死に戻り令嬢は、歪愛ルートは遠慮したい

王冠

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じわりと色が変わり出した指輪の石が、完全な赤に変わる頃。
ぶうぅぅん、と音がして床に魔法陣が浮かび上がる。
あ、と思った時にはジャスティンとマナカ様が手を繋いだ状態で姿を現した。


「あ…」
「貴様、マナカから手を離せ」


人形の天京様が低い声を出す。
私もチラリと繋がれた手に視線を落とし、その後ジャスティンを見た。


「仕方ないだろ、転移はどこか触れていないと…」
「早く離さなきゃ死ぬわよ、あなた」


ぱっと躊躇なく離される手に、お互いに何の意味もある訳がない。
それはわかるけど、やはり面白くは無い。


「マナカ!!」
「あらあら、寂しかった?」


ぴょんと跳ねた天京様はいそいそとマナカ様の胸ポケットに入っていく。
やはりそこが彼の定位置で、見ている私もほっこりとした。


「ミリオネア、無事か?」
「無事よ。ミランダ王女様がここにいるわ」
「やっぱりか。陛下への報告と、位置の特定に時間がかかった、すまない」
「いいえ、来てくれてありがとう」
「当然だ」


そう告げるジャスティンがかっこいいから、さっきの手繋ぎは許してやろう。


「マナカ、ミランダはあの男に随分と惚れているみたいだ。嫉妬でミリオネアを害そうとするほどに」
「ミリオネアちゃん大丈夫!?ごめんなさいね!妹が…!!」
「私は大丈夫です。ただ、全て彼女に跳ね返っているので、ミランダ王女が怪我をしているかも知れません」
「それは自業自得だから、仕方ないわよね」


マナカ様ははぁ、と溜息を吐いた。
それはそうとゆっくりしている場合ではない。
いつジュエルが帰ってくるかわからないからだ。
みんなが隠れられるような空間はないし。


「ジュエルに気付かれないように出来るかしら…」
「隠蔽の魔法は…バレるか…」
「我が人形にしてやろうか」
「ベッドの中に隠れたらどうかしら?」


それぞれに考えを巡らせ、結局は天京様の案に落ち着いた。
天京様とマナカ様はベッド下に潜り、ジャスティンは私のスカートのポケットに潜む。
モゾモゾとポケットに入っていく姿が可愛らしい。


「ミリオネアの匂いがする…」
「ちょっと…変な事しないでよね…」
「我慢するよ…」


そんな会話をヒソヒソとしていたら、不意にドアがノックされ返事を返すとそっとジュエルが顔を出した。


「リオ……美味しいお茶と、お菓子を持って来たんだ……」


不安と怯えが入り混じった青白い顔は、私をほっとさせた。
良かった。
ジャスティン達の事はバレていないわ。


「……せっかくのお茶なら、さっきの彼女と飲みたいわ。ジュエルは私に秘密が多いみたいだから…」
「違っ…リオ!彼女は何でも無いんだよ!!俺には秘密なんてないよ!!」


今にも泣き出しそうな悲痛な声を上げて、ジュエルが私に近付いて来る。
これだけ見れば、幼い頃のジュエルを見ているようだけれど。
きっと、彼は色々と変わっているのだろうな、とも思う。


「あの女の子と、どういう関係なの?私、勘は鋭いの」
「な、何もないよ…」
「それにここはどこ?」
「僕の秘密基地なんだ…場所は…言えない」


どの質問にも、素直に答える気はないのね。
私はこれ見よがしに「はぁ…」と溜息を吐いた。
ジュエルがビクリと肩を振るわせる。
本当に怯えているのか、油断させる為の演技なのか。


「リオ…お、怒ってるの…?」
「怒ってるというよりは…呆れてる、の方かしら」
「呆れてる…?」
「そうね。何も教えてくれないのはジャスティンと同じねって。違う女性を近くに置いてるのも。そして、私を都合良く扱えると思っている所も。王族の男性はみんなそうなのかしら」


ジュエルを揺さぶるであろうこの言葉は、同時にジャスティンも揺さぶっているだろう。
後で違う!と全力で否定されそうだが、実際にはそうだと思われても仕方ないのよ、何も言わないなら。


「ち、違う…俺は、リオだけ…リオしか…」
「ジュエル、状況と言葉が噛み合ってないから私はあなたを信用できないし、弄ばれた後に捨てられるなんてまっぴらごめんだわ。家に、帰してくれるかしら?」
「弄ぶなんて絶対にない!俺はずっとリオが好きで…!!」


どれだけ一生懸命に私が好きだと言っても、何一つ明らかになってない。
そして、そんな不誠実な男を信用出来るはずもない。
元々気持ちもないのだから、尚更だ。
焦がれて狂いそうになる位に愛した男にでさえ、裏切りを許せず拒んで死を選んだのだから。


私の中で、好き、婚約、結婚などのワードは非常に過敏な物になっていて。
人として口にした事は守るものだが、特別な人と交わしたそれはかなりの意味を持ち、色んな意味での拘束権を持つ。


『生涯ジャスティンだけを愛する』


そう誓い約束をしたら、その瞬間から私は彼に囚われるのだ。
そう言った呪いにも似た重さは、ジュエルからは感じられなかった。


「だから?」
「…え…」
「私が好き…それで?」
「リオ…?」
「ただ、私をジャスティンから奪ってやりたいだけなんじゃない?」
「………」


ジュエルは黙ってしまった。
やはり、図星か。
ジャスティンから感じられるような熱をジュエルからは感じられない。
ただ、手に入れたいと執着みたいな物があるだけ。


「ジャスティンが落ち込む姿が見たかっただけ…違う?」
「……今は……違う…」
「今は?」


ふと俯いたジュエルがゆっくりと顔を上げた。
さっきまでの悲壮感は姿を消して、薄らと笑みを浮かべている。
まるで何かに心酔するみたいに。


「リオは…俺の女神なんだ…」


ぽつりと発した一言を皮切りに、ジュエルは私への想いを語り出した。


「リオと初めて会ったのは、聖女お披露目のパーティーで。兄上の婚約者候補になった人って認識しか無かった。でも、聖魔法を披露した時…俺のモヤモヤしていた気持ちがさぁって晴れた気がして」


懐かしそうにジュエルは笑って、そっと近くにあった椅子に座った。
長い脚を組む仕草がスマートで、令嬢達を虜にするのがわかる気がした。


「その後、兄上とダンスしてる時に俺は心底驚いたんだ。兄上って、あんな風に笑うんだって。俺は…兄上の笑った顔なんて見た事なくて。純粋に、リオは凄いなって思ってた」


今世ではあまり仲良くは無かったのね、ジャスティンと。
でも、ジャスティンから聞いた話だと前から私を狙ってたって。
うーん…良くわからないわね。


「それからたまにリオに会うようになって…話もするようになって…優しくて、綺麗なこの人が義姉さんになるんだって嬉しかった。でも…」


ジュエルは口を閉じて、ぎゅっと手を握りしめた。


「兄上は…他にも候補がいて、リオの嫌な噂が上がっても知らんぷりして。聖女だから婚約者候補なんて…討伐に行かせる為になんて…!」


ぎりぎりと握りしめた手と、ぐっと噛み締められた歯がジュエルが本当に怒っているんだとわからせた。
私は、どこか切ない気持ちになる。
ちゃんと、私を心配してくれていたんだって。


「だったら俺が…って思った。リオを幸せにするのは俺だって。他の女に目を向ける兄上より、リオの事ずっと見てる俺が…」


どうしてそうなるんだろうか、と思った。
ジャスティンに話をするとか、他にも手はあったでしょうと。
ジュエルなりの決意はわかったし、本当に私の事を思ってくれているのもわかった。


「でも…ジュエルは…あのお嬢さんと…身体を繋げてるでしょう?」
「それは……リオの為に……」
「私の為…?」


何故、私の為なんだろうか…。
何人もの花を散らす事が、私の為に繋がる意味が理解出来ない。


「リオは…その…まだ処女でしょ…?リオとする時、出来るだけ痛くないようにしてあげたくて…」


じわりと赤く染まるジュエルの頬を見ながら、私は卒倒する寸前だった。
何言ってるの!?
何考えてるの、この子!!?
さぁっと私から血の気が引く。
そんな考えで何人もの純潔を…!?


「それで…あのお嬢さんのじゅ、純潔を…?」
「無理矢理じゃないよ?抱いてくれって言って来たから」
「…結婚する気も無いのに…?」
「どうしてもって言うから…俺にはリオがいるからって最初に言ってる」
「…どうかしてるわ…」


ジュエルの話す言葉が、異国語に聞こえて来た。
全く理解出来ない。
ミランダ王女は本当にそれで良いの?
いえ、良いわけがないから私を攻撃して来たんでしょう?


「一度でいいって、それでもいいって…言うんだよね、女性は。でもそれってさ、俺の何が好きなの?って。どうせ見た目と肩書きでしょ?なら俺も、リオを最高に善くする為に利用しよっかなって」
「だからって…純潔を奪うなんて…ありえないわ…」
「本人が望んでるなら良いんじゃない?媚薬を自ら飲んできたりする子もいるしね」
「なっ…!!」


私の思考能力は職務放棄をしたがったが、これは聞いておかないとダメだ。
この子の考え方はおかしい。
…が、似たような思考を持つ人を一人知っている。


「安心して、子種は誰にもあげてない。それはリオのだから」
「…全く嬉しくないわ…。一体何人とそんな事を…?」
「教えてもいいけど、勘違いしないでね?俺はリオにしか興味はないから。愛してるのはリオだけ」
「…何人なの?」
「えっと…20人くらいかな?」
「…っ!!」


予想を軽々超える人数だった!!
ちょっと、何この子!?
二桁!?二桁なの!?


「だから、リオは安心してていいよ。俺、凄く上手いらしいから」
「………」


私の中で、ガラガラと崩れ去ったジュエルのイメージが瓦礫になって積み上がっていく。
乙女の純潔は、そんなに簡単に差し出せる物ではない。
中にはそういう人もいるだろうが、少数だ。
きっと…みんなジュエルを真剣に好きだったんだろう。


「だから、リオ……俺しか見えないようにしてあげるね?」


にこり…と笑ったジュエルにぞっと背中が寒くなる。
ゆっくりと立ち上がったジュエルは手に持った魔道具のスイッチを入れた。
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