拝啓、可愛い妹へ。お兄ちゃんはそれなりに元気です。

鳴き砂

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第二章 最強のお兄ちゃんは帝都へ行く

タツノキミさんの真実

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今朝は、セレスタイン様が皇太后の離宮へと行くため、スティヒさん、タンザナさん、ヴァーダさん、ラルビカさんも不在だった。きっと、四人がセレスタイン様の心の拠り所になってくれるはずだ。

僕は、日課となっていた四人の勉強会がなくなったので、午前中から文殿へと向かった。文殿へ着くと「コハクくんは勉強熱心だね。」と文殿付きの文官さんに褒めてもらえた。

昨夜、セレスタイン様が皇太后が二分化した政を元に戻したって言っていたから、この帝城にいる文官さんや近衛さんたちは、セレスタイン様の味方になってくれる人たちなんだろうなあ。

(セレスタイン様、どうか傷ついていませんように・・・・!!!)

僕は強い念を送りながら、いつもの机へと向かい、戦の報告書へ丁寧に目を通していった。けれども僕の場合は、カルサさんの徹底した訓練のもと、要らない情報は極力忘れられるようになっているから、見たものを全てを覚えてしまうセレスタイン様よりかは、負担は少ないと思う。

カルサさんが僕に、依頼の手伝いと称して訓練をさせたのは、セレスタイン様の悲劇があったからだと、今なら理解できる。

「やっぱりそうだ・・・・」

タツノキミさんは、初代皇帝ラリマーの頃には、殆どの戦でその姿を現していた。そこから三百年かけて徐々に姿を現さなくなり、三人目の賢帝であるクォンタムクアトロシリカ・モルダバイトの時代に全ての報告書からタツノキミさんがいなくなっていた。

試しにクォンタムクアトロシリカ皇帝について調べてみたら、僕は興味深いことを発見した。クォンタムクアトロシリカ皇帝の肖像画は、帝都で良く見る金髪碧眼であった。それ以降の皇帝の肖像画も金髪碧眼の人物が描かれていた。

「だけど・・・・クォンタムクアトロシリカ皇帝の先代皇帝から初代皇帝ラリマーの肖像画は見当たらないね。」

特にその間には、六賢帝である初代皇帝と、二番目の賢帝もいる。賢帝であるなら、肖像画の一枚でもあっていいと思うけれど、まったく無かった。
それはまるで、自らの存在を後世に残すつもりが無いようにさえ感じられる。

怪しい・・・・怪しすぎる・・・・!!!

「うーむ。それに、タツノキミさんが兵力として使われていた頃は、北方でタツノキミさんを主力とする部隊が編成されてるなあ。」

そう、北方なのだ。北方・・・・?そうだ!
僕は、帝都へ向かう前の家族会議でのガイトさんとユナカさんとの会話を思い出した。

『黒髪に紫の瞳を持つ子どもが多く生まれる場所は、統計的には北方が多いと言われているわ。』

『最も帝都から遠い北方へ、フローライト王国の民が逃げた可能性は捨てきれない。』

『でも、僕たちがいた村は、異常なほど紫の瞳を持つ者に怯えていた気がする。逃げた場所なら、もっとこう、この東方の村のようにならないのかな?』

『一千年も前の話だから、どのような経緯を辿ったのかは分からないけれど、その逆に陥る可能性も充分あるわ。』

『つまり、身を隠そうとして閉鎖的になるんだ。それこそ、コハクが教え込まれた御伽話のようなものを伝承させてな。』

『それって、自分たちで自分たちの存在を消そうとしたってこと?!』

これって、もしかして今の帝都の現状にも関わってこないかな?黒髪に紫の瞳を持つ者は、確かに今でも差別の対象になることが多い。

だけど、セレスタイン様が「色無し」であることを皇帝であるにも関わらず、帝都や帝城の人たちが忌避するのは何故か?

僕は、クォンタムクアトロシリカ皇帝が賢帝とされた理由を探ることにした。文官さんにたずねたら、クォンタムクアトロシリカ皇帝についての書物を片っ端から持って来てくれた。

『クォンタムクアトロシリカ・モルダバイトは、これまでタツノキミに頼った戦術の全てを取りやめ、近衛師団のみによる戦術で武功を立てた。その戦術は、皇帝自らが編み出したものであり、その功績を称え、賢帝の一人となった。』

同時に、この時代の帝都の風土についても調べてみた。

「嘘でしょ・・・・」

僕は愕然とした。帝都は、クォンタムクアトロシリカ皇帝の時代から、帝都の民の特色を『金髪碧眼の民である。』と定めていた。さらに、戦の主力であったタツノキミに頼らなくなった理由を『フローライト王国の王の証でもあるタツノキミは、フローライト王国の血を引く黒髪で紫の瞳の者にしか懐かず、非常に獰猛な生物である。タツノキミの鱗は銀色であり、瞳は白く、中心に紫の線が縦に入っている。鋭い牙と爪を持ち、頭部の角は非常に強固で危険極まりない。』と記されていた。

「ね、ねえ!この書物の内容は、帝都の人たちって帝国史で皆んな習っていることなの?」

僕は思わず文官さんに聞いた。

「この書物は、どちらかと言えば専門書に当たるから、あまり読む人はいないかな。もちろん、皇族の人たちは一般教養として読んでいるものだけれどね。特に、賢帝についての記載がある書物だから。」

「あのさ、そしたら帝都の人たちは帝国の歴史をどんなふうに学んでいるの?」

文官さんは、僕の気迫に押されて少し驚き気味だったけれど、すぐに対象の書物を持って来てくれた。

その内容は、さっき読んだ書物をかなり分かりやすく噛み砕いて説明されたものだったけれど、言ってることは同じだった。

「帝都も、北方の御伽噺と同じことをしているじゃないか・・・・」

時が進むにつれて、タツノキミさんは、初めて会った時のガイトさんが言っていたように、既に滅んでしまった生物とされていた。
そして、帝都の人たちにとってのタツノキミさんの書物は、フローライト王国の王の証であること、その生物は黒髪に紫の瞳を持つ者だけを好むこと、そして「色の無い生物」として、刷り込みをさせるものとして出回っていた。

これを徹底して行ったのが、クォンタムクアトロシリカ・モルダバイト。

それは、何故か?
僕の中で点と点が一本の線になって繋がっていく。

「ラリマー皇帝は、間違いなくフローライト王国の血を引く者だ。」

そして、帝国がタツノキミさんを使って領土を拡大していくうちに、モルダバイト帝国という新たな証を作ることに躍起したのが、クォンタムクアトロシリカ皇帝だ。

けれども、そこには誤算があった。

「モリオンの海龍・・・・」

モリオンの海龍が帝になれることは、つまりは、タツノキミさんを操れる者も帝になれるということを示唆していたのだ。

ラリマー皇帝は、ある意味で愚帝ではなかった。何故、フローライト王国を滅ぼし、新たな帝国を築いたのかは謎に包まれているけれど、この帝国の秘密を、戦の報告書やモリオンに散りばめて崩御した。

「やっぱり、セレスタイン様はタツノキミさんに似ているね。」

きっと、九年前にセレスタイン様も同じことに気がついたのだろう。

長い帝国の歴史の中で、歪められてしまった真実に、セレスタイン様はどれだけ傷ついただろうか?

(あの人を離宮に行かせてはダメだ!)

僕は文殿から飛び出すと、離宮へと向かって走り出した。

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