出張ホスト 邂逅神代です

乍冥かたる

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高崎市 奈美のこと

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圏央から、鶴ヶ島JCT。

ここから、ようやく関越道に入る。圏央はSAがないので、食事に困った。

夜が白み始め、トラックに混じって、一日の始まりが早い一般車も走り出した。

午前4時。

早すぎたかも知れないが、気持ちのいいドライブができている。

少し、仮眠も取り、朝からやっている風呂にでも入ろう。


顧客は高崎の人で、待ち合わせは9時になっていた。


「あの~、ちょっと言いにくいんですけど」


メッセージをやり取りする中で、彼女は言った。


「なんです?」


「子供連れて行っていいですか?ちょっと、小さくて手が離せなくて」


それを聞いて、負の心が起きたが、それはすぐに消えた。

大した問題じゃない。

子連れの顧客は、これまでにも何度かいた。

俺自身、自分で持つのは御免だが、子供は嫌いじゃない。

ましてや、1歳半だという。

特に男子だから、気を使うこともない。これが女子だったら、1歳半でも相手は女だ。


「ああー、全く気にしないでね」


顧客の名は奈美と言った。32歳のシングルだという。

俺はあくまでホスト役で、接客業。奉仕業だ。

顧客とのやり取りは、必ず言葉を選んだ。敬語は当たり前だし、冗談を言うにも、礼は重んじた。

しかし、やり取りを始めて、すぐに奈美は言ったものだ。


「あの、敬語やめてくれませんか?」

「え、ああ、うん、了解」


理由は聞かなかったが、奈美は敬語を嫌った。そういう女は少なくない。

そのくせ、自分は敬語をやめずにいて、これは珍しいことだ。

フレンドリーに、お互い敬語をやめようと言うパターンなら、よくあることだった。


「Mかな」


素朴にそう思った。

自分から相手の腹の下に潜り込み、無意識にマウントを取らせる素振りを見せる人に、Mというものが多かった。

さして多い統計じゃないし、素朴にそう思っただけだった。


嵐山のPAに入り、コーヒーを飲んだ。

車を降りて、こうして、見慣れない町の空気を吸い、ちょっとした旅情に触れるのも悪くない。

いろんな車が停まっている。この光景も好きだ。


顧客にシングルの客は多くなかった。

利用するにも値段が張るし、経済的に余裕のあるシングルは少ない。

だから、定期的に、シングルを応援する企画を張った。

交通費はこっちで持ち、サービス料も抑えた、シングルキャンペーンというやつだ。

シングルだと偽って利用する人もいるかも知れないが、特にそういったものは気にしなかった。


キャンペーン利用は、一人一回にした。


「ねえ、次のシングルいつぅ??」


露骨に媚びられたことがあり、背筋が凍った。その時に決めたことだが、本当のことを言えば、こんなものに、何度も金を使ってほしくないという思いがある。

勝手な思いで、馬鹿なお節介なのは承知だが、これも、素朴に素直に思ってしまう。

あくまでこの手の商売は、一時的な現実逃避で、どっぷりと浸かるものではない。


だからこそ、俺は精一杯、限られた中で、奉仕する。

限られた中だからこそ、それができる。

自分の中だけで決めたことだ。

顧客には、声を出して自分は奉仕者だと伝えたことはないし、これからもない。

顧客には、金を出して、一時的な夢を見てさえいてくれたら、俺は俺でいられる。


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