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百の魔物を産み 殺すために
しおりを挟む栃木県警広報課所属。新堂マサキ。階級は巡査部長。国家一般職試験、言う所の国家公務員2種試験を合格した準キャリア組である。
近年、地方再生事業の一環として時流を席巻したゆるキャラブームの一環に、ご当地ヒーローなるものがある。また現代では各企業が広報活動として企業のフロントに二次元キャラクターを配するケースも少なく無い。
ブレイブ・ジャッジの原型はそうして生まれたものであった。
だが鶏が先か卵が先か、都内近郊では魔物を操る悪の組織の存在が真しやかに流れ、いつしかブレイブ・ジャッジは広報看板ではなく県警の極秘プロジェクトへと変貌していったのだという。
ただ、それはあくまで秘密兵器扱いで仕舞われる筈だった。俺たちが都内で活動していた当時、本庁は組織への応対を民間企業へ一任。また、各都道府県警の縄張りの関係もあって栃木県警で抱えるジャッジが都内へ出張る事はできなかったのだ。
結局ブレイブ・ジャッジは日の目を見ることなく封印され続け、プロジェクトに紐付けられ配属された新堂マサキもまた広報課で安穏とした日々を送る筈だった。
「けれど、私たちが連中の管内に現れたという情報を掴んだ彼女たちは、同じ地区で違法取引を行うヤクザの操作に無理やり参加し、あまつさえ封印されたいたブレイブ・ジャッジを勝手に持ち出し運用した」
基地の中央休憩室。全天周モニタに浮かぶ幾つかの顔写真。化粧っ気の少ないどこかおっとりとした顔立ちで、中には警察学校のものだろう、集合写真の中、はにかんだ笑顔でピースサインを向けているものもある。
客員の手元に浮かんだ窓に写し出されるレポートは、スーチが調べ上げたブレイブジ・ジャッジの資料である。
今作戦では怪人の不具合が生じこそしたものの、ブレイブ・ジャッジは間違いなく組織に立ちふさがる敵勢力として認めざるを得ない。能力こそ未熟で俺たち数の暴力の前に手も足も出なかったが、そもそも勝てない俺たちである。
つまり、正確に言えば、ブレイブ・ジャッジを怪人の実験対象として認識したと言う事だ。
ただ問題は怪人が倒れるまでは俺たちは負けなければならないが、前回のように撤退を妨げられるとなれば話は別となる。
あの異常なまでの執念が下手をすれば組織にとって想定外の痛手となりかねない。
そういった諸々有り、ジャッジについては知らないでは済まないのである。
「当然これを受け当時新堂の上司である渦巻新一警部は謹慎処分。ジャッジは再度厳重な封印を施される事となる。
しかし私たちはヘラクレスの不始末の為、再び連中の管轄へ出向き、謹慎を受けていた筈の渦巻は命令を無視しジャッジを再度持ち出した」
「余程俺たちに恨みでもあったんかねぇ」
厳重な封印とは言え、技術供与の為招待した技術者が渦巻に協力し、渦巻はジャッジを持ち出す事に成功。高速道サービスエリアで暴れる俺たち組織に再び対峙した。
いや、最初は何故か部下に装備させていたジャッジを、今度は自分が装着し、組織に立ち向かった。
この前後に何があったのかは不明とされている。恐らく新堂も同様に謹慎処分を受けており、かつ渦巻程には血気に流行っては居なかったため命令違反には従えなかった。その為に渦巻が単独で事を起こしたと考えるべきだろうか。
「ともあれ、そうしてヘラクレスと対峙した渦巻警部だが、死亡が確認されている。つまり現在のブレイブ・ジャッジは新堂マサキと言う事になるな」
「印象だけで言えば最初の彼女はとても荒事向きではありませんでしたね。ピーピー泣いてましたし」
「一方の渦巻は正義感が強すぎたが為に広報課勤務に回される程。渦巻に振り回されていた彼女が、しかし今回になって随分と張り切っていたじゃないか」
しかし今更ながら、こう、絵面的にはどう見ても幹部会議みたいな流れの場所に、どうして一介の戦闘員の俺が立ち会っているのか。
いや解っている。そもそも幹部なんざ数える程も居ないのだ。というか戦力自体が俺を含めて三名しか居ないのだ。そりゃ上下がウンタラ言ってる場合でもなく、どのみち幹部から下位構成員へある程度は周知が成されるならば、いっそ参加させてしまった方が話が早い。
「そりゃあ、あわーい恋心的なアレが復讐に燃えてーって流れじゃねぇの?」
「まぁ、恋心はどうあれ親しい同僚、先輩ならばそういう感情でしょうね」
「……やり辛いね」
あくまで実験の為に茶番を演じる俺たちである。やたら燃え上がる相手というのは、温度差もあるが、前回のように想定以上の執念で行動されるケースもあり、感情的な行動の様に読み辛い行動というのは遠慮したいのが本音であろう。
そもそもが敵である。相互理解等と御為ごかしは望むべくもない。価値観が違う。曲がりなりにも悪を名乗る組織だ。時として人を殺す事も想定に入れるし、そうしてきた。
俺もまた、何とか一般人、悪ではない立場に縋り付こうとはしているが、それでも見捨てて来た死は、出くわしてきた死は多い。
それは心が慣れてしまうには十分な程には、見続けてきたのだ。
やっている事は所詮テロで暴力だ。一般人の被害を抑えようとするのも、組織の自力が未熟故に敵勢力を刺激しない為の手段でしかなく、それも完全では無い。そして同時に、俺たちとていつ敗れ果てるか。それが早いか遅いか。
方や、警察とは言え広報課。ましてや身近な者の死を経験したジャッジ。
この温度差は到底埋められる物ではないだろう。
だから必要な事は、敵がそうであると言う認識だ。
今回でこそ、突如現れた謎の触手がジャッジの行く手を阻み逃げ切れこそしたものの、凡そあれで挫けるとも思えない。何度となく彼女は俺たちの前に立ちふさがり、そして撤退に追いすがる事だろう。
「撤退を早めるか、足の破壊か」
「だなぁ。どうしたって随伴は地面の上だ」
「まぁ、兎角次だ。今回の魔物の現象についてだが」
今作戦に投入されたC-wg型に起こった器官の異常。呼吸の異常から始まり、吐血。最終的には自滅に近い形で怪人は倒れた。これは性能試験以前の問題であり、現状組織にとっての重要事項であろう。
フレイの視線が室内の影に控えるスーチに向けられる。
一歩前に進みモニタの光に照らされると、スーチは腕を一つ振るい目の前に巨大なモニタを出現させた。
「はい。揚羽の持ち帰った唾液からヒト型の風邪菌が検出されております。これに感染したもと考えられ、細胞実験を行いましたが変異細胞自体に反応は見られませんでした。と言いますのも、ヒトと獣では風邪症状を起こすウィルスが別であるからで、ヒト型のウィルスではペット等は感染しません。
ですが怪人はベースがヒトでありますので、許可頂ければ試験体一体を用いて検証に移りたいのですが」
「うん。やってくれ。同じ事が二度続いてはこの先に支障を来すからね」
「かしこまりました」
思い返せば確かに、俺は風邪を拗らせた一般人をあのビルで目撃していた。あの男はマスクをしていたが、マスクも完全ではない。
だが、そうと決まった訳でもない。
「では、最後だが――」
「あの植物な」
最大の問題。目の前で起こった異常。
アスファルトを割き蠢き、俺たちを通した後にジャッジの行く手を塞いだ存在。
凡そ敵対する存在ではないだろうが、味方かどうか。間違っても自然発生した現象でないのなら、誰が、何の為に。
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