燦々と青がいた 〜3人のオメガが幸せな運命と出会うまで〜

鳴き砂

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第四章

幼い日々 5

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「嘉月先生!隆文さん!お疲れさまでした!予定よりだいぶん早い帰りでしたね。」

 嘉月と隆文が一色家に戻った時には、時刻は22時を回っていた。しかし、透も一色の両親も、二人を待っていてくれたようだった。

「ああ、嘉月がいてくれたからな。いつもよりスムーズに終わったよ。」

「・・・・買い被りすぎだ。」

 隆文の真っ直ぐな言葉に、居た堪れなさを感じて嘉月は小さく呟いた。そんな嘉月の態度が気になったのか、透が心配そうにこちらを覗っている。そうした優しい心根も、この二人は似ているのだから、本当に番なのだ、と嘉月は場違いにもふと感じた。

「二人とも、ご苦労様でした。透くんが夕飯を温め直してくれたから、冷めないうちに召し上がってちょうだい。」

 自分のせいで変な空気になってしまった玄関先に、晶子もやって来た。今は晶子の言葉に素直に乗って、この場をやり過ごそうと嘉月は決めた。隆文にも透にも、これ以上自身の醜い姿を見せたくなかった。

「ありがとうございます。透くんもありがとう。」

 スリッパを出して優しく嘉月を促す晶子へ礼を言って、未だ心配そうに自分を見つめる透にも、沢山の意味を込めて礼を告げた。

◇◇◇

 嘉月と隆文が遅くなった夕食を取りながら、五人で思い出話に花を咲かせていたら、あっという間に夜中になっていた。嘉月が楽しい余韻に浸りながら、キッチンを借りて皿を洗っていると、透が隣りへと駆け寄って来た。

「嘉月先生、オペの後で疲れているでしょうから、僕がお皿を洗いますよ。」

「ううん。美味しい夕飯に楽しいひと時も頂けたのだから、これくらいはやらせて。」

「ふふっ!じゃあ、僕はお皿を拭きますね!」

 透は少しそわそわしていて、やはりオペ後の嘉月の雰囲気を気にしているようだった。言わなくとも「隆文さんと何かあった?」と顔に書いてある。そんな、素直な彼を可愛いと思った。


「ねえ、隆文。京くんも透くんも良い子で可愛すぎないかしら?!二人が並ぶと本当に癒されるわ~。」

 嘉月と透のぎこちない空気を察したのか、晶子が明るい口調で話し始めた。

「まったく母さんは・・・・まあ、でも、こんなに喜んでもらえるのならば、たまには二人を連れて来ます。」

 隆文も満更でもないという風に応えている。

「たまにどころか、毎日連れて来て欲しいものだな。なあ、晶子。」

 最終的には、隆文の父まで話題に乗っかってきた。やはり、血は争えない。

「そうね!お父さんも分かってるわね~!今日はもちろん泊まって行くわよね?」

「ダメです!透も嘉月も俺が連れて帰ります!」

「そんな!ずるいぞ。隆文!!」

「そうよ!独り占めだなんて!!」

「独り占めでもずるくもありません!二人は明日も仕事なんですから!・・・・ていうか、透に至っては俺の番なんですからね!」

 どんどんヒートアップしていく三人を見て、嘉月と透は顔を見合わせた。

「アハハ、隆文さん、またムキになってますね。」

「三人はいつもあんなだよね。」

 かつて嘉月が学生の頃も、遊びに行く度にこんなやり取りをしていた気がする。もちろんその時は、「俺の親友なんですからね!」だったが。

「嘉月先生が学生の頃から変わらないんですね!いいな!僕もその頃から、嘉月先生と隆文さんに出会いたかったな!」

「ふふっ。その頃は透くん、まだ小学生くらいじゃないのかな?」

「あーあ、もっと早くに産まれてくればよかったな。」

「でも、そうしたら今度はアオくんと歳が離れてしまうよ。」

 ころころ表情が変わる透を、やっぱり可愛いなと思いながら、少し意地悪なことを言えば、やっぱり慌てたような顔をしていて、思わず笑ってしまう。

「わー!それは嫌かもです!やっぱり僕は、今のままが最高に良いタイミングだったんだなぁ。」

(俺も、今の透くんに出会えてよかったよ。もし、きみが同い年だったら、俺は立ち直れないくらい隆文に失恋をしてしまいそうだから。)

◇◇◇

「・・・・っ」

 そんな酷いことを考えた罰が当たったのか。ふらりと嘉月の視界が揺れた。カシャンと音を立てて、シンクに皿が滑り落ちてゆく。

「嘉月先生?!」

「あ、だいじょうぶ・・・・ちょっと、めまいが・・・・」

「とりあえず、座ってください。」

 透がすかさず支えてくれたが、触れた所からじんわりと熱が滲み出てくるようだった。

「ヒッ・・・・うそ、なんで・・・・?!」

(こんなの、ヒートだ。この前終わったばかりだろう?!)

「嘉月?!」

 異変に気がついた隆文が、嘉月の元へと駆けつけてくる気配を敏感に感じた。その瞬間、嘉月の身体は番ではないアルファを激しく拒絶し始めた。

「あっ、こないで・・・・いやだぁ・・・・」

「透!ジャケットを借りるぞ!」

「うん!」

 ふわりと包まれた香りは、同じオメガの透のものだった。さっきまで逆立っていた神経が少しだけ柔らかくなる。

「嘉月、俺が直接運ぶよりかはマシだろう?少しの間だけ耐えてくれ。」

「いやだぁ・・・・さわ、ないで・・・・」

 それでも布越しに感じるアルファの気配に、隆文のものだと分かっていても拒んでしまう自分がいた。

「いい子だから。もう少しだ、大丈夫。」

「うっ、うぅっ・・・・」

 耳元で囁かれた隆文の低く優しい声音に、嘉月の身体は浅ましく反応した。中途半端に感じるくらいなら、全力で隆文の存在を拒絶して欲しかった。どこまでも意地汚い自分に、悔しくて涙が溢れた。

「寝かせるぞ。ここは客室だから、少しはアルファのフェロモンもましになるだろう。俺もすぐ出ていくから。」

「隆文さん!僕が抑制剤打ちますね。」

 急激な熱に浮かされて朦朧とする意識の中、僅かな痛みが太腿に走った。きっと透が抑制剤を打ってくれたのだろう。

「ありがとう。透、あとは任せた。俺は成界に連絡する。」

「そうだね、青木さんに迎えに来てもらった方がいいかも。」

 遠くで聞こえたその言葉に再び意識が覚醒して、透の腕を掴んだ。

「なん、で・・・・?せ、かいは、よばないでぇ・・・・ね、がい、おねがいっ・・・・」

「嘉月先生!!!それでも、青木さんといる時が最も落ち着くことを、あなたが一番理解しているじゃないですか!」

普段は声を荒げることもない透が、怒鳴った。

「ど、して・・・・?」

「わかりますよ・・・・!それくらい!だって、ずっと傍にいるのは、僕じゃないですか・・・・」

 左目から一筋の涙を零している透の姿があまりにも切なくて、そっと手で拭ってやる。

 そうだね、きみはいつも俺を見守ってくれていたね。

「あ、ごめ、ごめんね・・・・」

「謝らないでください。それでも、僕も隆文さんも、それに青木さんだって、あなたのことを大切に思っていることに、気がついて欲しかったんです・・・・」

「う、ん・・・・うん、そうだね、ありがとう・・・・」

 ずっと、ずっと気がつかなくてごめんなさい。


 諦めを覚え切った幼い日の自分が、どこかで、声をあげて泣いていた。

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