非日常的御遊戯御招待の事

乍冥かたる

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コンコンッ

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「倒れた??」

「いやあ、過労だって。今日、出勤して早々に事務所で倒れたらしいんです。早出の山上さんが救急車を呼んでくれて、けっこう、大ごとだったみたい。うーむ、やっちゃった。本社から大目玉食らうよぉ・・・。そんな無理させたつもりはないんだけどなぁ」

「・・・、それで、大丈夫なんですか?店長」

「医者が言うには、一週間は療養してほしいとのことです。彼も若いからねぇ。無理してたんだと思いますよ、精神的にもねぇ」

「一週間・・・」

「うちの本社の気質として、たぶん、ガッツリ一週間は休養を与えるでしょうね。ほらうち、親会社があそこでしょ?世間の手前、ブラックのイメージだけは鋭敏なんで。で、まあ、その分、皆さんにはご迷惑をお掛けするかと・・・、ともかく、他店舗からヘルプの店長代理は呼びますが」

「入院ですか?」

早口でおしゃべりのマネージャーがふと黙り、わたしに向かって苦笑した。

「普通はね」

「え?」

「彼さ、点滴打ちながら、絶対にうちに帰りたいって医者が止めるのを押し切っちゃった」

「へ、うちに帰っちゃった?」

「うん、私が送ったんだけどね。フェレットが心配なんだって」

「え?」

「ペットに餌をやらなきゃいけないから、うちを空けるのはまずいって。餌やりと掃除をしたらおとなしく寝てるからってほとんど泣きつかれて。ネズミなんて、二三日餌を食べなくても平気じゃないの?」

ネズミではないと思ったが、じゃあ、なにかと聞かれても困るので、黙っておいた。

「そっか、うーん、餌くらい、わたしがあげるのに」

そう言うと、マネージャーがまた、わたしを見つめた。

「あ、そういうことしてくれるタイプですか?」

「え?ま、まあ、それくらいなら。あー、あれよ、エサがコオロギとかじゃなければ」

「え、え、じゃあね、ぜひぜひ、お願いがあるんですけど、聞いてくれませんか?」

「はい?」

「彼ね、スマホと財布を置いて行っちゃったんです。たぶん、困ると思うんで、彼の家に届けてほしいんです。いえ、もちろん、これから仕事の後だと遅くなっちゃうんで、明日で構わないんだけど」

「え、え」

「当然、マネージャーの私が行くべきなんですが、この後、12時11分だったかの新幹線で本社に行かないといけないんです。帰ってから、改めてお見舞いには行くつもりなんですが、ちょっと日があるんで」

「おうちの方いないんですか?」

「彼、実家が愛媛で、こっちでは一人暮らしなんですよ」

「愛媛ってどこだっけ」

「四国。四国の左っかわ」

「あー、阿波踊り」

「それ徳島」

「うずしおだっけ」

「それも徳島」

「・・・・・・・。」

「お願い、、していいです?」

「もちろんです。お世話になっているし、これくらい」




翌日はシフトも入っておらず、特に用事もないので、午前に買い物を済ませ、お昼を過ぎた頃に店長の家に向かった。

安請け合いしたつもりはないけど、使命感を凌駕する、この緊張感。

職場の男性のプライベートに入り込むというのは、どうにも気が引ける。

マネージャーに聞いた住所へ行くと、教えられたアパートがあった。

全棟が抑え目のブラウンとイエローで統一されて、オシャレな結構の三階建てだった。

その三階の角部屋。

階段を上がるのにも緊張して、足跡を殺して歩いた。

廊下。

ドア。

表札はなく、ただ、部屋番だけが金属板に刻まれている。

なんでしょう、この威圧感。

ドアポストの口。

( 入れて黙って帰るか、、、。それも失礼かな。メモ書きでも用意しておけばよかった )

あー、そうだ、スマホに一言、連絡を入れておこう! それでメモ書き代わりになるじゃない!


( ・・・・・・・・・。 )


今、私が持っているのが、その相手のスマホじゃない。


ドアポストの口に財布を当ててみる。

( げ、入らない )

なんで男の財布って、こんなに分厚いのよ。


無駄な思考のウォーミングアップが終わり、脳がほぐれたところで意を決してドアホンを押した。


( ・・・・・・。 )

あれ、鳴ってない?

だいたい、アパートのインターホンなら、押した外にも音が漏れ聞こえるはずだけど。

しばらくして、反応がないので、もう一度押す。

( ・・・・・・・・。 )

やっぱり鳴ってない??

もう一度。

もう一度。

仕方がないので、ノックした。


コンコンッ

( ・・・・・・。 )

コンコンッ


反応がない。


「すいませ~~ん」

ドアノブに手を掛け回す。


ガチャリ


「開いた・・・」
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