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42.リアンの婚約者?
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「会いたかったわ、セシリー」
私もよ。話し相手がいなくて、退屈だったんだから」
「手紙を送ったじゃない」
「ええ。ミアとキャサリンがよく会って話しているのがわかって、羨ましかったわ」
久々に会うセシリーは、髪型が変わって、大人っぽい雰囲気になっていた。でも、会話の調子も、セシリーの穏やかさも、変わらない。学園時代に築いた関係が、こうして今も続いているのを実感すると、嬉しくなる。
茶会のテーブルには、ハーバリウムが置いてある。ニックが作った、青い花を中心としたもの。セシリーにぴったりだと思って、以前贈ったのだ。喜んでもらえているようで、嬉しい。
「それにしても、驚いたわ。ベイル様があっという間に、婚約するなんて。それも、エリーゼと」
「セシリー、覚えてる? 私達の同級生だったのよ」
「もちろんよ。あの大人しい子でしょう」
大人しい、と言われて、私とミアは首を傾げる。
「今は全然大人しくないわよ」
「そうなの?」
「ええ。むしろ……」
人の噂は蜜の味。エリーゼが今いかに調子に乗っているか、その話題で一頻り盛り上がる。セシリーが思い出したように、「ブランドン侯爵って、タマロ王国と繋がっているところ?」と問う。
「そうよ」
「あの国、最近お父様が気にしているのよ」
「どうして?」
名前が挙がるときは、同じ名前が出るものである。
「国内とタマロ王国を行き来する馬車が、うちの領内を通るんだけどね。金属とか、軍備を増強するのに必要な物資を載せた馬車が多いの」
「この国でそういうものを買って、帰ってるってこと?」
「ええ。タマロ王国内では、需要が高いってことでしょ。物騒よね」
タマロ王国と我が国の間には、いくつかの国が挟まっている。直ぐに我が国に攻め込むのは難しいだろうが、なんだか物々しい話だ。
「きっと父達も、今頃そんな話をしているんじゃない」
「そう……セシリーは詳しいわね。王都ではそんな話、噂にもならないわ」
「遠いものね。花嫁修業以外にやることもあまりないし、父に付いて、いろいろ教えてもらっているだけよ」
何気なく言うセシリーは、頼もしく見えた。
夕食会では、予定通り子ども達がダンスを披露し、喝采を得る。シャルロットは「これで認めてくれるわね」とリアンに要求し、リアンも「いいよ」と渋々承諾した。
「認めるって、何を?」
「シャルロット様が、おねえさまの妹になる、ということだよ」
母に聞かれ、リアンが答える。拗ねた顔ではあるが、シャルロットが熱心に練習していた姿を、リアンも見ている。約束した手前、認めざるを得なかったのだろう。
「シャルロット様が、キャシーの妹?」
「そう。完璧なダンスを踊ったら認めるって、言っちゃったんだ」
「キャシーの妹になることを?」
両親が顔を見合わせる。リアンが頷く。
「リアンとシャルロット様が、結婚するってこと?」
「そうすれば義理の姉妹になれるけど……決断が早いな、リアン」
「え! ちがうよ!」
リアンが慌てて否定する。もちろん両親はからかっているつもりで、リアンの焦った様子を微笑ましげに見ていた。
「リアン様と結婚すれば、キャサリン様と本当に姉妹になれるの?」
それを聞き逃さなかったのは、シャルロットである。身を乗り出して、私の両親に問う。
「なれるよ。義理の、だけどね」
「そうなの! 知らなかった!」
シャルロットにとっては、義理だろうとなんだろうと、あまり関係がないらしい。椅子から飛び降り、リアンの傍へ駆け寄った。
「リアン様。私と結婚して、キャサリン様をお姉様にさせてよ!」
「え。やだよ」
「認めたじゃない!」
「そういう意味じゃないよ」
逃げるリアンを、シャルロットが追いかける。王女のあまりの品の無さにご婦人方の顔は強張っていたけれど、ふたりのその様子は、幼くて、可愛らしいものだった。
私もよ。話し相手がいなくて、退屈だったんだから」
「手紙を送ったじゃない」
「ええ。ミアとキャサリンがよく会って話しているのがわかって、羨ましかったわ」
久々に会うセシリーは、髪型が変わって、大人っぽい雰囲気になっていた。でも、会話の調子も、セシリーの穏やかさも、変わらない。学園時代に築いた関係が、こうして今も続いているのを実感すると、嬉しくなる。
茶会のテーブルには、ハーバリウムが置いてある。ニックが作った、青い花を中心としたもの。セシリーにぴったりだと思って、以前贈ったのだ。喜んでもらえているようで、嬉しい。
「それにしても、驚いたわ。ベイル様があっという間に、婚約するなんて。それも、エリーゼと」
「セシリー、覚えてる? 私達の同級生だったのよ」
「もちろんよ。あの大人しい子でしょう」
大人しい、と言われて、私とミアは首を傾げる。
「今は全然大人しくないわよ」
「そうなの?」
「ええ。むしろ……」
人の噂は蜜の味。エリーゼが今いかに調子に乗っているか、その話題で一頻り盛り上がる。セシリーが思い出したように、「ブランドン侯爵って、タマロ王国と繋がっているところ?」と問う。
「そうよ」
「あの国、最近お父様が気にしているのよ」
「どうして?」
名前が挙がるときは、同じ名前が出るものである。
「国内とタマロ王国を行き来する馬車が、うちの領内を通るんだけどね。金属とか、軍備を増強するのに必要な物資を載せた馬車が多いの」
「この国でそういうものを買って、帰ってるってこと?」
「ええ。タマロ王国内では、需要が高いってことでしょ。物騒よね」
タマロ王国と我が国の間には、いくつかの国が挟まっている。直ぐに我が国に攻め込むのは難しいだろうが、なんだか物々しい話だ。
「きっと父達も、今頃そんな話をしているんじゃない」
「そう……セシリーは詳しいわね。王都ではそんな話、噂にもならないわ」
「遠いものね。花嫁修業以外にやることもあまりないし、父に付いて、いろいろ教えてもらっているだけよ」
何気なく言うセシリーは、頼もしく見えた。
夕食会では、予定通り子ども達がダンスを披露し、喝采を得る。シャルロットは「これで認めてくれるわね」とリアンに要求し、リアンも「いいよ」と渋々承諾した。
「認めるって、何を?」
「シャルロット様が、おねえさまの妹になる、ということだよ」
母に聞かれ、リアンが答える。拗ねた顔ではあるが、シャルロットが熱心に練習していた姿を、リアンも見ている。約束した手前、認めざるを得なかったのだろう。
「シャルロット様が、キャシーの妹?」
「そう。完璧なダンスを踊ったら認めるって、言っちゃったんだ」
「キャシーの妹になることを?」
両親が顔を見合わせる。リアンが頷く。
「リアンとシャルロット様が、結婚するってこと?」
「そうすれば義理の姉妹になれるけど……決断が早いな、リアン」
「え! ちがうよ!」
リアンが慌てて否定する。もちろん両親はからかっているつもりで、リアンの焦った様子を微笑ましげに見ていた。
「リアン様と結婚すれば、キャサリン様と本当に姉妹になれるの?」
それを聞き逃さなかったのは、シャルロットである。身を乗り出して、私の両親に問う。
「なれるよ。義理の、だけどね」
「そうなの! 知らなかった!」
シャルロットにとっては、義理だろうとなんだろうと、あまり関係がないらしい。椅子から飛び降り、リアンの傍へ駆け寄った。
「リアン様。私と結婚して、キャサリン様をお姉様にさせてよ!」
「え。やだよ」
「認めたじゃない!」
「そういう意味じゃないよ」
逃げるリアンを、シャルロットが追いかける。王女のあまりの品の無さにご婦人方の顔は強張っていたけれど、ふたりのその様子は、幼くて、可愛らしいものだった。
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