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第42話 俺と錬の場合
しおりを挟む「それじゃあ、とりあえず、言い出しっぺの俺から話すか……」
廃ビルの二階。
幽霊のお嫁さんというとんでもない進路希望を学校に提出しようとしている、何だか色々と将来が心配な静子ちゃんのために、様々な職業の話を聞いて考えを改めてもらおうと、知り合いの幽霊を何人も集めた俺の部屋。
幽霊がたくさんいる影響か、エアコンの無い夏の部屋にしては涼しくなっているその部屋で、俺はそんなセリフを最初に、生前の職業について話し始めた。
「同じ職場だった錬も同じだが、俺たちは生前、インターネットの回線とかサービスを売り込む、営業マンとして働いていたんだ」
幽霊側の世界では、スマホとかの通信端末が、モバイル回線でも、Wi-Fiでもなく、それを所持している霊同士の霊的な何かで繋がっているっぽいから、こちら側では俺の職業は廃業しているとは思うが、現実側ではそれなりの就職率があるだろう。
会社や、時には個人を相手に、自社のインターネット回線やサービスを売り込んで、さらに詳しい説明を求められれば、客先に足を運んで直接お話しする。
覚える知識が多く、体力的にもメンタル的にも結構なタフネスが必要だが、高度な数式やら専門技術を必要とせず、芸術的なセンスも求められない。
学生時代、一夜漬けでもテストの暗記系問題がそれなりに回答出来て、その代わり、計算問題とか文章問題系がそれほど得意ではなかった、どちらかというと部活動とかの方を頑張る学生だった、俺みたいなやつには、そこそこお勧めできる進路だとは思う。
まぁ、営業の電話を嫌がって、突き放すような応答をされる会社さんも多いし、夏でもピシッとスーツにネクタイをして客先に出向く必要があったりするので、女の子にはあまりお勧めできないが……。
「……そんな感じで、ちょっと静子ちゃんには合わないかもしれないけど、こういう仕事も世の中にはあるんだなってことで」
「はい、ありがとうございます……わたしも話を聞きながら、ちょっとわたしには向いてないかも、と思いましたけど、色々な職業を知っておくのは良いことだと思いますから」
「そうだな……じゃあ次、錬は昔は同じ職場だったが、今は服屋の店員をやってるんだったか?」
「そうっすね、とは言っても、俺っちは商品を幽霊相手に霊体化することができるって能力を買われて雇われただけなんで、普通に働いている服屋の店員を目指すには参考にならないと思うっすけど」
そう言いながらも、まだ片手で数えれるくらいしか働いていない錬が話した内容は、それなりに一般的な業務内容が分かるものだった。
昔から意外と、よく人の動きを観察して、関わったことのない仕事でも積極的に関わろうとする性格ではあったからな……。
暗記も得意ってわけでもないし、難しい交渉は苦手だったみたいだが、失敗の数を、やる気と、人当たりの良さでカバーしていて、業務成績もそんなに悪くなかったと思う。
今も、人によってはこんな業務内容もあるらしい、とか、お客さんの相談にも乗れるベテランの先輩から、最近のファッションについて教えてもらえる、とか、人伝で聞いたり、コミュニケーションで会得したであろう話をしていて、なんとも錬らしい職業紹介になっているしな。
「接客はあまり得意ではありませんが、室内作業が殆どで、流行のお洋服を教えてもらえるというのは嬉しいですね」
「同じ室内作業でも、パソコンとか使うやつは、ずっと同じ姿勢で座りっぱなしで健康に悪そうだし、元営業の俺っちには、立ちっぱなしでも適度に動ける今の仕事の方が向いてるっすよ」
「なるほど、そういう見方もできるんですね」
確かに、言われてみれば、直接その業務に関わる内容だけじゃなくて、自分が実際にどんな動きをするかも、就職先を決める要素の一つになるかもしれないな。
長く働いていると気にならなくなるが、基本的な労働時間である8時間ってのは意外と長い。
本当に好きで熱中してしまうような仕事に当たれば、逆に短く感じるのかもしれないが、そんな出会いは稀だろう……。
だったら、きちんと8時間分、ずっとその作業をする、座ったままになる、あるいは立ったままになる、ってのも意識して、自分にあったものを選んだ方が、無理なく続けられる気がする。
まだ始まったばかりだが、静子ちゃんのために開催した、人の仕事を聞いてみるというイベント……意外と、自分にとってもためになるかもしれない。
そういえば、よくよく考えてみると……今もまだ無職なの、俺だけだし……。
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