ケモホモ短編

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オオカミの骨

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 水平線へと消えかかる夕陽に照らされたガントリークレーンの群れ。コンビナートから発せられる光が一番星と競い合い、遠くで汽笛が鳴っている。
 そんな光景に見とれている間も、握りしめた竿にアタリが来る気配は無かった。潮が悪いというヤツだろうか。
 釣りなんてもう何年ぶりだろう。日曜日の夕方、ふと部屋の片隅に目をやると埃をかぶった釣り竿。気まぐれで買って、二、三度使ったきり放置していたものだ。
 ダラダラと寝て過ごした週末。明日の事を考えるといてもたってもいられなくなって、釣り竿を持って海へ繰り出したというワケ。
 だから、今の時期何の魚が釣れるのか、満潮や干潮の時間帯がどうなのかなんて情報は一切インプットせずに、ルアーだから餌も要らないだろうと浅はかな考え。こんなので釣れるはずがない。準備万端で計画を練りに練って本気で挑んだ釣り人でもボウズの日があるのだから。
 まあ、ぼくだって本気で今晩のオカズを釣り上げようと思ってはいない。ちょっとした散歩がてら、ただの気晴らし。もし、万が一、とっても運良く魚が釣れてしまった場合に備えて、折りたためる携帯式のクーラーボックスは持ってきたけれど。
「うわ、最悪だ」
 思わず声が出てしまう。
 少しだけ気恥ずかしくなって辺りを見渡してみるも、堤防にはぼく一人。
 竿を軽く引いてみる。続いてリールを巻こうとすると、ギチチと軋んで竿の先端がしなった。
 これは根掛かりだ。ルアーがストライキを起こして座り込んでしまったらしい。魚であればもっとブルブルと暴れた振動が伝わるし、タコやカニでもまた少し違う抵抗をみせる。この感触は、ルアーの針が海底の岩か海藻に引っかかっていると思われる。
 竿を右へ左へゆっくりと振ってみる。こういう場合、そのまま真っ直ぐに引っ張っては糸が切れてしまう。だからこんな風に横へ動かしてやれば、引っかかりが解消されることが多い。
「お、いけたか?」
 ヌルリと海底を滑るような感触。
 重さは残っているが、僅かずつだが動いている。タコだったら刺身にしようか、カニなら味噌汁かな。
 実際のところは海藻か流木、最悪ゴミが釣れるだろう。漫画でよくある、長靴とかバケツが釣れるパターン。さて、何が出てくるかお楽しみだ。

「わっ!?」
 水面から想定外のモノが現れて、腰を抜かしかける。
 骨。ホネ。ボーンの骨。
「マジかよ」
 リールを巻く間に針が外れてまた海底へ戻ってくれることを期待したが、ソレは意思を持っているかのように食らいついて離さない。
 こちらからハサミで糸を切ってしまおうか。でもそれはマナー違反だよなあ。ポスターで見たことがあるぞ、ウミガメとかアザラシに釣り糸なんかが絡んで苦しんでいる写真。気は乗らないが釣り上げる他はないだろう。
「これ動物だよな。イノシシ、いやイヌか?」
 堤防のアスファルトの上に置いたそれは、動物の頭蓋骨。
 動物に詳しければ何の動物か鑑定ができるのだろうが、おあいにく様。見た目としては、恐らくイヌだと思われる。それも結構大型の。
 人間の骨であれば警察へ届け出る義務が発生するだろう。だが動物のものであればそんな必要もない。
「結構キレイだな」
 その頭蓋骨は、すっかり暗くなった中でもぼんやりと光って見えた。廊下なんかに貼ってある蓄光素材を思い起こさせる頼りない明かり。
 実際のところは、その白さがそう錯覚させているのだろう。色のくすみは殆ど見られず、フジツボなんかが着いているわけでもない。教育用の模型だと言われても信じてしまいそうだ。海底で泥に覆われていたから劣化が抑えられたのかもしれない。
「……冷たい海の中で、寂しかったよな」
 飲み水用に持ってきたミネラルウォーターをかけて、少しだけ残っていた泥を落としてやる。それから手を合わせて、弔いの言葉を口にした。
 このイヌが死んでからどのくらい経過しているかは定かではない。一年か、五年か十年。あるいはもっと経っているかもしれない。飼い犬か野良犬かもわからないが、イヌであれば何らか人間との関わりを持っていたはずだ。ひとりぼっちできっと寂しかったろう。どこからかこの海へ流れ着いて、今日ぼくに釣られたのも何かの縁だ。イヌに人間式の供養が通じるかはわからないが、これで勘弁してくれよな。
「さて、と。どうしたもんかな」
 感傷的な気分の後に突きつけられた、現実的な問題。
 この頭蓋骨をどうするか、だ。
 ここまでした手前、海の中に戻すのもばつが悪い。
 置き去りにするのも忍びない。その辺りの公園にでも埋めるにしても、人目についたら厄介だ。下手をすれば動物虐待の疑い有りとして警察に通報される可能性も十分ありうる。となると、ペット霊園にでも持って行くのが良さそうだ。もうこの時間だと開いていないだろうから、今日のところはこの骨を持って帰るか。
 クーラーボックスに魚ではなく骨を入れる羽目になるとは。

「じゃあ、おやすみ」
 ベッドの脇にあるテーブルへ置いた骨にそう言って電気を消す。
 不思議と、気持ち悪いとは思わなかった。
 ぼく自身イヌが好きだし、実家では飼っていた。一人暮らしでの寂しさを紛らわせたかったのもあるだろう。
 ぬいぐるみに話しかけるような感覚で、夕食をとる間も、風呂上がりにコーヒーを飲んでいる間も、とりとめもない事を話しかけているとなんとなしに愛着が湧いてきてしまったのだ。いっそ名前でも考えてやるか。ポチはちょっと安直すぎるかな。真っ白い骨だから、シロとか。どのみち安直だな。
「頼むから化けて出るなよ、シロ」
 そうして目をつぶり、ぼくは深い眠りの底へと落ちていった。
 ——はずだった。
 息苦しい。暑い。今、何時だ。
 まだ外は暗い。朝にはなっていない。
 起き上がろうとするも、身体の上にずしりと何かがのしかかっている感触。
 頬を撫でる生暖かい風。オマケに生臭い。アレじゃん。典型的な心霊現象! 金縛り!
 ウソだろ。オカルトなんて信じないぞ。怖いから信じたくない。お化けなんていないんだ。なんだっけ、動物霊とかは下手に構うと着いて来ちゃうみたいなこと言ってたっけ。ああ骨を持って帰って来たから尚更ダメなのかも。人間に恨みがあるのかな。虐待とかされたイヌの恨み? でも、でも。感謝はされても恨まれる筋合いなんか無いぞ!
 半ばパニックに陥りながらぐるぐると考えていると、べちゃりと何かが顔にぶつかる。
「ひいっ……!?」
 ぴちゃ。ぺちゃ……ぺろ、べちゃ。
 主に口元を這いずり回る、ぬるいナメクジのような感触。
 ん? これって。
「……まて」
 この懐かしさは。
「こら、まーて! まて!」
 ぼくは知っている。
「シロ! そこにおすわり!!」
 ベッドの脇を指さすと、ふっと身体が軽くなる。
 そして指の先には、白い塊が不服そうな顔で座っていた。

「うわ、イヌ」
「わしはオオカミだっ!」
 ますます機嫌が悪くなる白い塊。
「しゃ、しゃべっ」
「なんだと、オオカミが喋ったら困るのか?」
 いや、困りはしないけど。意思疎通できるほうが助かるけどさ。
「ええと。あの、オオカミの幽霊さん? ど、どうしてお姿を現されたんでしょうか?」
 老人のような口調だし、一応は下手に出ておくほうが無難だろう。変に刺激して呪いをかけられたりしても困るし。
 明かりをつけてみる。幽霊なのに透けてはいない。そして動物園か図鑑から抜け出してきたかのようなオオカミの姿。
「ああ。おぬしに礼を言いたくてな。泥の中から引っ張り出して、回向までしてもらえるとは」
 オオカミはそう言って頭を下げた。悪いヤツではなさそうだ。
「いえいえそんな。たまたま偶然といいますか……」
 会社で顧客に対してそうするように、ぼくはペコペコと頭を下げ返す。
 あまりに自然にオオカミが喋るものだから、目の前で繰り広げられている、オオカミの幽霊と喋るという超常現象を自然と受け入れ初めていた。
「どれ、わしに出来ることなら何でもしよう」
 そう言って、どこか得意げな顔で自身の胸をトントンと叩く。
「億万長者にしてください、とか?」
「おとぎ話じゃあるまいし、そんなの無理に決まっとるじゃろ」
 即否定。
 いや、こういうときのセオリーじゃないの? ここまで昔話のテンプレみたいな展開なのに。
「えっと、じゃあ何ができるんですか?」
 オオカミは、ニマリと笑った。
「夜伽の相手なんぞどうじゃ? おぬしのソコも物欲しそうにしておるぞ」
 指さした先にはぼくの股間。朝立ちというか、まだ夜だけど、不随意的に勃起してしまっていたようだ。
「この身体では手足は上手く使えぬが、そのぶん口は器用でな」
 ベロリと舌なめずり。
 つまり、その口でぼくのモノを慰めてくれる、ということのようだ。
 行為の内容だけ考えれば相当マニアックというか、超特殊なフェチ向けって感じだ。だが悪い気はしない。ぼくも男だからエッチなことは好きだし。

「じゃあ、その、よろしくお願いします」
 オオカミの前に立ってズボンを脱ぐ。そしてパンツのゴムに手を掛けてから声をかけた。
「だ、出しますね」
 お互いにこれから行うことへの合意は済んでいるのだから、何らことわる必要もないのだが、恥ずかしさを紛らわせたいのもあった。
「う、うむ」
 ぼくの緊張が伝播したのか、先ほどまで余裕綽々だったオオカミがこわばった表情でゴクリと喉を鳴らす。
 ずり下ろしたパンツの勢いでちんぽが跳ねた。よかった、萎えてしまったらどうしようかと思っていた。黄色い目の中に浮かんだ瞳孔が寄り目がちになり、一点に集中する。
「あの……」
 そんなに見つめられると穴が開いてしまいそうだ。
 ピクピクと脈打つリズムに合わせて動く瞳。
「えっと」
 何か反応してくれないと恥ずかしい。
 鼻息の音だけが不規則に続く。
「もしもーし、オオカミさん?」
 だらしなく伏せられていた耳がピンと立った。
「な、なな、なんじゃ。別に、見とれてなんかおらんぞ!」
 いや別に聞いてないんだよなぁ。
 夜伽だなんだと言っていたときとは大違いだ。顔を真っ赤にして毛を逆立てている。
「にに、人間のは、初めてで」
 きっと人間以外のモノも初めてだろうなと内心思ったが、それはツッコまないでおく。
 手練れのオオカミに食べられてしまうんだと覚悟をしていたのに拍子抜け。やりどころのない気持ちが嗜虐心へと変化していく。
「器用な口で、どうしてくれるんでしたっけ?」
 ギクリと肩を縮めてから、すぐに気を取り直す。
 半開きになった口から、恐る恐る舌が伸びてきて亀頭をつつく。うっとりとした息。
 何度か口をパクパクとさせて、獲物が口の中に収まるのか計算をしている様子。時折覗く牙が、本能的な恐怖を感じさせるが、それすらもぼくを興奮させるスパイスになっている。
「このマラを……今から……」
 熱に浮かされたように、夢見心地で呟いている。
「そうですよ。今からこのちんぽ食べてもらいますからね」
「ちっ、ちんっ……!?」
 驚いたオオカミが上目遣いにぼくを見る。
「そう、ちんぽ。覚えて下さいね」
「人間の、ちんぽ……」
 従順な様子に、思わず撫でてやりたくなる。
「お口に人間のちんぽ入れられて、じゅぽじゅぽイヤらしい音立てて味わってから、いっぱいぴゅっぴゅって精液出されちゃいましょうね」
 もどかしげな声。
 オオカミの股間から、赤いちんぽがムクムクと生えてくる。

「オオカミさん、いや……シロ、ちんぽ食べて?」
 即席で付けた名前。まだ了承は取っていないが、様子をみるにその名前に異論はなさそうだ。
 つぷ。ちゅぶぷっ。
 ちんぽがオオカミの口内へと飲み込まれていく。
「ああっ、シロ、気持ちいい」
 自らの名前に反応して、背後の尻尾が遠慮気味に震える。
「名前呼ばれるの、好き?」
「んふっ、はあっ……。ああ。名前を貰ったのは初めてでな……んむっ、ちゅっ」
 ぎこちなく動く舌が裏筋を擦る。
 ぴちゃ、れちゅっ。にゅりっ。
 カリ首をぐるりとなぞり、尿道口から溢れた我慢汁を喉の奥へと運んでいく。
「シロはちんぽ食べるの上手だね」
 初めてとは思えない。
 動物は教えられずとも交尾ができる。本能に刻まれているからだ。このオオカミも、口に含んだちんぽがどうすれば気持ち良くなるのかを本能で理解しているのだろう。
 ぬぼっ、にゅぽっ、じゅっぷじゅぽっ。
 射精を促そうと、精液を強請ろうと、徐々に動きが早くなっていく。
「すごっ、あ、ああっ!」
 ぼくはこの快楽の拷問ともいえる責めに、無様な声を出しながら耐えるしかなかった。
 ちんぽの付け根がキュッと閉まるような感覚がし、射精が近いことを物語っている。それはきっとシロにも感じ取れているはずだ。
「んぐっ、んっ、んんっ!」
 ちんぽで喉の奥を突かれて、口吻の長いオオカミといえど苦しそうな声をだす。
 目には薄らと涙が浮かび、鼻水とおぼしき液体が光っている。なんといじらしい姿だろうか。
「シロ! ちんぽ、ちんぽおいしい!?」
 コクコクと首を縦に振るシロ。
「おっ、おいしいぞ。おぬしの、ちんぽ、おいし、んぶっ!?」
 射精まで秒読み。たまらず、シロの頭を掴んでメチャクチャに腰を打ち付ける。
「ンゲッ、おっ、おいっ! エッ、オエッ……ちょ、待っ、ゴブッ」
 抗議しようと口を開くと、その隙間を埋めるようにちんぽが押し込まれる。苦しそうな嗚咽に申し訳なさがこみ上げてくるが、腰を止めることができない。シロの口元は濡れそぼり毛がべったりと張り付く。
「ああゴメン、いくっ、シロ、ぜんぶっ、全部飲んで!」
 びゅぷっ、びゅーっ、びゅる、びゅびゅっ。
 無限に続く射精。目をつぶり、歯を食いしばって快楽の波に耐える。
 何度目の脈動だろう。精液が出ているのか、空打ちしているのかも定かではない。
 ブシュッとなにかが吹き出す音と、太ももをタップする感触。
 シロは涙目で白い鼻ちょうちんを作っていた。股間のちんぽからは、噴水アートのようにピュッピュと精液が断続的に噴き出していたのだった。

 
「無茶苦茶にしおってからに。危うく成仏しかけたぞ!!」
 成仏できた方が良いのでは、と思ったが言わないでおく。
「はい、すみません……シロさん」
 グルグルと唸ってみせるが、ぐしょぐしょの顔では迫力も半減だ。
「……まあよい。明日から、色々と案内を頼んだぞ」
 明日? いや、こういうのは「翌朝になるとオオカミの骨は消えていて……」てのが定石でしょ。
「家に持ち帰って、名前まで付けておいて捨てるのか!?」
「そんな人聞きの悪い」
 ともかく、そんなわけで、ぼくと一匹の奇妙な生活が始まったのだった。
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