小話シリーズ

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大人なんて

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曇天の空。
世間はお盆休みで、やれディズニーに行っただの、やれ映画を観に行っただの、先祖そっちのけでバカンスを満喫している。
雨続きだというのに各々が各々の予定を消化し、日報を書くが如く、SNSに自身の行動を書き連ね、事丁寧に報告しているのを見ると息を吐くようにいいなぁと呟いてしまう。
僕の父も日中テニスに明け暮れ、母も実家へ帰って余暇を過ごし、妹も家でナマケモノのように惰眠を貪っている。
夏休みが大人にも存在するのなら、今がまさにその夏休み、なのだろう。
だが、そんな夏休みを過ごす人々とは裏腹に、僕は某コンビニエンスストアでいらっしゃいませを連呼し、品を並べていた。
大して客も来ないというのに、こんなに品を並べて何をしてるのやらと、思わずため息が出る。
そんな過疎化の進む当コンビニも、たまにやってくるピーク時はそれなりに忙しい。
今日は3人体制であったため、何とか接客でレジに2人、品出しで売り場に1人と、滞りなく業務を進められたが、2人体制の時はこういったピークが何回か続くと、(ピークといっても短時間で終わるのだが)何かしら業務が残り、トラブルの種になることもしばしばある。これがToLOVEるの方だったら望ましい展開なのだが、そんな冗談をかませるほどこの店の地盤は確立されておらず、先のことを考えるとただでさえ大きいため息が某アニメの恐怖の秘密道具バイバイ◯を使ったが如く、倍増していく。
そんな感じで、ため息を増産しながら品出しをしてると、小学2年生くらいの齢の少年が籠をぶらぶらさせながら僕の横を通り過ぎていくのが見えた。
小学2年生の頃、僕は何をしていただろうか。
少し思い出そうとしてみると、母に叱られ泣詫びながらも、門限を破って公園で遊んでいた記憶が思い浮かんだ。公園に時計はなく、時報も特になかったというのに、なぜあの時母はあんなにもきつく僕を叱ったのだろう。うちの真ん前に公園はあって、ベランダから帰ってきなさいといえば、門限を破ることなく普通に帰ってきてそれで終わりなのに、あえて僕を呼ばず門限を過ぎて帰らせ、怒るなんて何を考えてるんだ。全くエネルギー効率の悪い女だ。 
やれやれ。幸せな記憶を思い出そうとしたのに、しょうもないことを思い出し、苦笑いしてしまう。

「ん?」

そんなことを思うのもつかの間、僕は少年に対して違和感を感じ、少し声を出してしまった。正確には少年に、ではなく、少年の買うものに、違和感を感じた。
その違和感が何なのか僕はすぐには分からなかった。
ドレッシング、もやし、レタス…
これらのものは確かに小学2年生の子どもが買うには少し変に思えるけど、親に頼まれたお使いだと思えば別に大して不思議なことではない。問題はそこではない。それ以外のもにある。 

週刊少年マガジン

そう、それが僕の感じた違和感だ。
普通小学2年生がマガジンを買うか?普通小学生2年生ぐらいの歳だと、月刊コロコロコミック、百歩譲って週刊少年ジャンプを買うんじゃないのか?
僕は並べていた品物を一度バッカンに置き、思考を巡らす。
今の週刊少年マガジンの連載陣ははじめの一歩、DAYS、川柳少女、ドメスティックラブ、七つの大罪、星の目をつぶって、生徒会役員共…etc
どれも小学2年生が読むには破廉恥すぎる。僕はこのませた少年を再度見た。
少年はぶらぶらと籠を振り回し歩く。
何とも呑気なものだ。最強か。子どもは最強メンタルか。
ぼーっと少年が行ったり来たりするのを眺める。

……いや、…待て、そういうことじゃない。
僕の感じた違和感はそういうことじゃない。
たとえ破廉恥な漫画を小学2年生に見ていたってここまで違和感は感じない。かくいう僕だってワンピースのナミ対カリファのどエロい闘いを小学生にして何度も何度も目に焼き付けたじゃないか。BLEACHの夜一が素っ裸になるシーンをこれでもかというくらい反芻したじゃないか。小学生であれ破廉恥な漫画の一つや二つ、誰だって読む。それが男ってもんだ。だからこれは違和感の正体ではない。

じゃあ今感じる違和感は一体……?

上山さんなら何ていうだろう。下田くんなら何ていうだろう……。森さんさんなら…。

いや、彼らでは気づかない。


僕だ。


僕だけが気づくことができる違和感だ。


違和感の、その正体は……。


……一体何なんだ…?


何だっていうんだ…?



「あっ!」

思わず声が出た。

そうだ。そうだったんだ。
この違和感の正体…。
思い出した。

何度も何度も味わったあの感覚を。



後悔。



苦痛。



それは週刊誌を購読する者しか味わうことのない鈍痛だ。

(あの子が買っているのは先週と同じ週刊少年マガジン合併号だ。)

声に出そうとする。



それは買っていいマガジンなのか?



君は、君の求めてるものは最新のマガジンじゃないのか?



先週から展開の変わらない、全く変わらない合併号ではなく、最新号を君は求めてるんじゃないのか?



だが、僕の声は彼に届くことはなかった。
レジの店員は1人減り、レジ前には客が2人増えた。既に並んでいる客含め、店員1人に対し客が3人いる。うちの客はせっかちでよくきれるやつが多い。このまま客をほっとけば高東さんが餌食になってしまう。
「お待ちのお客様どうぞー。」
少年は先週、合併号の週刊少年マガジンを何らかの理由で買えず、先週の分を今週購入しようとした、そんなわずかな可能性を切に祈りながら僕はレジに向かい走った。もし違ったら、それはあまりにも残酷で、無慈悲な結末を迎えるであろうことは分かったのに僕は走る足を止めることが出来なかった。

全くこんな時間に限って客が来やがる。

焦る手がポイントカードを取り損ねる。
苛立つ客。
謝る僕。
苛立つなよ。
少しはカルシウムを摂ってしっかり寝とけよ。
コンビニに速さを求めるな。
スーパーいけや。
そう思いながらも1人また1人と接客していく。





あれからどれだけの時が経っただろう。
いや、大して時間は流れていないのかもしれない。
レジでの接客が終わると少年の姿はなかった。
ちゃんと誤解なく買えたんだな。
僕はそう思うことにして再び品出しをし、それを終え、レジの金の両替を済ませるところまで業務を進めた。
太陽が出てないとどうも時間感覚が曖昧になる。雨の日は休みになればいいのにと思う僕は果たして異端なのだろうか。答えのない訊問を繰り返し、あと5分暇だったら軽く雑誌コーナーのグラビアでもチラ見しようとレジで作業をしていると、先ほどの少年が週刊少年マガジンとそれを買った時にもらったであろうレシートを持ってやってきた。
嫌な予感がした。
頬に汗が滴り落ちる。
少年は消え入りそうな声で言った。
「マガジン欲しいのと違いました。返すのでお金返してください。」
その不安そうな顔を見て、僕は天を仰いだ。


あぁ救えなかった。


こんな小さな子どもを。



まだ生まれて間もない小さな掌のこの子どもを。


救うことが……出来なかった…。



「大変申し訳御座いません。雑誌、書籍は読んだあと返品しようとするお客様がいて、こちらの商売上支障をきたすため、返品は受け付けておりません。」

なるべく丁寧に、なるべく分かりやすく僕は少年に残酷なその事実を告げた。

「そんな…。」


少年はそれだけつぶやき言葉を失った。


世の中クソだ。
休みも少なく、謎に増える労働時間に抗うことも出来ず、ただただ生きるために働くのが常だ。
そんな無味乾燥な世界に生まれ落ちた僕らは1人では決して生きていけない。
1人では生きてないからこそ法に、規則に、ルールに縛られた不自由を受け入れなければならない。
少年は今にも泣きそうな顔をしていた。
拳を握りしめ、じっとレジを見つめたその空虚な様子はとてもじゃないが見れたものではなかった。
その少年と向かい合い、彼が帰るのを待つことしかできない僕は何のために生きているのか分からなくなった。
しばらく時が経ち少年は下を向きマガジンとレシートを手に持ってゆっくりと歩き始めた。

「ありがとうございます。またお越しくださいませ……。」

僕は苦しみながらも現実を受け止め店を出ていく少年をそんなつまらない言葉で送り出すことしかできなかった。
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