非日常的御遊戯御招待の事

乍冥かたる

文字の大きさ
4 / 8

もやもや

しおりを挟む
それから、いつも通りの何週間が過ぎた。

いや、いつも通りとはちょっと違う。

少しだけ変わったことがある。

それは、わたしの彼への距離感だ。

彼は今まで通り不定期にやって来てはいたが、やっぱり、わたしの心を見抜いた店長の視線というものは、わたしの挙措を無言のうちに掣肘せいちゅうした。

店内ではドライな二人だとはいえ、知人だという。

もし、飲み友達だったとしたら、わたしの話題が出ていないとも限らない。

「あの人、君に気があるらしいスぜ」

うーん、こんな「ス」は使わないか・・・。

「あの人、君に気があるらしいぜ」

真面目な彼が、目を丸くする。

「本当に?光栄だなあ」

いやいや、そうじゃない。

「冗談でしょう?」

馬鹿にされるかも。

「・・・・・・。」

黙って困るかしら。

「店長の君から、そっと、たしなめてくれないか」

困った挙句にそんなこと言われた日にゃあ・・・・。


タコ唐や塩焼きそばと一緒に、わたしは彼らの格好の肴。

せめてプラのお皿に乗せて頂戴。

落として割ってしまわないように。


ここまで深刻に考えるということは、恋心へ向かっていたのかもしれない。

だけど、そこへ行くまでのかなり手前で自分でストップをかける、これって大人っていうやつかしら。

いや、大人というか、いつものわたしね。

それが、わたしという人間なんだ。

わたしという人間がそうなんだ。

いつもそう。

いろんな事情がある。

あると思い込んでいる。

だけど実は、変化が怖いだけ。

進んでしまって、日々の色が変わってしまって、後戻りできなくなる。

しかも、その昨日とは一変した世界は、裸一身の、今ある武器のみで、わたし自身がひとりで勝負しなければならない世界。


そんな自信ないし。



そうして、自分でストップをかけ、安心したふりして、心を深い穴の奥にしまい、上には漬物石ずどん。

変化のない今を、やっぱり歩いている。


ときどき、漬物石で、心の入れ物がきしむ。

軋みすぎるとギシギシ音がうるさくて、心が揺さぶられて、そして眠れない夜が来る。

そんな夜のために、心に幻想を見せて誤魔化すだけのモノが増えていった。


彼の存在は、そんな無機質のモノたちとは違って、わたしの心に、脈打つ体温のある日常を送ってくれていた。

だけど、違ったのかもしれない。

得られない以上は、無機質なモノだったんじゃないだろうか。

まあ。

でも。

それでもよかったんだけどね。

なんというか、健康的でね。


さらに数日が過ぎ、朝夕、めっきり気温の下がるようになった頃。


「あら」


出勤すると、事務所に珍しくマネージャーがいた。


「まいった」

「え?」



「店長が倒れたよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

兄弟カフェ 〜僕達の関係は誰にも邪魔できない〜

紅夜チャンプル
BL
ある街にイケメン兄弟が経営するお洒落なカフェ「セプタンブル」がある。真面目で優しい兄の碧人(あおと)、明るく爽やかな弟の健人(けんと)。2人は今日も多くの女性客に素敵なひとときを提供する。 ただし‥‥家に帰った2人の本当の姿はお互いを愛し、甘い時間を過ごす兄弟であった。お店では「兄貴」「健人」と呼び合うのに対し、家では「あお兄」「ケン」と呼んでぎゅっと抱き合って眠りにつく。 そんな2人の前に現れたのは、大学生の幸成(ゆきなり)。純粋そうな彼との出会いにより兄弟の関係は‥‥?

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

処理中です...