怪物は愛を囁く

三歩ミチ

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3.ランドルフ

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「王女殿下。久方ぶりにお目にかかります」
「ランドルフ! 久しぶり。元気そうね!」

 俺の顔面が、ランドルフの胸にむぎゅうと押し付けられた。奴の制服の生地は硬い。体はぬいぐるみでも、感覚はあるのだ。男の胸板に抱きつくのはやめてくれ、という気持ちを込めて体を僅かに震わせた。

「人前でみだりに抱きつくのはお辞めください」
「どうして?」
「もう僕達は、子供ではないのですよ」

 リーンを引き離したランドルフは、困ったように眉尻を垂らした。金の巻き髪、青の瞳。顎周りは多少しゅっとしているが、幼い頃の面影はそのままだ。

 その顔を見て、俺は内心、子供じゃねえかと突っ込む。俺のことを「小汚い熊」と言い放ったあの頃と、雰囲気は何も変わっていない。
 口には出さないけどな。確かに今は「人前」だから。

「それに、何? その話し方。楽にしてくれていいのに」
「以前の僕が、不敬だっただけです。僕は臣下の身ですから」
「ええー……」

 リーンの顔は見えない。俺は今、リーンの胸ポケットに押し込まれているからだ。顔は見えずとも、その声色から、不服そうに頬を膨らませている表情まで思い浮かぶ。
 見かけ不相応に、あどけない内面。王城で甘やかされて育ったリーンは、俺の目から見ても、危ういほどに無邪気である。

「おや……」

 青い瞳が、リーンの胸を見る。
 ヘンな目で見るんじゃねえ、と念を送っていたが、ランドルフが見ていたのはリーンではなかった。

「その熊。どこかで見たような……?」
「ランドルフに初めて会った時、もっと大きい熊のぬいぐるみを持っていたわ」
「ああ、あの小汚い熊ですか」
「覚えていたの?」
「ええ。王女殿下には、黒は似つかわしくありませんから」

 ランドルフの目が、すっと細められる。

「……その熊も、黒ですね」

 一瞬、見抜かれたかと思った。
 俺の正体を──闇から生まれた魔の者であることを。

 王女であるリーンが、魔の者を従えていたらまずい。その常識がわかる程度には、俺はこの国に長居していた。
 この国は、太陽を信仰している。眩い光を尊いものとして仰ぐ彼らにとって、闇とは悪。

「たまたまよ。小さい頃に持っていたぬいぐるみと似ていたから、買ったの」
「そうでしたか。懐かしいことです」

 気のせいだったようだ。
 それはそうだ。ランドルフから感じる魔力は、一般人と相違ない。
 リーンの規格外な魔力に隠された俺の正体など、普通の人間が見抜けるはずがないのだ。
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