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高崎市 奈美のこと
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静かな夜の道。
ETCゲートを抜け、Gの掛かるきついカーブ。
それが直線になる。
アクセルを踏み込んだ。
重低音に響くエキゾースト。
サイドミラーに見えた光たちは瞬時に点となり、途端に、フロントガラスに近づく赤いテールランプ。
トラックだ。
500m先。
前方の右車線を80kmのオートクルーズで走っている。
仕事の邪魔をしちゃあ、悪い。
早めの左ウインカー。
このスピードでは、これくらいが丁度いい。
左へ遠目から車線変更。
ストレートで抜き去り、十分に車間を置いて、鈍角に右へ。
トラックは点になった。
あの点の中にいるであろう運転手へは、迷惑を掛けなかったはずだ。
夜の高速が好きだ。
街から溢れる色々な光を蓄えた漆黒の中を、脳の殆どの部分はリラックスし、目だけが凛々と冴える感覚。
現時点から先、500m前方までは完全に空間として掌中に掴み、200km近いスピードで、鉄の塊をコントロールする爽快さ。
身体は、たとえではなく、車と本当に一体化し、でなければ、このスピードで車を無理なく制御することなんてできない。
味覚と食感への感受性が異常に発達し、料理が上手い人がいる。
筋肉の運動を効率よく稼働させることに長け、人よりも遠くへボールを投げられる人がいる。
自然と人の立場に立つことができ、一歩早く、他人への思いやりを持つことができる人がいる。
人は何かしらに秀でていることがあり、俺は素朴に、車を高速で操ることに秀でているに過ぎなかった。
顧客へは、必ず車で逢いに行く。
ガソリン代、高速代を含め、交通費は顧客持ちだ。
新幹線もいいが、仕事が終わった後、車があると自由に観光ができる。
どうせ、各地へ足を運ぶのなら、そのほうがいい。
仕事は、いわゆる出張ホストというやつで、何度も仕事を変え、そのたびに、組織の不条理に嫌気が差し、辿り着いた仕事。
高い酒を呑ませるわけでもないので全く稼げないが、特に不便なく生活する分にはやっていける。
サービス内容はさまざまで、話し相手だけだったり、デートの相手だったりもするし、もちろん肉体サービスもある。
誰もが安易に個人事業主になれる時代。
だがしかし、始めた頃は、当然、客など付かなかった。
半年間仕事がなく、貯金を擦り減らす日々。
ウェブサイトを作り、SNSに投稿したりして、まずは注目を集めた。
注目は集まったが、その分、嫌がらせや冷やかしも散々にもらい、心が折れそうになったとき、一人の客が付いた。
この客から受け取った2万7千円は、今でもリビングの神棚に供えてあり、恐らく、今後も手を付けることはないだろう。
彼女はたった一度だけの利用で、リピーターにはなってくれなかったが、俺にとっては、前途への心の重さの原因だった不信の足枷を、そっと解いてくれた特別な人だった。
ETCゲートを抜け、Gの掛かるきついカーブ。
それが直線になる。
アクセルを踏み込んだ。
重低音に響くエキゾースト。
サイドミラーに見えた光たちは瞬時に点となり、途端に、フロントガラスに近づく赤いテールランプ。
トラックだ。
500m先。
前方の右車線を80kmのオートクルーズで走っている。
仕事の邪魔をしちゃあ、悪い。
早めの左ウインカー。
このスピードでは、これくらいが丁度いい。
左へ遠目から車線変更。
ストレートで抜き去り、十分に車間を置いて、鈍角に右へ。
トラックは点になった。
あの点の中にいるであろう運転手へは、迷惑を掛けなかったはずだ。
夜の高速が好きだ。
街から溢れる色々な光を蓄えた漆黒の中を、脳の殆どの部分はリラックスし、目だけが凛々と冴える感覚。
現時点から先、500m前方までは完全に空間として掌中に掴み、200km近いスピードで、鉄の塊をコントロールする爽快さ。
身体は、たとえではなく、車と本当に一体化し、でなければ、このスピードで車を無理なく制御することなんてできない。
味覚と食感への感受性が異常に発達し、料理が上手い人がいる。
筋肉の運動を効率よく稼働させることに長け、人よりも遠くへボールを投げられる人がいる。
自然と人の立場に立つことができ、一歩早く、他人への思いやりを持つことができる人がいる。
人は何かしらに秀でていることがあり、俺は素朴に、車を高速で操ることに秀でているに過ぎなかった。
顧客へは、必ず車で逢いに行く。
ガソリン代、高速代を含め、交通費は顧客持ちだ。
新幹線もいいが、仕事が終わった後、車があると自由に観光ができる。
どうせ、各地へ足を運ぶのなら、そのほうがいい。
仕事は、いわゆる出張ホストというやつで、何度も仕事を変え、そのたびに、組織の不条理に嫌気が差し、辿り着いた仕事。
高い酒を呑ませるわけでもないので全く稼げないが、特に不便なく生活する分にはやっていける。
サービス内容はさまざまで、話し相手だけだったり、デートの相手だったりもするし、もちろん肉体サービスもある。
誰もが安易に個人事業主になれる時代。
だがしかし、始めた頃は、当然、客など付かなかった。
半年間仕事がなく、貯金を擦り減らす日々。
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注目は集まったが、その分、嫌がらせや冷やかしも散々にもらい、心が折れそうになったとき、一人の客が付いた。
この客から受け取った2万7千円は、今でもリビングの神棚に供えてあり、恐らく、今後も手を付けることはないだろう。
彼女はたった一度だけの利用で、リピーターにはなってくれなかったが、俺にとっては、前途への心の重さの原因だった不信の足枷を、そっと解いてくれた特別な人だった。
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