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第1章 海の向こう
3.大事な約束
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ようやく海と再会できたのは、一週間ほど後のことだった。
あたしはいろんなところを探し回って疲れて、最後にもう一度公園に寄った。そしたら、木の下のベンチのところに、海が静かに腰かけていた。
「みっ、見つけた!!」
海もあたしに気づいて片手を挙げた。あたしは自転車を投げ出してかけよった。
「なんで? どこに行ってたの!? ていうか、そのおでこどうしたの?」
海のおでこには絆創膏が貼られている。よく見るとあごや腕にも痣や傷跡があった。
「うん……木登りしてて落ちた」
「えっ、ホントに!?」
「うん」
木登りが得意な海が木から落ちるなんて想像できなかったけど、それ以上話してくれるつもりはないみたいだった。
「今までどうしてたの? あ、家族で旅行とか?」
「まあ、そんなとこ」
「夏休みだもんね。いいなあ。うちは相変わらず妹中心でさ、お世話が大変だから今年は旅行なしだって。もうひとりでどっか行こうかな」
パンパンとこぶしを手のひらに打ちつけると、海が笑った。よかった、いつもの感じだ。
「……黙っていなくなってごめん」
「ふむ、わかってるならよろしい!」
あたしは海の肩をばしっとたたいた。「いてーよ」と海が顔をしかめた。ちょうど痣になってるところをたたいちゃったみたい。おわびに溶けかけのチョコレートスナックをあげると、海は喜んで食べた。
「あのね、ひとりで海を探し回ってるときに思ったんだけど、海が住んでいるところが知りたいなって」
短い沈黙。どうよ? どうなの?
「だめ」
海ははっきりと言った。
「あそこは千夏が来るような場所じゃない」
「そんな……」
声が勝手に震える。
「あたしたち、友だちだと思ってたのに……」
「泣くなよ」
海は珍しくうろたえた。
「そういう意味じゃないって。あそこは狭いし、散らかってるし、面白いものなんてひとつもないんだ。だからおれ、毎日公園にいたんだ」
あたしは海の言うことをがんばって理解しようとしたけれど、一度こみあげてしまったものはなかなかおさまらなくて、ひくっひくっとみっともなくしゃくりあげた。
海は「ごめん」とか「悪かった」とか、困ったように細く日焼けした腕であたしをなだめようとしていたが、とうとう根負けしたように「あーもう!」と叫んで立ちあがった。
「わかった。じゃあ紫陽花屋敷に行こう。これなら文句ないだろ?」
あたしはハッとして顔を上げた。それは町のはずれにある古い空き家で、“出る”と噂のスポットだった。子どもたちのあいだではお化け屋敷とも呼ばれている。これまで何度か行ってみようと海を誘ったけれど、海はかたくなに嫌がった。「怖がりだなあ」ってからかうと、海はますます意固地になって口を閉ざすのだった。
それなのに今、海は自分から紫陽花屋敷に行こうと言っている。
「本当に? いいの?」
「行きたくないならいい」
海はそっぽを向いた。
「ううん、行こう!! やった、すごく楽しみ!!」
さっきまでの泣きべそが嘘かと自分でも思うほど、あたしは喜びでいっぱいになって飛び跳ねた。海に飛びついたら、また「いてーよ」と怒られた。それから、他愛もないおしゃべりをして、お菓子を食べて、何を持っていくか打ち合わせをした。
「じゃあ明日、ここで待ち合わせね」
「わかった」
「約束だからね!」
「わかったって」
自転車にまたがり「ばあい」と手を振ると、海はちょっとあきれたように手を振り返した。お化け屋敷へ自ら行こうと言ったことを後悔しているのかもしれない。ふふん、今さら遅いんだからね!
ペダルをキコキコこぎながら、あたしの胸は最高にドキドキしていた。久しぶりに海に会えたことと、夏の終わりに待っている冒険とに。姿を消しているあいだ、本当は海がどうしていたのか、考えもせずに。
あたしはひぐらしがカナカナカナ……と鳴くのに合わせてハミングした。
あたしはいろんなところを探し回って疲れて、最後にもう一度公園に寄った。そしたら、木の下のベンチのところに、海が静かに腰かけていた。
「みっ、見つけた!!」
海もあたしに気づいて片手を挙げた。あたしは自転車を投げ出してかけよった。
「なんで? どこに行ってたの!? ていうか、そのおでこどうしたの?」
海のおでこには絆創膏が貼られている。よく見るとあごや腕にも痣や傷跡があった。
「うん……木登りしてて落ちた」
「えっ、ホントに!?」
「うん」
木登りが得意な海が木から落ちるなんて想像できなかったけど、それ以上話してくれるつもりはないみたいだった。
「今までどうしてたの? あ、家族で旅行とか?」
「まあ、そんなとこ」
「夏休みだもんね。いいなあ。うちは相変わらず妹中心でさ、お世話が大変だから今年は旅行なしだって。もうひとりでどっか行こうかな」
パンパンとこぶしを手のひらに打ちつけると、海が笑った。よかった、いつもの感じだ。
「……黙っていなくなってごめん」
「ふむ、わかってるならよろしい!」
あたしは海の肩をばしっとたたいた。「いてーよ」と海が顔をしかめた。ちょうど痣になってるところをたたいちゃったみたい。おわびに溶けかけのチョコレートスナックをあげると、海は喜んで食べた。
「あのね、ひとりで海を探し回ってるときに思ったんだけど、海が住んでいるところが知りたいなって」
短い沈黙。どうよ? どうなの?
「だめ」
海ははっきりと言った。
「あそこは千夏が来るような場所じゃない」
「そんな……」
声が勝手に震える。
「あたしたち、友だちだと思ってたのに……」
「泣くなよ」
海は珍しくうろたえた。
「そういう意味じゃないって。あそこは狭いし、散らかってるし、面白いものなんてひとつもないんだ。だからおれ、毎日公園にいたんだ」
あたしは海の言うことをがんばって理解しようとしたけれど、一度こみあげてしまったものはなかなかおさまらなくて、ひくっひくっとみっともなくしゃくりあげた。
海は「ごめん」とか「悪かった」とか、困ったように細く日焼けした腕であたしをなだめようとしていたが、とうとう根負けしたように「あーもう!」と叫んで立ちあがった。
「わかった。じゃあ紫陽花屋敷に行こう。これなら文句ないだろ?」
あたしはハッとして顔を上げた。それは町のはずれにある古い空き家で、“出る”と噂のスポットだった。子どもたちのあいだではお化け屋敷とも呼ばれている。これまで何度か行ってみようと海を誘ったけれど、海はかたくなに嫌がった。「怖がりだなあ」ってからかうと、海はますます意固地になって口を閉ざすのだった。
それなのに今、海は自分から紫陽花屋敷に行こうと言っている。
「本当に? いいの?」
「行きたくないならいい」
海はそっぽを向いた。
「ううん、行こう!! やった、すごく楽しみ!!」
さっきまでの泣きべそが嘘かと自分でも思うほど、あたしは喜びでいっぱいになって飛び跳ねた。海に飛びついたら、また「いてーよ」と怒られた。それから、他愛もないおしゃべりをして、お菓子を食べて、何を持っていくか打ち合わせをした。
「じゃあ明日、ここで待ち合わせね」
「わかった」
「約束だからね!」
「わかったって」
自転車にまたがり「ばあい」と手を振ると、海はちょっとあきれたように手を振り返した。お化け屋敷へ自ら行こうと言ったことを後悔しているのかもしれない。ふふん、今さら遅いんだからね!
ペダルをキコキコこぎながら、あたしの胸は最高にドキドキしていた。久しぶりに海に会えたことと、夏の終わりに待っている冒険とに。姿を消しているあいだ、本当は海がどうしていたのか、考えもせずに。
あたしはひぐらしがカナカナカナ……と鳴くのに合わせてハミングした。
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