燦々と青がいた 〜3人のオメガが幸せな運命と出会うまで〜

鳴き砂

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第三章

砂漠の水に浮かぶ花

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「でも、僕がミドリと会えることはありませんでした。」

 アオがぽつりと言った。

◇◇◇

 事態が急変したのは、さらに三ヶ月ほど経った頃だった。

 アオのお腹は大分膨らみを持ち始め、ミドリへの愛は日に日に募るばかりであった。アオは細かい日付感覚をとうに失っていたが、お腹の中の我が子の成長を元に、何となくの月日を数えていた。

 ガチャリと硬く閉ざされた扉が開く。そこに現れたのは、紫音だった。

「し、紫音?」

 紫音は足早にアオへと近づくと、鎖で擦れて青痣となってしまった両足首をまじまじと見つけた。

「すまない、アオ。おまえに取り返しもつかないような酷い仕打ちをして。」

 紫音の目には、あの時のような禍々しい色は無く、活力が戻りつつあるようだった。

「よかった・・・・紫音が元に戻ってくれて・・・・」

小さな声でアオが呟いた言葉に、紫音は驚き僅かに目を見開いた。それから、思い詰めたように眉根を寄せた。

「アオ、アオ、すまない。おまえに俺は、これからもっと酷いことをする。一生恨んでくれていい。」

「・・・・え」

 紫音はアオを組み敷くと、まだ濡れてもいない後孔に自身の剛直をねじ込んだ。

「ぃやぁあああああぁああああぁあっ!!!!」

アオの悲鳴が部屋中に響く。

「すまない、すまない、アオ」

紫音は謝罪を繰り返しながらも、律動を緩めることはなかった。

 ぬるりと後ろから何かが伝ってきた感触に、アオが結合部を見るとそれは鮮血であった。

「ぁあ!!!あかちゃん・・・・ミドリが、ミドリが!!!!!・・・・ねがい、やめてっ!!!!!!」

アオは激しく暴れるが、長い軟禁生活で衰弱した身体は容易に紫音に押さえつけられてしまう。

「アオ、これから番を解消する」

「ぅ・・え・・・・?」

ブチッ

 頸に歯が喰い込む音がした。番の契約をされた時以上に、悲しみが胸に広がる。

「・・・・う・・・・あ」

最奥に紫音の出した熱がじんわりと広がっていくような気がした。それなのに、心は満たされるどころか、大きな穴がぽっかりと空いてしまったような虚しさを感じた。

 そして、酷く胸が痛んだ。

 
 アオは涙を流しながら、意識を手放した。


◇◇◇

「目覚めた時には、病院にいました。・・・・それで気づいたんです。ぼ、僕のお腹が、ひ、ひらたく、っ、なって・・・・い、ることに、っ、う、ぅう」

「それからは、佐伯さんの知っている通りです。大学も監禁されている間に除籍されていて、お金もなくて行くあてもなかったから、先生たちの所を転々としていました。・・・・それでも、」

 アオは、泣くことを耐えられなかった。

「ミドリ、ミドリ、死んじゃったぁ・・・・ごめんね、ご、めん・・・・」

(この子は、こんなに重たい悲しみをずっと抱えていたのか)

 佐伯はアオの元へ行き「アオ、触れても?」と訊ねた。

 アオは小さくこくりと肯いた。佐伯はアオを優しく抱きかかえると、自室へと移動した。


(・・・・あ、佐伯さんの匂い)

 アオは佐伯のベッドの上に下ろされた。

「つらい話をして疲れただろう。ただでさえヒートの後で体力も回復していないのだから。今日はもう横になった方がいいと思ってな。」

「ありがとうございます・・・・」

「きみの部屋がよかったか?・・・・と言っても、俺が傍にいることには変わらんがな。」

「いえ、あの、こっちの部屋の方が佐伯さんの匂いを身近に感じられて安心します・・・・」

アオはきゅっとシーツを握った。

「それならばよかった。俺もアオの匂いが好きだよ。」

「・・・・佐伯さん。僕をこの家から追い出さないでくれてありがとうございます。」

「きみを追い出す理由が見当たらない。アオ、きみの悲しみを俺にも分けてくれないか?」

「わける・・・・?」

「ああ、きみを悲しみの底へと一人きりにしたくないんだ。どうか、俺にもきみの悲しみを背負わせてくれないか?」

「そんな・・・・」

 佐伯は懇願するようにアオの手を握りしめた。

「どうか、きみを一人きりにさせないでくれ。俺は、アオの傍にいたい。」

「佐伯さん・・・・僕も、あなたの傍にいたい。あなたの傍にいさせて・・・・」

「アオ・・・・」

「僕は、ミドリのことを忘れることはできません。あの子を想わない日は一日もありません。・・・・それでも、佐伯さんが傍にいてくれるだけで、僕は、もう少し生きていたっていいんじゃないかと思えます。」

 アオは佐伯の手を強く握り返した。

「僕は、あなたとともに生きていきたい。僕は、あなたを愛しています。だから、どうか、僕のことも」

 アオは佐伯に腕を伸ばし抱きしめた。そして佐伯の耳元で小さく囁いた。


「愛して」


「きみ、知っているだろう?俺がずっときみを愛していることを。」

「うん」

「アオ、愛してる」

 乾ききった荒地に穏やかな水が流れて行く。それが酷く心地よい。遠くの方で金木犀の香りがした。


 それが、僕の辿り着いた場所。

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