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高崎市 奈美のこと
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嵐山のPAで仮眠を取り、増えたエンジンの音と、太陽の暑さで目が覚めた。
遠出が多いので、仮眠の布団はいつも積んでいる。
枕もあって、冬の時期には羽毛の掛け布団も置いている。
布団を車から出し、バタバタとはたいては埃を飛ばして風を入れ、冷たい緑茶を飲んで、エンジンを掛けた。
同世代の既婚のサラリーマンには決して起こらない日常。
どちらが幸福とか、そういう話じゃない。
花園ICで関越を降り、朝風呂に入って、さっぱりとした。
さっぱりといえば、関東のさっぱり感が好きだった。
産まれは西なので、西の歴史の重厚な、ある面でドロドロとしたカビ臭い深みは体質に合っている。その反面で、東京以外の関東の、さっぱりとした町並みの、人が多く、その分、店も多く、住心地の良い気風にも憧れがある。
埼玉などは、時折、他県民から揶揄されるが、住む分には、日本でも屈指の住心地だろうと、街を流しながら思う。
これから行く群馬にしても、千葉にしても、ほどよく田舎で、例えば子供を育てる上では、大都会すぎず、田舎すぎず、最高といっていい環境だろう。
都会は子供の心に垢をつけるが、田舎は、つくべき垢さえつかない。
風呂場に併設されたレストランで朝にした。
気づけば、8時前で、高崎までなら1時間弱で着くだろう。
こうして時間を合わせるのは、子供の頃から得意で、遅刻というものはしたことがなかった。
遅刻癖のある人は、時間の感覚を端から持ち合わせていない人で、これは能力の問題だから、おそらく、責めても無駄なんだろうと思っている。
8時50分に待ち合わせ場所のホームセンターに着いた。
ここなら、片方の車を置いておける。
うちの街にもあるホームセンターだ。
日本は、こうして見慣れぬ街に来ても、チェーン店が多いために、安心もあるし、つまらなくもある。
55分に、聞かされていた色の軽が着いた。
あちらもこちらの車を認めたらしく、隣につけてきた。
どうやら彼女も、遅刻をしないタイプらしい。
それも、幼児を抱えてだ。
「すいません、待ちました?」
眉を八の字にして、元気な女が降りてきた。
小綺麗な普段着といった感じで、その清潔ぶりが好印象だ。
「いや、俺もいま来たばかりで」
「あの、早速で悪いんですけどっ」
「はい?」
「おむつ替えていいです?うんこしちゃって」
リアを開けると、チャイルドシートに座った可愛い男の子がいた。
名前は大和だと聞いている。
股がガニ股に開いていて、小さな靴下と、小さな靴を履いた足が、ゆらゆらとおもちゃのように動いている。
つば広の帽子をかぶらされていて、こちらを見て、ニコッと微笑んだ。
奈美は子供を抱きかかえると、慣れた手付きでリアシートに寝かせ、おむつのマジックテープを剥がした。
「ほぉら、やっぱり。さっき替えたばっかりなのに!」
「本当だ。立派なものが出てる」
おむつをめくると、ふわっと匂いがしたが、あまり嫌な気はしない。
消化されていないぶつ切りの人参が見えて、それを見ると、なんともいえない尊い気持ちになり、今すぐこの赤ん坊を抱きしめ、頬ずりしてやりたい衝動が起こった。
奈美は手早くおむつを替え、古いおむつをビニル袋に入れた。
「ちょっと汚いですけど」
困ったように笑う女。
「後ろに、置いておきますね、捨てられないから」
「うん、気にしないで。しかし可愛いね」
彼のうんこのおかげで、初対面時の緊張はすっかり解けていた。
遠出が多いので、仮眠の布団はいつも積んでいる。
枕もあって、冬の時期には羽毛の掛け布団も置いている。
布団を車から出し、バタバタとはたいては埃を飛ばして風を入れ、冷たい緑茶を飲んで、エンジンを掛けた。
同世代の既婚のサラリーマンには決して起こらない日常。
どちらが幸福とか、そういう話じゃない。
花園ICで関越を降り、朝風呂に入って、さっぱりとした。
さっぱりといえば、関東のさっぱり感が好きだった。
産まれは西なので、西の歴史の重厚な、ある面でドロドロとしたカビ臭い深みは体質に合っている。その反面で、東京以外の関東の、さっぱりとした町並みの、人が多く、その分、店も多く、住心地の良い気風にも憧れがある。
埼玉などは、時折、他県民から揶揄されるが、住む分には、日本でも屈指の住心地だろうと、街を流しながら思う。
これから行く群馬にしても、千葉にしても、ほどよく田舎で、例えば子供を育てる上では、大都会すぎず、田舎すぎず、最高といっていい環境だろう。
都会は子供の心に垢をつけるが、田舎は、つくべき垢さえつかない。
風呂場に併設されたレストランで朝にした。
気づけば、8時前で、高崎までなら1時間弱で着くだろう。
こうして時間を合わせるのは、子供の頃から得意で、遅刻というものはしたことがなかった。
遅刻癖のある人は、時間の感覚を端から持ち合わせていない人で、これは能力の問題だから、おそらく、責めても無駄なんだろうと思っている。
8時50分に待ち合わせ場所のホームセンターに着いた。
ここなら、片方の車を置いておける。
うちの街にもあるホームセンターだ。
日本は、こうして見慣れぬ街に来ても、チェーン店が多いために、安心もあるし、つまらなくもある。
55分に、聞かされていた色の軽が着いた。
あちらもこちらの車を認めたらしく、隣につけてきた。
どうやら彼女も、遅刻をしないタイプらしい。
それも、幼児を抱えてだ。
「すいません、待ちました?」
眉を八の字にして、元気な女が降りてきた。
小綺麗な普段着といった感じで、その清潔ぶりが好印象だ。
「いや、俺もいま来たばかりで」
「あの、早速で悪いんですけどっ」
「はい?」
「おむつ替えていいです?うんこしちゃって」
リアを開けると、チャイルドシートに座った可愛い男の子がいた。
名前は大和だと聞いている。
股がガニ股に開いていて、小さな靴下と、小さな靴を履いた足が、ゆらゆらとおもちゃのように動いている。
つば広の帽子をかぶらされていて、こちらを見て、ニコッと微笑んだ。
奈美は子供を抱きかかえると、慣れた手付きでリアシートに寝かせ、おむつのマジックテープを剥がした。
「ほぉら、やっぱり。さっき替えたばっかりなのに!」
「本当だ。立派なものが出てる」
おむつをめくると、ふわっと匂いがしたが、あまり嫌な気はしない。
消化されていないぶつ切りの人参が見えて、それを見ると、なんともいえない尊い気持ちになり、今すぐこの赤ん坊を抱きしめ、頬ずりしてやりたい衝動が起こった。
奈美は手早くおむつを替え、古いおむつをビニル袋に入れた。
「ちょっと汚いですけど」
困ったように笑う女。
「後ろに、置いておきますね、捨てられないから」
「うん、気にしないで。しかし可愛いね」
彼のうんこのおかげで、初対面時の緊張はすっかり解けていた。
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