咲希〜僕らが1000万かけてじっくり死ぬまで〜

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性欲は何処へ

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「興奮した?」
顔を少し傾け、女は聞いてくる。
「少しね。」
全くと嘯くのはなんだかかっこ悪いように思えて僕はそう答えた。
「ふーん。」
面白くなさそうな表情を浮かべる女。興奮してれば喜んだのか、強がってれば喜んだのか、分からないけれど、やっぱり今すぐ追い出してしまおうか。
「とにかく服を着ろよ。」
「脱ぐじゃダメ?」
真顔で聞いてくる女。意味が分からない。美人局だろうか?
「着ろと言ってるのになぜ脱ごうとするの?」
「私は服ってあんまり好きじゃないんだよね。特に暑い日に服着るのは。」
まぁ、それはなんとなく分かる。
「じゃあ脱げば。」
ぶっきらぼうに僕がそう言うと、
「わーい。」
とこなれた手つきで手早く服を脱ぎ女は全裸になった。
「興奮してる?」
後ろに手を組み、同じ質問をする女。
「美人局?」
「ちがうよ。ただ聞いてるだけ。」
「仮に美人局じゃなかったとして、襲われるとか思わないわけ?」
「それならそれで。」
女は上目使いで俺の顔を覗き込む。
「あーそう。」
無視するように俺は寝る準備をした。
「もう寝るの?」
「あぁ。歯磨いて寝る。」
「明日は何時に出かけるの?」
「明日は出かける予定はない。」
「そうなんだ。じゃあおうちでゆっくりしよう。」
「はっ?いつまでいる気なんだ?」
「えっ?ずっと」
「ずっと?」
「うん。ずっと。」
本気で言ってるのか?表情が基本無表情だから感情が読めない。声のトーンも抑揚がなく、さっきから本心を言葉にしているのか怪しい。何の動機があって俺の家に居座るつもりなのだろうか。そもそも俺は明日から暫く働かずに社会とは一線を引くつもりだ。他人とは最低限の関わり以外は持つつもりはない。それなのに急に来てずっと居座るだ?そんなの無理に決まっている。
「無理だ。帰れ。」
「やだ。」
「明日から俺は誰とも関わらず生きていくんだ。邪魔するな。」
「私とだけ関われば?」
「やだ。」
「我儘だなぁ。」
「それはこっちの台詞だ。」
「いやこっちの台詞。」
何を根拠にそう言ってるんだ。ただなんとなく気づいてた。このまま追い出そうとしても、女は出ていかないし、力技で無理やり追い出すほど俺は強引に事を進められない。この女が自分から出てく意思がないのであれば、俺はこの女を家から追い出すことはできないだろう。
「はぁ、とりあえず今日は泊めてやるから、明日になったら出てけ。いいな。」
「やだって。」
女のことを無視して歯を磨く。何を言っても無駄なことは分かった。それならもう相手にせず出てくまで待とう。金目のものを盗むつもりかもしれないけど、それならもうそれでいい。気が向かないけどまた働き直すだけだ。考えることが疲れる。どうにかしようと思えば思うほど、どうにもならなくなる。それならもう何も考えずことが過ぎるのを待つだけだ。
「歯磨いたら、それ使わせて。」
「はっ?」
「私も歯を磨きたい。」
「何言ってんだこいつ。」
「思ったことが口に出てるよ。」
「出してんだよ。」
「お風呂入っていい?」
「…勝手にしろ。」
マイペースが過ぎる女。他人の家でどうしてこんなに勝手ができるのだろう。
「ありがとー。」
…でも、悪意は全く感じない。感じ取れない。警戒はまだしていたけれど、もうどうでもいいと諦めてもいる。裸の女が俺の家にいる。馬鹿みたいなこの現状に、性欲以外の感情がぐるぐる渦巻いているのが不思議だった。
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