燦々と青がいた 〜3人のオメガが幸せな運命と出会うまで〜

鳴き砂

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第一章

シャツの下に秘め事

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「・・・・嘘つき」

 翌朝、解熱剤を通す点滴の管に繋がれた透に、隆文は恨めしそうに言われた。透の名前は鞄の中に入っていた生徒手帳や健康保険証で確認した。ついでに血液型や性別、第二性も治療の為に把握済みだった。

「なんだ、覚えてたのか?言っておくが、警察は呼んでいない。とんだ職務怠慢だ。」

 お構いなしに点滴を交換して、体温計を取り上げる。38度8分。解熱剤を落としても、熱は下がっていなかった。

「ガーゼ、取り替えるから。少し腹見せて。」

「・・・・お医者さんだったんだね。」

「ああ。」

「腕がいいんだね。あんまり痛くないよ。」

傷口にくっつかないように加工されているガーゼに軟膏を塗って貼り替えている時に、そんなことを言われた。隆文は素早く処置を終わらせて、透の方を見る。透の瞳は、ただぼんやりと遠くの方を見つめているだけで、何を考えているのか分からなかった。

「ばーか、それだけ深いってことだよ。」

「・・・・ぃた!」

その目が嫌で、デコピンを食らわせてやった。

「これ、痕になるからな。」

「ん、いいよ。それだけ愛情ってこと。」

 ぐらりとした。その傷のどこに愛情なんてものがあるのだろうか。けれども、それを彼に直接ぶつけることはできなかった。

◇◇◇

「で、俺の所に逃げ込んで来たわけね。」

 隆文の同期である嘉月 京(カツキ ケイ)はやれやれと首をすくめた。嘉月はオメガ科の医師でもありカウンセラーも兼業している為、相談役として真っ先に浮かんだ顔だった。

「ここに入院という形で、傷が完治するまで暫くは保護できるが・・・・」

「心の問題まではね、長期的な治療が必要だろうし。それに、そこまで苛烈な虐待なら警察に介入してもらうのが一番手堅いんじゃないのか?いくら主治医だからって、多忙なおまえが片手間に抱えきれる案件じゃあないだろう?」

「・・・・生憎、その通りだ。」

 嘉月に言われたことは、今朝までずっと考えていたことだ。透がどんなに両親を愛していても、このまま放っておいたら彼自身が死んでしまう。

「それができない理由があるんだろう?大方予想はできるけど。」

「え・・・・?」

「おまえ、今日のフェロモンきついよ。セクハラ並みに。オメガの子たちに会わせたくないね。」

全く自覚していない隆文に、嘉月は今度こそ深いため息を吐いた。それからアルファ用の抑制剤を隆文へと渡す。

「これ、すぐに打ってね。即効性だから。恐らく、透くんだっけ?彼のフェロモンにつられちゃったんじゃないかな。透くんを見つけたのも偶然じゃなくて、花の香りがしたからなんだろう?」

「ああ。」

「おまえが透くんを手放せないのも、科学的には証明できないアルファとオメガの結びつきから来るものだと思うよ。事実、これまで他のオメガの患者に同じような感情を持ったことはないだろう?」

「まあ、な。毎回こんなだったら、医者辞めてる。」

至極真面目に言えば、嘉月はケラケラと笑った。

「あーあ、うちの病院のエースがこんなに骨抜きとはね。今度、俺にも会わせてよ。」

「笑い事じゃないぞ。それに、会わせるどころか、俺はおまえに透くんの心の治療をお願いしに来たんだからな。俺は、身体は治せても心は治せないから・・・・」

むっとして言い返せば、嘉月は「ごめん」と素直に謝った。

「分かった。透くんの精神的なケアはひとまず俺が引き受けさせてもらうよ。ただ、おまえのには期限を付けさせてもらう。」

「・・・・期限?」

「ああ、透くんの今後に関わっていくことを悩む期間だ。透くんの身体の傷が完治して、退院する時までだ。それまでに、彼をおまえが保護するのか、警察やオメガの保護施設に託すのかを決めるんだ。」

 嘉月の言わんとすることは分かった。透を保護する時は、二人が番になる時だ。番の結束は当人たちの間で強固なだけではなく、周囲にもその強さを発揮する。どんなに親であっても、番の関係には法的にも介入することはできない。つまり、絶対的に透を守ることができるのだ。もちろん、そのような番契約を軽々しく行うことはできないが。


 そもそも彼は、俺と番になることを望むだろうか?


 隆文の本能は間違いなく彼と番になることを望んでいた。しかし、この時の隆文は彼の問題や自身の立場などを理由に、すぐに決意を固めることができなかった。だから、嘉月の期限に甘えてしまった。

 その弱さが、彼を傷つけることになるとも知らずに。

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