燦々と青がいた 〜3人のオメガが幸せな運命と出会うまで〜

鳴き砂

文字の大きさ
65 / 82
プロローグ 一色隆文と透の物語

かわいい人

しおりを挟む
「隆文さーん!起きて!」

 可愛くて愛おしい番の声が聞こえる。

「起きないと、ちゅーしちゃうからね!」

 それには正直、嬉しいだけの感情しか湧かない。
にやけそうになる口元をしっかりと結び、隆文は寝たふりを決め込む。暖かい体温がもそっと近づいてきたらと思ったら、唇に柔らかな感触がふにゃりと押し付けられた。目を閉じながら彼の頭を抱え込む。

「うわっ!!!!」

「あはははっ!」

 自分の胸へと倒れ込んできた恋人をがっしりとホールドする。逃げ出すことなんてさせない、という確たる意思を持って。

「もう!やっぱり起きてた!」

 頬を膨らませるその姿は、リスみたいで可愛い。
指通りのいい栗色の髪の毛をわしゃわしゃ撫でて、さっきのキスのお返しをしてやる。隆文のは、あんな可愛さなど無い、えげつのないものだが。

「んっ、ふ、ん、んん!!!」

 恋人が自分の肩を軽く叩いて抗議してくるが、お構い無しに甘い舌を絡み取り深く口付けた。色白で柔らかな肌だからなのだろうか、余計に頬の赤らみが目立つ。大きな瞳もうるうるしていて星が溢れそうになっていた。

「っ、ぷはぁ・・・・も、もう!朝からエッチなちゅーはダメ!!!!」

 ちゅーなんて言うんだな、やっぱり可愛い。そんな、くだらないことを思った。


「おはよう、透。」

「ん、おはよう!」

琥珀色の瞳は、朝の光のように優しくその輝きを霧散させてゆく。


 ああ、平和だ。

 
 五年前には想像もできなかったような穏やかな朝。
自分の目の前で豪快にカーテンを開ける透を見て、気づかれないようにそっと息を吐いた。


 季節は春。
彼と出会ったあの頃も桜が満開になる時期だった。しかし、きっと彼にとっては最も重たい季節だったはずだ。

 あの日、桜の木の下に横たわる彼を見つけた時、隆文は柄にもなく動揺を隠すことができなかった。自身の目に焼きついた、淡い薄桃ではなく美しいほどの赤に染まる桜の花びら。それは、紛れもなく彼の身体から流れ出る鮮血であった。


「透」

 真っ白なリネンのカーテンが風でふわりと浮く。そして、それに守られるようにして透が振り返る。

「なあに?」

 安心しきったふにゃっとした笑み。昔はこわばってなかなか見ることができなかった。それが今では、日常の一場面にしっかりと組み込まれていた。

「透」

 もう一度、呼ぶ。

「隆文さん」

 今度は自分の名前も音となって返ってくる。

「愛してる」

 言えば、彼は嬉しそうに、そして、僅かな照れを含んだ笑みを溢した。


 俺のかわいい人、この先ずっと今日のような朝を、君に捧げたい。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

ちゃんちゃら

三旨加泉
BL
軽い気持ちで普段仲の良い大地と関係を持ってしまった海斗。自分はβだと思っていたが、Ωだと発覚して…? 夫夫としてはゼロからのスタートとなった二人。すれ違いまくる中、二人が出した決断はー。 ビター色の強いオメガバースラブロマンス。

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。

忘れられない君の香

秋月真鳥
BL
 バルテル侯爵家の後継者アレクシスは、オメガなのに成人男性の平均身長より頭一つ大きくて筋骨隆々としてごつくて厳つくてでかい。  両親は政略結婚で、アレクシスは愛というものを信じていない。  母が亡くなり、父が借金を作って出奔した後、アレクシスは借金を返すために大金持ちのハインケス子爵家の三男、ヴォルフラムと契約結婚をする。  アレクシスには十一年前に一度だけ出会った初恋の少女がいたのだが、ヴォルフラムは初恋の少女と同じ香りを漂わせていて、契約、政略結婚なのにアレクシスに誠実に優しくしてくる。  最初は頑なだったアレクシスもヴォルフラムの優しさに心溶かされて……。  政略結婚から始まるオメガバース。  受けがでかくてごついです! ※ムーンライトノベルズ様、エブリスタ様にも掲載しています。

白銀の城の俺と僕

片海 鏡
BL
絶海の孤島。水の医神エンディリアムを祀る医療神殿ルエンカーナ。島全体が白銀の建物の集合体《神殿》によって形作られ、彼らの高度かつ不可思議な医療技術による治療を願う者達が日々海を渡ってやって来る。白銀の髪と紺色の目を持って生まれた子供は聖徒として神殿に召し上げられる。オメガの青年エンティーは不遇を受けながらも懸命に神殿で働いていた。ある出来事をきっかけに島を統治する皇族のαの青年シャングアと共に日々を過ごし始める。 *独自の設定ありのオメガバースです。恋愛ありきのエンティーとシャングアの成長物語です。下の話(セクハラ的なもの)は話しますが、性行為の様なものは一切ありません。マイペースな更新です。*

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです ※Rシーンを追加した加筆修正版をムーンライトノベルズに掲載しています。

【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの
BL
ーー……俺は、本能に殺されたかった。 自分で選び、番になった恋人を事故で亡くしたオメガ・要。 残されたのは、抜け殻みたいな体と、二度と戻らない日々への悔いだけだった。 この世界には、生涯に一度だけ「本当の番」がいる―― そう信じられていても、要はもう「運命」なんて言葉を信じることができない。 亡くした番の記憶と、本能が求める現在のあいだで引き裂かれながら、 それでも生きてしまうΩの物語。 痛くて、残酷なラブストーリー。

もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!

めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。 目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。 二度と同じ運命はたどりたくない。 家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。 だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。

処理中です...