夕焼け

take

文字の大きさ
上 下
12 / 15
出会い

生き方

しおりを挟む
昼休みが終わると仕事が次から次へと増えていった。幸子と別れる直前までと同じかそれ以上の量だった。基本休みの多い会社だが、たまにこういった忙しい日が連続する。明日は休日だが、休日出勤して、今日の仕事の量を少し減らそうかなと思った。昼休みの件といい、仕事の件といい、やるべきことが多い時は視界がワントーン暗くなる。暗くなった視界に見える周囲の人間は、いつも以上に何を考えているのか分からない。そういう時は極力誰とも話さないようにし、トラブルなく仕事をすすめるのが自分なりの対処法だ。だが、仕事を多く抱えれば抱えるほど、要領が悪くなり、だらだらと間延びした働き具合になってしまう。そういったメリハリがつけられないから人間関係もうまくいかないのだろう。
今回は昼休みの教訓を活かし、いつもとスタンスを変え、他人を頼ってと仕事をすることにした。
とりあえず、現在やることをプリントにまとめる。口頭で要件を上手く伝え、相手に動いてもらえるほど、自分は器用じゃない。比較的話しやすい永井にまずは話をして、少しずつ仕事を減らしていくよう行動していこう。
永井は「そっかー、うちの会社もインターンの時期だもんね。私も担当じゃないけど、やってみたいって思ってた。」と気前よく引き受けてくれた。嫌な顔一つせず、むしろやりたいことを全面に押し出してくれた永井の対応に俺は素直に感謝した。
少し癪ではあるが山本にも相談してみた。山本も二つ返事で引き受けてくれた。少し渋るかなと思っていたが、快く引き受けてくれた山本にも俺は素直に感謝した。
今まで自分のことは自分で、他人のことは最低限でといった考え方をしてきた自分にとって今日の出来事は良い意味で想定外な出来事だった。
他人を信用し、生きていくことの重要性を学んだ。
そこからの仕事の進み具合は自分の想定以上だった。永井、山本含め自分の仕事を手伝ってくれた社員はそれぞれがそれぞれでしっかりとした考えを持っていて、自分もそれなりに意見は考えるものの、ほとんど永井たちの意見をまとめるたけで仕事は進んだ。
自分の任された仕事は新入社員の確保に置けるインターンから採用までの企画、運営であり、今後の会社を少なからず左右するものであったため、それなりに責任を感じ、憂鬱な気分だったが、今では任された仕事が楽しいさえ思えるようになってきた。
特に会社の今後や、新入社員のことなど何も考えていないだろうと思っていた同僚が、それぞれのビジョンを持っていたことが新鮮で、今まで自分は彼らのことを少しも知ろうと思わなかったのだなと自省した。

季節はあっという間に過ぎていき、紅葉が街並みを彩り始めるようになった。散々続いた残暑が、ようやくひいて街ではちらほら長袖を着る人が目につくようになる。幸子と別れて少しした時の日曜日にみたアホみたいに肌を露出していた幼馴染らしきあいつも流石に肌の露出を控えていることだろう。
過ごしやすい季節になると色々と今までのことを振り返る癖が自分にはある。暑かったり、寒かったりすると今現在を生きることで必死なため中々そうもいかないが、過ごしやすい季節になると余裕が生まれるのだ。
今年の夏は幸子と別れ、チャットを始め、永井と夜を過ごし、会社のプロジェクトに周囲を巻き込み、チャットの返事が返ってくるようになり、と思えば自分にとって色んな変化のあった夏だった。自分よりももっと劇的に毎日を過ごす者はたくさんいると思うが、今まであまり人と関わらず平穏に生きてきた自分にとって今年の夏はなんだか生きてるって感じる夏だった。たまにはこういうのも悪くないなと思う。
少し残業した帰りにふと立ち寄ったカフェでそんな風に感慨に耽りながらチャットをしていると、気になるメッセージが画面に表示された。

「ねぇ、大和君でしょ?私のこと覚えてる、、、?
今近くに住んでいるんだ。会おうよ。」

それはユウキと名乗る女からのメッセージだった。
自分にユウキという名の女友だちはいない。仮名なのかもしれないがそもそも女友だち自体自分にはいない。もしかしたらあの幼馴染かもしれないが、文体的に違うような気がする。
このユウキという女がどんな人物なのか、なぜチャットで自分を見つけ会おうとしたのか、不審といえば不審なのだが、不可解なそのメッセージの真意が知りたくなった自分は、とりあえず彼女の友だち申請を許可することにした。

しおりを挟む

処理中です...