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8.断罪
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「興味深いでしょう? この本」
リーンが読んでいるのは、「黒魔法」に関する本。ちょうど、魔の者を召喚する術について述べられた部分だ。
今まで誰も手に取らなかったのだろう、その本は古い割に、綺麗な状態を保っていた。
「人間界に顕現すると苦しいから、召喚者の言うことを聞くって本当?」
『それはまあ、そうだな』
俺は、召喚された瞬間のことを思い出す。大きな体はぎしぎしと軋み、傷んでいた。体が馴染むまでは、あのような痛みを覚えるのだ。
長居する間にすっかり馴染み、今は何の苦痛も感じないが。
『それに俺たちは、召喚者の願いは叶えるものだという刷り込み──本能? がある』
「そうなんだ。アンちゃんは、だからあたしの願いを叶えてくれるのね」
『リーンに、願いがあるのか?』
「あるわよ。気づいているでしょう?」
リーンは悪戯っぽく笑うが、俺にはわからなかった。リーンの願いは、おそらく、ランドルフとの幸せな生活。それを叶えることは、俺の力ではできないのだ。
「こんなもの読んでいたら、ランドルフに怒られてしまうわね」
リーンは、本をぱたりと閉じる。
『大丈夫だろう。リーンがしたいように、すれば良い』
「……嬉しいことを、いつも言ってくれるわよね。あなたがいるから、あたしは頑張れるわ」
笑うリーンの顔が妙に寂しげな理由も、俺にはわからなかった。
***
『美しいよ、リーン』
「……ランドルフも、そう言ってくれたら良いのにね」
桃色のドレスは、リーンによく似合っていた。俺は、リーンの腰を巻くリボンに挟み込まれる。見えないように、巧みに隠された。
「ごめんね、苦しくない?」
『大丈夫だ』
卒業を祝う舞踏会に、ついて行きたいと言ったのは俺だ。さすがに人形を持って会に向かうのは、淑女としておかしい。いろいろと相談して、ドレスの一部に紛れ込ませてもらうことになった。
きつめに縛られたリボンは苦しいが、構わなかった。ランドルフはアーニャばかり見ていて、リーンはいつも傷ついている。今日だって、きっとそうなる。傷つくとわかっているのに、リーンをひとりにしたくはなかった。
視界のないまま、足音と魔力だけで大体の居場所を予想する。コツコツと硬質の音が響いた後、急にたくさん人のいる場所に出た。ここが、舞踏会の会場だろう。人間の魔力が混ざり合い、何がどうなっているのか、捉えるのが難しい。
懐かしいな、と思った。
王太子を呪うために城へ乗り込んだ時も、こんな風に人間がたくさんいた。そうして、リーンが俺を見つけてくれたのだ。
「あら? ランドルフがいないわ……」
学園の舞踏会は、卒業時の成績順に踊る。首席で卒業するリーンは、婚約者のランドルフと最初に踊るはずだった。
音楽は、既に始まっている。なのにリーンの近くに、ランドルフの魔力はなかった。
「王女殿下、ランドルフ様がいないようですわ」
「まあ……卒業舞踏会なのに、エスコート役もいらっしゃらないなんて」
ひそひそ、と。
交わされる言葉は、俺の鋭い耳には届いていた。
小馬鹿にした囁きは、ここ最近では聴き慣れたものだ。
ランドルフがあからさまにアーニャを厚遇するようになるにつれ、リーンの周りでは、こうした陰口がどんどん増えた。
「困りましたわね」
誰ともなく、リーンが呟く。
その顔が、作り笑いを浮かべているのも俺は知っている。
気にしていないような顔をしていて、その実、深く傷ついていることも。
「いったん音楽を止めてくれ!」
朗々と響き渡った声こそ、ランドルフのものだった。
「なにかしら……」
不安げなざわめきが、辺りに広がる。
「リーン。ここへ」
「……はい」
ランドルフが、リーンを呼び捨てにした。今までずっと、「王女殿下」と呼んでいたのに。
「そちらにいらっしゃる陛下、そしてお集まりの皆様に、証人となって頂きたい。……僕は王女殿下の婚約者として、最も近くで、いつも過ごさせていただいておりました」
嘘だ。一番近かったのは、俺だ。
ランドルフの澄ました物言いが癪に触る。
「そして、気づいてしまったのです。王女殿下が、魔の者を従えた、反逆者であることに──」
なんだって。
気づかれていたのか。いつからだ?
リーンの手のひらが、リボンの上から俺をぐっと押さえる。リーンの魔力は、強大だ。それに包まれた俺の正体が、ばれるはずはなかった。
「なぜ、そのようにお考えになったのですか?」
「はっ! しらばっくれるのだな。ならば、証人を呼ばせてもらおう!」
会場に入ってきた魔力に、俺は覚えがあった。
「なんて酷い……そんな風に拘束するなんて」
「一度は王太子への呪いを企てた魔女に、情けをかけるのか。やはりお前は、反逆者なのだな」
「弟への、呪いを企てた?」
俺を召喚した、老婆の魔力だ。
胸が、ざわざわと落ち着かなくうごめく。
「この魔女が、自身が召喚した魔の者が、誰かによって奪われたと証言した。皆、この魔女の魔力の大きさはわかるな? 魔女から魔の者を奪うほどの魔力を持っているのは、ここに、リーンしかいない」
確かに、あの老婆もそれなりに強大な魔力を持っている。それ以上の魔力を持つ者は、王を含めても、リーンしかいない。それは歴然とした事実で。
「それに! このアーニャが、リーンが魔の者と話していると教えてくれた。俺も、確かに見たことがある。リーンはいつも、肌身離さず、魔の色をした人形を持ち歩いていた。あれこそが、魔の者だったのだ!」
いつ見られたのか?
わからないが、事実であるからこそ、心当たりは探せばあった。気の緩んだ瞬間は、きっとどこかにあったのだ。まさかそれが、俺を召喚した老婆と結びつくことなど、あり得ないと思っていた。
「俺は王女殿下と婚約していたが、この事実をもって、破棄されることとなった。……ですよね、陛下」
「ああ。皆、我が娘が騒がせてすまぬな」
それは、リーンの父の声だ。リーンの体が、ぶるりと震えた。リーンが愛する父は、どんな眼差しを、今リーンに向けているのだろう。
「リーンは反逆者として、王家の地下牢に幽閉する。反逆者である証拠を献上した功に報いるため、シェルトランド公爵家の御息女を、王太子の婚約者として迎え入れることとなった。併せて報告させて貰おう」
リーンの体が、震えている。彼女の味方は、俺しかいない。なのに俺は今、慰めることも、庇うこともできない。もどかしくて、苦しくてたまらなかった。
出て行って、リーンを守ることができたら良いのに。
それをしてしまったら、本当にリーンの立場がなくなることもよくわかっていた。リーンが今断罪されているのは、俺のせいだ。
「我が娘よ。何か、弁明はあるか」
「……いえ。ただ、私との婚約を破棄したら、ランドルフはどなたと縁を結ばれるのですか」
「さあ……わしにはわからぬ。どうだ、ランドルフ」
「ここにいるアーニャと、縁を結ばせていただくつもりですが。……その話は、この場では相応しくありませんので」
リーンは何も言わなかった。
ランドルフは、アーニャを選んだのだ。
これがリーンと縁を切り、アーニャと結ばれるために仕組まれたものであることは俺にも薄々理解ができた。
リーンは乱暴に、会場から連れ出された。金属のにおいがする。騎士達が、リーンの左右を固めているらしい。
「人形をどこに隠した! 言え!」
騎士達の魔力では、俺の居場所はわからないのだ。そう悟った俺は、とにかく逃げようと思った。このまま捕まって、祓われてしまったら、リーンはきっと酷い目に遭う。「反逆者」の末路が悲惨なものであることくらい、俺にも充分察しがついた。
「こんなところにある訳がありません。部屋に、置いてあります。きっと今頃、逃げていますわ」
リーンは、嘘をついた。
これは、逃げろということだ。
リーンの手が滑り、リボンが僅かに緩められる。今なら抜けられそうだ。
「お前は部屋を探しに行け。悪いが、身体検査をさせてもらおう」
「触らないで! ……自分で脱ぎますわ。脱いだ後の服を、あらためれば良いでしょう」
するり、と布の擦れる音。俺は体ごと、床に放られた。ぱさぱさと、上に布が落ちてくる。俺の姿が見えないよう、わざと服を上に重ねているのだ。
「やだ、見ないでくださる?」
「そういう訳にはいかぬ。何か隠し持っているかもしれん」
「隠してなど、いませんわ。肌を殿方に見られることが、恥ずかしいだけです。あなたが私の初めて、なので」
「なんと……」
魔力の揺れで、騎士の意識が、リーンに集中したのがわかった。
今だ。俺は服の隙間からまろび出て、とにかく暗がりを目指した。
目立たない場所へ。誰にも気づかれない場所へ。見つからなければきっと、リーンを助けられる。リーンの味方は、俺だけなのだ。
熊の手足では思うように移動ができなかったが、俺はどうにか家具の下に潜り込んだ。埃まみれの家具の下を通ることで、誰にも気付かれずに、城の中をうろつくことができるようになったのだ。
見えなくても、リーンの魔力を辿ることはできる。俺は家具の下に隠れたまま、リーンの連れていかれる後を追った。
「この下が地下牢だ。行け!」
リーンが連れて行かれた「地下牢」の前に家具はなく、俺は行先を見届けることはできなかった。
黒い熊の人形は、探されている。見つかったら、もうどうにもならない。策を練らなければ。
俺は地下牢に向かう階段の側の、調度品の下に身を潜め、機を伺った。
リーンが読んでいるのは、「黒魔法」に関する本。ちょうど、魔の者を召喚する術について述べられた部分だ。
今まで誰も手に取らなかったのだろう、その本は古い割に、綺麗な状態を保っていた。
「人間界に顕現すると苦しいから、召喚者の言うことを聞くって本当?」
『それはまあ、そうだな』
俺は、召喚された瞬間のことを思い出す。大きな体はぎしぎしと軋み、傷んでいた。体が馴染むまでは、あのような痛みを覚えるのだ。
長居する間にすっかり馴染み、今は何の苦痛も感じないが。
『それに俺たちは、召喚者の願いは叶えるものだという刷り込み──本能? がある』
「そうなんだ。アンちゃんは、だからあたしの願いを叶えてくれるのね」
『リーンに、願いがあるのか?』
「あるわよ。気づいているでしょう?」
リーンは悪戯っぽく笑うが、俺にはわからなかった。リーンの願いは、おそらく、ランドルフとの幸せな生活。それを叶えることは、俺の力ではできないのだ。
「こんなもの読んでいたら、ランドルフに怒られてしまうわね」
リーンは、本をぱたりと閉じる。
『大丈夫だろう。リーンがしたいように、すれば良い』
「……嬉しいことを、いつも言ってくれるわよね。あなたがいるから、あたしは頑張れるわ」
笑うリーンの顔が妙に寂しげな理由も、俺にはわからなかった。
***
『美しいよ、リーン』
「……ランドルフも、そう言ってくれたら良いのにね」
桃色のドレスは、リーンによく似合っていた。俺は、リーンの腰を巻くリボンに挟み込まれる。見えないように、巧みに隠された。
「ごめんね、苦しくない?」
『大丈夫だ』
卒業を祝う舞踏会に、ついて行きたいと言ったのは俺だ。さすがに人形を持って会に向かうのは、淑女としておかしい。いろいろと相談して、ドレスの一部に紛れ込ませてもらうことになった。
きつめに縛られたリボンは苦しいが、構わなかった。ランドルフはアーニャばかり見ていて、リーンはいつも傷ついている。今日だって、きっとそうなる。傷つくとわかっているのに、リーンをひとりにしたくはなかった。
視界のないまま、足音と魔力だけで大体の居場所を予想する。コツコツと硬質の音が響いた後、急にたくさん人のいる場所に出た。ここが、舞踏会の会場だろう。人間の魔力が混ざり合い、何がどうなっているのか、捉えるのが難しい。
懐かしいな、と思った。
王太子を呪うために城へ乗り込んだ時も、こんな風に人間がたくさんいた。そうして、リーンが俺を見つけてくれたのだ。
「あら? ランドルフがいないわ……」
学園の舞踏会は、卒業時の成績順に踊る。首席で卒業するリーンは、婚約者のランドルフと最初に踊るはずだった。
音楽は、既に始まっている。なのにリーンの近くに、ランドルフの魔力はなかった。
「王女殿下、ランドルフ様がいないようですわ」
「まあ……卒業舞踏会なのに、エスコート役もいらっしゃらないなんて」
ひそひそ、と。
交わされる言葉は、俺の鋭い耳には届いていた。
小馬鹿にした囁きは、ここ最近では聴き慣れたものだ。
ランドルフがあからさまにアーニャを厚遇するようになるにつれ、リーンの周りでは、こうした陰口がどんどん増えた。
「困りましたわね」
誰ともなく、リーンが呟く。
その顔が、作り笑いを浮かべているのも俺は知っている。
気にしていないような顔をしていて、その実、深く傷ついていることも。
「いったん音楽を止めてくれ!」
朗々と響き渡った声こそ、ランドルフのものだった。
「なにかしら……」
不安げなざわめきが、辺りに広がる。
「リーン。ここへ」
「……はい」
ランドルフが、リーンを呼び捨てにした。今までずっと、「王女殿下」と呼んでいたのに。
「そちらにいらっしゃる陛下、そしてお集まりの皆様に、証人となって頂きたい。……僕は王女殿下の婚約者として、最も近くで、いつも過ごさせていただいておりました」
嘘だ。一番近かったのは、俺だ。
ランドルフの澄ました物言いが癪に触る。
「そして、気づいてしまったのです。王女殿下が、魔の者を従えた、反逆者であることに──」
なんだって。
気づかれていたのか。いつからだ?
リーンの手のひらが、リボンの上から俺をぐっと押さえる。リーンの魔力は、強大だ。それに包まれた俺の正体が、ばれるはずはなかった。
「なぜ、そのようにお考えになったのですか?」
「はっ! しらばっくれるのだな。ならば、証人を呼ばせてもらおう!」
会場に入ってきた魔力に、俺は覚えがあった。
「なんて酷い……そんな風に拘束するなんて」
「一度は王太子への呪いを企てた魔女に、情けをかけるのか。やはりお前は、反逆者なのだな」
「弟への、呪いを企てた?」
俺を召喚した、老婆の魔力だ。
胸が、ざわざわと落ち着かなくうごめく。
「この魔女が、自身が召喚した魔の者が、誰かによって奪われたと証言した。皆、この魔女の魔力の大きさはわかるな? 魔女から魔の者を奪うほどの魔力を持っているのは、ここに、リーンしかいない」
確かに、あの老婆もそれなりに強大な魔力を持っている。それ以上の魔力を持つ者は、王を含めても、リーンしかいない。それは歴然とした事実で。
「それに! このアーニャが、リーンが魔の者と話していると教えてくれた。俺も、確かに見たことがある。リーンはいつも、肌身離さず、魔の色をした人形を持ち歩いていた。あれこそが、魔の者だったのだ!」
いつ見られたのか?
わからないが、事実であるからこそ、心当たりは探せばあった。気の緩んだ瞬間は、きっとどこかにあったのだ。まさかそれが、俺を召喚した老婆と結びつくことなど、あり得ないと思っていた。
「俺は王女殿下と婚約していたが、この事実をもって、破棄されることとなった。……ですよね、陛下」
「ああ。皆、我が娘が騒がせてすまぬな」
それは、リーンの父の声だ。リーンの体が、ぶるりと震えた。リーンが愛する父は、どんな眼差しを、今リーンに向けているのだろう。
「リーンは反逆者として、王家の地下牢に幽閉する。反逆者である証拠を献上した功に報いるため、シェルトランド公爵家の御息女を、王太子の婚約者として迎え入れることとなった。併せて報告させて貰おう」
リーンの体が、震えている。彼女の味方は、俺しかいない。なのに俺は今、慰めることも、庇うこともできない。もどかしくて、苦しくてたまらなかった。
出て行って、リーンを守ることができたら良いのに。
それをしてしまったら、本当にリーンの立場がなくなることもよくわかっていた。リーンが今断罪されているのは、俺のせいだ。
「我が娘よ。何か、弁明はあるか」
「……いえ。ただ、私との婚約を破棄したら、ランドルフはどなたと縁を結ばれるのですか」
「さあ……わしにはわからぬ。どうだ、ランドルフ」
「ここにいるアーニャと、縁を結ばせていただくつもりですが。……その話は、この場では相応しくありませんので」
リーンは何も言わなかった。
ランドルフは、アーニャを選んだのだ。
これがリーンと縁を切り、アーニャと結ばれるために仕組まれたものであることは俺にも薄々理解ができた。
リーンは乱暴に、会場から連れ出された。金属のにおいがする。騎士達が、リーンの左右を固めているらしい。
「人形をどこに隠した! 言え!」
騎士達の魔力では、俺の居場所はわからないのだ。そう悟った俺は、とにかく逃げようと思った。このまま捕まって、祓われてしまったら、リーンはきっと酷い目に遭う。「反逆者」の末路が悲惨なものであることくらい、俺にも充分察しがついた。
「こんなところにある訳がありません。部屋に、置いてあります。きっと今頃、逃げていますわ」
リーンは、嘘をついた。
これは、逃げろということだ。
リーンの手が滑り、リボンが僅かに緩められる。今なら抜けられそうだ。
「お前は部屋を探しに行け。悪いが、身体検査をさせてもらおう」
「触らないで! ……自分で脱ぎますわ。脱いだ後の服を、あらためれば良いでしょう」
するり、と布の擦れる音。俺は体ごと、床に放られた。ぱさぱさと、上に布が落ちてくる。俺の姿が見えないよう、わざと服を上に重ねているのだ。
「やだ、見ないでくださる?」
「そういう訳にはいかぬ。何か隠し持っているかもしれん」
「隠してなど、いませんわ。肌を殿方に見られることが、恥ずかしいだけです。あなたが私の初めて、なので」
「なんと……」
魔力の揺れで、騎士の意識が、リーンに集中したのがわかった。
今だ。俺は服の隙間からまろび出て、とにかく暗がりを目指した。
目立たない場所へ。誰にも気づかれない場所へ。見つからなければきっと、リーンを助けられる。リーンの味方は、俺だけなのだ。
熊の手足では思うように移動ができなかったが、俺はどうにか家具の下に潜り込んだ。埃まみれの家具の下を通ることで、誰にも気付かれずに、城の中をうろつくことができるようになったのだ。
見えなくても、リーンの魔力を辿ることはできる。俺は家具の下に隠れたまま、リーンの連れていかれる後を追った。
「この下が地下牢だ。行け!」
リーンが連れて行かれた「地下牢」の前に家具はなく、俺は行先を見届けることはできなかった。
黒い熊の人形は、探されている。見つかったら、もうどうにもならない。策を練らなければ。
俺は地下牢に向かう階段の側の、調度品の下に身を潜め、機を伺った。
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