ケモホモ短編

@Y

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顔より先にちんぽを見た仲

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 座椅子に腰掛けて、あぐらのような、M字開脚のような姿勢をとる。
 ヨガでもはじめようという格好だが、下半身にはなにも身につけていない。エアコンが静かに唸る四畳半の空間で、ぼくは明らかに異質な存在だった。
 右手にもったスマートフォンのカメラアプリを起動して、股間の前にもってくる。ふいに小学生のころに読んだ合わせ鏡の怪談を思い出した。しかしいま、フロントカメラに切り替えたその画面をいっぱいに占めているのは男性器。つまり、ぼくのちんぽだ。このスマートフォンの発表時、売り文句は世界で最高レベルのカメラを設計したとかだったかな。これを作ったあの大企業に入れるのは、誰しもが知っている大学を出たような人達だ。そんな天才達が何年もかけて生み出した技術の結晶の前に、なんて冒涜的なモノをさらけ出してしまっていることか。
 ただ自分のちんぽがモニタに映っているだけだというのに、それだけでムクムクと勃起してしまう。フロントカメラはほとんどの場合、顔を撮るためにつかわれる。家族や恋人に向ける笑顔や、友人との楽しい時間。あるいは出会い系サイトに載せるためのキメ顔かもしれないけれど。ありとあらゆる種族や年齢であっても栄えるように計算され尽くしている。だから、赤く腫れあがった亀頭も、裏筋の陰影も、周囲を取り巻く静脈も、見事に表現してくれるのだ。
 シャッター音と連動して、心臓がドクンと鳴った。

『どこ住み? こっちは——』
 はい、却下。
『身体全体を写せますか?』
 違う違う、ちゃんとぼくが書いた内容見ろよ。
『出してるトコロも見せて』
 うーん。惜しいけど、性急すぎる。
 先ほどのちんぽの写真を、まあ、そういうサイトに載せて、この欲求を満たしてくれる相手を探してみたのだが送られてくるメールはハズレばっかり。自分の方が外れた考えをしているのはわかっている。ちんぽの写真ってのはあくまでもきっかけにしかすぎない。エッチする相手のブツが大きいか小さいかは気になるところだろうし、ちんぽだけでなく身体や顔も気になるだろう。
 そういう意味では、ぼくは同性愛者なのかも正直怪しいところだ。抜くときには男同士が絡む動画をもっぱらつかっているし、この界隈でのモテ筋ってヤツを見ると「格好いいな」と共感はできる。でも、ぼくは耽美的な恋愛や雄同士の激しい交尾なんかよりも、ともかくちんぽを見て欲しいのだ。
 なにも自慢のちんぽというわけではない。サイズは普通だし、形も硬さも持久力だって並といったところ。でも、男なら誰だって自分のちんぽに自信というか愛着みたいなものがあると思う。それをちょっと拗らせてしまうとぼくみたいなヤツになるのかもしれない。
『おおきくて立派なちんぽだね』
 胸の内側を羽毛で撫でられたようなくすぐったさ。

 萎えかけていたちんぽにまた血液が集まりはじめる。そうそうコレだよ。ノンケ向けの風俗でだって「こんなに大きいのはじめて~!」なんて褒め言葉があるだろう(行ったことはないけれど)。本心からそう思っているかは別として、勃起したちんぽに対する礼儀なのだ。
『ありがとうございます。こんなちんぽで良かったら、もっと見てください』
 先ほどとは角度を少し変えて、どアップの亀頭の写真を添付する。焦るな、まだわからないぞ。ここから身体も写してとか言われかねないし。
 返信を終えてから、メールを見返しながらちんぽを擦る。これだけでもオカズにできそうだ。チャットやメッセンジャーアプリなんかだとリアルタイムでやり取りができるが、メールのこの間がなんとなく好きだ。見ず知らずの相手のスマートフォンか、あるいはパソコンかタブレットに自分のちんぽが映し出され、それを見て、立派なちんぽだなんていってくれたんだ。興奮してくれているのだろうか。そんな想像が頭の中をぐるぐると渦巻く。
『エッチなちんぽ、じーっと見ちゃってるよ』
 あ、ヤバ。
 ちんぽ見られてる。いや、自分から送ったんだろうというツッコミはさておき、これはヤバいって。エッチなちんぽって。いやらしい目で見られている。恥ずかしい。嬉しい。もっと見て欲しい。しごくたびに先走りがニチャニチャと音を立てる。うっかり出してしまわないようにしないと。こんな機会は今後訪れるかわからない。脳内で中途半端に作り出した、種族も定まらぬ影の鼻先へとちんぽを突き出してパシャリ。
『こんな風に目の前でちんぽ見せつけたいです』
 息づかいを感じる距離。相手の視線はぼくのちんぽで占領されている。ぼくという存在がちんぽそのものになっていく。たしか昔に読んだ本だかで、人間の身体は遺伝子の乗り物という表現があったが、まさにそんなところ。ちんぽの付属物。一歩引いて見ると、顔や身体、はたまた学歴や年収なんかには誇れるものが一切ないから、せめてちんぽに価値を見いだそうとする憐れな考えだろう。それでもいいのだ。ぼくのちんぽを見て欲情してくれる。それだけで。
『おもわず鼻鳴らしちゃったよ。差し出されたらパクッと食べちゃうかも』
 ぼくを射精に至らせるには十分すぎる言葉だった。

 あの手のサイトでは、基本は一期一会。深追いはしないのがマナーみたいなものだ。興奮にまかせてバカみたいな幼稚なやり取りの後、賢者モードになるとメールも全消し。よほど気に入った相手でも、ムラムラするタイミングが合わなければ、ちんぽを見せられたところで鬱陶しいだけだろう。
『仕事の休憩時間に見返しちゃってヤバかったよ』
 だからこうして今も連絡を取れているのが信じられない。
『今夜もまたちんぽ食べさせてほしいな』
 もちろん喜んで。断る理由なんてないだろう。
 彼はほとんどの場合、ぼくのこのオナニーに付き合ってくれた。
 そうオナニー。やりとりの内容だけで考えれば、オンラインセックスといえるだろう。勃起したちんぽを散々っぱら見せつけたあと、その口内の温もりを貪りつくして射精する。彼はぼくの欲望を丸ごと受け止めてくれて、それでいてなにかを要求することもない。無論、彼もぼくと一緒にオナニーをしているのだろうが、その処理を求めてくることはない。
『あと、もし嫌じゃなかったら——』
 だからこんなお誘いがくることは予想外だった。
 どこに住んでいるかは知らないが、お互いに近くにはいるはずだ。ああいうサイトに載せるとき、全国版のページと地域ごとのページとがある。全国版にしたほうが沢山メッセージが来るのはいうまでもないし、リアルでそういうコトを求めているわけではないから地域を限定する必要なんてこれっぽっちもない。でも会う気がなくても、会おうと思えばすぐ会える距離にいるということが興奮を高めるスパイスなのだ。
 って。そうじゃなくて。どうするよ。
 メールを受信拒否にして連絡を絶ってしまうのも手だ。ぼくはあくまでもオナニーがしたいのだ。リアルでエッチする相手を求めてはいない。でも、ぼくの性癖、この性分をわかってくれる相手と、ホントにそういうコトができたら。別に取って食われるわけでもなし。それに、それにだ。いつもぼくの我が儘をきいてくれているのだから、多少の負い目もある。でもなあ、会って幻滅されたらどうしよう。仕事が忙しいとか適当な言い訳をつけて断るか? これまでの紳士的なやり取りからするとスッと引いて、何事もなかったかのようにこれからも相手してくれるだろう。
「そうだな……よしっ」

 うう、緊張する。
 これまでも何度か待ち合わせをしたことはある。一度限りのエッチをする相手や、ネットで知り合った友達なんかと。
 向こうだって理性をもった人間。社会人だ。実は猟奇殺人犯だったりホモ狩りなんていう可能性も捨てきれないが、そんなことは宝くじの一等を当てるよりも低い確率だろう。
 ——いた。
 二十時に駅前の時計の下。
 事前に伝えられた服装と合致する後ろ姿。
 いかにもタダの通行人ですよという風を装って通り過ぎる。深呼吸をしてからスマートフォンを開くと、メールの着信通知。中身は見ずともわかる。もう着いたよとかそんな内容だろう。
 きびすを返して時計を眺める。この時点でも、あくまで視線は時計にしかない。手に持った、世界最高峰のカメラを備えたソレで正確な時刻はわかるというのに。分針が一つ進むのに合わせてゆっくりと視線を落としていく。
 テレパシーというものは信じていないが、お互いに目が合った瞬間、小さく会釈。ソレがぼくとの距離を縮めていく。逃げるつもりは毛頭ないが、走って逃げるなら今のうちだななんて考えてしまう。
 ソレ、いや彼はぼくの目の前まで来ると、鼻先をクイと向けた。それから無言のまま、示し合わせたように二人して歩き出す。
「あー、あのさ」
 交差点で信号待ちをしていたとき、とうとう彼は口を開いた。優しそうな声にちょっと安心した。
「こんなんだけど、大丈夫?」
 はにかんだ口元には白い歯、いや牙。指された指の向こうにはオオカミの頭。毛で覆われた種族は見た目で年齢がわかりづらい。けど、たたずまいも鑑みておそらくは四、五十代ぐらい。
「えっ、いや、見た目は気にしないんで!」
 そこまでいってから慌てて口を押さえた。
 ちがう。誤解だ誤解。そうじゃなくて。今の言いっぷりだと高飛車なヤツに思われただろう。
 だけどこんな人通りのある場所で「ちんぽを見てもらえるなら気にしないっていう意味です!」などと弁解することは不可能。
「うん。よかった」
 幸いにも気を悪くはしていないようだった。

 ああ、気まずい。
 ソファに並んで腰掛けて、彼がいれてくれたアイスコーヒーをすすりながらテレビを眺める。
 ええと、なにしに来たんだっけ。
 メールではいつもぼくが口火を切っていたから、ここはぼくが動くのを待っているのか?
 でも、このマッタリした空気でどうすれば。いっそのこと、このままお互い談笑でもして、それで終わりでもいい気がしてきた。
「じゃあ、そろそろ」
 グラスが空になって、中の氷も溶けきったころ。
 オオカミはおもむろに立ち上がるとテレビを消して、それから王にかしずく騎士のごとくぼくの前で膝をついた。
「ちんぽ、みせて?」
 耳の奥に到達したそれが、頭の中をしっちゃかめっちゃかにかき回す。
 ベルトにかけた指が思うように動かない。お腹痛くなってきた。立たなかったらどうしよう。
「ああ、やっぱり立派なちんぽだ」
 まだ半立ちのそれに、うっとりと話しかける。
「こっ、こんなのでも、よかったらっ……みて」
 心配など不要だった。あっという間に膨れ上がり、心臓がバカみたいに跳ねる。
「うん。ちんぽ見てるよ」
 冷静な口ぶりとは裏腹に、オオカミのほうも鼻息が荒い。
 とうとう見せてしまった。幾度となく画像を送りつけてはいたが、生で。目の前で。
「わ、エッチなちんぽになってきた」
 その言葉に思わず素っ頓狂な声が出てしまった。なんてことだ、先走りが出始めたところをつぶさに観察されてしまった。尿道口からにじみ出し、蛍光灯の光を反射する粘液を。まごうことなき興奮の証。
「はずかしっ、い……あっ、ち、ちんぽ。エッチなところみられてるぅ」
 もっと。パンパンになった亀頭で視界をいっぱいにしてほしい。先走りで濡れはじめた裏筋も見せつけたい。
「名前も知らないオオカミさんに、ちんぽの恥ずかしいところ見られちゃってるね?」
 銭湯やトイレで見られるのとは訳が違う。いきり立って射精の時を待ちわびるちんぽ。どんなに仲の良い友達にも、親や兄弟にだって絶対見せちゃいけない姿。ごくごく限られた、通常は恋人や配偶者にしか見せちゃいけない場所。
「くんくんっ。はぁ……ちんぽすっごい匂いだよ?」
 鼻を近づけて、わざとらしく口で擬音語まで。エロビデオなんかでこんな茶番劇を見せられたら途端に萎えてしまうか笑い出してしまうのだが、すっかり蕩けきった脳みそではそんな余裕はない。
「だ、だめっ! ちんぽくんくんしちゃダメだからぁっ!」
 目一杯腰を突き出して、オオカミの鼻先へとちんぽを仕向ける。覚えてほしい。ちんぽの匂いを忘れないように。来る前にシャワーを浴びて入念に洗ったから臭いというほどでは無いはずだけれど、ちょっとだけ気がかりだ。
「あー……すご……おいしそうだなぁ」
 視線を絡みつかせながら、緩みきった口元からでろりと舌がはみ出した。梅干しかレモンでも見たのかというくらいにヨダレがポタポタと垂れ落ちる。他人のヨダレなんて汚いとしか思わないはずなのに、今はそれが嬉しいのだ。自分のちんぽがこんなにも誰かを興奮させて、求められているという事実に。
「エッチなちんぽ、食べちゃうぞお」
 芝居がかった台詞。子羊を襲う悪者のオオカミ。当のオオカミがやっているから文句のつけようもないが、他の種族がこんなことをすればひんしゅくを買うだろう。
「やだ! 食べられちゃう、オオカミさんにちんぽ食べられちゃうぅ」
 大きな両手が鼠径部を押さえつける。逃げられるはずはないというのに。
 ぺろっ。すんすん。はむっ。
 獲物を品定めし、安全かどうかの確認は怠らないらしい。
「あっ、ああ、はあぁ……」
 マトモな言葉をひねり出す余裕は微塵もない。
 このオオカミの口内で自分のちんぽがどうなっているのか。右手とは比べものにならない。オナホがこの世で一番気持ちいいと思っていた。それがどうだ。いくら人肌に温めたところであんなものシリコンのガラクタだ。あたたかい。溶けて消えてしまいそうだ。この生き物は、ぼくを全部、根元まで包み込んでくれる。恥ずかしいところを受け止めてくれる。
「んむっ、はふ、んっ……ちんぽ、おいしいよ」
 ぐぷぷっ。にゅちっ。ぬぷ。
 オオカミの長いマズルの中に隠されてしまったちんぽ。去勢されてしまうのではという恐怖すら湧いてくる。
「はあっ、んんっ。ちんぽ、もぐもぐされちゃってる」
 ごぽ。ちゅぼっ、にゅっ、にゅぐっ。
「うん。おおきいちんぽもぐもぐ」
 この場に第三者がいたら抱腹絶倒モノだろう。あるいはこの場面が映像に記録されて、ネットにアップでもされたら死ぬまでオモチャにされるだろう。それでもいいさ。セックスなんてそんなもんだろう。恥ずかしいところをさらけ出して、口に出すのも憚られるようなことを叫んで、それでも受け止めてくれるんだ。
「いきそ、でちゃうぅ……」
 くちゅ。ちゅぴっ。ぬっぽぬっぽ。
「ちんぽ……ちんぽ食べられていっちゃう!」
 オオカミの頭を掴み懇願する。
「だして。エッチなちんぽミルク、お口のなかでぴゅっぴゅして」
 びゅっ。ぴゅ、びゅーっ。びゅぷっ、びゅ。
「ふ、んっ。ごくっ……んく、ごく……」
 どうしようもなく感情が抑えきれなくて、オオカミの頭をひたすらになで回した。

 半立ちのちんぽが口内から引き抜かれると、唾液の匂いが鼻をついた。
 まだ荒い息を吐くオオカミの股ぐらを見やると、いつの間に脱いだのか乱雑に脱がれた下着と……フローリングに吐き出された精液。
 さて、やることはやった。いつものメールの調子だと「気持ちよかったです、おやすみなさい」でおしまいにできるのだが、さすがにそうもいかないだろう。それに、さっさと切り上げてしまおうなんて気持ちはなかった。
 だからといってなんて声をかければ。「おつかれさまでした」だとビジネスライクだから、やっぱり「気持ちよかったです」がいいのかな。いやそうじゃなくて。ぼくがいいたいのは。
「あの」
 オオカミと目が合った。まんまるな金色と黒点。ことの最中は、オオカミはぼくのちんぽに釘付けだったから目を合わせるのは久々だ。
「もし、よかったら」
 またヤりましょうよ。そうだ、それでいいんだ。今までだってそう。所謂セフレってやつ。ぼくはこのオオカミにちんぽを見て欲しい。オオカミはぼくのちんぽを見たい。それだけ。それ以外は、求めも求められもしなかったじゃないか。
「うん」
 次回の約束。喜ぶべきなのに気持ちは晴れない。こんなの一過性の感傷のはずだ、きっと。下着を履いて、コーヒーのお礼をいってから帰ろう。家に着いたらもう一度メールでお礼をしよう。
「名前」
 丸い目がいっそう丸くなる。
 しばし後、合点がいったのか目を細めて口を開く。
「はは、そういえばお互い名前も知らなかったね。ぼくの名前は——」

 
『今夜もまたちんぽ食べさせてほしいな』
 あの日と変わらないメール。
『うん。でもその前にご飯も一緒に食べよ』
 だけど、あの日からちょっとだけ変わったんだ。
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