ケモホモ短編

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専属契約

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 地下鉄で片道二百八十円。路線図で名前を見かけたことはあるけれど、降りるのは初めての駅。
 ポケットからスマートフォンを取り出して、待ち合わせの場所と時間をもう一度確認する。午後七時三十五分。約束の時間は八時きっかり。待ち合わせに遅れたことは無いといえば聞こえはいいが、つまりは単に心配性なだけなのだ。
『面倒抜きでサクッとしゃぶって欲しいな。172*66*31 P16』
 そんな暗号めいたメッセージの最初の解読者が、これから会う相手というわけだ。
 時折、どうしようもなくムラムラしたとき、ぼくはあのサイトで募集をかける。こういう性分——つまり、ゲイとかホモとか。どう呼称してもいい——に生まれてきてよかったトコロは、気軽にワンナイトラブが楽しめることだ。しかもタダで。
 仕事の休憩の合間に上司や同僚たちの口から出てくる、出会い系サイトだの風俗だのの話を聞いていると尚更のこと。男同士なら、貢ぎ物をして機嫌をとる必要なんてこれぽっちもない。お互いに性欲バカだから、そんな面倒な手続きを踏まずに手っ取り早く気持ちよくなりたいのだ。
 とはいえ、こういうサイトで出会うのは怖さだってある。これはゲイに限ったものではないが、美人局やホモ狩り、はたまた猟奇殺人に遭う可能性だってゼロじゃない。メールでやり取りしたところ、相手は真面目そうな好青年という印象だけど、こういう一見してマトモそうなヤツのほうが危ないってのが定石だし。だから念には念を入れて、財布の中からは免許証やクレジットカードはあらかじめ抜いておいた。リスク管理は大切なのだ。
 そんなことを考えながら缶コーヒー片手に月を眺めていると、太ももに小刻みな振動が伝わってくる。
『着きました。ロータリーで待ってます。青の軽で、ナンバーは——』
 今ならまだ引き返すことができる。どうせ顔も知られていないし名前だって当然ながら偽名なのだ。メールを受信拒否にして、また電車に乗れば自宅に戻れる。さもなくば、このまま車で拉致されて、タコ部屋で強制労働を強いられることになるかもしれない。って、いやいや。考えすぎだろう。そんな事件そうそう起こるはずもない。今までだって変なヤツに当たったことは無いんだし。まあ、これが最初で最後かもしれないけれど。
 そんな頭の中に渦巻く不安と緊張も、溜まった性欲の前では無力だった。どうしようもないバカなのだ、ぼくは。

 駅前のロータリーにぎっしりと並んだ車列から放たれるヘッドライトの光にクラクラとしながらも、指定されたナンバーを見つけようと目をこらす。塾帰りの子供を呼ぶ母親の声や、はるばる長旅をしてきた相手をねぎらう声がそこかしこから聞こえる。これから見ず知らずの相手とエッチしようというのはぼくくらいのものだろうな。
 例のナンバーに合致する車が視界に入ると心臓がひときわ大きく縮こまる。何度もこうやって行きずりの相手と出会っては己が欲求を満たしてきたというのに未だにこの瞬間は慣れない。メールを見返してもう一度確認。間違い無い。これだ。
 助手席のドアに近づいて手をあげる。万が一ということもある。颯爽と乗り込んだものの「あら、アナタだれ?」なんて失態は犯したくない。運転席の方で黒い影が承知したとばかりにうなずいた。深呼吸をして、覚悟を決めてドアを開く。
「こんばんは、えっとメールの……」
 それ以上、言えなかった。脳が停止信号を送る前に無意識の左手がドアを閉めてしまう。だって、車に乗ったらそうすべきだと身体が学習をしてしまっているから。
「どうも。カイです」
 ボソリと呟いた声に促されるがままにシートベルトを締めると、緩やかに発進する車。
 ああ、駅が遠ざかっていく。これが見納めになるかも。どうしよう。アクション映画ばりに飛び降りるか? でももう結構スピード出てるしなあ。絶対痛いよなあ。それにまだ、最悪の事態になると決まったわけではない。人は見かけによらないというし。うん、そうだな。そうそう。人を見た目で判断するのはよくないぞ。人を。ヒトを……。
 これについては全面的にぼくが悪い。「面倒抜きで」なんていったから。だって、別に一発ヤるだけなら顔や身体なんてどうでもいいだろう。年齢だってどうでもいいさ。けど、だけど。
「あ、あの、お、オオカミだったんだね。はは……」
 獣人だなんて聞いてねえぞ! でっかいオオカミの顔がぼくをチラリと見る。に、睨んだわけじゃ無いよな。
「あー、もしかして臭います? 一応、消臭スプレーはふってきたんすけど」
 自分に嗅覚が存在するなんて今の今まで忘れていた。確かにうっすらと漂う動物園というかサファリパークみたいな空気。嫌悪感を催すほどでは無いし、下手なことをいって怒らせたら生きて帰れないかもしれない。いやまあ、獣人といえど理性を持った種族で、人間と共存して社会生活をつつがなく送っているのだから、獣人イコール野蛮だと決めつけるのはいささか差別的な発想だとは自覚している。
「い、いや、そんなことないよ! めめ、珍しいなーって思っただけ」
 頭では理解していても、怖いものは怖い。それにオオカミというだけにとどまらず、なんだかチャラチャラした服装で、ちょっとヤンキーっぽいというか深夜のドンキにいそうなタイプ。
 今のところは極めて紳士的な態度で接してくれているから、杞憂に終わるのかもしれないけれど。いやそうあってくれ。さすがに車にまで乗っておいて、やっぱり今日はキャンセルでなんて言ったら気を悪くしちゃうよな。

「コーヒーでいいっすか? まあその辺座っちゃってください」
 郊外の一軒家。生活感に溢れてはいるが小綺麗で広いリビング。オオカミは冷蔵庫からアイスコーヒーを取り出してから、テーブルの上のリモコンを操作してテレビをつけた。ソファーの上でオオカミの後ろ姿を眺めながら、いらぬ考えがふつふつと浮かんでくる。
 年齢からもてっきり一人暮らしだと思っていた。だが、下駄箱に揃えられた靴や食器棚に並べられたコップを見る限りは、家族と住んでいるようにみえる。それも彼が妻子持ちの既婚者というよりは、親元での実家暮らしという風情。一般的な家庭であれば遅めの夕食か、夕食を終えて一家団欒の時間。このオオカミの家族は、今日はたまたま留守にしているのか、仕事で帰りが遅いのか。まあ彼とは友達でもなんでもないのだから、詮索するだけ野暮ってもんだけど。
「この芸人面白いですよねえ」
 テーブルの上にコップを並べながら、オオカミは口元をゆがめた。真っ黒なゴムパッキンのような唇からニュッと白い牙が覗く。テレビで観たか何かの本で読んだかうろ覚えだが、なんでも太古の昔、イヌ科は相手を威嚇したり逆に敵意が無いことを示すために口でのコミュニケーションが発達したそうだ。そして、ずらりと生えそろった歯を遠くからでもより目立たせるように唇が黒色になったとか。ホントかウソかわからないけど。けれどもそんなコミュニケーションが行われていたのは原始時代のことであって、いまの現代社会において彼のこの表情の意味するところは単なる笑顔にしかすぎない。ぼくより六歳は年下の、どこか無邪気さを感じさせる若者らしい顔。
 なんとなく後輩の家に遊びにきたような居心地の悪さ。このままテレビを見て、ゲームでもして、ゲラゲラ笑って満喫して、終わり? 何しに来たんだっけ。
「あのサイト、よく使ってるの?」
 念のための確認だ。ぼくとしては早くコトを済ませてしまいたい。それに、情けない話だが、すでに頭の中ではこのオオカミの口内の具合をシミュレーションしはじめている。
「実は、はじめてなんですよね。こういうので会うのって」
 頬を掻きながらオオカミはこたえた。嘘つけ。そんなわけないだろう。けれどもそういうコトにしておいたほうが盛り上がることを知っているのであろう。あとはなんだ、自称ノンケとくるだろうか。
「昔、部活の先輩に無理矢理しゃぶらされて——」
 ううん、三十点ってところだな。ベタすぎる。使い古されすぎて、安っぽいエロ動画でもみないぞそんなの。
 嫌々やらされていた昔の出来事が忘れられず、オナニーするときもその時のことばかりを思い出してしまって、ついには自分からゲイサイトを開いてしまったヤツね。
「だから、その」
 口ごもりながらも極めて滑らかな動きでぼくの足下にひざまずいて、金色の眼が物欲しそうな上目遣いをする。お膳立てはできたって訳か。
 内心笑ってしまいそうになりながらも、股間に鼻先を近づけてスピスピと匂いを嗅がれてしまうと、くすぐったさと同時に劣情が膨れ上がってくる。理由や口実なんてどうでもいい。とっととこの口の中で性欲を発散する。そのためにここにいるのだから。

 案の定、それっきりだった。
 駅まで送ってもらい、帰路につく電車の中で『また機会があったらよろしく』なんて簡単な社交辞令をお互いにしたっきり、メールは途絶えてしまった。何度かまたムラムラとしたときに『ご都合いかが?』なんて連絡を取ろうとも思うこともあった。またあのサイトで得体の知れない誰かを募集するよりは、一度顔を合わせた相手のほうが心理的なプレッシャーも少ないし。
 けれど、不文律というかマナーというか、また今度ってのは二度と機会が訪れないことをいうのだ。向こうからのコンタクトも無いことだし、なんなら今頃は別の相手としっぽり楽しんでいるかもしれない。
 ああ、それにしてもあのオオカミの口の具合といったら、これまでの経験の中でも上位に、いや一番かもしれない。人間と違って突き出た口吻による恩恵だろうか、いともたやすく根元まですっぽりとちんぽを飲み込んで、煮えたぎるスープのような粘ついた唾液が満遍なく絡みついてくる。そしてただ柔らかい粘膜というだけでなく、ブニブニとした弾力を持ち合わせた上顎や、貪欲に這いずり回る長い舌がメリハリをつけて絶妙なハーモニーとなるのだ。ダメ元で連絡を入れてみるか、それとも別の、イヌ科という条件付きで相手を探してみるか。
 滅多に起こらない微細な振動が発生したのはそんなタイミング。
『よかったら、また会いませんか?』
 心の中でガッツポーズを決めそうになりながらも平静を装う。誰が見ているわけでもないのに。
『ぼくのちんぽが恋しくなっちゃった?』
 たっぷり十分はかけて考えた返信内容がコレ。バカ丸出しもいいところ。難しい恋の駆け引きをするような相手でもないのだから、手っ取り早く日時を決めればいいだけなのに。
『はい(笑) そうだ、今度はピザでもとって映画とかどうですか?(^^)』
 いや、どういうことだ。ピザ? 映画? もしかして送信相手を間違えて、会社の同僚に送ってまったかな。
 送信元アドレスを心の中で復唱してから、頭の中に大量に浮かんできた疑問符を一つ一つ検品してく。さっきまでの会話の流れからいうと話のテーマは、私たちはもう一度会ってエッチなことをしましょう。そういった趣旨のはずだ。そこから何故、ピザだのなんだのと、友達の家に遊びに行くときのような話題が出てくるんだ?
 友達、フレンド、パル。なんだ。もしかして、そういうことか。セックスフレンド、所謂セフレとは、ぼくの理解では恋愛感情を持たず、ただ肉体関係だけを目的とした相手。ざっくばらんな言い方をするとお気楽なエッチ相手というものだと理解していた。ただそれだとフレンドという部分が未消化なのではないか。今の今まで言葉の定義を勘違いしていたのではないか。つまり、セックスもするフレンドなのだから、フレンドの要素が不可欠といえるだろう。
 これですっきり明快、問題は解決したはずだ。いいじゃないか。エッチなことだけでなく友人としても親睦を深めることができるのだから。ただそれだけに過ぎないはずじゃないか。まさか、まさかとは思うけど自分の中に変な感情が湧いてきたなんて冗談やめてくれよ。そんなことあってはならない。今までだって、適当にエッチ相手を探して、その日限りでバイバイして、何ら問題は生じなかったんだから。

「やっぱり、こういう時にはコーラですよね!」
 うなずきながら、本当はビールだと思っていた。しかしぼくを駅まで送り届けるという使命を持っている以上はアルコールは摂取できないし、ぼくだけ飲むのもいささか失礼だろう。
 コメディ映画をみながらゲラゲラと笑い声をあげるオオカミ。
 本音をぶっちゃけると、この手のタイプは苦手だ。最近では陽キャという便利な単語一つで表現できる。ぼくとは正反対の性格。学生時代はいつもクラスの中心にいて、友達もたくさんいて、休みの日にはオシャレな服を買いに行って。年に何回かは大勢でバーベキューをしたり、スノボを楽しんだりしているに違いない。そんなのと同じ空間にいるとぼくは極めて場違いで、自分がいかに惨めったらしい青春を送ってきたのだろうと思い知らされてしまう。
 なにが「先輩に無理矢理ヤらされて」だ。むしろ逆にその顔で脅かして、後輩にでも性処理をさせてきたの間違いじゃないのか。そんなぼくの態度が透けて見えたのか、いかにもつまらなさそうに見えたのか、オオカミは突如振り向いてぼくの顔をじっと眺める。
「コッチを先にやっちゃいます?」
 一時停止ボタンを押してからニヤリとあの牙をみせた。のぞむところだ。
 はじめてのときよりも、羞恥心も薄まり、むしろアレをもう一度できるのだという期待値のほうが大きい。それに比例して急速に血流が海綿体へとなだれ込んでパンツを下ろすときには引っかかってしまうくらいだった。
「ああ、これこれ」
 仁王立ちになったぼくの前でうっとりと表情をとろけさせる。ほら、所詮はコレが欲しかっただけなんだろう。
「そんなにこのちんぽが良かった?」
 映画だのピザだの回りくどいことをしなくとも、一言「ヤりたい」とだけで十分なのに。コクリとうなずいたオオカミに、嗜虐心が膨れてくるのを感じる。
「あれから何本咥えこんだの?」
 どうせ毎日のように男を連れ込んでいるんだろ? ぼくは、いやぼくのちんぽは、そのローテーションの中の一つというわけだ。
「こっ、これだけ、ですよ」
 随分としおらしい態度じゃないか。そりゃあ「数え切れないです!」と返されるよりは、その方が相手も嬉しいだろうからな。食わせもののオオカミめ。
「ふうん。まあいいや。ほら、ちんぽ食べて」
 ちゅっちゅ、つぷぷっ。
 すでに先走りで濡れ始めた先端に軽くキスをしてから一気に根元まで咥え込む。
 一分の隙も無い洗練された動作。これはこれで悪くはないが、もう少し恥じらいとか素人っぽいほうがぼくとしては好みだ。こうも手慣れた感じだと、どこか商売っけが見えてしまうというか。
 ぐぼっ、ぬぶぶっ、ちゅぽっくぽ。
「はあっ……さすが、先輩に仕込まれただけのことはあるね」
 オオカミの身体がピクンと震えた。小さく漏れる吐息。この設定が好きなんだろう。
 ぬこっ、ぐぶっっぷ、ぬっにゅっ。
 会う約束をしてからは、存分に楽しもうとオナニーを自粛していたものだから、あふれ出る我慢汁に吸い付く口内の熱さに、思わずイッてしまいそうになる。このままとっとと出してしまいたいところだが、続けて二回戦を行える自信はあまりないし、せっかくここまで溜めたのだからすぐに果てたらもったいない。
「ちんぽおいしい?」
 ただ目をつぶって快楽に身を任せてもよいのだが、それでは少し手持ち無沙汰なのだ。これがシックスナインの体勢であればお互いに舐め合って気持ちよくなれるが、今の状況だと一方的に奉仕をされるような格好。このオオカミを気持ちよくしてやる義理もないし、こうしてちんぽを咥えているだけでも気持ちよさそうではあるが、少しくらいはリップサービスしてやってもいいだろう。
「ちゅぶっ……んっ……おいひいっ……ちんぽ……」
 こんもりと盛り上がったズボンがその言葉を真実なのだと知らしめている。
 フェラをさせると征服欲が満たされるというが、まさにその通りで、ぼくはこのオオカミを従えているという優越をひしひしと感じていた。また、他にも付随して揺り動かされる感情が——
「先輩のちんぽと、どっちがいい?」
 答えは一つに決まっているのだ。もしここで「先輩の方が大きかった」なんて言われたら萎えてしまって立ち直れないかもしれない。
「んっ、んくっ……この、ちんぽっ……すき」
 そんなつもりなんて一切無かったのに、感極まってオオカミの頭を撫でてしまう。従順なペット。そう、この感情は愛玩動物に抱く愛おしさのはずだ。
 にゅぽっ、にゅちっ、くぽ、ぶぽ、じゅぶぶっ。
「ああっ……カイ……気持ちいいよ…………」
 その名前に反応して、ぺったりと伏せられていた耳が起立した。鼻息が荒くなって、しまいには喉の奥からぐるるると唸り声が響き始める。
「カイは、ちんぽ食べるの上手だね。んっあっ……すっ、好きだよ……カイの、おくち……」
 射精間近の男の言葉ほど信用ならないものは無い。特に男同士なんだから、もったいぶらずに愛を囁いたとて後腐れなんてないのに。この気持ちは、脳内を駆け巡る快楽物質によって作り出された幻影にすぎない。出会い系サイトで知り合ったただのセフレに、フェラをさせているだけの相手に、本気になるなんてありえない。
「ぼくも、すきっ! んちゅっ……だいすき、ちんぽすき……」
 だよな。
 自分だってひとのことを言えない。けど、少し苛立ちを覚えてしまう。
 コイツは、ぼくという人間に興味があるわけじゃ無いんだ。あくまでちんぽが主体。そのほかはオマケの付属物。生きたディルド。まあせっかくなら、一緒に映画でも楽しめる方がお得だからというくらいだろう。だから彼を非難するのはお門違いもいいところ。「このオナホを自分だけのモノにしたい」という欲望が、偽物の感情になっているだけ。
「もういきそう! ちんぽいくっ! カイ、ぜんぶ飲んで……」
 前回は、ひとしきり射精を終えてちんぽが萎えると、慎重にそれを引き抜いてからトイレに駆け込んで吐き出していた。本来飲むようなモノではないのだから極々真っ当な行為なのだ。だけど、飲んで欲しい。飲ませたい。吐き出したものを一滴も残さず胃の中に送り込んで、コーラとピザと精液がグチャグチャに混ざり合ったソレを消化させたい。
 びゅーっ、びゅっぴゅ! ごくっ、びゅぷっ、ぴゅ、ごくっこくっ。
「カイ、あああカイぃ……」
 後頭部を押さえつけながら、嚥下する喉の動きをいつまでも味わっていたいと思っていた。


 渦巻いていた興奮もすっかり過ぎ去って、嫌悪と後悔が溜まりはじめる。
 三切れ残ったピザは冷め切っているし、コーラだって氷で薄まってしまっているだろう。
「コレ、食べちゃっていいですか?」
 固くなったピザを手に取って、半開きの口で問いかけてくるオオカミ。
 ただそれだけの光景なのに、どうしてかその口元が、チーズの油分でテカるゴムパッキンがひどく扇情的に感じてしまう。
「スケベなちんぽ」
 嬉しそうにニタリと笑い、再び勃起しはじめたちんぽを指先で軽く弾く。
「こっちを先に食べちゃおうかな」
 ピザを箱に戻してから、しゃがみ込んで口を開くオオカミを慌てて手で制した。
「あの……か、カイ」
 不思議そうに見上げる眼。二つの金環。
「その、えっと……カイ専用の、ちんぽ……なんて、ね」
 きょとんとした顔が、一拍おいてからくしゃりと歪む。いいさ、笑いたいなら笑えよ。
「んじゃあ、ここはそのスケベなちんぽ専用のクチ」
 下顎の犬歯をトントンと叩いてはにかんでみせた。
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