ケモホモ短編

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たいして好きでもないオオカミをフェラ専用にするコツ

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「ああっ……コウイチっ、愛してるよ!」
 その言葉にオオカミは満足げに耳を揺らした。
 ちんぽを根元までくわえ込んで離さないマズルをいたわるように指先で撫でてから後頭部を引き寄せる。射精感がこみ上げてきたことの合図だ。熱っぽい視線が股ぐらから立ち上り、ひどく有機的な匂いとなって鼻先に絡みついた。
「ヤバい、気持ちよすぎていきそう! ちょっ、ちょっとストップ!!」
 無論中断なんて望んではいない。これまで繰り返されてきたなかで、ただの一度さえそうしたことは無いのだ。ただ、この言葉はオオカミの中に隠れている小さな嗜虐心をくすぐるらしく、激しく前後にストロークを繰り返しながらも口内では長い犬舌が縦横無尽に暴れ回る。腰を引いてこの貪欲な肉食獣から逃れようと足掻いてみたところでそれは逆効果にしかならず、大きな両手でガッシリと拘束された檻からは逃れられない。
 正直なところ、この茶番は面倒以外の何ものでもなかった。はじめの頃こそこういったシチュエーションにのめり込むことに興奮を覚えたものだが、今となってはこんな余計な会話を挟まずに、手っ取り早く抜いてしまいたい。
「いくっ! 口の中に出すよ……全部飲んでっ!」
 オナホールを扱うかのごとくせり出した太いマズルを握り込み、一滴もこぼさせないように口内に吐精をする。右手や道具では得られないこの快楽は絶対に手放したくない。今のところは。
 口内に放たれた精液を飲み下す蠕動運動で、尿道に残った残渣すらも吸い取られていく。一度、二度と喉が鳴るたびにあれほど昂ぶっていた気持ちが嘘のように冷めていく。これが大人のオモチャであればサッと水洗いでもしてからその辺にでも転がしておけば勝手に乾いてくれるのだが、コイツはそうもいかない。
 ズボンがはち切れんばかりのテントを立てて、半開きになった口元からデロリと舌をはみ出させて哀れっぽい懇願の鼻声。本当の恋人同士であればこんな仕草に胸がキュンときたりするのだろうが、ぼくにとっては鬱陶しいという感情しか湧かせない。優しく抱きしめてキスでもして、その身体に触れてやれば満足するのだろう。だが、そんなサービスをしてやるつもりは更々ない。これが初めての行為であれば心をわしづかみにするためのテクニックとして実践してみせただろうが。
「ごめんね、これからまた仕事があってさ」
 一体どんな仕事だというのだ。まあ、世間知らずのガキならば「ぼくと仕事、どっちが大事なの?」なんてトレンディドラマにでてきそうな台詞をはくのだろうが、幸いなことにコイツは分別がついている。
「そっ、そうだよね、お仕事忙しいもんね……がんばってね」
 モジモジと身体を揺らしながら労いを口にするオオカミに曖昧な相づちを打ってから、足早にマンションを後にした。
 まだこの時間であれば買い物をしてから映画館にも寄れるし、なんなら競馬やパチンコにだって興じられる。だけど今は、ともかくシャワーを浴びてこの匂いを落としたい。このオオカミの部屋で浴びるという選択肢もないわけではなかったが、すっかり萎えてしまった状態でベタベタとひっつき回られるのは勘弁願いたかったのだ。

 イヌ科のなかでもとりわけオオカミは情や絆といったものを重視する。もっとも、そういう傾向にあるというだけで全てのオオカミに当てはまるわけじゃない。それでもオオカミを落とすときにそれに訴えかけるのはもはや定石といっても過言ではない。
 コウイチと知り合ったのはゲイ向けの出会い系サイトだった。一夜限りの遊び相手を探そうと開いたそのときに、憐れで、場違いな子羊がそこにいた。こういう半分ノンケみたいなやつはなにかと面倒だ。この界隈でのノリや暗黙の了解を知らないばかりでなく、いざコトに及ぼうとすると怖じ気づいてしまったりもする。初物食いを好む連中からすれば「そこがいいんだ」っていえるんだろうが、ぼくにとってはそんな面倒な相手よりもサクッと気軽に楽しめる相手のほうが断然いい。
 だから、彼にメッセージを打ったのはほんの気まぐれでしかなかった。その日はとっとと抜いてしまいたい気持ちよりも少しだけ好奇心のほうが勝っていた、ただそれだけだ。
「はじめまして、コウイチです。あの、ええと」
 幾度かの儀式的なやりとりを経て、お互いに歩いて行けるくらいのトコロに住んでいるというのもあって早速教えられた住所へと出向くことになった。見知らぬ相手を部屋にあげるなんて警戒心の欠片もないのだろうか。もしぼくが精神異常者だったり猟奇的な趣味をもっていたりしたらどうするつもりだったんだろう。
 大きい図体を縮めて卑屈な上目遣いをするその姿に、ムラムラとどす黒い欲望がこみ上げてくる。このオオカミの頭の中は、長年隠し通して恋い焦がれてきた男同士の恋愛という夢がいっぱいに膨らんでいるに違いない。
「写真よりも格好いいね」
 制御の効かなくなった尾てい骨の根元が気流を乱す。チョロいやつ。獣人なんてどれも見分けがつかないのが本音だ。
「ボクみたいなのでも、大丈夫?」
 己の顔を指さして問いかけると、脳しんとうでも起こすんじゃないかと思うくらいに首を縦に振る。獣人からみた人間もまた「どれも同じ」なのだろう、きっと。

 その日の名目はたしか自宅デートとかそんなのだったと記憶している。どこかに出かけるのもいいけれど、家で映画でも観ながらマッタリ過ごすのをやってみたかったんだと。安上がりに済むし、歩き回って疲れないから大歓迎ではあるが、初めてのデートはもっと気取ったっていいだろうに、変なやつ。
「これ、観たいっていってたの持ってきたよ」
 DVDのパッケージを差し出すと金色の目がパッと輝いた。何年も前のB級映画で、火星探査に行った先で宇宙人やらに襲われるといったありきたりなSFホラー映画。一度観たきり本棚にしまい込んで埃をかぶっていたのだが、話の弾みで「休みの日は映画とか観てるよ」なんていってしまったものだから慌てて引っ張り出してきたのだ。
 なみなみとコーラの注がれたコップをテーブルに並べ、部屋中のカーテンを閉め切って即席のミニシアターをつくり、ソファーの上で身体を密着させる。こういうのも、案外悪くはないかもな。目を輝かせて画面に食い入るオオカミを尻目に、どうやってコイツを落としてやろうかと頭の中で作戦を練る。当人は「まずはお友達から」だの「真面目な交際」だのという幻想を信じ切っているらしいから、あまり性急にしすぎてはいけない。かといって三回目のデートでようやく手をつなぐなんてほど悠長には待っていられない。
「ひえっ!?」
 素っ頓狂な声をあげて身体を硬直させるオオカミに思わず笑ってしまいそうになる。なんてことはない。ただ膝の上に手をのせただけで、さすってすらいない。逆立った毛が静電気を起こしそうだ。
「ごめんね、いやだった?」
 そうそう、ここで首を縦に振れるわけがないよな。せっかく仲良くなった相手に嫌われたくないもんなあ。ゆっくりと指先を内ももの方へと滑らせていくと、絶頂でもしたのかと思うくらいに小さく悲鳴をあげて身体を震わせた。きっと頭の中では疑心暗鬼と葛藤がまぜこぜになっているか、あるいは真っ白になってしまっていることだろう。
「やっ……こっ、こういうのはっ!」
 白々しい拒絶。獣人が本気を出せばぼくを突き飛ばすなんて訳もないだろうに。天から授けられたこの身体を、野生を押しとどめているのは臆病な理性。腹の底から嫉妬心が湧き上がり胃壁をじわりと溶かした。個人的な恨みなど更々ないけれど苛立ちが募っていく。
 空いているほうの手で縮こまった肩を抱き寄せてうなじに鼻を寄せるとうっすらと汗の匂い。他人の体臭というものは概ね心地よいものではないが、例外なくこのオオカミも食欲を失せさせた。ここは我慢だ。耐えられないほどではない。身体を硬直させて惨めな鼻声をあげるだけで抵抗する素振りはみせない。胸に手を当てると、暴れ狂っている心臓が被毛の上からでも十二分に感じられた。長電話の退屈を紛らわすときのように、堅くなった乳首をこねくり回し、太ももに置いた手を鼠径部へと侵入させた。
「だだ、ダメ! こんなのって……」
 真面目で健全なお付き合いができると本気で信じていたのだろうか。気の毒なこった。このまま欲望にまかせて食い散らかしてもよかったのだが、ピーピー泣かれでもしたら中折れしてしまいそうだし、持続的な開発ってのが昨今の流行りなのだ。あとはどうせなら、向こうから積極的になってくれたほうが気分もあがるし。マグロを相手にするくらいならオナホでも使った方がよっぽど楽だからな。
「コウイチのこと、好きになっちゃった」
 萎れていた耳がピンと立ってから、またへにゃりと伏せられた。獣人の正常な心拍数がいくつなのかは把握していないが、破裂してしまわないかと心配になってしまう。ふいごのように上下する横隔膜が肺の中の空気を全部絞り出して、酸欠になったオオカミは喉をヒュッと鳴らした。
「だからさ……」
 窒息しかかったオオカミを落ち着かせるべく二、三度胸を軽く叩いてやり、手汗まみれになった手のひらを握ると、泳ぎ回っていた金色の目が遠慮がちにぼくを見上げた。ここまでくればもう逃げられる心配もないだろう。

「ほら、触ってみて」
 狭苦しいズボンを内側から押し上げる熱源へと手を誘導する。単に肉欲の権化でしかないそれを、愛情の証だと耳元で小さくうそぶいて信じ込ませると、喉の奥に小さな唸りが引き起こされた。ゆっくりと指先でちんぽの形をなぞると蟻が這うようなもどかしさ。相手の自主性にまかせてこのもどかしさを楽しむというのもやぶさかではなかったが、性知識も乏しそうなこのオオカミ相手にまかせていては日が暮れてしまう。
 ソファーから立ち上がり、困惑顔のオオカミの前に正対する。せっかくいいムードだったのに、なんらか己の失態でぼくを怒らせてしまったのではないかと不安の色が滲んでいる。もしこのまま「悪いけど今日は帰るね」なんていったらどんな反応を見せるだろうか。もちろんそんなことはしないけれど。そんなオオカミも、ベルトに手をかけるとこれから行われるコトを察して息をのんだ。いくら鈍くてもここまでくればわかるよな。
 一気にパンツごとズボンをずり下ろすと蓄積していた熱気が解放される。オオカミの目の前に突き出されたちんぽ。すでに赤黒く腫れあがり先端からは我慢汁がトロリと滲んでいる。恐怖と興奮がひしめく中で、おそらくは無意識に黒い鼻がクンクンと雄の匂いを嗅いだ。ちんぽの脈動に合わせて瞳孔が上下する。半開きになった口元からはだらしなく舌が垂れてため息が漏れた。
「今日はここまでにしておこうか?」
 引力に誘導された舌がもう間もなく触れ合おうというところで声をかける。オモチャを取り上げられた子犬の泣きべそ。このままなし崩しで、勢いにまかせて、言い訳する隙を作らせてはいけない。こういうのは初めが肝心なのだ。
「あのっ、えっと……その、ぼくが、口で」
 そこまでいってまた引き寄せられてきた頭を手で制する。
「でも、汚いよ?」
 やめさせる気なんて更々ないのだが。恨めしそうに見上げるオオカミに、ソコは口に含むべきところではないのだと諭すフリをしながら、鼻先にチョンと亀頭を触れさせる。口内から溢れたヨダレがゴムパッキンのような黒い唇を伝ってフローリングに水たまりを作った。
「大丈夫ですから、その……させて、ください、ち、ちん……を……」
 緊張を解きほぐそうとしているのか、はたまた別の理由からか、自らの股間をぎゅっと押さえて目を潤ませる。彼がこれまで生きてきた中で初めて口の出すであろう卑猥な申し出。
「うん?」
 だいじょうぶ、ゆっくりでいいからいってみて。頭の上に手をのせると、パタンパタンと尻尾がのたうつ。
「ちん、ちんを……くちで……」
「ちんぽを、食べたいの?」
 そう訂正すると両手で押さえていたオオカミのズボンにじわりと染みができた。
「はっ、はい、ち、ちんぽ、食べたいです」
 ぎこちなく紡がれた単語。まあ、及第点ってところかな。もっと焦らして楽しみたい気持ちもあるが、ぼく自身そろそろ限界だ。
「大好きなコウイチに、ちんぽ食べてもらいたいな」
 ようやく許しを得たオオカミの口が恐る恐るちんぽを含んでいく。
 ちゅぷっ。
 はち切れそうな亀頭が舌の上に乗せられた。先ほど抱き寄せた時にも感じていたが、人間よりもかなり高めの体温。風邪をひいた相手にフェラしてもらうと絶品だと聞いたことがあるが、確かにこれはなかなか。ジンジンと亀頭から伝わる熱で低温やけどすらしてしまいそうだ。
 ぐぶぶぶっ……。
「ああっ、気持ちいいよ!」
 亀頭まで咥えたっきり、この先どうしていいかわからずに蝋人形のように固まってしまったオオカミの後頭部を掴んで、動き方をレクチャーしてやる。これが人間だったら初手で喉の奥まで咥え込むのは至難の業で、下手をすればむせ返るかオエッと吐いてしまうこともある。だがぼくの目論見通り、オオカミのこの長い口吻をもってすれば、根元までちんぽを飲み込んでもまだ口蓋垂には達しない。触手のごとくうねる長い舌に、上顎は洗濯板のように段差になってカリ首を擦りあげる。この口は、ちんぽを咥えるために進化したといっても過言ではない。生きるオナホールのような存在だ。
 じゅぶっ、ぐぷっ、ぐぽ、ぬぶぶっ。
 ずいぶんと飲み込みが早い。これは有望株だな。ストロークするごとに嬌声とともに先走りが漏れて、口内で唾液と混じり合い泡だった音が響く。自分の口で相手を悦ばせていることに、オオカミの鼻息はますます荒くなっていった。
「コウイチ、ちんぽおいしい?」
 名前を呼ぶと慌ただしく震える尻尾。
「んぶっ、んっ……おいひ……ちんぽエッチな味……」
 にゅぽっ、ぬぼっ、じゅりゅっ、ちゅぶっちゅ。
 目尻に浮かぶ水滴は生理的なものに起因するのか、はたまた。すっかり陶酔しきった顔でちんぽの虜になっている。最終局面へ向けて陰嚢が縮み上がり睾丸からムズムズとした感触。
「ま、まって! でちゃうから、離して!」
 このまま有無をいわさず口内射精してしまってもよかったのだが、精液をおいしく感じるなんて極々一部であって、大抵の場合は突如として放たれた異物に吐き気を覚えてしまうだろう。せっかくのフィニッシュの後にゲロ吐かれるのは流石に勘弁願いたい。
 しかし、このオオカミの中には何らかの確信めいたものがあったのだろう。制止の言葉を受けて、己の股間を揉んでいた手でぼくの尻たぶをガッチリと掴み、獲物を逃がすまいと貪欲に食らいついた。
「ああっ! いく! 口の中でちんぽ射精しちゃうっ!」
 びゅーっ、びゅーっ! びゅるっ、びゅっびゅっ!
 口内で暴れ回るちんぽを頬肉で押さえつけ、搾乳機の吸い付きをみせる。
 ごくっ……ごくっ……ごく。
「コウイチ……愛してるよ……」
 気まぐれの言葉にオオカミは目を細める。まあ、初回ぐらいはサービスしてやってもいいか。
 ちんぽがすっかり萎えてしまった後も乳をねだる子犬。ズルリと引き抜くと甲高い鼻声を鳴らすものだから、おしゃぶりの代わりにと舌を差し入れてやると青臭くて甘ったるい味がした。


「あっ、あの」
 いつものように行為を済ませたあと、帰り支度をしているとおずおずとオオカミが口を開いた。引き留められるなんて今までなかった。まだ物足りないのだろうか。明日は休みだし、たまにはサービスしてやろうとコイツのも抜いてやったというのに。
「ぼくたちって、その、なんというか……つ、付き合って……るんだよね?」
 オオカミは純情で一途。言い換えれば単純でバカで面倒くさい。コイツの頭の中では性行為は極めて神聖なもので、愛し合う二人にのみ許された儀式なのだろう。セフレなんて単語はきっと辞書には存在しない。初めてコウイチと出会ってからどのくらいだ、もう一年近くは経っただろうか。「いまからいく」その一言をメッセージで送れば、昼間でも夜中でもすぐに返事が返ってきて、ちんぽを出すなりすぐに咥え込む。自分で処理するよりも、この全自動オナホールを使う方が手っ取り早いし気持ちいいもんだからオナニーは全くしていないし、あの出会い系サイトだってこれっぽっちもアクセスしていない。
 だけどもう、そろそろ潮時ってヤツだな。向き直ったぼくの目を見てパタリと耳が伏せられた。
「こういうのも、もう終わりにするか」
 いくら鈍感だとしても気づいていただろう。こんなのは付き合っているうちには入らないし、いいように使われていたってことくらい。たいして好きでもないオオカミをフェラ専用にしたかっただけなのだ。静まりかえった部屋の中でしゃくり上げる声だけがきこえる。だって、仕方ないだろう。たいして好きでもないオオカミは——
「コウイチ」
 折りたたまれていた耳がピンと立った。
「ぼくと、付き合ってください」
 たいして好きでもなかったオオカミは、大好きなオオカミになってしまったのだ。
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