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「………ぅ…」
霞がかかったような夢から浮上し、最初に見たのは真っ白な天井で。
身体を起こそうとしてみても、重りが付いたみたいに動かなかった。
「…どこ…ここ…?」
キョロキョロと目だけを動かすと、ベッド以外は何もない部屋だった。
窓にカーテンが掛かっているだけの、部屋。
そして、大人が数人眠れそうな広々としたフカフカのベッド。
「あ…ちょっと…動く…かも…?」
手を動かす事は出来そうで、顔の前に左手を持って来る。
どうしても確認しておきたかった。
「良かった…」
薬指にはジャスティンから貰った指輪がちゃんと存在していた。
今の自分には、これだけが心の支えなのだ。
濃紺色を見るだけで、ちょっとだけ勇気が出る。
「それにしても…ここは何処なのかしら…」
身体が重かったのが、緩和されてくるのを感じながら今の状況を整理する。
ジュエルがまさか魔道具を使うとは思っていなかった。
ジャスティンのあの表情が、私達の計画の失敗を物語った。
そして、ジュエルが私を連れ去って…これからどうするつもりなのかを予測する。
身体に危害を加える事は出来ないはず…お兄様の魔法も、私の魔法も重ね掛けされているし。
危害じゃないから、転移魔法は弾けなかったけど。
やっぱり転移魔法をマスターしとくべきだったと後悔しても始まらない。
「とりあえず…動きたい…」
ぐっと肘を突き身体を起こした瞬間…。
「ぐぅっ…」
私の身体の下から埋めき声が聞こえた。
「…ぐぅ…?」
そっと下を見ると、私のお尻の下には真っ白い狐の人形…もとい天京様がいた。
「わっ…天京様!!ごめんなさいっ!」
「しー!!静かにせい、ミリオネア!!」
天京様は必死に短い手を振りながら小さな声で言った。
しかしどうしてここに天京様が…?
あの時、割と離れた所にマナカ様は居たけれど…?
「其方の疑問はわかるぞ。あいつ…ジャスティンが…」
「ジャスティンが…?」
俯きワナワナと震えている天京様。
人形だからかやたらと可愛い。
「あいつが…我を投げたのじゃ!!マナカのポケットにいた我を鷲掴みにしおって!!」
「は……?」
ジャスティンが…投げた…?
そういえば…何かを投げたような動きをしていた…?
「我を何だと思っておるのだ!ジュエルに見つからないように必死にスカートのポケットに潜り込めたから良かったものの!!」
ぷりぷりと小声で怒る天京様が愛らしくて気が抜ける。
同時に、独りではないとホッとした。
「マナカに術を飛ばしてある。届けばここの位置もわかるはずじゃ」
「まぁ…天京様ったら仕事が早いですね」
「そりゃそうじゃ。我はマナカと離れたくない」
「ふふ…ご馳走様です」
こんな風に溺愛されているマナカ様を羨ましく思う。
真っ直ぐな愛。
ジャスティンは肝心な所で一歩引いてしまうから。
「…ミリオネア…誰か来るぞ…」
ぴくりと反応した天京様はごそごそと私の胸ポケットへと収納された。
完全に人形モードになるらしい。
私も慌てて寝ているかのように装った。
「………」
ドアの前にひたりと誰かが立っている気配がする。
ジュエルではなさそうな…誰かしら…。
暫くの間を置いて、かちゃりとドアが静かに開いた。
そっと、音を消して忍び寄る足音。
その瞬間、身体に何かを叩きつけられた。
「きゃあっ!!!」
バチン!!と音がした後、女性の悲鳴とどすんと倒れる音がする。
私に攻撃を仕掛けると倍になって本人に返る魔法が作動した。
「…なっ…いった…何なのよ、この女っ…!」
透き通るようなまだ幼さ残る声。
私は薄らと目を開けてみる。
揺れる黒髪がぼんやりと見えて、また目を閉じた。
ミランダ王女が、今、そこにいる。
そして、私に攻撃をした。
「…この女さえいなければ…」
ぼそりと放たれた憎しみの籠った言葉。
その色合いを含む気持ちには覚えがある。
嫉妬、だ。
「こいつがいるから…ジュエル様は私を…!」
目を閉じた私の顔の上に影が出来る。
あぁ…やめておいた方がいい…全てあなたに返ってしまう。
私は目を開けるか、開けないかで悩んでいた。
まさかのミランダ王女からの攻撃とは。
そんな事を思っているうちに、バタバタと廊下を走る音がしてバンッと乱暴にドアが開いた。
「何してるんだ、ミランダ」
「あ…ジュ…ジュエル…」
恐ろしく冷たい声色で、ジュエルが発した一言にミランダ王女が狼狽えた。
私も聞いた事がない、ジュエルのそんな声なんて。
「…ここで、何をしてるんだ?答えろ」
静かに…でも明らかな怒気を含んだ言い方に、ミランダ王女は何も答えられない。
ただ聞こえるのはカチカチと歯が合わさり聞こえる音だけで。
「俺の最愛に、触れたな…?」
「…だっ…だって……!」
ミランダ王女はそれ以上言えなかった。
私にまで届く威圧感が彼女を怯えさせている。
「彼女に触れていいのは、俺だけだ。それに、彼女の寝顔もお前が見て良いものじゃない」
「わ、私…私は…?な、何度も…私を…!」
震えながらでもミランダ王女は言葉を紡ぐ。
彼女は本当に、ジュエルが好きなのだろう。
だから、私が憎いのだ。
「数回抱いたくらいで俺がお前を好きだとでも…?俺がずっと…ずっと想っているのはリオだけだ」
「…婚約者がいる女なんて、もう何度も抱かれてるわよ…。ジュエルにそんな女は似合わなっ…」
バチン!と音がして、彼女の発言は終わりを迎えた。
ジュエルが彼女の頬を叩いたのだろうと予測する。
口論だけなら、二人のやり取りから何か得られると思ったが、これは…もう無視できない。
私はそっと目を開ける。
「…ジュエル…」
私はとりあえずジュエルを呼ぶ。
ミランダ王女を呼ぶわけにはいかないから。
「リオ!目が覚めた?気分は悪くない?」
さっと側まで来たジュエルは瞬時に甘い微笑みを浮かべて、壊れ物を扱うように私をそっと抱き起こす。
そこには頬を押さえ、涙を流すミランダ王女がいて。
「…ジュエル、こちらの方はどうしたの?泣いているけれど」
「ちょっと言い合いになっちゃって…。気にしないでいいよ。リオ、身体はだるくない?大丈夫?」
眉を下げて過剰に心配するジュエルを哀しげに見つめた後、ミランダ王女は部屋をそっと後にした。
ジュエルはそんな事を気にもせずに、ただ私を気遣っている。
…ジュエル、最低だわ…手を上げるなんて。
ジャスティンは、ただの一度も私に手なんか上げた事ないわよ。
「ジュエル、あのお嬢さんが心配だわ。私より先に慰めて来なさい」
「やだ!リオの側にいたい!!」
ジュエルは、ぎゅっと私に抱き付いてくる。
どうやっても弟にしか見えないジュエルは、知らない間に少年から青年に変わっていたのね。
ただ、思考はまだ子供なのかしら。
それとも…幼いと思わせた方が、私を御しやすいと思っているからかしら。
ともあれ、ミランダ王女と話がしたいわ。
この感じじゃ…無理っぽいけれど。
私は嫌われているでしょうしね…。
「ねぇ、さっきのお嬢さんは誰?ジュエルの何?」
チラリとジュエルを見ると、びくりと身体を震わせた。
そりゃそうだろう、もし私が本気でジュエルを好きになっていたとしたら怒り狂っていただろうから。
「違…あの子は、悪い奴に追われているから、ここで匿ってあげていただけなんだ!」
「ふぅん。そうなの?ジュエルの彼女かと思ったわ」
「違うよ!!俺が愛してるのはリオだけだよ!!」
「じゃあ…あの子をちゃんと紹介して?知らないままじゃ、ジュエルと何かあるのかって不安だわ…」
しゅんとした顔を作れば、ジュエルは少し困ったように微笑んで。
「あの子は、人見知りだから…」
言葉を濁す彼に、紹介出来るわけないわよね、と思う。
今は時間を稼ぎたい。
天京様と相談する時間が欲しい。
そして、ジャスティンがここを見つける時間も。
「…ジュエルも、私には隠し事をするのね…」
「リオッ…違…あ…リオ…」
私は顔から一切の感情を消した。
ジュエルには見せた事のない顔。
各国の王族と渡り合えるように、必死で身に付けたこの技術を自国の王族に使うなんて。
さっと顔色を無くしたジュエルは、次の言葉を告ぐ事が出来ずにいる。
「…出て行って。しばらく一人になりたいわ」
「あ……リオ……」
「このまま貴方と居たら…どうしようもなく嫌ってしまいそうだから。今は一人にして」
「ご、ごめ…リオ…。嫌いにならないで…!」
ふいと顔を背けると、ジュエルは小さな声で「何かあったら…このベルを鳴らして…」と言い残し、そっと部屋を出て行った。
そっとジュエルを見やると、心底沈んだ様子で。
ちょっと効果があり過ぎたかも知れない。
ミランダ王女に腹いせしなきゃいいけれど…。
「…ミリオネア、其方を怒らせると怖い…」
「え?演技ですよ、天京様」
ドアの外に気配がない事を確認して、天京様が喋り出す。
呟くように言うものだから、演技である事を確実に伝えたい。
違うのよ?演技なのよ?
「しかし、あれはミランダか…?随分と性格が変わったような…」
「優しげな女の子でしたよね、確か」
「そうじゃ。我はミリオネアに攻撃を仕掛けてくるとは思わなかったぞ…」
「私もびっくりしました」
話した事もきちんと挨拶した事もないけれど、ぱっと見は大人しそうな純粋そうな女の子だと記憶している。
急に人格が変わるなんてあるのかしら。
呪われたりしてるのかしら。
何も感じなかったけど。
「ミリオネア、マナカが気付いたようだ。良かった…」
「まぁ、良かったですわ……あら?」
「どうした?」
「私の指輪が…」
ジャスティンに貰った指輪の石がじわじわと赤に染まっていく。
「…何でしょうか?」
「位置を知らせる何かだろうな。あやつのやりそうな事じゃ…」
「は!?追跡魔法ですか!?」
「…だろうな」
天京様は呆れたように溜息を吐いたが、自分も大して変わらない。
マナカ様が心底呆れた顔をしていたもの!
霞がかかったような夢から浮上し、最初に見たのは真っ白な天井で。
身体を起こそうとしてみても、重りが付いたみたいに動かなかった。
「…どこ…ここ…?」
キョロキョロと目だけを動かすと、ベッド以外は何もない部屋だった。
窓にカーテンが掛かっているだけの、部屋。
そして、大人が数人眠れそうな広々としたフカフカのベッド。
「あ…ちょっと…動く…かも…?」
手を動かす事は出来そうで、顔の前に左手を持って来る。
どうしても確認しておきたかった。
「良かった…」
薬指にはジャスティンから貰った指輪がちゃんと存在していた。
今の自分には、これだけが心の支えなのだ。
濃紺色を見るだけで、ちょっとだけ勇気が出る。
「それにしても…ここは何処なのかしら…」
身体が重かったのが、緩和されてくるのを感じながら今の状況を整理する。
ジュエルがまさか魔道具を使うとは思っていなかった。
ジャスティンのあの表情が、私達の計画の失敗を物語った。
そして、ジュエルが私を連れ去って…これからどうするつもりなのかを予測する。
身体に危害を加える事は出来ないはず…お兄様の魔法も、私の魔法も重ね掛けされているし。
危害じゃないから、転移魔法は弾けなかったけど。
やっぱり転移魔法をマスターしとくべきだったと後悔しても始まらない。
「とりあえず…動きたい…」
ぐっと肘を突き身体を起こした瞬間…。
「ぐぅっ…」
私の身体の下から埋めき声が聞こえた。
「…ぐぅ…?」
そっと下を見ると、私のお尻の下には真っ白い狐の人形…もとい天京様がいた。
「わっ…天京様!!ごめんなさいっ!」
「しー!!静かにせい、ミリオネア!!」
天京様は必死に短い手を振りながら小さな声で言った。
しかしどうしてここに天京様が…?
あの時、割と離れた所にマナカ様は居たけれど…?
「其方の疑問はわかるぞ。あいつ…ジャスティンが…」
「ジャスティンが…?」
俯きワナワナと震えている天京様。
人形だからかやたらと可愛い。
「あいつが…我を投げたのじゃ!!マナカのポケットにいた我を鷲掴みにしおって!!」
「は……?」
ジャスティンが…投げた…?
そういえば…何かを投げたような動きをしていた…?
「我を何だと思っておるのだ!ジュエルに見つからないように必死にスカートのポケットに潜り込めたから良かったものの!!」
ぷりぷりと小声で怒る天京様が愛らしくて気が抜ける。
同時に、独りではないとホッとした。
「マナカに術を飛ばしてある。届けばここの位置もわかるはずじゃ」
「まぁ…天京様ったら仕事が早いですね」
「そりゃそうじゃ。我はマナカと離れたくない」
「ふふ…ご馳走様です」
こんな風に溺愛されているマナカ様を羨ましく思う。
真っ直ぐな愛。
ジャスティンは肝心な所で一歩引いてしまうから。
「…ミリオネア…誰か来るぞ…」
ぴくりと反応した天京様はごそごそと私の胸ポケットへと収納された。
完全に人形モードになるらしい。
私も慌てて寝ているかのように装った。
「………」
ドアの前にひたりと誰かが立っている気配がする。
ジュエルではなさそうな…誰かしら…。
暫くの間を置いて、かちゃりとドアが静かに開いた。
そっと、音を消して忍び寄る足音。
その瞬間、身体に何かを叩きつけられた。
「きゃあっ!!!」
バチン!!と音がした後、女性の悲鳴とどすんと倒れる音がする。
私に攻撃を仕掛けると倍になって本人に返る魔法が作動した。
「…なっ…いった…何なのよ、この女っ…!」
透き通るようなまだ幼さ残る声。
私は薄らと目を開けてみる。
揺れる黒髪がぼんやりと見えて、また目を閉じた。
ミランダ王女が、今、そこにいる。
そして、私に攻撃をした。
「…この女さえいなければ…」
ぼそりと放たれた憎しみの籠った言葉。
その色合いを含む気持ちには覚えがある。
嫉妬、だ。
「こいつがいるから…ジュエル様は私を…!」
目を閉じた私の顔の上に影が出来る。
あぁ…やめておいた方がいい…全てあなたに返ってしまう。
私は目を開けるか、開けないかで悩んでいた。
まさかのミランダ王女からの攻撃とは。
そんな事を思っているうちに、バタバタと廊下を走る音がしてバンッと乱暴にドアが開いた。
「何してるんだ、ミランダ」
「あ…ジュ…ジュエル…」
恐ろしく冷たい声色で、ジュエルが発した一言にミランダ王女が狼狽えた。
私も聞いた事がない、ジュエルのそんな声なんて。
「…ここで、何をしてるんだ?答えろ」
静かに…でも明らかな怒気を含んだ言い方に、ミランダ王女は何も答えられない。
ただ聞こえるのはカチカチと歯が合わさり聞こえる音だけで。
「俺の最愛に、触れたな…?」
「…だっ…だって……!」
ミランダ王女はそれ以上言えなかった。
私にまで届く威圧感が彼女を怯えさせている。
「彼女に触れていいのは、俺だけだ。それに、彼女の寝顔もお前が見て良いものじゃない」
「わ、私…私は…?な、何度も…私を…!」
震えながらでもミランダ王女は言葉を紡ぐ。
彼女は本当に、ジュエルが好きなのだろう。
だから、私が憎いのだ。
「数回抱いたくらいで俺がお前を好きだとでも…?俺がずっと…ずっと想っているのはリオだけだ」
「…婚約者がいる女なんて、もう何度も抱かれてるわよ…。ジュエルにそんな女は似合わなっ…」
バチン!と音がして、彼女の発言は終わりを迎えた。
ジュエルが彼女の頬を叩いたのだろうと予測する。
口論だけなら、二人のやり取りから何か得られると思ったが、これは…もう無視できない。
私はそっと目を開ける。
「…ジュエル…」
私はとりあえずジュエルを呼ぶ。
ミランダ王女を呼ぶわけにはいかないから。
「リオ!目が覚めた?気分は悪くない?」
さっと側まで来たジュエルは瞬時に甘い微笑みを浮かべて、壊れ物を扱うように私をそっと抱き起こす。
そこには頬を押さえ、涙を流すミランダ王女がいて。
「…ジュエル、こちらの方はどうしたの?泣いているけれど」
「ちょっと言い合いになっちゃって…。気にしないでいいよ。リオ、身体はだるくない?大丈夫?」
眉を下げて過剰に心配するジュエルを哀しげに見つめた後、ミランダ王女は部屋をそっと後にした。
ジュエルはそんな事を気にもせずに、ただ私を気遣っている。
…ジュエル、最低だわ…手を上げるなんて。
ジャスティンは、ただの一度も私に手なんか上げた事ないわよ。
「ジュエル、あのお嬢さんが心配だわ。私より先に慰めて来なさい」
「やだ!リオの側にいたい!!」
ジュエルは、ぎゅっと私に抱き付いてくる。
どうやっても弟にしか見えないジュエルは、知らない間に少年から青年に変わっていたのね。
ただ、思考はまだ子供なのかしら。
それとも…幼いと思わせた方が、私を御しやすいと思っているからかしら。
ともあれ、ミランダ王女と話がしたいわ。
この感じじゃ…無理っぽいけれど。
私は嫌われているでしょうしね…。
「ねぇ、さっきのお嬢さんは誰?ジュエルの何?」
チラリとジュエルを見ると、びくりと身体を震わせた。
そりゃそうだろう、もし私が本気でジュエルを好きになっていたとしたら怒り狂っていただろうから。
「違…あの子は、悪い奴に追われているから、ここで匿ってあげていただけなんだ!」
「ふぅん。そうなの?ジュエルの彼女かと思ったわ」
「違うよ!!俺が愛してるのはリオだけだよ!!」
「じゃあ…あの子をちゃんと紹介して?知らないままじゃ、ジュエルと何かあるのかって不安だわ…」
しゅんとした顔を作れば、ジュエルは少し困ったように微笑んで。
「あの子は、人見知りだから…」
言葉を濁す彼に、紹介出来るわけないわよね、と思う。
今は時間を稼ぎたい。
天京様と相談する時間が欲しい。
そして、ジャスティンがここを見つける時間も。
「…ジュエルも、私には隠し事をするのね…」
「リオッ…違…あ…リオ…」
私は顔から一切の感情を消した。
ジュエルには見せた事のない顔。
各国の王族と渡り合えるように、必死で身に付けたこの技術を自国の王族に使うなんて。
さっと顔色を無くしたジュエルは、次の言葉を告ぐ事が出来ずにいる。
「…出て行って。しばらく一人になりたいわ」
「あ……リオ……」
「このまま貴方と居たら…どうしようもなく嫌ってしまいそうだから。今は一人にして」
「ご、ごめ…リオ…。嫌いにならないで…!」
ふいと顔を背けると、ジュエルは小さな声で「何かあったら…このベルを鳴らして…」と言い残し、そっと部屋を出て行った。
そっとジュエルを見やると、心底沈んだ様子で。
ちょっと効果があり過ぎたかも知れない。
ミランダ王女に腹いせしなきゃいいけれど…。
「…ミリオネア、其方を怒らせると怖い…」
「え?演技ですよ、天京様」
ドアの外に気配がない事を確認して、天京様が喋り出す。
呟くように言うものだから、演技である事を確実に伝えたい。
違うのよ?演技なのよ?
「しかし、あれはミランダか…?随分と性格が変わったような…」
「優しげな女の子でしたよね、確か」
「そうじゃ。我はミリオネアに攻撃を仕掛けてくるとは思わなかったぞ…」
「私もびっくりしました」
話した事もきちんと挨拶した事もないけれど、ぱっと見は大人しそうな純粋そうな女の子だと記憶している。
急に人格が変わるなんてあるのかしら。
呪われたりしてるのかしら。
何も感じなかったけど。
「ミリオネア、マナカが気付いたようだ。良かった…」
「まぁ、良かったですわ……あら?」
「どうした?」
「私の指輪が…」
ジャスティンに貰った指輪の石がじわじわと赤に染まっていく。
「…何でしょうか?」
「位置を知らせる何かだろうな。あやつのやりそうな事じゃ…」
「は!?追跡魔法ですか!?」
「…だろうな」
天京様は呆れたように溜息を吐いたが、自分も大して変わらない。
マナカ様が心底呆れた顔をしていたもの!
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