ポンコツ妖精さんは、そろそろ転生をやめにしたい

仁川リア(休筆中)

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第七話・輪廻はめぐる

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「おはよう、ターニー……」
「うん、ティア。おはよ……」
 私とターニー、朝からどちらも体調は絶不調。私は寝不足で、ターニーは二日酔いで。
「今日はどうする?」
「うーん、別の温泉行ってみようか」
 ここは港から近いイブースキと呼ばれる温泉街。ほかにも内地や島の反対側に足を延ばせば、ユーヴィンやヴェイプという温泉街があるらしいのだ。
「いいね。ジャスミンさんも誘う?」
「そうだね、一応声だけはかけてみようか。彼女も予定があるかもだし」
 昨夜遅くまで、というか日付が変わるまでジャスミンさんと懐かしのニホン語トーク……してみてわかったんだけど、なんと前世の私と無関係ではなかった。といって深い関係でもなかったのだけどね。ちょっと縁があったかな、レベルの。
 そして気になるのは、ジャスミンさんが胸に抱えるオズワルドさんへの思い。ただの恋愛とかではなく、どうも深い部分で……ジャスミンさんが初めてオズワルドさんに逢った日よりもさらに前の、もっともっと昔に邂逅したような感覚があるそうな。
 しかしジャスミンさんは長命種だけど、オズワルドさんは人間だ。そんでもって、ジャスミンさんは地上に初めて出た日にオズワルドさんと出会ったのだという。
(まさかオズワルドさんも……?)
 その可能性が捨てきれない。もしそうだったとして、オズワルドさんと――前世のオズワルドさんと、どういう関係だったのだろうか。時空を超えて再び、魂が共鳴している?
「考えすぎかなぁ?」
「ティア、何が?」
「あ、ごめん。こっちの話」
「ティアってそればかりだよね。何か気になるような一言いっといて、聞き返したら何でもないってさ。ボク、ティアのそういうとこ嫌い」
「ごめん、気を付ける」
 私は素直に、ターニーに頭を下げる。お互い、目についた部分は抱え込まずに遠慮なく言おうねって約束してるから、ターニーも遠慮なく言ってくれたし私も謝れる。それは逆であっても。
「今度それやったら、何か罰ね」
「何よそれ」
「だってティア、すぐに約束忘れるもん」
 否定はできない(おい)。
「デコピン……は面白くないな。そうだ、胸のさきっぽでやろう! デコチク!」
「付ける言葉はピンのほうであって、デコではないのでは」
 そんなアホな会話をしてたら、部屋がノックされた。
「どちら?」
『おはようございます、ジャスミンです!』
 ターニーが訝し気に首を傾げる。だってジャスミンさん、今ニホン語で言ったんだ。
 私は扉を開けて、
「ジャスミンさん、言葉!」
『あ、そうでした』
 うーん、昨夜いっぱいニホン語で話したから引きずられてるのかな?
『ターニーさん、ティアさん、今日のご予定はお決まりですか?』
 三人で、ローテーブルを囲んで朝食前のティータイム。
「ユーヴィンかヴェイプあたりに足を延ばしてみようかなって、ティアと話してたとこ」
「ジャスミンさんもご一緒しません?」
 しばし考え込んでたジャスミンさんだったけど、
『いいですね、湯布院に別府!』
 とニホン語で。私は思わず吹き出してしまった。そっか、どっかで聞いたことあると思った。
「えっと、ジャスミンさん今のは?」
『あぁ、ごめんなさいターニーさん。ちょっと古い海霊語を使ってしまいました。賛成ですって意味です!』
 テキトーな嘘で取り繕うジャスミンさんに対し必死で笑いをこらえる私に、ムッとしながらターニー。
「何がおかしいのさ、ティア」
「ううん、何でもない……あ!」
「言った!」
『?』
「チクピンだ!」
 しまった……。
「て、手加減してね? ターニーの怪力だと、私のアレ吹っ飛びかねない」
 いやもうほんと、マジで怖い。
『何の話です?』
「あ、何でもないんです」
 私のその言葉を受けてターニー。
「また言ったね? ジャスミンさんも一回やっていいよ」
 お願いやめて、やめてください……いやほんと、もうマジで気を付けよう。うん。


 宿の方に無理を言って、ジャスミンさんの朝食はこっちに運んでもらうことにした。
 さすが港町だけあって海の幸が豊富だ。ニホンでは見たこともない刺身もある。テーブルに並びきれないほどに料理がたくさんあって、女子三人で食べきれるかなと心配になるんだけど。
「ターニー、確認だけどさ」
「何、ティア?」
「これ、何ていう?」
 私はお味噌汁が入った椀を掲げる。
「ミソシルでしょ。それがどうかした?」
「ううん、何でもない」
 お味噌汁はあるのか。じゃあ昨夜、床の間とか掛け軸とかのワードでジャスミンさんが引っ掛かったのは、偶然もいいところだったのだろう。
「ティアさ?」
「何?」
 私は一応返事をしてから、お味噌汁の椀に口をつける。
「ティアって乳首、三個あったっけ?」
 どこのバケモノだと思って、そういやさっき私……『ううん、何でもない』って。私は勢いよく、お味噌汁を吹いてしまった。
「ちょっ、ちょっと待って! 今のはノーカンにして!」
「やだなぁ、ティア」
 ターニーは慌てふためく私を生暖かい微笑みを返しながら、
「ダメに決まってるじゃん?」
 鬼かな? 最終的に、朝食が終わるまでの会話で私はターニーに七回チクピンされることに。
「言っておくけど、ボク誘導はしてないからね?」
『いやもう大変ですね、ティアさん。塗り薬、あらかじめ買っておきます?』
 確かにターニーは誘導してない。私が悪い。『無くて七癖悪い癖』とはよくいったものだ。
 でもってジャスミンさんからも三回分、ご予約です……。かの約束、ジャスミンさんとも交わしちゃったので(ターニーのせいで)。でもターニーもそうだけどジャスミンさん、悪乗りしすぎじゃないですかね?
『スース―する塗り薬、買っておきましょうか?』
 とジャスミンさんがニホン語で意地悪を言ってきたんだけど、私は無言を決め込む。だって下手にジャスミンさんのニホン語に返事をしたとして、ターニーから『今のどういう意味?』て訊かれたら……私、何でもないってまた言っちゃいそうなんだ。
「ティア、何で黙りこんでるの?」
 でも不意に黙り込んだ私に、ターニーが不思議そうに訊いてくるもんだから。つい。
「ううん、何でもない」
 はいはい、八回目ですね!
「まだ何も言ってないけど」
 そう言いながら、回数をメモるんじゃないっ!
 本日の予定は湯布……ユーヴィンの温泉街。さすがに遠出なので宿は移ることにした。朝風呂も考えたけど三人で協議の結果、早く移動しようってことになって。
「どうする? 飛んでく? 二人なら全然オーケーだよ」
 一応声をかけてみたが、ターニーから苦虫を口いっぱいに放り込んでくっちゃくっちゃと反芻しているような視線が返ってきた。音速の空中遊泳を思い出したのだろうけど、そこまでイヤな顔しなくたっていいじゃない。冗談だってば。
 結局路線馬車で行くことになり、三人で乗り込む。まだ朝早いのもあってか、乗客は私たち三人だけだった。
「オズワルド様、いるといいね」
「だよね」
『ありがとうございます、気長に探してみようと思います』
 別にユーヴィンにオズワルドさんがいるとは、三人の誰も思ってない。いたらラッキーぐらいなもんで。
「せっかくイブースキに来たんだから、砂風呂を経験しときたかったな」
「あー、アレね。ユーヴィンやヴェイプにもあるんじゃない? この島の反対側の港に近いから」
『砂風呂、ですか』
 ジャスミンさんは、あまり乗り気じゃなさそうだ。
「砂風呂は苦手ですか?」
『人魚って、海底の海流が強い日は砂に潜って寝てるんですよ』
 なるほど。もう嫌ってほど経験してるみたいな?
『そうしないと流されて、朝目が覚めたら知らない人魚の家庭の砂風呂で寝てたとか「あるある」ですもんね』
 ごめんなさい、わからないです。というか海底の家ってどうなってんだろ?
『あー、ほらコントのセットとかでよくある天井とか一方向だけの壁だけがないみたいな』
 とジャスミンさんが説明してくれた。同じ元ニホン人同士だからわかりあえる、想像できる。
「なるほどね、強い海流が来ると放り出されちゃう感じ?」
「コントって何?」
 ターニーが訊いてくるのだけど、目がね。完全に私の失言をお待ちかねです、ターニー!
「ジャスミンさんに聞いてよ」
 その手は桑名の焼き蛤、誘導されませんて。
 ユーヴィンまで結構時間がかかるのもあり、私から『何でもない』を引きずり出そうとするターニーと抗う私、面白がるジャスミンさん。(私以外が)楽しい時間はたちまちのうちにすぎていく。
「着いたね!」
『思ったより早かったですね』
 元気なお二人とは対照的に、どんよりどよ~んの私。まぁ確かに正午をちょっとすぎたあたりだから、早く着けてよかったけれど?
「結局、ボクが二十四回でジャスミンさんが九回。いやはや、今晩が楽しみだねぇ!」
『ティアさんが可哀そうなので……私の九回、全部ターニーさんにあげてもいいです』
 いや、それは何の解決策にもなってないですよ? 私の乳首、今日が命日かもしれない……。


 まぁそんなこんなでユーヴィン温泉。適当に私の魔杖を倒れた方向にある宿にチェックインして、そのまま女子三人で温泉に直行。露天風呂な上、温泉内からニホン酒を注文できるところだったので、私の魔杖もなかなかよいところを選んでくれました!
『真昼間からいいんでしょうか……』
「いいと思うよ?」
「ターニーはそうでしょうね。でも露天なら、夜のほうがいいかな」
 ま、夜も来ますけどね。本当は一人で来たいところだけど、それは無粋なんだろうな。いや、ただ単にナイスバディに挟まれたくないというコンプレックスがね?
「温泉から出たら、どうします?」
『私は、まぁダメ元でオズワルド様を探しに散策してみようかなと思ってます』
「ボクは、『ヒホーカン』行きたいな」
 ヒホーカン……あぁ、『秘宝館』か。ニホンの熱海にあったな、R18のエッチな博物館みたいなのが。
「ターニーは一人で行ってね?」
「えぇっ、無理! ティアも来てよ!」
 うーん、興味ないわけじゃないけど。ジャスミンさんの前で、『行く行く!』とも言いにくい。
『あ、私も連れてってください!』
 来るんかい。
「じゃあ私も行くよ。だけど温泉でお酒もそうだけど、女子三人が真昼間から入るところじゃないよね」
 というわけで、しばしの間は温泉でお酒。身体に悪いので、いい子は真似しちゃダメです(というか未成年は温泉に関係なくだけど)。
「ジャスミンさんは……オズワルド様を見つけたら、どうするつもりなんです?」
 ターニーが、空になったお銚子をフリフリしながらボソリと。しかも温泉内にあるドリンクバーのカウンターに向けて、ジェスチャーでお銚子のおかわりを要求。こいつはっ!
『考えてませんでしたね。ひっぱたくとかは自分で言ってましたけど、いざ逢うとどうするんだろうなぁ』
 本当にどうするんだろう?
『とりあえず預かった財産をお返しして、それからですね!』
 ここまで来て、やっぱりちょっと確認しておきたい。
「ジャスミンさんはさ?」
『はい?』
「オズワルドさんのこと、恋してる?」
『してる、んでしょうね。いや、どうかな。ただ、』
「ただ?」
『逢いたい。それだけです』
 そっか。
「ねぇ、二人はヒホーカン行ったことある?」
 ターニーはちょっと黙ってて。
『家族旅行のときに無理やり連れられて、ちょっとだけなら』
 こらこらジャスミンさん、それ多分あなたの前世の話でしょ⁉
「そっかー。私はないんだよね、ティアは?」
 ターニー、お酒のせいでジャスミンさんの失言を華麗にスルー。うーん、この。
「私は何度か行ったかな」
 旧ティアのときも前世でもね。
「ティアは、そうだろうね」
 何がやねん。私のこと、どういうイメージで見てるんだろう?
 ま、何はともあれ温泉はさっさと切り上げる。浴衣で行くか私服で行くか迷ったけど、ドリンクバーの店員さん曰く浴衣で行く人が多いとのことなのでそのまま。
「いやぁ~、楽しみだねぇ」
『そんなに楽しみにするようなところじゃなかったですよ』
「うん、割としょぼかったな」
 ターニー、怪訝な顔つきになる。
「何か二人とも、同じところに行ったみたいな空気だね?」
「んなわけないでしょ」
 でもジャスミンさんが行ったのは、熱海なんだろうな。だとしたら、ターニーの言うこともあながち間違いじゃない。
 徒歩で歩いていける距離にあるので、そのまま秘宝館に向けてテクテクと歩く。ほどなくして建物前に到着したんだけど、もうね。
「うっわぁ……」
 ターニーどん引き。
『……』
 ジャスミンさんは無言。
 だってね? すっげー趣味悪いの。よく田舎の国道とか走ってたら、趣味の悪いお城みたいなラブホが視界に入ることあるじゃない? てこれ、ニホンの話だけど。
 建物の横に、まるで正月の門松のように『アレ』がドーンと勃ってて。じゃなくて、立ってて。そして浴衣姿の男性客グループが、ふざけて全員でこすってんの。おまわりさん、こっちです!
 なるべくそいつらを見ないようにして、入り口を入る。
「お姉さん、大人の女子三枚ね」
 大人の女子、とは。ターニーが代表してチケットを購入しようとするのだけど、カウンターのお姉さんはコテンと首を傾けて不思議そうな表情。すぐにニコッと笑って、
「そちらの方は、小型亜人金額で大丈夫ですよ。半額になります」
 うーん、優しいね。
「小型亜人、ボクのこと? これでも結構年齢いってるんだけど」
 ターニーがムスッとしてお姉さんをにらむのだけど、お姉さんの視線は私を向いてる。
「いえ、そちらの方です」
 とお姉さんが手で指し示すのにつられて、ターニーが振り向く。そこにいたのは、もちろんジャスミンさんと私……なのだけど。
「おい、ティア」
「はい?」
「はいじゃないが」
 そこにいたのは、ジャスミンさんの右肩に座ってる身長十二センチくらいのちっちゃな妖精……体に変化している私。相も変わらずおめでたい黄色のチュチュに、痴女みたいなコスプレイヤーもどきの衣装だけど。
「何故そっちの姿になってんの?」
「え、別に」
 いや、理由はあるのだけどね。
『ティアさん、可愛いですねぇ~!』
 そう言ってジャスミンさん、矮小化モードの私の鼻先を指でつんつん。ジャスミンさんは指細いけど、今の大きさの私からしたら丸太みたいなもんで危うく後ろに落ちそうになる。
『あ、ごめんなさい。それにしてもこの状態だと、女子二人だけで来たみたいに見えますね?』
 ニヤリと笑うジャスミンさん、それ言わないで!
「な~る、そういうこと。このチキンハートがっ!」
「だってー! 私めっちゃ目立つんだよ⁉ 恥ずかしいもんっ!」
 そう、妖精ってだけで周囲がジロジロみるのだ。ある意味、私のほうが秘宝になってる。
「ま、いっか。じゃあ大人二枚と小心者一枚」
 ターニーが注文を修正すると、カウンターのお姉さんが吹き出した。ターニー、覚えてなさいよ!
 そこからは、三人でキャーキャー言いながらお楽しみタイム。ニホンのとは違って濃厚で、しかも『ストリップ劇場』まである⁉
「……入る?」
 ターニーさん、目を爛々と輝かせて……ではなく、ちょっと怖気着いた感じで。
『女子だけで入ってる人、いますかね?』
 ジャスミンさんも、ちょっと二の足だ。
「そんなの気にしたらどこにも行けないでしょ。入ろうよ」
「脳天気ティアはいいよね、小さくなってて目立たないから」
 誰が脳天気か。
「ティアが元の大きさに戻ったら入るよ」
『あ、私もそれなら構いません!』
 何か、私が凄く入りたそうにしてるみたいな言い方しないでくれませんかね?
「元の大きさに戻ったら、チケット買い直しになるでしょ」
「あぁ、そっか。小型獣から大人用になるからね」
「誰が小型獣よ!」
 結局、入らなかった。三人とも、こういうのはチキンハートなのだ。
「いやぁ、楽しかった?ね」
 建物を出て、微妙な感想のターニー。同意がほしいのかしらん。
『うーん、でも人間族って子孫を残すのにああいう……その……するんですね』
 いやいやジャスミンさん、前世の知識で知ってるでしょうよ。っても何十年も前の記憶になるのか、忘れてても無理ないかも?
「私は妖精族だから、そういうのしないけどね。そういや人魚ってどうやって子作りするんです?」
 まぁ前世が人間だったときは、したことありますけどね。
『人魚はですねぇ。まず女性が卵を産みます』
 うん。
『次に男性が卵に、』
「もうわかった。言わんでいいです」
 ターニーが、顔を真っ赤にして遮った。つまり、卵に『ぶっかけ』るんだろうな。想像するとすごくシュールだ。
「次はどこに行く?」
「うーん、ジャスミンさんはどっか希望ありますか?」
 あれ? ジャスミンさんがいない。
「あ、あそこ!」
 ターニーが指さしたのは、私たちから十メートルぐらい後ろ。何かに視線を奪われてる? ジャスミンさんが見ているのは、馬車道を挟んだ向こう側の歩道。
「何見てるんだろう?」
「さぁ?」
 私もターニーもジャスミンさんの視線の先を確認したが、あっちの歩道に何人か歩いてるだけで何もない。よくわかんないけど、ジャスミンさん自分が置いてかれたことに気づいてないな。
「おーい!、ジャ」
 とターニーが呼びかけるのと、
『オズワルド様!』
 そう言ってジャスミンさんがあちらに駆け出すのが同時だった。そして、
「危ないっ!」
 ちょうど路線馬車が通過しようとしているところに、ジャスミンさんは飛び出してしまった。
『あ……』
 迫りくる馬車に気づいて、ジャスミンさんが青ざめた表情で立ち止まる。いや、立ち止まっちゃダメ!
 それを目撃していた周囲から悲鳴があがり、誰もが最悪の事態を想定したその瞬間だった。
「ジャスミンッ!」
 と野太い男性の叫び声が聴こえたかと思うと、ジャスミンさんが歩道側に吹っ飛んできた。馬車に轢かれた? いや、違う。轢かれる寸前ではあったけど。
 そして周囲に響きわたる悲鳴と喚声。こちらからは馬車で死角になって見えないが、ジャスミンさんではない誰かが轢かれたようだ。
『オッ、オズワルド様⁉』
 真っ青な顔で、ジャスミンさんが再度車道へ。馬車は止まってて、御者はガクガク震えている。
「え……」
「オズワルド、さん?」
 私とターニーは顔を見合わせて、すぐにジャスミンさんの元へ駆けよる。
『オズワルド様! オズワルド様! しっかりしてください!』
 ジャスミンさんが泣き叫びながら、道路に倒れた……血まみれの男性をガクガク揺さぶっていた。
 ダメだよ! そういうときは身体はできるだけ動かさずに意識の確認――ではなく。そうだ、私はティアなんだった。
『神恵‼』グラティア
 まばゆい光が私の手から放射状に照射され、オズワルドさんをジャスミンさんごと包み込む。ふむ、『ありがとうビーム』返ってきました。治癒成功、かな?
『オズワルド様! しっかりしてください!』
 だけどなおもジャスミンさんは、オズワルドさんの上半身を抱き起して、叫ぶ。
「テイア、治癒失敗?」
「いや、傷は塞いだからもう大丈夫。ただ、」
「ただ?」
「気絶したのを回復させるのは治癒って言わない」
 いや、言うかな? まぁいずれにしろ怪我は完治しているから、ほどなくしたら目を覚ますだろう。
「ジャスミンさん、落ち着いて。とりあえずオズワルドさんを病院へ運ぼう」
『は、はひぃ~!』
 涙と鼻水でボロボロのひどい顔になってるジャスミンさん、すごく情けない返事が返ってきた。オズワルドさんの大きな体躯はターニーの怪力に任せるとして、私は駆け足で近所に病院を探す。
 ターニーが背負ったオズワルドさんに向けて、ジャスミンさんが何ごとかを叫び続けてるのが横目で見えた。
「とんだ再会になっちゃったね」
 私は嘆息しながらも、ちょうど目と鼻の先に小さな診療所らしき看板を発見した。
「ターニー! こっち! あったよ!」
「了解!」
 診療所の扉を叩いて、初老の医者に事情を説明。ちょうどベッドが空いているとのことで、そこにオズワルドさんを寝かせる。
「服は裂けたり泥でボロボロだが、傷がまったく見当たらない?」
 先生がオズワルドさんの身体を診ながら、不思議そうにつぶやく。
「あぁ、私が治癒魔法で直しておきました。ただ気絶してるのはどうにもならないので、こちらに」
「ああ、そういうことですか。では目が覚めたら、もう一度診ましょう」
「ありがとうございます」
 先生が安心したように、病室を出ていく。
『うわああぁっ!』
 それを待ち構えていたように、何かが切れたようにジャスミンさんが泣きながらオズワルドさんに駆け寄った。
『ごめんなさい! ごめんなさい! オズワルド様……ごめ……』
 最後のほうは、もう言葉になっていなかった。
(……何だろうね、この既視感)
 いや、既視感じゃない。私の前世の記憶で、実際に見た光景だ。
 道に飛び出したジャスミンさんを、反対側からオズワルドさんが飛び出してきて突き飛ばしたのだろう。そして代わりに自分が轢かれてしまった。あの怪我では、私がいなかったら手遅れになっていただろうな。
 ターニーもそう感じていたようで、
「ティアがいなかったら、ヤバかったね」
「うん……まぁ、大丈夫そうじゃない人もいるけど」
 私のその言葉で、二人同時にジャスミンさんに視線が移る。ジャスミンさんがウグウグヒックしながら、オズワルドさんの手を握りしめて泣きじゃくっている。
「とりあえずさ」
「ん?」
「真珠、回収してくる」
 そう言うが早いが、ターニーが病室を飛び出していった。
(あ、そうか。事故現場にはジャスミンさんの『人魚の涙』がいっぱい落ちてるはず……)
 そこに気づくとはさすがにターニーだと思ったけど、ジャスミンさんはここでも泣いているのでそれは私が――あれ? 真珠化してない?
「あ、そうか」
 昼間っからお酒呑んだんだった。ジャスミンさん曰く、お酒が入ってたら真珠化しないとのことだけど(それを証明しようとして失敗してけどね)。
(ターニーは徒労で終わるかな?)
 そんなことを思っていたら、小さな呻き声が聴こえた。オズワルドさんだ、意識が戻ってきたのかな?
『オズワルド様⁉』
「ちょっと先生呼んでくる!」
 私は、ここで重大な判断ミスをした。病室を飛び出すべきじゃなかった。だけどまさか、あんなことになるなんて想像すらしなかったんだもん。
 ちょうど外来の患者が途絶えてて、先生は一人で煙管の紫煙を燻らせてた。
「先生、オズ……あの男性が目を覚ましました!」
「そうか、どれどれ。よっこいしょっと」
 このジジイ、もっとキビキビ動かないかな(暴言)。
「これこれ、老体を労わっておくれ!」
 手を引っ張って走る私の速さに足の回転が追いつかないのか、この爺さん先生は足をもつらせながら引きずられるように走る。そして病室にたどりついて、
「ジャスミンさん!」
 っと。あれ? ベッドが空だ。
「ジャスミンさん?」
 ベッドの横に立っているジャスミンさんの後ろ姿。窓が開け放たれて、風でカーテンが揺れている。
「あ、あのどうしt」
 ジャスミンさんに歩みよりながらそこまで言いかけて、私は言葉を呑む。ジャスミンさんの顔が般若になってるぅ~‼
「ジャ、ジャスミンさん?」
『ふ、ふふ……』
 あ、あのぅ? まぁなんとなく予想はできるけど。
『逃げやがった、あの男』
 おこなの? 激おこなのね?
『せめて、ティアさんにお礼だけは言っていけばいいのに』
 いや、それはいいんですけど。ジャスミンさん、大丈夫かな。
『ごめんなさい、ティアさん。私、オズワルド様を探してきます!』
 ジャスミンさんはそう言うが早いが、ポケットに手を突っ込んで自らの真珠を一粒取り出す。そしてまだぜぇぜぇと荒い息の先生の手に無理やり握らせて、
『診療代です! お釣りはとっといてください!』
 そして窓に駆け出し、ヒラリと体操競技のあん馬よろしく窓枠に手をかけると華麗にジャンプ。そのまま駆け去ってしまった。
「うーん、楽しくなってきました」
 不謹慎だけど、そう思った。ジャスミンさんが、ここでさらに泣き崩れるような子じゃなくて良かったなって。
「ひっ、ひえぇっ!」
 後ろから聴こえてきたのは、先生の悲鳴。真珠を持って腰を抜かしている。
(まぁそうだろうな。ちょっと身体を診ただけで大金ゲットだもんね)
 ちょうどそこへ、ターニーが戻ってきた。腰を抜かしている先生をうさん臭そうに見ながらもスルーして、
「あれ? ジャスミンさんは? オズワルド様も」
 うーん、めんどくさいな。
「ありのまま、今起こったことを話すね? オズワルドさんの意識が戻ってきたから、私は先生を呼びにいったの。戻ってきたら、いつの間にかオズワルドさんがいなくなってた。何を言っているのかわからないと思うけど、私も何が起こったのかわからなくて。頭がどうにか」
 呆れ顔のターニーである。うーん、ふざけすぎたかな。
「とりあえずティアの頭がどうにかなってるのはわかったから、三行でお願い」
「オズワルドさんが逃げた。ジャスミンさん激おこぷんぷん丸。追いかけてった」
「なるほど?」
 苦笑いのターニーさん、私の表情をマジマジと観察。
「楽しそうだね?」
「そりゃね」
 人の不幸は蜜の味とかそういうんじゃない。ジャスミンさんのパワフルさに、何かこう友人としてさ。頑張れっていう、そんな感じの感情。
「どうする? 私らも探そうよ」
「んー入れ違いになったらなんだし、今日は宿に戻って待機にしようか」
「ジャスミンさんに、一人で探させるの?」
「そうだよ。別に私たちまで一緒になって、走り回らなくてもいいでしょ」
 ターニーが、ちょっと複雑そうな表情になる。そして私に、少し軽蔑したような感じの視線を向ける。
「ティアって、そんな薄情な子だった?」
「……だとしたらどうするの? 私のこと、軽蔑した?」
「オズワルド様が人間族だから?」
 ターニー、ちょっと本気で怒ってる顔だな。
「そうじゃなくてね」
 今このシュラ島は、アルコルとミザールの両国の一部都市で発生した新型の感染病『フレア肺炎』の影響で、全船便が運航を自粛しているのだ。つまり陸の孤島どころか、マジもんの孤島になっちゃってるわけ。
「というと?」
「マークすべきはこの島の南北にある二つの港のみ。しかも運航再開まではその必要はないってこと」
「な~る! 良かった、本当に良かった!」
「うん、すぐに見つかるよ」
「いや、そうじゃなくて」
 ん? ターニー、涙ぐんでる?
「ティ、ティアがイヤな子じゃなくてさ」
 そう言いながら、ちょっと泣きそうになってるターニーだけど。
「……買いかぶりすぎだよ」
 だってオズワルドさんが人間てことで、ちょっと引っかかってもいるんだ。私は、そんなに心が綺麗な妖精じゃない。
「とりあえずジャスミンさんが見つけることができたら、それはそれでヨシ! そうじゃなかったら、明日以降は二手にわかれて港をチェック。その道すがらで宿もチェック、どうかな」
「それで行こう、さっすがティアだね!」
 現金だなぁ。
「これで私、ポンコツ返上できたかな?」
 ドヤ顔の私に、
「うーん、一億の借金が九千九百万になった感じ」
 おいターニー。おい!
 まぁそんなわけで、宿に引き返すことにした。爺さん先生がこの真珠は受け取れないと私に返そうとするんだけど、そもそも渡したのは私じゃない。
 私の一存で受け取るわけにはいかないので、とりあえずジャスミンに返還したいっていう医師の意思は伝えておくと約束して、その場をあとにする。うーん、ダジャレ連発でごめん。
「それにしても、すごい確率だよね」
「オズワルドさんがいたこと?」
「うん」
 言われてみれば確かに。ここアルコル自治区ことヤーマ諸島連合国は、いくつもの小さな島国による連合国だ。ニホンのどこかにオズワルドさんがいるという情報だけで沖縄に来たら見つけちゃった、みたいな。
 そんなこんなで、宿に帰還。私もターニーも浴衣がオズワルドさんの血痕で悲惨なことになってるので、宿の人に事情を話して洗い立てのと交換してもらった。
 部屋に戻ってきたけど、ターニーもさすがにお酒を呑む気にはなれないようで。二人で部屋でまどろみながらティータイムをしてたら、いつの間にか日が暮れて。
『ただいま帰りました……』
 そう言って入ってきたのはジャスミンさん。あ、顔も浴衣もボロボロです。
 どうなったか一目瞭然、というかこの血まみれの浴衣で街を走り回ったのか。目撃した人はびっくりしただろうな。
「おかえり、ジャスミンさん」
「芳しくなかったみたいね?」
『はい……』
 とりあえず、温泉でジャスミンさんを綺麗にしようってことで三人とも温泉に。途中フロントで、ジャスミンさんの浴衣も交換してもらう。
 例によって例のごとく、真珠をお詫びに差し出そうとするジャスミンさんを引き留める。いやほんと、律儀だなぁ。
「ユーヴィンのお湯もいいね!」
「うん、疲れがどんどん取れていく感じ。ジャスミンさんはどう?」
『どうもこうも……途中で保安局? とかいう人に追いかけられたので、後半はひたすら走って逃げ回ってました。足腰がガタガタです』
 ここ、笑うとこかな? 血まみれの浴衣着て走り回ってたら、そりゃね。
「まぁ、とりあえずはお疲れ様」
 ターニーは、苦笑いを隠せないでいるな。
「それでね、ジャスミンさん」
 私はターニーに話した案をジャスミンさんにも。文字どおり死んだ魚のような目をしてたジャスミンさんだけど、だんだん爛々と目が輝いてきて。
『ナイスアイデアですね、それ!』
「そういうわけでね、運航再開はまだされないみたいだけど念の為。明日私はイブースキの港に行ってみようと思う。ターニーとジャスミンさんはヴェイプの港へ。どうかな?」
「何でその区分け?」
「アイキャンフラーイしたいなら私と一緒でもいいけど」
 そう、文字どおり飛んでいくつもりだったから。
「ごめんなさい、ジャスミンさんとヴェイプ行きます」
 うーん、手の平クルッ! そんなに音速の飛行、嫌かな。てか私だって、いつも音速で飛ぶわけじゃない。途中の宿とかでオズワルドさんがチェックインしてるか、調べないとだしね。
 そして翌日、私のアイデアはずばりビンゴだった。オズワルドさんが港に姿を見せたのだ。


「何故だ! どうにかならないのか!」
 イブースキの港のカウンターで、男性が受付のおねーさんに怒鳴っている。うーん、わかりやすいな。
「申し訳ありません、運航再開は未定となっているんです」
「小さいボートでもなんでもいい、島から出る手段はないか⁉ 港なんだからなんとかなるだろう?」
 そんなに逃げたいんですかね? ちょっと腹たってきたぞ。とはいえ、島を出られずに困っている人はたくさんいるようで、『そうだそうだ!』などのヤジが周囲から飛ぶ。
「オズワルドさん」
「今大事な話をしているんだ、後にしてく……君は誰だ?」
 後ろからポンと肩を叩いて、私。オズワルドさんは振り向いて、知り合いでも何でもない人が名前を知っているので少し警戒気味だ。
「私はジャスミンさんの友人で、ティアと申します。少し、話しませんか?」
「ジャッ、ジャスミンの⁉」
 オズワルドさんは驚愕の表情を浮かべ、慌てて周囲を確認する。
「安心してください、ジャスミンさんはここにはいませんよ」
「そ、そうか」
 安心したように、嘆息するオズワルドさん。うーん、そんなにか。どうしたもんだか。
 とりあえずゆっくりと話ができる場所をと思ったので、波止場へ。港が機能してないもんだから、ターミナルから桟橋までは自由に出入りできるように開放されていた。
 弱めの潮風が、私の髪を揺らす。海を見つめながら私に背を向けていたオズワルドさんだったけど、
「それで?」
 と少し怖い顔で訊いてきた。何かうざいとか思ってるでしょ、私もだよ。
「何故、ジャスミンさんから逃げるんです?」
「君は……ジャスミンからどこまで聞いているんだ?」
 どこまで言ったもんかと、少し思案にくれる私。遠くで、カモメっぽい鳥の鳴き声がする。
(って、とっさの嘘が付けないちゃんだからなぁ。正直に言うか)
「そうですね……ジャスミンさんが知ってるオズワルドさんのことについては、すべて……だと思います」
 それを聞いて、黙り込むオズワルドさん。しばしの沈黙のあと、
「だったら、わかるだろう?」
 何をよ。
「私と一緒にいると、不幸になる。誰もかれもがだ。ジャスミンのためには、私はそばにいないほうが……いいのだ」
 さっきまでの威勢はどこへやら、声が弱弱しい。
「世の中の不幸が、全部自分のせいみたいに考えてませんか?」
「何を……」
 あ、少しムッとしてるな。終始メソメソしてるよりは、やりやすいかもしれない。
「流行り病で船が出ないのも、空があんなに青いのも、電信柱が高いのも郵便ポストが赤いのも、私の胸がちっちゃいのもオズワルドさんのせいなんですね」
「君の胸の大きさなど、私の知ったことではない!」
 そうかもしれないけどムカつくな。
「そうやって何もかも自分が悪いって自分を追い詰めて、オズワルドさんが不幸になりたいならそれでもいいです。勝手にしてください」
「何っ‼」
「だけど」
 だけど、さ。
「オズワルドさんを心配するご友人、周りの人たち。みんなオズワルドさんのことを心配しています、気をもんでいるんです」
「そ、それは……」
 もう一押しかな?
「ジャスミンさんがどんな思いで、オズワルドさんを探し回ってるかご存じですか? メラクを飛び出してフェクダ、メグレズ、アリオト、ミザール。そしてここアルコル。人間の脚で、ずっと歩いてきたんです」
 歩いて、というのはある意味合ってて違うけどね。馬車とか鉄道とか利用したとか言ってたし。
「ジャスミンが……」
 どう勘違いしたか知らないけど、訂正はしない。
「ジャスミンさんが人間の脚を手に入れるため、自らの大事なものを犠牲にしていることはご存じですか?」
「……何の話だ?」
 あ、知らないのか。
「かの魔導具、ジャスミンさんが腕にはめてるブレスレットで下半身を人間の脚に姿を変えていることはご存じですよね?」
「あ、ああ」
 これ、言うべきだろうかちょっと迷う。けど、やっぱ言わずにはいられない。
「一度使うと、二十年寿命が縮まるそうです」
「なっ!」
 正直この設定?は、かなり眉唾だ。ソラがそんな物騒なものを、ジャスミンさんに寄こすとは思えない。ただ身体に多大な変化をもたらすことで、ジャスミンさんの肉体が強く消耗することは確かだから……それを制御するために、ソラはああ言ったんじゃないだろうか。
(今度確かめてみよっと)
「そ、それは本当なのか?」
「本当です」
 多分ね。
「しかもジャスミンさん、この島には泳いできています。人魚体で」
「ということは……」
 そう、最初に人間体になりオズワルドさんに逢いにきた。人魚体に戻り、この島に来た。
「そしてご存じのように、この島では再び人間体に変化させてます。都合三回、かの魔導具を使用していますね」
「じゃ、じゃあ六十年の寿命が……」
「そういうことになりますね」
「何故、どうして……」
 は? 何故って、オズワルドさんに逢いたいという一心でしょうが! ……と怒鳴りそうになるのを堪える。
「わかりませんか?」
「……」
 これはわかってる顔だな、良かった。
「最初の船の事故、お子さんを亡くしたこと、奥さんを亡くしたこと……ジャスミンさんが酷い目にあったこと。ジャスミンさんが言っても無駄だったんだから、私みたいな部外者が言ってもその声は届かないかもしれません。だけど、それらは全部あなたのせいなんかじゃない! 昨日だって、ジャスミンさんを命がけで助けたじゃないですか!」
「それとこれとは」
「同じです! あなたは人を幸せにする力があるんです。だけど何です、オズワルドさんの態度は? 勝手に世を拗ねて、心配してくれる人たちを不幸にして! これに関しては、オズワルドさんが不幸にしているといえませんか⁉」
 あ、あれなんで私熱くなってるんだろ。頬が……濡れてる?
「君に……何がわかる」
「わかりませんよ、他人ですもの。でも他人だからこそ、」
 わかってあげたいと思うと言おうとして、その言葉はオズワルドさんの泣きそうな絶叫にさえぎられる。
「君に何がわかるっ‼」
 え、オズワルドさんも……泣いてる?
「それだけじゃない。それだけじゃないんだ……」
「それだけじゃない、というと?」
 ジャスミンさんでも知らない何かがあるのだろうか? いつもは使いたくないアレだけど、ここはどうしても知っておきたい。何か隠されたソレが、オズワルドさんの根っこにあると思ったから。
「私の目を、見てください」
「目?」
 デュラの『魅了眼チャーム・アイ』みたいに明確に『かかった!』とわかるような演出はないが、私の『真実の瞳』ヴェリタス・アイから逃れるすべはない。ちょっと卑怯な手段だけど、オズワルドさんごめんね?
「何か、ジャスミンさんも知らないことがあるのですか?」
「あぁ、そうだ。聞いてくれるか?」
 よし、かかった!
「話して楽になるのであれば」
 そしてオズワルドさんは、静かに語り始めた。
 ――どのくらい、時間が経過しただろう。朝からここに立っていたはずなのに、もう陽が傾き始めている。
 オズワルドさんから聞かされたその話は、私の予想をはるかに凌駕していた。驚愕のあまり、言葉がすぐには出てこないほどに。
「そういうわけだ。私は、人を不幸にする星の元に産まれてきた、そうは思わないか?」
 否定ができない。オズワルドさんから聞かされたその凄絶な話を聞いてしまってからは、もう何も言えなくなってしまった。
「納得、してもらえたようだね」
 ダメだ、ここで引いちゃダメだ私! がんばれ私!
「納得、するのは私の役目じゃありません……オズワルドさんは、自分で自分を許すことができませんか?」
「許されざる罪を犯したのは、今話したとおりだ」
 オズワルドさんの表情は、不気味なくらい穏やかだ。だけど、生きる希望というのをその瞳からは全然感じ取ることができない。罪を背負って、罰を受けるために生きていかないといけない……そんな世捨て人の、瞳。
 仕方ない、言うしかないのか。
「あなたがそんな生き方をして、小津有人君が喜ぶと思いますか?」
 それを聞いてオズワルドさんが反論しようとするのを片手で制して、私は続ける。
「オズワルドさん……いえ、茉莉花ちゃん」
 ねぇ、茉莉花ちゃん。あなたを追いかけてきたジャスミンさん、彼女も前世の記憶があることはご存じ? そして、ジャスミンさんの前世は――。
(いや、これは私の一存で教えていいことじゃないな)
 そしてまた、ジャスミンさんの前世が小津有人君であることも。有人君は、自分がかばって事故ったせいで茉莉花ちゃんを泣かせてしまった、悲しませてしまった。そんな思いを胸に亡くなったから、その思いが今世でのジャスミンさんに引き継がれてしまったのだろう。
(ジャスミンさんにも言えないやつだ)
 完全に行き詰ってしまった。茉莉花ちゃん――オズワルドさんを、どう引き留めようか。全然いいアイデアが出てこない。
「茉莉花ちゃん……て呼ぶのはもうおかしいですね」
 いい年したおっさんに茉莉花ちゃんもないものね。前世を思い出して、女言葉使われたらちょっとキモいし。
『私の言葉、わかりますか?』
 うん、ニホン語で。
『ニホン語⁉』
『そうです。私もまた、前世ニホンで生きた記憶があります』
『君も…』
『はい』
 そして私は、あの有人君が亡くなったときに介抱しようとしたこと、通報したのは私であること、有人君が搬送されて泣きじゃくる茉莉花ちゃんに声をかけ続けたこと。有人君の通夜で遺族の両親から罵倒されて、土下座をしたまま立てないでいる茉莉花ちゃんを立たせたことなどを話した。
『まぁ別に、覚えてらっしゃらなくてもいいですけどね。あれだけの縁なんて、知り合い以下ですし』
『……当時のお名前を訊いても?』
 名前なんて訊いてどうするんだろう、とは思いつつも。
『尾先ゆら、です。しっぽの先っちょ、ゆらはひらがなですね』
 オズワルドさんはちょっとだけ黙りこくっていたが、
『ティアさんといったか、当時の私に代わってお伝えしたいことがある』
 何だろ?
『ゆ、ゆらお姉ちゃん、あのときはどうもありがとう!』
 そう言って、顔を真っ赤にして俯いてしまう茉莉花ちゃん――もとい、オズワルドさん。
 若干のキモみはあったが、私も負けず劣らず顔が真っ赤になってしまう。
『あ、ど、どういたしまして!』
 って言うのが精いっぱいで。
「それで茉……じゃなかった、オズワルドさん。やっぱりジャスミンさんには会っていただけないですか?」
「約束はできない。できないが……彼女は今、どこに?」
「オズワルドさんが今いる場所を言うほうが先です。安心してください、ジャスミンさんにはバラしません」
 という努力をします。
「……チェックアウトしてきたからな。とりあえずこのイブースキで空きがある宿を探してみるつもりだ。どこか、というのは今はわからないから言えない」
「わかりました。私とジャスミンさんは、ユーヴィンの『草の戸温泉』という宿にいます。できるだけ……船が運航再開するまではできるだけ長居するように努めますから、ジャスミンさんに会いにきていただけますか?」
 無理だろうな、とは思う。
「私とジャスミンさんのほか、もう一人ターニーって女の子もいます。私とジャスミンさんが不在でも大丈夫なように、話は通しておきますから」
「……約束はできん、できんが」
 ? 何だろ。
「ティアさん、ターニーさんとくれば帝国領に住んでいる人間としてはどうしても『あの方々』を連想してしまうのだが」
 そう言って、私の妖精の羽をチラ見るオズワルドさん。
「あ……えーと、そっ、」
 だからとっさの嘘が以下略。くっそう、不意打ちだった。
「まぁ、そういうことです」
 白旗です、えぇ。でもまぁバレたところで何がどうなるってもんでもなし。
「それはご無礼をつかまつった。改めて自己紹介させてください、私はメラク王国騎士団の……いや、元が付くか。隊長職を務めていたオズワルド・フォーマルハウトと申す者です」
「それはご丁寧に。ベネトナシュ王国は揺光の塔を守護する妖精族の、ティアと申します。ジャスミンさんとは、アルコルの港で出会って……意気投合したっていうのかな。友人なりたてのほやほやですね」
 そういやジャスミンさん、オズワルドさんに恋してるんだっけ。オズワルドさんはどうなんだろう?
「オズワルドさんは……ジャスミンさんを『好き』ですか?」
「好き、なのだろうとは思う。だが、私にはその資格が、」
「資格の話は今はいいです」
 堂々巡りになるもんね。
「ジャスミンさんは……もう私が言うまでもないですよね、自らの寿命を削っていくつもの国を越えてオズワルドさんを探しにきています」
「……今は、勘弁してくれ」
 うーん、潮時かな? 船の運航再開までにイブースキに滞在するという言質を取っただけでもよしとしとこうか。まぁそれ守ってくれる保証はどこにもないけど。
「わかりました。それでは、ユーヴィンでお待ち申し上げております」
「……その前に」
「はい?」
「私の怪我を直してくれたのはティアさんなのでしょう? 前世も含めて、本当にありがとうございました」
「いえ……それじゃ」
 羽をゆっくりとパタつかせてテイクオフ。上空からチラと振り返ってみたが、オズワルドさんがこちらを見上げて私を見送ってる。
(来てくださいよ。絶対に)
 今はただ祈るだけしか、信じることだけしかできない。お願いだから、私に『これだから人間は』なんて言わせないでくださいね? 頼んだよ、茉莉花ちゃん――。


「おかえり、ティア」
『ティアさん、お疲れ様です!』
 宿に着くころにはすっかり陽も暮れて、ヴェイプ組が先に帰還してた。
「ただいまです! いやぁ、イブースキは広いね。探すのにちょっと時間かかりそう」
 何か訊かれる前に先手を打っておく。
 オズワルドさんを見つけてしまったことは当面の間は秘すつもりなので、何か訊かれてボロを出すわけにはいかない。妖精族は『とっさの嘘をつく』のが大の苦手なのはご存じのとおりだけど、あくまで 『とっさの嘘』の場合。あらかじめ嘘をつくと決めておけば、何の問題もないのだ。
「そうだ、ジャスミンさん。もしジャスミンさんさえ良かったらなんだけど……」
『何でしょう?』
 ジャスミンさんは、私とターニーが泊まっている本館とは渡り廊下でつながっている別館に部屋をとってる。基本こっちが作戦メインルーム扱いなので、ジャスミンさんは都度行ったり来たりしているわけで。
「こっちで三人、寝泊まりしません? 他人と一緒に、てのが大丈夫なら」
『え、いいんですか? 実はターニーさんとも話してたんですけど、ティアさん次第ってことになってたんですよ』
 それは重畳。大歓迎です、ハイ!
『じゃあ私、荷物取ってきますね!』
「ボクはフロントに。まだ知らない帝国語とかあるだろうから、宿の人との交渉はボクに任せて」
『お手数かけます』
 そんなわけで、とんとん拍子に話が進む。
「あ、ターニー。私も行くよ」
「いや、ティアはここにいてよ。ジャスミンさんが先に戻ってくるかもだから」
 あ、そうか。
「じゃあお願いね。ジャスミンさんも慌てなくていいからね?」
『はい』
「じゃ行ってくる!」
 慌ただしく二人が出て行って部屋で一人、私は安堵のため息。良かった、うまくやり過ごせた。
 先に戻ってきたのはジャスミンさんだった。ほどなくしてターニーと、仲居さんが二名。お布団持ってる、ジャスミンさんのだな。
「お敷きしますか?」
「あ、大丈夫です。ありがとうございます」
「わかりました、それではごゆっくり」
 敷いてもらってもよかったが、女子三人でキャッキャッしながら布団を敷くのも、また楽しいと思ったから。
「さーて、念願の温泉!」
 ターニーは上機嫌だ。
『ターニーさんが念願なのは、お酒なのでは?』
 今日一日一緒にいたヴェイプ組、仲が進展したのかな? ジャスミンさんがニヤニヤしながら、ターニーに茶々を入れる。
「なんだかつまんない」
「何がよ、ティア」
「私の知らない間にターニーとジャスミンさん、仲良し度が進んでない?」
 うーん私、メンタルが狭量すぎる。
「何よ、仲良し度って。でもまぁ、そうかな?」
『そりゃまぁ今日は一日一緒でしたし……もしかしてやきもちですか?』
 泣きそう。こっちだって、元ニホン人という縁がですね! ってそれをこの場で口にするわけにもいかず。無念の白旗を挙げてみる。
「あぅ……そうです、やきもちやきました」
『え?』
 軽くからかっただけのつもりだったのか、ジャスミンさんが戸惑いを隠せない。そして、『クックック』と口を押えて小さく笑うターニー。
「ティアってさ、むやみやたらに意地を張らなくて。こういうとき、素直に言っちゃうんだ。言ったとおりでしょ?」
『なるほど。かっ、』
 かっ?
『かっ、わいい~!』
 さよか。というか、二人で私について何の話してるんですかね。
「ところで、ティア。わかってるよね?」
 何がです?
「ボクが二十四回、ジャスミンさんが九回」
 あ……あぁっ!
「わ、忘れてた‼ てか温泉でやるの⁉」
『温泉じゃないところで乳出すの抵抗ないなら、ここでもいいですけど?』
 誰だ、このジャスミンさんの皮を被ったジャスミンさんぽい人は。
「う、温泉でお願いします……」
 でもジャスミンさんが私にも遠慮がなくなってきてるのが、何だかとても嬉しかったりもするな。
「じゃ、行こ行こ!」
 と言いながらターニー、指をビンッビンッとデモンストレーションをしてみせる。何故たかが人差し指をピンッてしただけで風切り音が聴こえるんですかね?
 ジャスミンさんも、そこでコッソリとチクピンを練習してるんじゃないっ‼
「あぁ、そうだティア。ちょっと二人きりで話したいことあるから、後で時間もらえる?」
「? いいよ」
 何だろ。このとき、私はすでに重大なミスをしていることに気づいていなかった。


「いいい、いったぁ~い!」
「ちょっとやりすぎちゃったね……ごめん、ティア」
『ティアさん、大丈夫ですか?』
 温泉から上がり、脱衣所にあるソファに座り込んで両胸を押さえたままウンウン唸る全裸&羽の私。合計三十三回のチクピンで、無事に私の『処刑』は完了した。
 周囲の浴客の目もなんのその、歯を食いしばって後ろ手に組む妖精の全裸の女の子の乳首を、これまた全裸の女の子二人が指でばちんばちん弾いてるのだ。
 三人ともお湯に浸かってるときにやってたのである。傍からは、どれだけ奇怪に見えただろうか。
 よく通報されなかったな? というか心配したおばあちゃんの浴客が本当に従業員を呼びに行きそうになったので、三人で慌てて『ふざけてるだけなんです!』『そうです、そうなんです!』と慌てて言い訳をして留まってもらったのだけど、本当に顔から火が出るほど恥ずかしかった。
「大丈夫ですか?」
 そんな私を心配そうに、綺麗なお姉さんが話しかけてきた。あちらも全裸だ。
「大丈夫です。ご心配ありがとうございます」
 いや全然大丈夫じゃないぞ、ターニー。つかお前が答えるな!
「でも……」
 そのお姉さん、私を見て大丈夫そうじゃないことを察してくれて。
「ちょっと失礼します。手をどけてもらえますか?」
「?」
 痛みで朦朧としている私、知らないお姉さんに言われるがままに胸をポロリ。
「これは痛そうですね……」
 私は無関係ですよみたいな顔をして、そっぽ向くターニーとジャスミンさん。あのねぇ。
 そのお姉さんが、私の胸先に手をかざす。
「ちょっと熱を感じるかもしれないけど、我慢してください。『鎮痛ロキ・ソニ!』」
 お姉さんの両の手のひらから白い光が顕現し、優しく私の胸を包む。ぽわわわ~んと胸先が熱くなったんだけど、熱いというよりむしろ心地いい。
「あ、あれ? 痛くない⁉」
 これは痛みを鎮める魔法? 凄い!
「良かったですね。では、私はこれで」
 いやもう神様仏様女神様! 私は地獄で聖女様と出逢った!
「ありがとうございます!」
「いえいえティアさん、お気になさらずに」
「え?」
 お姉さんはそう言って、これから温泉に入るところだったのだろう。きびすを返して温泉に向かって行った。
「今のお姉さん、ティアの名前言ったよね? 知り合い?」
「ううん、知らない人だけど……でも、本当はよく知ってる人なのにっていう。何だろ、この感覚?」
『既視感ですか?』
 それに似ているけど、そうともいえない感じ。
「う~ん?」
 いくらトレントの呪いが作用してたとはいえ、このとき気づけなくて本当にごめんねアンさん!
「そういやティアって、自分のことは治癒できないんだっけ?」
「んにゃ? そんなへっぽこ仕様には心当たりないよ?」
『じゃあ、ご自分でも治せたってことですか?』
 真実というのは、時に虚偽よりも凶悪な剣になることがある。あ、ダメだ。落ち込む。
「まぁまぁ!」
 ターニー、笑いをこらえながら。くっそう。
『なるほど、これがポンコツ……』
 ジャスミンさんも、遠慮がなくなってきたな⁉
 とりあえず浴衣姿に戻り、部屋へ戻るその途で。宿内に土産物屋があったので、なんとなく寄ってみることに。
『アハハハハハ! これって勢いで買って、家に帰って使い道に困るやつ!』
 とか言いながら、ユーヴィンの地名が焼き印されている木刀(売り物)を持って一人バカウケしてるジャスミンさん。ま、わからないでもない。
 ほかにも、何に使うのか謎すぎる珍品を手に取っては一人で笑い涙を流すジャスミンさん。温泉でお酒呑んだから真珠を回収する手間が省けたのは何よりだ。もう何だか慣れてきたな(何に)。
「ジャスミンさん、楽しそうだねぇ」
「カラ元気かもよ? オズワルドさんが見つからないまま、どんどん時間がすぎていってる」
 どうしようかな。早く茉莉花ちゃん、来ないだろうか。それとも私が教えちゃう?
「そのことなんだけどさ。さっき部屋で言ったじゃん? 二人きりで話があるって」
「あぁ、うん」
 ジャスミンさんは結構店の奥まで行ってるので、事実上二人きりになってるとはいえる状態。ってときおりジャスミンさんのバカ笑いが、店の奥から聴こえてくるのだけどね?
「手短に済ます。ティアがごまかすかどうかは、反応見ればわかるから」
「え?」
「最初に宿に帰ってきて、ティアはオズワルド様を見つけられなかったことを自己申告したけど、ボクたちのほうはどうなったか訊かなかったね?」
 あ……。そうだ、確かに不自然すぎる。
「見つけたんだね?」
 二の句が告げなくなってる私に、ターニーが畳みかけてくる。
「……うん。オズワルドさんと、ちょっとだけ話しをしたよ」
 まずいな、ジャスミンさんに聞かれたくない。
「大丈夫、ジャスミンさんには言わない。だけど、簡潔に教えて。やっぱりオズワルド様はジャスミンさんから逃げ切りたい感じ?」
 ターニー、私の気を察したのか小声になる。
「基本は。でも会いに来るようにとは説教?したんだけど、とりあえず船の運航再開まではイブースキに留まっててもらってる」
 さすがにオズワルドさんやジャスミンさんの前世のことをターニーに話すわけにはいかないので、そこは秘して。
「来てくれそうな感じ?」
「信じるしかない感じ」
 私のその返事を聴いて、ターニーの表情が曇る。
「最悪、無理に引っ張ってくるのは有りだと思う?」
「それはできるだけ避けたい」
 私も考えなかったわけじゃないんだけど。もし有人君として、茉莉花ちゃんとしての両名の前世を知らなかったら、むしろそうしてたと思う。
 私たち二人考えがまとまらないまま、事態は翌朝に急展開を見せた。朝食後に館内放送で聴いた内容。なんと、午後からイブースキ発の定期船の運航が一部の便で再開するというのだ。
 イブースキにいるオズワルドさん――茉莉花ちゃんの耳にも当然入っているだろう。事が事だけに、彼(彼女)も急に結論を出すのは難しいかもしれない。
(どうする……どうする、私!)
 『そう』することが正解なのか、もうわからない。わからないけれど、このままではオズワルドさんは黙って去ってしまうだろう。私は、決意を固めた。


「ターニー、ちょっと席を外してもらえる?」
 イブースキからの船便が再開すると知って、ソワソワしていたジャスミンさん。当然ながら、イブースキへ向かうべく用意を始めた。
 それを見ながら、どうしていいかわからない体のターニー。私をチラチラと見ながら、何らかのアクションを起こすべきかどうかのタイミングを計っている。
 ターニーには申し訳ないけど、ここはやっぱり言っておくべきだと思うんだ。だから。
「ボクに聴かれたくないこと?」
「ありていに言えば、そう」
「ふーん、まぁいいけど?」
 ターニー、ちょっと不機嫌。ほんと、ごめんね!
「マジごめん。あとで好きなだけ乳首捻らせてあげるから!」
 何言ってるんだろう、私。さすがにターニーも吹き出して、
「ティア、忘れないでよ!」
 と言って部屋を出て行った。
『あ、あの?』
 戸惑うジャスミンさんを手で制して、ちゃんとターニーの足音が遠ざかるのを確認する。そして――ニホン語で。
「ジャスミンさんじゃなくて、有人君。あなたに、聴いてもらいたい話があります」
「小津、有人としての私に……ですか?」
「うん」
 ジャスミンさんにオズワルドさんのことは言えない、言わないって約束したから。だけどだけど! もう屁理屈もいいところだけど、茉莉花ちゃんのことを有人君に言うのはいいよね⁉
「あの日、有人君が前世を教えてくれた晩。通報したのが偶然にも通りかかった前世の私、尾先ゆらだって言ったのは覚えてるよね?」
 そう、ジャスミンさんの前世をあの晩に聞いて。ただあのときは、そばで泣いていたあの少女の『それから』を知らなかったから、そこは特に話さなかったんだ。
「あ、はい。その節はありがとうございました」
 何か大事な、とてつもなく大事な話が始まるのだと察したジャスミンさんの瞳が、まっすぐに私を見つめる。
「私が今から話すのは……とっても哀しい生き方と死に方をした、一人の少女の話です」
 そして私は口を開く。茉莉花ちゃんの慟哭の物語を、始まりの涙と終わりの涙を。
 すべてを話し終えたとき、時計の針はもう正午が目前になっていた。
「――そして茉莉花ちゃんは有人君が亡くなったのとほぼ同じ場所でトラックに轢かれ、十七年の短い生涯を終えました」
 話を聞いている間、途中からずっと泣いていたジャスミンさん――有人君。だけど、オズワルドさんが茉莉花ちゃんというのは話せない。だからそこはあえて外した。
「茉莉花のバカ……私は、そんな生き方をしてほしくて助けたんじゃないっ!」
 うん、だよね。
「それに父さんと母さんのことも。もう、何て言っていいのかわからない……」
「有人君……」
 しばらく、ポロポロと涙をこぼしていたジャスミンさんだったけど。
「……あの、ティアさん?」
「何でしょう?」
「茉莉花のこと、教えてくれたのはありがたいんですけど。何でこのタイミングなんでしょうか?」
 ですよねー。
「ジャスミンさん、手を出して!」
「は、はい⁉」
 ジャスミンさんは反射的に、両の手の平を出してきた。
「右だけでいいです」
 私はジャスミンさんの右手首を握る。
「一句、できました」
「な、何のことでしょう?」
 目がハテナマークのジャスミンさんだったが、構わずに。私はジャスミンさんの右の手の平に文字を書く。
 ジャスミンさん何がなんだかわからないまま、それでも自分の手の平に集中して一字一字を読み取ろうとする。
「以上です」
「……あの、どういう意味なんでしょうか?」
 ふむ、ちゃんと読み取れたみたいね。
 時計を見上げると、ちょうど正午だ。
「馬車じゃ間に合わない。私の羽で、イブースキまで連れて行ってあげます。かなり早く飛ぶので身体に負担がかかりますが……」
「茉莉花のことはともかく、今はオズワルド様ですね! わかりました、よろしくお願いします!」
 そして私は身支度を終えたジャスミンさんを後ろから抱きかかえて一路、イブースキの港を目指す。
(ターニーに説明してくるの忘れた……)
 乳首を捻りあげられるだけで済むだろうか。後が怖いな。痕も怖いけど、なんて。
 やがてイブースキの海が見えてきたのだけど、だけど……沖に船影が見える。そしてそれは、少しずつ遠ざかっているのだ。
「もう出航してる⁉」
「そんな!」
 普通に考えれば、船まで飛んでいけばよかったのである(無賃乗船になっちゃうけど)。
 だけどジャスミンさんの口から出たのは、とんでもない要望だった。
「私を海に落としてください!」
「へっ?」
「落下と同時に人間化の魔法を解きます! 後は泳いで追いつきますから!」
 ちょちょちょちょっ、ちょーっと待って! 何言いだすの、この子。
「大丈夫、このまま船まで連れていってあげるから!」
 私はてっきり、ジャスミンさんが狼狽のあまりそう言いだしたのだと思ってたんだ。だけど、違った。ジャスミンさんは、自らを抱えて飛んでいる私に振り返ってニコッと笑って。
「ここまで連れてきてくださり、ありがとうございます。でも最後ぐらいは、私に追いかけさせてくれませんか?」
 そうしたい気持ちは、なんとなくわかった。だから――。
「ジャスミンさん。せわしないけど、ここでお別れです」
「はい、今までありがとうございました。ターニーさんにお別れが言えなかったのは残念でしたが、よろしくお伝えくださいますか?」
 何か、二人とも泣いちゃってんの。
 そしてほどなくして、私たちは海上の上空に突入した。
「では、行きます!」
「はい!」
「ジャスミンさん、『また』ね!」
 そして私は、両手を離す。ジャスミンさんが海に落ちていきながら、途中でその下半身が光に包まれるのが見えた。
 そしてボチャンと落下した後は……下半身が魚の姿のジャスミンさん。ワンピースを着て旅行カバンは抱きしめた姿がシュールだ。
 そして空中での私も顔負けのスピードで、ジェットエンジンでも付いてるのか海中をグングン進んでいく。
「イケメンだなぁ」
 思わず、苦笑いがこぼれる。
 楽しい人だったな、ジャスミンさん。オズワルドさんのこと、絶対に捕まえなさいよ! そして今度こそ放しちゃダメだ。
 そしてまた会おうよ。ターニーとまた三人で、お酒呑んでバカみたいにはしゃごう。それまでは寂しいけど、ほんのちょっとだけのお別れ。
 だから、また会える日を楽しみにしてるからね!


「まったく、君という人は……」
 オズワルド様が、呆れたように私を見ている。
『逃げるからですよ!』
 私はあの後、魚雷よろしく船を追尾。追いついて並走したはいいが、この状態でどうやって船に乗ればいいのやら? 仕方ないので……。
『オズワルド様―! オズワルド様―!』
 海面から上半身を出すクロールっぽい泳ぎ方に変更して、声の限り叫ぶ。海霊語だけどね。
 滅多に見れない人魚が何ごとか叫びながら船に並走しているものだから、デッキには次々と乗船客が集まってきて……ちょっとした珍獣扱いになってしまった。
『オズワルド様―! いらっしゃいますかー?』
 ここで私、重要なことに気づいてしまう。
(そういやこの船に、オズワルド様乗ってるんだろうか?)
 私もティアさんも沖に出航済みの船を見て狼狽しちゃったから、そこらへんの確認がスッポリ頭から抜けてた。
(やっべー、いなかったらどうしよう!)
 ふと、デッキの下の階。船の外壁に並んだ窓が目に入る。そこはどうやらレストランのようで、食事中の乗船客たちが見えた。
 窓がはめ込み式になってるもんだから、レストランの客は私の声にもデッキでの騒ぎにも気づいていないみたい。と、一人でワインを飲んでる男性が目に入って……私と目が合った。
『オズワルド様!』
 このとき叫んだのは海霊語か帝国語かニホン語か自分でもわからなかったが、えも言われぬ高揚感を感じた。やった、見つけた!
『ヨッシャー!』
 思わず海上に上半身を出して両手はガッツポーズ。うーん、私一応女の子なんだけどな?
 そしてちょうどワイングラスを口に付けたところだったオズワルド様は、イカスミよろしくワインを思いっきり吹いてしまって。
「ゲホッ……ゲホッ‼ ジャッ、ジャスミン⁉」
 そこからは、ちょっとひと騒動。オズワルド様が船長キャプテンに掛け合ってくれたようで、船は急停止。デッキから救助用のロープが垂らされ、私はそれにつかまる。
 オーエス!オーエスとかけ声よろしく引き上げられ、デッキに。
 もうね、視線が痛い。まぁ人魚なんて滅多に見れるもんじゃないからね、気持ちはわかるんだけど。
 そこへ、
「ジャスミンッ!」
 と、やじ馬をかき分けるようにしてオズワルド様が飛び込んできた。
「オズ……う? ワ、ワル、わああああああっ⁉」
 デッキに打ち上げられた私(?)をササッと迅速に姫だっこで抱え上げたかと思うと、船室へダッシュのオズワルド様。人の壁が、無残にもオズワルド様に吹っ飛ばされてしまったのはご愛敬。その走るスピードと勢いがあまりにも早くて目が回りそうで、私軽くパニックです。
 そのまま、オズワルド様がチケットを買っていたであろうコンパートメント(個室)に連れ込まれて。
「ジャスミンッ! 何て無茶をするんだ‼」
 何か本気で怒られてるんだけど、本気で怒ってるのはこっちですよ?
「オズワルドサマ、アイタクテ、ワタシ。ゴメナサ……」
 でもまぁ無茶をした自覚はあるので、一応謝る。もう逢えて嬉しいのか心配かけて申し訳ないのか、自分でもよくわからない涙が出て、それらが真珠となって床を転がっていく。
「いや……謝らなければいけないのは私のほう、だな」
「オズワルドサマ、ワタシ、ツイテク。ドコイク?」
 あ、人魚のままじゃ不便だな。私はブレスレットの宝石部分に指を当てて、再び人間化に。
「ちょっ、ちょっと待てジャスミン!」
 何かオズワルド様が大慌てになるんだけど、そのまま魔導具の光は再び私の下半身を人間体に変化させる。
「あぁ、あぁもう何て無茶を!」
 頭を抱えて、泣きそうなオズワルド様。いったい⁉
「話はティアさんから聞いた。その魔導具を使ったら寿命が縮むそうじゃないか! 私は君が人魚でも、人魚のままでもいいんだ‼ 私はそのままの君を愛している!」
 ……はい?
 何が何だかよくわからなくてポカーンとしたままの私を、オズワルド様が抱きしめてきた。力が強くて、ちょっとキツい。
「もう私のために無茶はしないでくれ、無理はしないでくれ! もう逃げない、逃げないから君も約束してくれ……」
 最後のほうは声が揺れてる。そして私を抱きしめたままのオズワルド様、泣いてる? 背中に熱い水滴がかかるのがわかる。
「オズワルドサマ、ワタシ、スキ?」
「あぁ、好きだ」
「アイ、シテル?」
「もちろんだ」
 胸がいっぱいでいっぱいで、もう言葉が出てこない。
 そっか、やっぱり私はオズワルド様に恋してたんだね。今さらかな。
「オズワルドサマ、ヤクソク。モウ、ジブンノコト、エート」
 うーん、もう自分が他人を不幸にするなんて考えないでくれって言いたいのだけど、帝国語ぉ~っ⁉
(あれ?)
 オズワルド様と、誰かの影が重なった。何だろう、この感覚は?
 自分のせいで他人が不幸になるのだと、その罪は償わなければいけないというこれまでのオズワルド様の態度に、記憶の中の一人の少女が重なる。
 そうだ、あのときティアさんが私の手のひらに書いたのは。

茉莉花まつりかの 涙の蜜を その袖で』

 ……まさか、とは思うのだけど。
「オズワルド、サマ?」
「ジャスミン……」
 オズワルド様は、やっと抱きしめている両手を離してくれた。そしてじっくりと、オズワルド様の顔を見つめる。
「オズワルドサマ、ナイテル」
 私はワンピースの袖で、オズワルド様の頬を流れる涙を拭う。
「モウ、ナク、ダメ。ワラウ!」
「……あぁ。あぁ! ジャスミン、私は君を……愛してる」
「ワタシモ、スキデス!」
 上手く言葉にできなくて、もう一度。今度は自分から抱き付いた。
 そして初めて、オズワルド様の唇の柔らかさと優しさを知った。
 だから、だから。まぁ、いっかなって。
 いつでも『それ』は確かめることができるだろう。これから先、二人の時間はたくさんあるんだ。
 今の私はジャスミンで、オズワルド様はオズワルド様だ。
 私は人魚だから、オズワルド様より長く生きるだろう。オズワルド様の死を目にする日がくるのかもしれない。今度はあのときのように、自分が代わりに死んであげることができないけれど。
 だけどいつか来るその日に流すのは、哀しみの涙じゃない。出逢ってくれてありがとうと、愛していますと感謝する涙だ。
 そしていつかこの身が泡となって消える日まで、私はずっとオズワルド様のジャスミンでいたいなって思うんです。


【おまけ①】『二人のその後のその後』

「ふ、ふぇぇ、アルトお兄ちゃ……」
「オズワルド様、キモいからやめてください」


【おまけ②】『人魚姫の忘れ物』

「あなた、ちょっと話があります」
「なんだい、ジャスミン?」
 私たちの夫婦生活も軌道に乗り、一男一女に恵まれ幸せな家族に包まれていたある日のことだ。
 妻、ジャスミンが怖い顔をしてそう進言してきた。
「コレ、何です?」
 帝国語はもう流暢に話せるようになったジャスミンが、テーブルの上に置いた物。
 それはかつてジャスミンが、船から投げ出されて死を待つばかりだった私を助けてくれたときの、一晩裸で私の身体を温めてくれていたあの日の忘れ物。
 亡き妻から『あの人魚さんにあなたからお返ししてください。』と託された、君の忘れ物――貝殻ビキニのブラだ。
「言い訳があるなら聞きますが?」
 額に青筋立ててご立腹のジャスミン。
「コレをどこで?」
「あなたのお部屋を掃除していたら見つけました」
 可愛い奴だ、やきもちかな? そういや君に返すのを忘れていたな。
「それは……」
「そ・れ・は・?」
 ふふっ。もう憶えていないのかな?
「大事な人(亡き妻)から託された大切な宝物(君の忘れ物)だよ」
「このド変態があぁっ‼」
 ジャスミンのコークスクリューブローが私の鼻っ柱にめり込み、私は窓ガラスを砕き割りながら家の外に吹っ飛んだのだが? 解せぬ……。
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