60 / 73
3 砂漠化の謎を探る
3-7.壁のあちらとこちら
しおりを挟む
私たちは、久しぶりに、王都の向こう側を飛んでいた。向こう側とこちら側に引かれた壁は高く、一般人は門を通れないが、高く飛んでしまえば関係ない。壁を越えると、街の全てが、一気に砂に包まれる。
「ひどい落差ね」
「本当だよね。こっち側の人たちが知ったら、暴動が起きてもおかしくないよ」
黄土色一色の街を見下ろしながら、私たちは広場を目指す。上から見ていても、すぐにわかった。端切れを縫い合わせた色とりどりの日除けは、よく目立つ。
「あっ! イリスさん! ニコラウスさん!」
「あら、リック。どうしたの、その格好」
「これですか?」
リックが着ているのは、どこかで見たような、深緑のエプロン。肩紐に指を通し、リックはエプロンの生地を強調する。
「オアシスのエプロンですよ!」
自慢げに、日除けの一角を指し示すリック。
日除けのひとつは、サラの出す果実水の店だ。彼女なりにこだわった色合い、味付けの果実水が並んでいる。
「サラ、リックが手伝ってるみたいだね」
「そうなんです……あぁっ、イリスちゃん!」
視線を落として作業していたサラは、私を見るなり、日除けから出てきた。両手を広げたサラに、はっしと抱きしめられる。
「え? な、なに、サラ」
「心配、してたよー! よかった、やっぱりニコラウスさんは、イリスちゃんのことを思ってたんだね!」
肩口から聞こえるサラの声は、潤んでいる。なぜこの子は、泣きそうな声を出しているんだろう。
「イリス、どういうこと?」
ニコも困惑している。私は首を左右に振った。
「心当たりがないわ」
「ないはずないでしょ! 聞いたよ、スミスさんから。隠さなくても大丈夫、あたし、ニコラウスさんはそんな人じゃないって、わかってるから……!」
申し訳ないことに、感極まるサラの様子に、まだついていけない。
「スミスさんから……?」
「あの人、ニコラウスさんにとって、イリスちゃんは遊びだった、なんて言うのよ!」
感情表現豊かなサラは、声に怒気を含ませる。
「そんなはずないと、思ってたけど、最近ニコラウスさんはひとりでしか広場に来ないし、心配してたんだから!」
「あぁ……」
「イリス、知ってるの?」
漸く思い当たった。
ニコが連れていかれた日、たしかにスミスは、「ニコは名家のお坊っちゃんだから、君は遊ばれてたんだよ」という趣旨のことを、善意で告げてきた。
サラには、「名家のお坊っちゃん」というところだけ伏せて、伝わっているのだろう。
「知ってるけど……ここで蒸し返す話でもないわ。ねえ、サラ。私とニコの関係は、何にも変わってないわ。心配かけたわね」
「ほんとだよ、ほんとだよ。ニコラウスさんに振られて傷ついて、どこかに行っちゃったのかと思ったんだから!」
私がそんなことをするように、見えるのだろうか。サラの腕はどんどんきつくなり、耐えきれずに咳き込んだところで、やっと離れた。
「おふたりに、そんなことがあったんですか?」
こちらは、何も聞いていないらしいリックが、目を丸くする。
リックも、誤解をしたら突き進んでしまいそうなタイプだ。彼が勘違いをする前に、「何もないわ」と答える。
「リックは、サラのお店を、手伝ってるんだね」
ついでにニコが、話題を変えてくれた。
「そうそう、手伝わせてもらってるんです」
「もちろん、お給料は払ってるよ。リックは、働き者だから、助かってるの」
「へへっ」
照れ臭そうに笑い、リックは鼻の下を人差し指で擦る。
「リックが慣れてきたら、あたしがいないときでも、果実水を売ってもらえるなって思ってるんだ」
「えっ? そんなの、聞いてないぜ」
「そうよ。今初めて言ったんだから」
仲が良さそうで何よりだ。
私は、広場を見回した。日除けの下のベンチは、空きがないくらい、たくさんの人で埋まっている。嬉しい賑わいだ。
水面に輝く光を眺めながら、おいしいものを飲んで、ゆっくり語らう。それは、かつての広場の姿を彷彿とさせる、幸せな光景だった。
「イリス、アップルミント水だよ」
「ありがとう。……美味しいわね」
「だね」
ほんのりと甘いリンゴの香りと、ミントのさっぱりした後味。暑い中、渇いた喉に嬉しい味だ。ニコも同じものを持って、ごくん、喉を鳴らして飲んでいる。
「ねえ、ニコ。私、想像したんだけど」
「うん」
「この中で私たちが池に潜っていったら、相当な変人よね」
「そうだね」
この人出だ。
池の中に入って行ったら明らかに変人だし、水中からしばらく出てこなかったら、死んだと大騒ぎになる。
私はあくまでも、こっそり王城に忍び込みたいのだ。こっちで騒ぎになっては困る。
「夜にまた来る? 昼間じゃ絶対、目立つよね」
「その方が良さそうだわ」
「なんか俺たち、夜に活動するのが好きみたいだ」
ニコが苦笑する。その通りだ。砂漠の行き倒れの張り込みも、然り。今回もまた、夜に行動しようとしている。
「ま、仕方ないわね」
目立たないためには、必要なのだ。必要なら、大変でもやる。その方が良い。
「水を抜いて下に降りても、いいと思うんだけど」
「それもありだと思うわ」
ニコの提案も、ひとつの手段である。池の水を全て外に出せば、中に降りることはできる。
「ただ、あとから誰かに水を入れられたら、死んでしまうわよね」
「あぁ……そうだね」
「だから、水中で息をする魔法を、練習した方がいいと思うの」
「それ、俺が読んだやつでしょ」
ニコがにやりとする。彼は以前、王都の図書館で、私の書いた本に目を通している。
内容には自信があるが、若かりし頃いい気になって書いた本を、今になって親しい人に読まれるのは気恥ずかしい。私はわざと咳払いをして、話題をごまかした。
「……それなりの量の水を、どこかに溜めたいわ」
「俺たちの借りている、家がいいかな。あそこの浴槽、広いもんね」
ベンジャミンが貸してくれている家は、広くて立派だ。浴槽も、ひとりで入るには広すぎるほどのものがついている。
「ニコラウスさんたちは、今どの辺りに住んでるんですか?」
「いろいろあって、王都の向こう側にいるよ」
「向こう側に!」
「リック、だめ。大きな声で言わないで」
驚いたリックが大声を出すので、慌てて制した。既に近くにいる何人かが、こちらに視線を向けている。
「たまたまなのよ。長居する気はないから」
「でも、向こう側なんて……魔法が使えると、そこまで出世できるんですね」
「そうだね。その認識は間違ってないよ」
結果からすれば、ニコは魔法ができたからこそ、向こう側に行けたのである。「家族だ」と嘘をつかれ、王都の魔導士の代わりに、働かされているわけだが。
「すごいなあ。遠くの世界の人って感じ」
「そうですね。おふたりとも……」
サラが手を組んでいい、リックが眩しそうな顔をする。ニコが肩をすくめ、私は首を左右に振った。
「やめて、私たちは変わらないし、こっち側の人間だと思ってるんだから」
「そうだよ。 ふたりは俺たちの、友人なんだから。そんな目で見ないでくれ」
そう言ってはみたものの、リックとサラは、瞳を輝かせて目配せをしている。
「あたし、ふたりが出世したら、友達なんだーって自慢する!」
「俺も。俺はふたりの、弟子だからな!」
私はがっくりした。私の言葉は、彼らに全然受け止めてもらえていない。
「飲み終わった? もらうよ」
私はニコに、空になったグラスを渡す。ニコは、「美味しかった、ありがとう」と言いながら、グラスをサラに渡した。
「そろそろ行こうか、イリス」
「わかったわ。……サラに、リック。ジャックは今はいないけど、彼もだわ。広場をこんなに賑わせてくれて、ありがとうね」
改めて広場を見回す。
男女の二人組で、穏やかに話し合っている老人。日陰で休む女性のそばで、走り回る子供。果実水を飲みつつ、足を投げ出して座る青年。
「そんな、俺は全然」
「あたしだって、何にも」
「そんなことないわ。ふたりのおかげで、ここがこんなに過ごしやすくなったのよ。こういう光景を見たかったの……ありがとう」
手を差し出すと、サラが恐る恐る私の手を握る。ぐ、と握手をして、リックに手を差し伸べた。こちらもぐっと、サラより力を込めて握る。
「こちらこそ、よ。あたしたちに、こんな場を与えてくれるなんて。あたしなんか、魔法がまだ使えないのに」
「使えるようには、ならなかったのね」
「うん。だけど最近、行方不明のニュースもほとんど聞かないから、調子は良いの」
そのうち使えるかもしれない、とサラは破顔する。
「私たちのやっていたことは、サラのためにもなってたのね」
「そりゃあ、そうだよ。思い込みすぎだと言われてもおかしくない話を、俺たちはまじめに受け止めて、解決したんだからね」
「よかったわ」
屋敷に戻ろうと飛びながら、ニコとそんな会話をする。
リックたちと話して、温かな気持ちになった。彼らはいつでも私たちを受容し、笑顔で接してくれる。
彼らの生活をよくするために、王都の魔力事情を改善しなければならないと、改めて思った。
「……ただいま」
「ただいまー」
ベンジャミンに借りた屋敷には二人で住んでいるので、今は誰もいない。誰もいない場所に挨拶しながら、部屋に入ってカーテンを開ける。
日は頂点を過ぎ、徐々に落ちて行く時間に変わっていた。
「……どうする? さっそくやってみる?」
「そうしたいわ。できれば今夜、探索がてら、行けるところまで行ってみたいわね」
「だよね。俺も、そう思ってた」
ニコと私は、意見の一致を見た。浴槽のある浴室へ向かう。
「温度はどうする?」
「池が水だから、水にしましょう。じゃないと練習にならないわ」
この屋敷の好きなところのひとつに、この浴室がある。浴槽は広く、全体的に色合いが整っていてセンスが良い。なにより、浴槽が広い。
大事なことを何度も繰り返すほど、私は、ここのお風呂が気に入っている。銭湯も悪くはなかったが、他人がいるというのは、あまり予想していなかった。
「じゃ、水を入れるよ」
ざばぁ。
毎日王都に水を撒いているニコにとっては、このくらいのこと。何でもない。あっという間に、広い浴槽には、なみなみと水が注がれた。
「ひどい落差ね」
「本当だよね。こっち側の人たちが知ったら、暴動が起きてもおかしくないよ」
黄土色一色の街を見下ろしながら、私たちは広場を目指す。上から見ていても、すぐにわかった。端切れを縫い合わせた色とりどりの日除けは、よく目立つ。
「あっ! イリスさん! ニコラウスさん!」
「あら、リック。どうしたの、その格好」
「これですか?」
リックが着ているのは、どこかで見たような、深緑のエプロン。肩紐に指を通し、リックはエプロンの生地を強調する。
「オアシスのエプロンですよ!」
自慢げに、日除けの一角を指し示すリック。
日除けのひとつは、サラの出す果実水の店だ。彼女なりにこだわった色合い、味付けの果実水が並んでいる。
「サラ、リックが手伝ってるみたいだね」
「そうなんです……あぁっ、イリスちゃん!」
視線を落として作業していたサラは、私を見るなり、日除けから出てきた。両手を広げたサラに、はっしと抱きしめられる。
「え? な、なに、サラ」
「心配、してたよー! よかった、やっぱりニコラウスさんは、イリスちゃんのことを思ってたんだね!」
肩口から聞こえるサラの声は、潤んでいる。なぜこの子は、泣きそうな声を出しているんだろう。
「イリス、どういうこと?」
ニコも困惑している。私は首を左右に振った。
「心当たりがないわ」
「ないはずないでしょ! 聞いたよ、スミスさんから。隠さなくても大丈夫、あたし、ニコラウスさんはそんな人じゃないって、わかってるから……!」
申し訳ないことに、感極まるサラの様子に、まだついていけない。
「スミスさんから……?」
「あの人、ニコラウスさんにとって、イリスちゃんは遊びだった、なんて言うのよ!」
感情表現豊かなサラは、声に怒気を含ませる。
「そんなはずないと、思ってたけど、最近ニコラウスさんはひとりでしか広場に来ないし、心配してたんだから!」
「あぁ……」
「イリス、知ってるの?」
漸く思い当たった。
ニコが連れていかれた日、たしかにスミスは、「ニコは名家のお坊っちゃんだから、君は遊ばれてたんだよ」という趣旨のことを、善意で告げてきた。
サラには、「名家のお坊っちゃん」というところだけ伏せて、伝わっているのだろう。
「知ってるけど……ここで蒸し返す話でもないわ。ねえ、サラ。私とニコの関係は、何にも変わってないわ。心配かけたわね」
「ほんとだよ、ほんとだよ。ニコラウスさんに振られて傷ついて、どこかに行っちゃったのかと思ったんだから!」
私がそんなことをするように、見えるのだろうか。サラの腕はどんどんきつくなり、耐えきれずに咳き込んだところで、やっと離れた。
「おふたりに、そんなことがあったんですか?」
こちらは、何も聞いていないらしいリックが、目を丸くする。
リックも、誤解をしたら突き進んでしまいそうなタイプだ。彼が勘違いをする前に、「何もないわ」と答える。
「リックは、サラのお店を、手伝ってるんだね」
ついでにニコが、話題を変えてくれた。
「そうそう、手伝わせてもらってるんです」
「もちろん、お給料は払ってるよ。リックは、働き者だから、助かってるの」
「へへっ」
照れ臭そうに笑い、リックは鼻の下を人差し指で擦る。
「リックが慣れてきたら、あたしがいないときでも、果実水を売ってもらえるなって思ってるんだ」
「えっ? そんなの、聞いてないぜ」
「そうよ。今初めて言ったんだから」
仲が良さそうで何よりだ。
私は、広場を見回した。日除けの下のベンチは、空きがないくらい、たくさんの人で埋まっている。嬉しい賑わいだ。
水面に輝く光を眺めながら、おいしいものを飲んで、ゆっくり語らう。それは、かつての広場の姿を彷彿とさせる、幸せな光景だった。
「イリス、アップルミント水だよ」
「ありがとう。……美味しいわね」
「だね」
ほんのりと甘いリンゴの香りと、ミントのさっぱりした後味。暑い中、渇いた喉に嬉しい味だ。ニコも同じものを持って、ごくん、喉を鳴らして飲んでいる。
「ねえ、ニコ。私、想像したんだけど」
「うん」
「この中で私たちが池に潜っていったら、相当な変人よね」
「そうだね」
この人出だ。
池の中に入って行ったら明らかに変人だし、水中からしばらく出てこなかったら、死んだと大騒ぎになる。
私はあくまでも、こっそり王城に忍び込みたいのだ。こっちで騒ぎになっては困る。
「夜にまた来る? 昼間じゃ絶対、目立つよね」
「その方が良さそうだわ」
「なんか俺たち、夜に活動するのが好きみたいだ」
ニコが苦笑する。その通りだ。砂漠の行き倒れの張り込みも、然り。今回もまた、夜に行動しようとしている。
「ま、仕方ないわね」
目立たないためには、必要なのだ。必要なら、大変でもやる。その方が良い。
「水を抜いて下に降りても、いいと思うんだけど」
「それもありだと思うわ」
ニコの提案も、ひとつの手段である。池の水を全て外に出せば、中に降りることはできる。
「ただ、あとから誰かに水を入れられたら、死んでしまうわよね」
「あぁ……そうだね」
「だから、水中で息をする魔法を、練習した方がいいと思うの」
「それ、俺が読んだやつでしょ」
ニコがにやりとする。彼は以前、王都の図書館で、私の書いた本に目を通している。
内容には自信があるが、若かりし頃いい気になって書いた本を、今になって親しい人に読まれるのは気恥ずかしい。私はわざと咳払いをして、話題をごまかした。
「……それなりの量の水を、どこかに溜めたいわ」
「俺たちの借りている、家がいいかな。あそこの浴槽、広いもんね」
ベンジャミンが貸してくれている家は、広くて立派だ。浴槽も、ひとりで入るには広すぎるほどのものがついている。
「ニコラウスさんたちは、今どの辺りに住んでるんですか?」
「いろいろあって、王都の向こう側にいるよ」
「向こう側に!」
「リック、だめ。大きな声で言わないで」
驚いたリックが大声を出すので、慌てて制した。既に近くにいる何人かが、こちらに視線を向けている。
「たまたまなのよ。長居する気はないから」
「でも、向こう側なんて……魔法が使えると、そこまで出世できるんですね」
「そうだね。その認識は間違ってないよ」
結果からすれば、ニコは魔法ができたからこそ、向こう側に行けたのである。「家族だ」と嘘をつかれ、王都の魔導士の代わりに、働かされているわけだが。
「すごいなあ。遠くの世界の人って感じ」
「そうですね。おふたりとも……」
サラが手を組んでいい、リックが眩しそうな顔をする。ニコが肩をすくめ、私は首を左右に振った。
「やめて、私たちは変わらないし、こっち側の人間だと思ってるんだから」
「そうだよ。 ふたりは俺たちの、友人なんだから。そんな目で見ないでくれ」
そう言ってはみたものの、リックとサラは、瞳を輝かせて目配せをしている。
「あたし、ふたりが出世したら、友達なんだーって自慢する!」
「俺も。俺はふたりの、弟子だからな!」
私はがっくりした。私の言葉は、彼らに全然受け止めてもらえていない。
「飲み終わった? もらうよ」
私はニコに、空になったグラスを渡す。ニコは、「美味しかった、ありがとう」と言いながら、グラスをサラに渡した。
「そろそろ行こうか、イリス」
「わかったわ。……サラに、リック。ジャックは今はいないけど、彼もだわ。広場をこんなに賑わせてくれて、ありがとうね」
改めて広場を見回す。
男女の二人組で、穏やかに話し合っている老人。日陰で休む女性のそばで、走り回る子供。果実水を飲みつつ、足を投げ出して座る青年。
「そんな、俺は全然」
「あたしだって、何にも」
「そんなことないわ。ふたりのおかげで、ここがこんなに過ごしやすくなったのよ。こういう光景を見たかったの……ありがとう」
手を差し出すと、サラが恐る恐る私の手を握る。ぐ、と握手をして、リックに手を差し伸べた。こちらもぐっと、サラより力を込めて握る。
「こちらこそ、よ。あたしたちに、こんな場を与えてくれるなんて。あたしなんか、魔法がまだ使えないのに」
「使えるようには、ならなかったのね」
「うん。だけど最近、行方不明のニュースもほとんど聞かないから、調子は良いの」
そのうち使えるかもしれない、とサラは破顔する。
「私たちのやっていたことは、サラのためにもなってたのね」
「そりゃあ、そうだよ。思い込みすぎだと言われてもおかしくない話を、俺たちはまじめに受け止めて、解決したんだからね」
「よかったわ」
屋敷に戻ろうと飛びながら、ニコとそんな会話をする。
リックたちと話して、温かな気持ちになった。彼らはいつでも私たちを受容し、笑顔で接してくれる。
彼らの生活をよくするために、王都の魔力事情を改善しなければならないと、改めて思った。
「……ただいま」
「ただいまー」
ベンジャミンに借りた屋敷には二人で住んでいるので、今は誰もいない。誰もいない場所に挨拶しながら、部屋に入ってカーテンを開ける。
日は頂点を過ぎ、徐々に落ちて行く時間に変わっていた。
「……どうする? さっそくやってみる?」
「そうしたいわ。できれば今夜、探索がてら、行けるところまで行ってみたいわね」
「だよね。俺も、そう思ってた」
ニコと私は、意見の一致を見た。浴槽のある浴室へ向かう。
「温度はどうする?」
「池が水だから、水にしましょう。じゃないと練習にならないわ」
この屋敷の好きなところのひとつに、この浴室がある。浴槽は広く、全体的に色合いが整っていてセンスが良い。なにより、浴槽が広い。
大事なことを何度も繰り返すほど、私は、ここのお風呂が気に入っている。銭湯も悪くはなかったが、他人がいるというのは、あまり予想していなかった。
「じゃ、水を入れるよ」
ざばぁ。
毎日王都に水を撒いているニコにとっては、このくらいのこと。何でもない。あっという間に、広い浴槽には、なみなみと水が注がれた。
0
あなたにおすすめの小説
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【 完 結 】スキル無しで婚約破棄されたけれど、実は特殊スキル持ちですから!
しずもり
ファンタジー
この国オーガスタの国民は6歳になると女神様からスキルを授かる。
けれど、第一王子レオンハルト殿下の婚約者であるマリエッタ・ルーデンブルグ公爵令嬢は『スキル無し』判定を受けたと言われ、第一王子の婚約者という妬みや僻みもあり嘲笑されている。
そしてある理由で第一王子から蔑ろにされている事も令嬢たちから見下される原因にもなっていた。
そして王家主催の夜会で事は起こった。
第一王子が『スキル無し』を理由に婚約破棄を婚約者に言い渡したのだ。
そして彼は8歳の頃に出会い、学園で再会したという初恋の人ルナティアと婚約するのだと宣言した。
しかし『スキル無し』の筈のマリエッタは本当はスキル持ちであり、実は彼女のスキルは、、、、。
全12話
ご都合主義のゆるゆる設定です。
言葉遣いや言葉は現代風の部分もあります。
登場人物へのざまぁはほぼ無いです。
魔法、スキルの内容については独自設定になっています。
誤字脱字、言葉間違いなどあると思います。見つかり次第、修正していますがご容赦下さいませ。
無自覚人たらしマシュマロ令嬢、王宮で崇拝される ――見た目はぽっちゃり、中身は只者じゃない !
恋せよ恋
ファンタジー
富豪にして美食家、オラニエ侯爵家の長女ステファニー。
もっちり体型から「マシュマロ令嬢」と陰口を叩かれる彼女だが、
本人は今日もご機嫌に美味しいものを食べている。
――ただし、この令嬢、人のオーラが色で見える。
その力をひけらかすこともなく、ただ「気になるから」と忠告した結果、
不正商会が摘発され、運気が上がり、気づけば周囲には信奉者が増えていく。
十五歳で王妃に乞われ、王宮へ『なんでも顧問』として迎えられたステファニー。
美食を愛し、人を疑わず、誰にでも礼を尽くすその姿勢は、
いつの間にか貴族たちの心を掴み、王子たちまで惹きつけていく。
これは、
見た目はぽっちゃり、されど中身は只者ではないマシュマロ令嬢が、
無自覚のまま王宮を掌握していく、もっちり系・人たらし王宮譚。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 エール📣いいね❤️励みになります!
🔶表紙はAI生成画像です🤖
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
普段は地味子。でも本当は凄腕の聖女さん〜地味だから、という理由で聖女ギルドを追い出されてしまいました。私がいなくても大丈夫でしょうか?〜
神伊 咲児
ファンタジー
主人公、イルエマ・ジミィーナは16歳。
聖女ギルド【女神の光輝】に属している聖女だった。
イルエマは眼鏡をかけており、黒髪の冴えない見た目。
いわゆる地味子だ。
彼女の能力も地味だった。
使える魔法といえば、聖女なら誰でも使えるものばかり。回復と素材進化と解呪魔法の3つだけ。
唯一のユニークスキルは、ペンが無くても文字を書ける光魔字。
そんな能力も地味な彼女は、ギルド内では裏方作業の雑務をしていた。
ある日、ギルドマスターのキアーラより、地味だからという理由で解雇される。
しかし、彼女は目立たない実力者だった。
素材進化の魔法は独自で改良してパワーアップしており、通常の3倍の威力。
司祭でも見落とすような小さな呪いも見つけてしまう鋭い感覚。
難しい相談でも難なくこなす知識と教養。
全てにおいてハイクオリティ。最強の聖女だったのだ。
彼女は新しいギルドに参加して順風満帆。
彼女をクビにした聖女ギルドは落ちぶれていく。
地味な聖女が大活躍! 痛快ファンタジーストーリー。
全部で5万字。
カクヨムにも投稿しておりますが、アルファポリス用にタイトルも含めて改稿いたしました。
HOTランキング女性向け1位。
日間ファンタジーランキング1位。
日間完結ランキング1位。
応援してくれた、みなさんのおかげです。
ありがとうございます。とても嬉しいです!
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
辺境薬術師のポーションは至高 騎士団を追放されても、魔法薬がすべてを解決する
鶴井こう
ファンタジー
【書籍化しました】
余分にポーションを作らせ、横流しして金を稼いでいた王国騎士団第15番隊は、俺を追放した。
いきなり仕事を首にされ、隊を後にする俺。ひょんなことから、辺境伯の娘の怪我を助けたことから、辺境の村に招待されることに。
一方、モンスターたちのスタンピードを抑え込もうとしていた第15番隊。
しかしポーションの数が圧倒的に足りず、品質が低いポーションで回復もままならず、第15番隊の守備していた拠点から陥落し、王都は徐々にモンスターに侵略されていく。
俺はもふもふを拾ったり農地改革したり辺境の村でのんびりと過ごしていたが、徐々にその腕を買われて頼りにされることに。功績もステータスに表示されてしまい隠せないので、褒賞は甘んじて受けることにしようと思う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる