出張ホスト 邂逅神代です

乍冥かたる

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高崎市 奈美のこと

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東名を厚木へ抜け、海老名JCTから圏央道に入った。

ここからは、鶴ヶ島に向けて、真北へ進む。


顧客と逢うのは、いつも緊張する。

相手に金を出させる以上、相手には満足を与えたいが、自分に自信を持ち切るほどバカにはなれないし、そのあたりの気負いも緊張の一因だろう。

大きく言えば、良い格好をしたいし、無難に事を収めたいし、恥もかきたくない。


本当のホストのように、店に腰を下ろして待ち構え、惚れさせた女を通わせる。格好がつくといえば、これほど格好のつく形態はない。

俺といえば、こうして遠距離をあくせく地道に通うのだから、どんなに粋がっても、通うほうが様にならないのは痛切に実感している。


しかし、緊張の原因の最大のものは、俺自身、女が苦手ということだ。


嫌いで苦手なのではなく、好きすぎるから、興味がありすぎるから苦手なのだ。


よく、今度生まれ変わるなら、男か、女か、みたいな話がある。


いろんな人間がいるし、あんな男なら最悪だ、あんな女に生まれたら地獄だなんてことはザラにあるが、そうしたものは置いておいて、ごく気軽に答えるなら、絶対に男に生まれ変わりたい。


なぜって、女に生まれたなら、男を愛さなくてはならないんだ。

こんな、どうしようもない生き物を愛さなくてはならない。これは、相当の覚悟がいる。


一方、男に生まれたら、女を愛することができるのだ。


子供のころは、男尊女卑の権化のような俺だったが、生きる年を重ねるたび、女の偉さを痛感する。

底があるとは思われない愛情。

酸化して、焦げ付いてしまった心を溶かすような、あの癒し。

極限まで味方になってくれ、極限まで手を差し伸べてくれる、あの巨大さ。


そんな、性欲の離れたところで尊敬の光差す存在への強烈な自意識が、俺をこんなにも緊張させてしまう。


この職を選択した時、俺は一つの想いを捧げた。


それは、あくまで奉仕者としての立ち位置を崩さないということだ。

ここを崩すと、成り立たない気がする。


たとえば顧客にはマゾヒストもいる。

昨今言われるところの、受け身だからMというものではなく、本物のMというものは、本当に被虐嗜好なのだ。

徹底的に痛めつけられ、蔑まれ、そんな暴力的なやり取りの中にある種の体温を感じ、その体温を感じる感度に自己を見つけ、自己の居場所とし、性的な恍惚を見出す。


俺は、その対極とされるサディストだと自分で思っている。

本気で苦しむ女に興奮するし、セックスにしても、受け身の行為に快感を得られず、フェラチオを気持ちいいと思ったこともなく、それで射精したこともない。

ただし、イラマチオで強引に主導権を握ったときにだけ、肉感的な興奮ではなく、情景的としての興奮が得られる性の倒錯人だ。


Sは責め、Mが受ける。

一見、奉仕をしているのはMにも見える。


だけれども思う。


あくまで巨大なのはMであり、Sは、常に、その巨大な母性の上で駄々をこねる稚児に過ぎない。


縄で縛って拘束しながら、その実、Sは心を拘束されていく。

鞭を打てば打つほど、Mの肌には鞭痕が付くが、同時に、Sの心は深く刻まれいく。



Sは常にMの気配を案じながら、次の一手を考えている。

気を使っている。

それは、自分の無様さがばれないためだ。

振られないためだ。


もちろん、Mも気を遣う。振られないような素振りも十分に見せる。


ただ、大きく違うところは、Mは自分の無様さを徹底的に見せることができる。

その部分で、圧倒的大差でMは強い。


俺は性根からSである以上、顧客を気遣い、無様な自分を隠し、振られないようにするしか方法を知らない。

上手くは言えないが、そうした意識を保つことこそプロで、そうしたプロ意識を具現化する行為こそ、つまりは奉仕なのだと思う。


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