。
表と裏がはっきりしてるな、と思わず苦笑いが出てしまった。


「何でしょうか、殿下」
「あぁ、この二人が御守りをくれた。聖女殿からは何か無いのか?」


ニヤリと口の端だけが上がっている。
また揶揄おうと言うのか。
あぁ、だったら言ってやる。
誤解されるようにわざと暴露してやるんだから。


「あら、私の膝枕が御守りでしょう?殿下の仮眠を側で毎日お手伝い致しますわ」


いつもしているかのような言い方に、二人の顔色がさっと変わった。
ジャスティンは更に口角を上げ、「そうだな。何よりの御守りだ」と肯定した。


「まぁっ…!ミリオネア様、討伐は遊びに行くんじゃなくてよ!?」
「殿下に膝枕など…はしたないですわ!眠っている間に魔獣に襲われたらどうなさるおつもり!?」


私は笑い出しそうになった。
この二人の想像の中では私は抜け駆けをして、ジャスティンとの甘い時間を過ごす為に参加すると思っているらしい。
やるかやられるかの瀬戸際に、甘いも何も無いと言うのに。


「まぁ!クリスティ様もカイラ様も酷いわ!いつ襲ってくるかわからない魔獣に囲まれてゆっくり眠る事も出来ないのに、殿下に仮眠すら取らせないなんて!!殿下に不眠不休で戦えとおっしゃるの!?」
「なっ…私達はそんな事は…!」


焦り出す二人は顔を青くしている。
眠れる時に眠る、これは大事だ。
短時間でもぐっと寝られるのと、寝られないのでは疲労が全然違う。


「それに…遊びに行くんじゃない事は、あなた達よりも理解しています。気を抜けば殺されるのだから。あなた達はこの安全な場所で、健気にお祈りでもしていて下さいね」


にっこりと笑うと、二人は黙ってしまった。
後ろで見ていた隊員達はさっきとは違って、ぽかんと口を開けている。


「二人とも、激励ありがとう。最高の御守りが同行するから心配は要らない」
「あ…はい…」
「お気を付けて…」


しゅんと肩を落として二人は列から離れた。
私はギッとジャスティンを睨む。


「…わざわざ私を呼ばなくとも良かったのでは?」
「聖女殿も何か用意していたら受け取らねばと思ってな」
「面倒だからってこっちに投げて来ないでよ!」
「そう怒るな、悪かった」
「もう!膝枕しないわよ!?」
「それは困る」


私はきぃきぃと怒っているが、ジャスティンは楽しげにしているのがまた腹立つ。
そこでまた隊員達が騒ぎ出した。


「おい、アレ誰だ?」
「隊長の皮を被った敵なんじゃねーの?」
「隊長が悪かったとか言うの初めて見たっす!」


もはや偽者にされている。
私は吹き出しそうになった。


「出発します!列を整えて下さい!」


出発の合図があり、私達は馬に乗って列を作る。
ジャスティンのすぐ後ろに私は位置していた。
隣には金獅子の副隊長、レオンさんが並んでいる。


「よろしくお願いします、ミリオネア様」
「あ、よろしくお願いします」


見た目が優しそうで、一番まともそうだ。
そうよね、一人くらいいるわよね、まともな人。


「ミリオネア様は大変お美しいですね。隊長が羨ましいです」
「まぁ…ありがとうございます」


ふふふ、ははは、と笑い合いながら腹の探り合いが始まる。
何気ない会話から、何を引き出そうとしているのやら。


「隊長に嫌気がさしたら、是非俺の所に来て下さい、大事にしますよ」
「ふふ…考えておきますわ…」


…軟派な人だった。
何だこの部隊。
隊長に問題があるのではなくて?


「…レオン、その辺にしとけよ。聖女殿は怒ると怖いからな」
「えぇー…、こんな綺麗な人とお話し出来る機会あんまりないのに…。でも怒った所も見てみたいですね」
「絶対触るなよ、リチャード殿の圧を感じる」
「あー。そうだった…リチャード様の妹さんでしたね。手を出す時は死と引き換えかぁ…隊長やっぱずるいですよ!」
「…何がだ…」


ジャスティンが顔を歪めて、レオン様に聞いている。
深掘りしてもあんまり良いことがないと思うけど…。
レオンさんは、はぁ…と悩ましげな溜息を吐いた。


「婚約者枠でリチャード様にも睨まれずにいちゃつき放題じゃないですか?」
「は!?」


私は思わず真っ赤になってしまった。
ジャスティンは一瞬驚いた表情をしたものの、すぐに意地悪な顔になって「そうだな、イチャイチャできるな」と笑った。
私はあの膝枕を思い出してしまい、言葉が口から出ずに唖然とジャスティンを見るだけしか出来ない。


「ずるいですよ!あっ!野営の時、隊長のテントだけ防音魔法かけといて下さいよ!声とか聞こえたらみんな寝れなくなるんで!」
「え、声?」


話し声って事?
そんな繊細な人いるの?この部隊に。


「聖女殿、やめておけ」
「え?皆さん見掛けによらず繊細なんですね?話し声で眠れなくなるなんて…意外ですわ」


ジャスティンが困ったような視線を私に向けてくるが、素直に言い過ぎたかしら。
気を悪くさせちゃった?


「うわ、天然ですか?」
「レオン、聖女殿にはまだ早い。やめとけ」
「まじすか。隊長、まだですか」
「貴族令嬢はそういうもんだ」
「あっ!すみませんでした。俺はもう貝になりますんで!」
「え?」


それきりレオンさんは本当に貝のように黙ってしまった。
私は何の話かわからず、モヤッとするからジャスティンにそっと聞いてみる。


「ねぇ、さっきの何の話?」
「…知らないでいい」
「気になるじゃない、何よ?」
「…教えない…」


そう言ってジャスティンはさっと前に馬を出してしまった。
私は首を傾げながら後を着いていく。
そしてゆっくりと考えた。
テントで、ジャスティンが誰かと話をしているのを聞くとみんな眠れない?
私とイチャイチャするのがずるいって話だったから……あっ!!!


「……っ!!」


私は理解した。
何の声が聞こえたらみんな寝れないのか。
私はぶわっと赤くなる。
一体何を考えてるんだ!この人達!!
あの時の幻影が浮かんできて、慌ててかき消した。
あれがジャスティンの願望だったらなんて、今は考えちゃいけない。
私はふるりと首を振った。
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