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39.お子様達と馬車に乗る
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「皆さま、いってらっしゃいませ」
「道中お気をつけて」
アルノーとマリアが並び立ち、私達が乗る馬車を見送る。ふたりは領主夫妻であるから、さすがに遥か遠くのミルブローズ伯爵領まで一緒に行くことはできない。ましてや、マリアは身重のからだだ。遠出は控えるべきだろう。
細やかな光の粒子を浴びて、アルノーとマリア達自身も、光を纏ってきらきらしているように見える。マリアの髪が光を反射し、天使の輪に似た輝きを放っている。
いいなあ。幸せそうなふたりだ。マリアに優しく寄り添うアルノーを見ると、こちらまで幸せな気持ちになる。
子どもが生まれるのは、まだ暫く先のこと。元気な赤ちゃん、しかもアルノーとマリアの赤ちゃんを見られるのが、とても楽しみだ。
馬車が進むのに合わせて、彼らの姿はどんどん小さくなっていく。私は窓の幕を下ろし、内側を向いた。
「ここからブランドン侯爵領までは、暫くかかるそうですよ」
同乗者に話しかけると、「はーい」とそれぞれの返事が。私はリアン、シャルロット、カールと同じ馬車に乗せられていた。ギルだけは、「僕は姉様と行きます」とミア達と家族で馬車に乗り込んでいた。姉好きをカミングアウトとしてからのギルは、堂々と姉優先の行動をしていて、いっそ清々しい。
私の隣を譲らないリアンとシャルロットに挟まれて座り、少々窮屈である。反対側の椅子には、カールがひとりで、悠々と座っている。
「狭くない? リアン、カール様の隣に座ったら?」
「やだ! ぼくはどかないよ」
「じゃあ、シャルロット様ーー」
「あたしもどかない!」
今朝、シャルロットが私と同じ馬車に乗りたいと騒いだのがきっかけだった。シャルロットに対抗意識を燃やしているリアンが、「僕は一緒に乗る」と名乗りを上げた。カールは、シャルロットが乗る馬車の近くには「叔父様」つまりエリックがいるだろうということで、同じ馬車に乗りたがった。そんなわけで、私はお子様達に囲まれ、馬車に揺られているのである。
「キャサリン様、あたし、昨日も寝る前にダンスの練習をしたのよ」
「シャルロット様、『私、昨日も寝る前にダンスの練習をしましたわ』と仰ってください」
「あたし、きのうも、ダンスを、しましたわ?」
ダンスはあっという間に覚えたシャルロットだったけれど、染み付いた言葉遣いは改善されない。途端にしどろもどろになるシャルロットに、リアンが「全然言えてないよ!」と野次を飛ばした。
「うるさいわね! あたしはキャサリン様みたいなれでぃーになるのよ!」
「お姉様みたいになれるわけないだろ!」
「なるわよ!」
ぴーぴーぎゃーぎゃーと、すぐ喧嘩を始めるふたり。リアンが最も仲が良いのは、シャルロットかもしれない。動き回ったせいか、シャルロットの髪が乱れてしまっている。うるさいふたりに挟まれて辟易としていると、カールと目が合った。
「叔父様の馬が、横につけているんです」
窓の幕を開き、外を示す。騎士団は馬車の周囲を馬で走り、警護をしている。カールの言う通り、窓の外には馬に乗ったエリックがいた。
鼻筋がすっと通った横顔は、精悍な印象だ。帽子の下から覗く銀髪が、爽やかに揺れている。真っ直ぐに進行方向を見据える、真摯な視線。見惚れてしまう。
「騎乗する姿が、様になりますわね」
「叔父様は馬術にも剣術にも、どんな分野にも優れているんです。僕の憧れです。僕もあんな風に騎士の制服を着て、叔父様のように働きたい」
窓越しに、熱烈な視線をエリックに浴びせるカール。
「でも、僕は長男だから、今のままだと騎士にはなれないんです」
「カール様は、騎士になりたいの?」
「はい! 叔父様のような、騎士に」
良い返事をするカール。しかし彼は、ハミルトン侯爵家の長男である。貴族で騎士になるのは、家督を継がない、次男以降の者である。そのままでは、彼の夢は叶わないだろう。
「騎士になりたいんじゃなくて、エリック様みたいな人になりたいのではなくて?」
「エリック様は立派な騎士ですから、同じことです」
カールの言い方だと、騎士に憧れているのか、エリックに憧れているのか、わかりにくい。質問すると、カールはきっぱりと答えた。
でも、私には「同じこと」には思えなくて、首を傾げる。
「騎士にならなくても、エリック様のような人にはなれますわ。ハミルトン侯爵も騎士ではありませんが、随分と鍛えて、武を極めていらっしゃる様子ですし」
「そっか……」
あの逞しいハミルトン侯爵を思い出してそう言うと、カールは目を丸くし、呆然と呟いた。
「僕、騎士にならないと叔父様みたいになれないと思っていました」
「そんなこと、ありませんわ」
私達貴族は、その身分ゆえに縛られる部分も、たくさんある。でも、私が料理に挑戦したように、やろうと思えば、思いの外何でもやれるのだ。
「鍛錬でも、何でも、すれば良いのです。夢があるのなら」
「仰る通りですね。……ありがとうございます、僕、頑張ります!」
力強く宣言するカール。貴族の身でも叶えられる夢をもてた彼は、生き生きとした瞳をしている。
なんだか他が静かだなと思ったら、喧嘩して疲れたのか、シャルロットとリアンはうとうとと寝そうになっていた。全く、気まぐれなお子様達である。
エリックと目が合い、カールが手を振った。私達を乗せた馬車は、風を切って、どんどん進んで行く。
「道中お気をつけて」
アルノーとマリアが並び立ち、私達が乗る馬車を見送る。ふたりは領主夫妻であるから、さすがに遥か遠くのミルブローズ伯爵領まで一緒に行くことはできない。ましてや、マリアは身重のからだだ。遠出は控えるべきだろう。
細やかな光の粒子を浴びて、アルノーとマリア達自身も、光を纏ってきらきらしているように見える。マリアの髪が光を反射し、天使の輪に似た輝きを放っている。
いいなあ。幸せそうなふたりだ。マリアに優しく寄り添うアルノーを見ると、こちらまで幸せな気持ちになる。
子どもが生まれるのは、まだ暫く先のこと。元気な赤ちゃん、しかもアルノーとマリアの赤ちゃんを見られるのが、とても楽しみだ。
馬車が進むのに合わせて、彼らの姿はどんどん小さくなっていく。私は窓の幕を下ろし、内側を向いた。
「ここからブランドン侯爵領までは、暫くかかるそうですよ」
同乗者に話しかけると、「はーい」とそれぞれの返事が。私はリアン、シャルロット、カールと同じ馬車に乗せられていた。ギルだけは、「僕は姉様と行きます」とミア達と家族で馬車に乗り込んでいた。姉好きをカミングアウトとしてからのギルは、堂々と姉優先の行動をしていて、いっそ清々しい。
私の隣を譲らないリアンとシャルロットに挟まれて座り、少々窮屈である。反対側の椅子には、カールがひとりで、悠々と座っている。
「狭くない? リアン、カール様の隣に座ったら?」
「やだ! ぼくはどかないよ」
「じゃあ、シャルロット様ーー」
「あたしもどかない!」
今朝、シャルロットが私と同じ馬車に乗りたいと騒いだのがきっかけだった。シャルロットに対抗意識を燃やしているリアンが、「僕は一緒に乗る」と名乗りを上げた。カールは、シャルロットが乗る馬車の近くには「叔父様」つまりエリックがいるだろうということで、同じ馬車に乗りたがった。そんなわけで、私はお子様達に囲まれ、馬車に揺られているのである。
「キャサリン様、あたし、昨日も寝る前にダンスの練習をしたのよ」
「シャルロット様、『私、昨日も寝る前にダンスの練習をしましたわ』と仰ってください」
「あたし、きのうも、ダンスを、しましたわ?」
ダンスはあっという間に覚えたシャルロットだったけれど、染み付いた言葉遣いは改善されない。途端にしどろもどろになるシャルロットに、リアンが「全然言えてないよ!」と野次を飛ばした。
「うるさいわね! あたしはキャサリン様みたいなれでぃーになるのよ!」
「お姉様みたいになれるわけないだろ!」
「なるわよ!」
ぴーぴーぎゃーぎゃーと、すぐ喧嘩を始めるふたり。リアンが最も仲が良いのは、シャルロットかもしれない。動き回ったせいか、シャルロットの髪が乱れてしまっている。うるさいふたりに挟まれて辟易としていると、カールと目が合った。
「叔父様の馬が、横につけているんです」
窓の幕を開き、外を示す。騎士団は馬車の周囲を馬で走り、警護をしている。カールの言う通り、窓の外には馬に乗ったエリックがいた。
鼻筋がすっと通った横顔は、精悍な印象だ。帽子の下から覗く銀髪が、爽やかに揺れている。真っ直ぐに進行方向を見据える、真摯な視線。見惚れてしまう。
「騎乗する姿が、様になりますわね」
「叔父様は馬術にも剣術にも、どんな分野にも優れているんです。僕の憧れです。僕もあんな風に騎士の制服を着て、叔父様のように働きたい」
窓越しに、熱烈な視線をエリックに浴びせるカール。
「でも、僕は長男だから、今のままだと騎士にはなれないんです」
「カール様は、騎士になりたいの?」
「はい! 叔父様のような、騎士に」
良い返事をするカール。しかし彼は、ハミルトン侯爵家の長男である。貴族で騎士になるのは、家督を継がない、次男以降の者である。そのままでは、彼の夢は叶わないだろう。
「騎士になりたいんじゃなくて、エリック様みたいな人になりたいのではなくて?」
「エリック様は立派な騎士ですから、同じことです」
カールの言い方だと、騎士に憧れているのか、エリックに憧れているのか、わかりにくい。質問すると、カールはきっぱりと答えた。
でも、私には「同じこと」には思えなくて、首を傾げる。
「騎士にならなくても、エリック様のような人にはなれますわ。ハミルトン侯爵も騎士ではありませんが、随分と鍛えて、武を極めていらっしゃる様子ですし」
「そっか……」
あの逞しいハミルトン侯爵を思い出してそう言うと、カールは目を丸くし、呆然と呟いた。
「僕、騎士にならないと叔父様みたいになれないと思っていました」
「そんなこと、ありませんわ」
私達貴族は、その身分ゆえに縛られる部分も、たくさんある。でも、私が料理に挑戦したように、やろうと思えば、思いの外何でもやれるのだ。
「鍛錬でも、何でも、すれば良いのです。夢があるのなら」
「仰る通りですね。……ありがとうございます、僕、頑張ります!」
力強く宣言するカール。貴族の身でも叶えられる夢をもてた彼は、生き生きとした瞳をしている。
なんだか他が静かだなと思ったら、喧嘩して疲れたのか、シャルロットとリアンはうとうとと寝そうになっていた。全く、気まぐれなお子様達である。
エリックと目が合い、カールが手を振った。私達を乗せた馬車は、風を切って、どんどん進んで行く。
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