海の向こうの永遠の夏

文月みつか

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第2章 永遠の夏

32.誰もいない

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 あたしはひとりになった。この世界の、海の向こうにいるたったひとりの人間。
 海はいない。汐里もいない。家族も、友だちも、ここにはいない。
 朝と晩が入れ替わるだけの、夏のままの小さな世界。スマホの中の日付と時刻だけが更新されていく。

 あてもなく、いるかどうかもわからない海という少年を探し続ける。一軒一軒、隅々まで。木のてっぺんから、草の根まで。歩道橋の上から、ビルの屋上から目を凝らす。車のトランクも、公衆トイレも、電話ボックスの中も探す。
 どうしても疲れてしまったときは、海岸に座って夜空の星を見る。流れ星を探せば、すぐに見つかる。まるであたしの心を読んでいるかのようなタイミングで流れてくる。
 海はどこだ。どこにいるんだ。早く、見つかりますように。

 時々、夕日の沈む海岸で黒い服の男を見かけた。汐里を探しているようだけど、あの子はもういない。あたしのリュックの中で静かに、とびきりのきらきらした笑顔でピースをしている。あの男が来なければ、彼女はまだ自由に動き回っていただろうに。くだらないことでケンカして、笑って、ここは退屈だって嘆いていただろうに。

 何の成果も得られないまま、1年、また1年と過ぎていく。

 晴夏の誕生日だけが、あたしに現実世界の時の流れを教えてくれる唯一の指針だ。
 大したものはあげていないのに、晴夏はいつも喜んでくれた。それだけで、あたしはまだまだ頑張れると思った。でも同時に、みるみる成長していく晴夏を見て焦りも感じた。このまま海が見つからなければ、あたしはどんどん追い越されて、取り残されていく。

 ここにもいない。ここにもいない。どこにも、何もない。なんでもあるようで、何も満たされない。この代わり映えしないサイクルに終わりはあるのか。

 終わり……そうか。

 あたしは港に係留されたクルーザーに乗りこんだ。運転の仕方なんて知らないけど、乗ったら勝手にエンジンがかかり、ハンドルを握ったら勝手にアクセルのレバーらしきものが押しこまれて、行きたい方向に進みだした。目指すのは沖のほう。この海はどこまで続いているのか。もしかしたらこの先に海が待っているかもしれない。確かめに行こう。
 でもすぐに、終わりなんてないことがわかった。クルーザーは真っ直ぐに進んでいたはずなのに、いつの間にかもとの島に戻ってきてしまう。

 それなら、と今度は海に潜ってみる。この海に底はあるのか。シュノーケルを使って、つぶさに観察をする。
 あまり生き物の気配はしない。底はあった。でも砂浜とあまり変わらなくて、思ったよりのっぺりしている。どうせ見えないところだからつくりこむ必要もないでしょ、というように。

 岸に上がって仰向けに寝転がる。シュノーケルを取って、耳の中に入った水が抜けていくのを待つ。
 今日もよく晴れている。雲がゆっくり流れて、波の音が心を洗い流そうとする。そんなことしないで。心が空っぽになってしまう。
 涙が耳の中に流れてきて気持ち悪かったので、仕方なく起き上がる。
 膝を抱えてわんわん声を出して泣く。どうせ誰もいないから、人目をはばかる必要もない。

 ばーか。海のばーか。こんなに探してるのに、どうして出てこないんだよ。あたしはもう、寂しくて、空しくて、消えちゃいそうだよ。いるなら、応えてよ。

 それまでやさしく吹いていた浜風が、ぴたりと止んだ。
 完璧な静寂が浜辺を満たした。
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