燦々と青がいた 〜3人のオメガが幸せな運命と出会うまで〜

鳴き砂

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第三章

二人寄り添って 2

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 どうしたものか。バスルームでの交わりは、結果的に透の心を傷つけるものとなってしまった。二人だけの寝室でシーツを頭から被って出てこない透は、声を殺して泣いている。隆文は投げかける言葉が分からず、シーツと一緒に小さくなった彼を抱きしめた。

「ごめん、透。配慮が足りていなかった。」

腕の中でぴくりと彼が震えたのが分かった。

 お互いがお互いの熱に浮かされて、高みに到達しようとした時に、透は隆文のことを突き飛ばしたのだった。想定外の衝撃に、深い交わりも解けてしまった。そして、透も隆文も熱を放出することはもちろん無く、暫く沈黙の中にいた。

 明らかにやってしまったと後悔し青褪めた顔をした透を見て、嫌な予感が走った。

「あ、ご、ごめんなさい・・・・」

「いや、気にするな。それよりも、おまえが心配だ。」

熱いシャワーが降り注ぐ中、震えている透を抱き抱え、手早く身体を拭いてやりバスローブを着せた。透は小さな声で「ごめんなさい」と再び謝罪をすると、寝室へと逃げ込んでしまった。

 そして、今に至る。

「その、避妊を怠った俺が悪い。おまえの気持ちを知っていたのに。本当にごめん。」

 シーツ越しに謝罪を重ねる。番になる時を除けば、隆文は今まで一度も彼の中に出したことはない。透は子どもを身籠り育てることに不安を抱えていた。その不安を理解しているつもりだった。
そしてそれは、彼の過去を考えれば根深い傷にもなっている。それなのに、隆文はいっときの情欲に流されて、彼を恐怖に陥れてしまったのだ。あまりにも軽薄だった。

「・・・・がう、・・・・ない」

か細い声が聞こえた。

「え・・・・?」

 透が僅かにシーツから顔を出す。琥珀色の美しい瞳は、涙に濡れて痛々しかった。

「ちがう、隆文さんは、悪くない。発情期でもないし妊娠だってまずしない。これは、ぼ、僕が、乗り越えられて、いないから、ふっ、うっ、だから、ぼくが、ごめんなさい、ごめ、なさい・・・・」

そう言って身体を震わせている透は、必死に嗚咽を抑えているようだった。

「透!大丈夫、大丈夫だから。もう謝らないでくれ。俺がおまえの気持ちに寄り添えなかった落ち度がある。透は悪くないよ。」

「で、でもっ!!!」

「いいんだ。ゆっくりで。俺たちは俺たちのペースで行こうじゃないか。それに前にも言っただろう?俺は透が傍にいれば、あとは何だっていいんだよ。」

 透は隆文の胸に顔を埋めて、密やかに泣いていた。そうやって声を押し殺して泣く癖がある彼に、確かに痛む心はあったが、彼が安心してくれるまで、隆文は背中をぽんぽんと撫で続けた。その内に、透は腕の中で小さな寝息をたてて眠ってしまった。

「愛しているよ。」

 あどけない寝顔にそっと告げた。

◇◇◇

 寝室の壁にくり抜かれた大きな窓から、きらきらとした光が差し込んでいる。その色は何となく、隆文の腕の中で眠る恋人の、今は伏せられて見えない瞳の琥珀に似ている。

 指通りの良い髪をさらりと撫でれば、彼の表情が僅かに緩む。昨夜、あんなに泣かせてしまったのに、自分が撫でただけで幸せそうにする。その顔を見る度に、どうしようもなく愛おしいこの子を、自分の一生をかけて愛し抜こうと決意を新たにする。

 色素が薄く繊細な彼の左手を取る。更にほっそりとした指先に、隆文は一本一本キスを落とした。親指、人差し指、中指、小指。そして、最後に薬指。

「今年は桜を見逃したな。来年は一緒に見たいよ。悲しい記憶の方が多いかもしれないけれど、俺にとっては透と引き合わせてくれた大切な場所なんだ。」

 ぐっすりと眠っている恋人に話しかける。彼の首筋から、ほのかに芍薬の花の香りがする。そう言えば、季節もまた芍薬の花を咲かせる頃合いだ。この香りは、二人の幸せな生活を確かに約束してくれるものだと信じている。

 どうか、彼も俺の香りから、この先にある幸せな未来を感じ取ってくれないだろうか?

「今ある幸せも、この先の幸せも、全て君と共に享受することを。俺は君を一生裏切らない。ずっと傍にいる。透、君に誓うよ。」

 もう一度、彼の左手の薬指にキスを落とし、その指に指輪を通す。それは、全ての誓いを込めた指輪だった。彼の白い指を際立たせるように佇むゴールドのそれは、縁の全周にミル打ちが施され、中央の全周には月桂樹の葉が刻印されている。


 私は死ぬまで変わりません


死後もきっと変わらないだろうけどな、と自分の執着心に思わず笑ってしまう。そして、愛しい彼が早く起きることを心待ちにしている。


 目覚めた彼は、驚くだろうか?

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