夕焼け

take

文字の大きさ
13 / 15
出会い

気楽な女

しおりを挟む
友だち申請を許可するとユウキから矢継ぎ早にメッセージが来た。最近の仕事はどうだとか、中学の同級生とは最近会ってるかとか、彼女との付き合いはまだ続いているのかとかまあそんな内容だ。
メッセージの内容から推察するに、どうやらユウキは中学の同級生らしいことが分かった。当時話してた女子を考えると多分ユウキの正体は工藤沙月なのではないかと思う。
工藤は中学2年の時に席が隣だった女子だ。どちらかというと俺と似ていて寡黙なタイプで、一言一言丁寧に話す変わりに口数は少ない女子だった。そして暇な時は文庫本を読んでいて、二人でいる時もコミュニケーションがどうのこうのとか考えなくてもいい、自分にとっては貴重な楽な関係を構築できる女子であった。
工藤のメッセージを見ていると、彼女が昔と随分変わったように思う時もあり、逆に全く変わってないように思う時もある。どちらにせよ彼女との会話は今まで話した誰とも違った不思議な心地良さがあった。


「大和君はさ、コミュニケーションがどうのとか良い関係性がどうのとかそういうの似合わないよ。」
「愛するとか愛されるとかって案外どうでもいいことだと思うよ?」
「仕事はほどほどで、お酒はほどほど以上にが人生を楽しむ基本だよ。」
「将来のことなんてどうでもいいよ。本当に。今がそれなりならそれを続けてけばいいもの。」
「誰もいない公園のベンチで踊るの気持ちいいよ。誰もいないってのが絶対条件だけど笑」
「冬が一番好き。だって外出する人が極端に少ないもの。一番外出るのもしかしたら冬かもしれない、、」
「被害者意識は持ちたくないの。何事も受け入れる姿勢でありたい。その代わり人の気持ちは無視するの。それでイーブン。」

 昔から漫画をよく読んでいた自分にとって工藤の一言一言は、名作漫画に出てくる登場人物の名言のように聴こえた。言葉一つ一つに妙な説得力があり、自身の生き方を考えさせるような、そんな力があった。
 漫画の名言はその作者が捻りに捻ってようやく生み出されるものだが、工藤のそれは自分との会話の中で自然に放たれたものだ。
 その返信の速さから、何も考えずにメッセージを送っているのだろうと思うと、工藤は普段から思っていることをそのまま口にしているのだろう。普通に生きていてどうしてこんな考え方ができるのだろくか。工藤は今どんな職場でどう生きているのだろうかと彼女の環境が気になる。
 きっと自分のように一喜一憂することなく平穏に、自分の意のままに生きているのだろう。だとしたらどんなに器用で、どんなに可憐でどんなに気楽だろうか。でも同時にあまりにも気持ちの浮き沈みのない生活を送っていそうなので、毎日に退屈さを感じないのだろうかと疑問に思う。

 自分とあまりにも違う工藤の魅力に、気がつけばどんどんはまっていて、楽しかった仕事をよそに自分はすぐに会社を出ては近くの喫茶店で彼女とのチャットに没頭するようになった。
 永井や山本には心配されることは多々あったが、自分の仕事はきっちりこなしてはいたので文句を言われることはなかった。自分の今まで築き上げたものが徐々に崩れていくような気がした。が、その居心地の良さに溺れて、そんなことはもうどうでもよくなっていた。まともに生きるためにチャットを続けていたのに、いつのまにかまともじゃない生き方に憧れチャットをするようになった。
 真面目に、まともに生きていくことはそんなに大切なことなのだろうか。周囲に認められることがそんなにいいことなのだろうか。仲良しこよしのために、自分を抑えるのが大人ってことなのだろうか。
 今まで溜め込んでいた疑問が一気に吹き出していった。工藤にしてみればどうでもいいであろうその気苦労が日々自分を苦しめているのなら、いっそ工藤のように生きれたら、そう思った。
 中々そうもいかないことは分かってはいるがそれでも今後40年ほどの仕事人生を、毎日毎日気を使って生きていくことに気の遠さを感じる。
「ねぇ、会おうよ。」
店の外がすっかり暗くなり、店内の客がちらほらいなくなった頃、気づけばそうメッセージを送っていた。躊躇なくそう送ってた自分に少し驚きを感じた。箍が外れたようなそんな感覚。
「いいよ。楽しみ。」
絵文字のない返事がすぐに返ってきた。少し残ったアイスコーヒーを飲み干すと苦味が一気に押し寄せてくる。自分はこの苦味が結構苦手だったのだが、今は学校を途中で抜け出すような、刹那的な高揚感を感じる。
 ユウキとの出会いが今後の自分の人生をここまで狂わすとは、この時はまだ全く思うことはなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

皇帝陛下の寵愛は、身に余りすぎて重すぎる

若松だんご
恋愛
――喜べ、エナ! お前にも縁談が来たぞ! 数年前の戦で父を、病で母を亡くしたエナ。 跡継ぎである幼い弟と二人、後見人(と言う名の乗っ取り)の叔父によりずっと塔に幽閉されていたエナ。 両親の不在、後見人の暴虐。弟を守らねばと、一生懸命だったあまりに、婚期を逃していたエナに、叔父が(お金目当ての)縁談を持ちかけてくるけれど。 ――すまないが、その縁談は無効にさせてもらう! エナを救ってくれたのは、幼馴染のリアハルト皇子……ではなく、今は皇帝となったリアハルト陛下。 彼は先帝の第一皇子だったけれど、父帝とその愛妾により、都から放逐され、エナの父のもとに身を寄せ、エナとともに育った人物。 ――結婚の約束、しただろう? 昔と違って、堂々と王者らしい風格を備えたリアハルト。驚くエナに妻になってくれと結婚を申し込むけれど。 (わたし、いつの間に、結婚の約束なんてしてたのっ!?) 記憶がない。記憶にない。 姉弟のように育ったけど。彼との別れに彼の無事を願ってハンカチを渡したけれど! それだけしかしてない! 都会の洗練された娘でもない。ずっと幽閉されてきた身。 若くもない、リアハルトより三つも年上。婚期を逃した身。 後ろ盾となる両親もいない。幼い弟を守らなきゃいけない身。 (そんなわたしが? リアハルト陛下の妻? 皇后?) ずっとエナを慕っていたというリアハルト。弟の後見人にもなってくれるというリアハルト。 エナの父は、彼が即位するため起こした戦争で亡くなっている。 だから。 この求婚は、その罪滅ぼし? 昔世話になった者への恩返し? 弟の後見になってくれるのはうれしいけれど。なんの取り柄もないわたしに求婚する理由はなに? ずっと好きだった彼女を手に入れたかったリアハルトと、彼の熱愛に、ありがたいけれど戸惑いしかないエナの物語。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

処理中です...