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高崎市 奈美のこと
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おチビもいることだし、奈美の車に乗り込んだ。
「あ、わたし運転しますよ。運転好きなんで。そこ、お茶があるんで、よかったらどうぞ」
大和をチャイルドシートに乗せ直しながら、奈美が言った。
シートのセットのために、少し大和を預かったが、小動物のような抱き心地で、赤ちゃんならではのいい香りがした。
意外におとなしい。
高崎の隣に、藤岡市という市があるらしい。
そこにミニ動物園のある大きな公園があって、子連れにはいいということで、向かった。
車持ちの顧客は、こうして、自分で運転するのを好む人が多い。
俺も、運転を任せ、悠々自適に流れていく、見知らぬ町並みを眺めるのが楽しかった。
「高崎は初めてですか?」
「うん、群馬が初めて。いや、赤城に一回行ったことあるな」
「遠かったでしょ」
「遠出好きなんだ。ドライブ依存症」
「言ってましたね」
「それにあんまり評価されてないけど、群馬は好き。赤城に榛名、妙義山。沼田も行ってみたいんだよなあ」
「あ、じゃあ、沼田にします??」
「いや、いいいい、おチビ優先にしましょう」
なんとなく、こざっぱりした人だ。
「んちゃっ!」
後ろで、大和が何か言った。
「あーっ、お茶? すいません、そこのお茶渡してもらっていいですか? あんまり飲むんじゃないよ。また、しっし出るからね」
ディズニーの絵のついたコップにお茶が入っていて、でっかいストローが付いている。
赤ちゃんって、お茶を飲むんだと、新鮮に思った。
大和がコップを掴んで、一心不乱にお茶を飲んでいる。
そのコップを掴んだ指には、おもちゃのような、精密細工のような爪が生えている。
シートの間から、なにか落ちた。
拾うと、小さな団扇で、意味不明の線がうねうねと描かれている。
「それ、大和の絵。父の日に保育園で団扇に絵を描いてプレゼントってのがあったんだけど、パパいないから」
振り向くと、お茶を飲む大画伯。
一瞬、目が合ったが、すぐに逸らされた。
お茶も団扇も、おめえにはやらないといったところか。
それにしても、人懐っこいというか、堂々としている。
以前、一歳児連れの主婦を顧客に持ったことがあるが、その子は、ずっと泣いていたというのに。
運転席の女にも、いろいろあったのだろうと思う。
だけど、大和を見るようには、じっとは見つめられなかった。
俺自身にもいろいろあった。
人生とはそういうものだ。
今は、今日は、思うままに楽しめばいい。
庚申山の公園に着いた。
平日とあって、駐車場も比較的空いていて、無料開放の小さな動物園、ミニ遊園地、森に池もあり、のんびり散歩するには、最高の公園だった。
ただし、今日はのんびりとはいかず、休みなく走り回る大和を追いかけることに振り回された。
溝は要注意だし、蜘蛛の巣に飛び込まれるのも厄介。
面白いもので、追いかけるたびに、隣の奈美と息が合ってくる。
上手く挟み撃ちにしたり、大和が駆け出すタイミングで互いに同時に反応したり、俺が捕まえ、奈美に引き渡す。
そんな呼吸も、初対面とは思えぬほどに足並みが揃っていくのが楽しかった。
「あ、わたし運転しますよ。運転好きなんで。そこ、お茶があるんで、よかったらどうぞ」
大和をチャイルドシートに乗せ直しながら、奈美が言った。
シートのセットのために、少し大和を預かったが、小動物のような抱き心地で、赤ちゃんならではのいい香りがした。
意外におとなしい。
高崎の隣に、藤岡市という市があるらしい。
そこにミニ動物園のある大きな公園があって、子連れにはいいということで、向かった。
車持ちの顧客は、こうして、自分で運転するのを好む人が多い。
俺も、運転を任せ、悠々自適に流れていく、見知らぬ町並みを眺めるのが楽しかった。
「高崎は初めてですか?」
「うん、群馬が初めて。いや、赤城に一回行ったことあるな」
「遠かったでしょ」
「遠出好きなんだ。ドライブ依存症」
「言ってましたね」
「それにあんまり評価されてないけど、群馬は好き。赤城に榛名、妙義山。沼田も行ってみたいんだよなあ」
「あ、じゃあ、沼田にします??」
「いや、いいいい、おチビ優先にしましょう」
なんとなく、こざっぱりした人だ。
「んちゃっ!」
後ろで、大和が何か言った。
「あーっ、お茶? すいません、そこのお茶渡してもらっていいですか? あんまり飲むんじゃないよ。また、しっし出るからね」
ディズニーの絵のついたコップにお茶が入っていて、でっかいストローが付いている。
赤ちゃんって、お茶を飲むんだと、新鮮に思った。
大和がコップを掴んで、一心不乱にお茶を飲んでいる。
そのコップを掴んだ指には、おもちゃのような、精密細工のような爪が生えている。
シートの間から、なにか落ちた。
拾うと、小さな団扇で、意味不明の線がうねうねと描かれている。
「それ、大和の絵。父の日に保育園で団扇に絵を描いてプレゼントってのがあったんだけど、パパいないから」
振り向くと、お茶を飲む大画伯。
一瞬、目が合ったが、すぐに逸らされた。
お茶も団扇も、おめえにはやらないといったところか。
それにしても、人懐っこいというか、堂々としている。
以前、一歳児連れの主婦を顧客に持ったことがあるが、その子は、ずっと泣いていたというのに。
運転席の女にも、いろいろあったのだろうと思う。
だけど、大和を見るようには、じっとは見つめられなかった。
俺自身にもいろいろあった。
人生とはそういうものだ。
今は、今日は、思うままに楽しめばいい。
庚申山の公園に着いた。
平日とあって、駐車場も比較的空いていて、無料開放の小さな動物園、ミニ遊園地、森に池もあり、のんびり散歩するには、最高の公園だった。
ただし、今日はのんびりとはいかず、休みなく走り回る大和を追いかけることに振り回された。
溝は要注意だし、蜘蛛の巣に飛び込まれるのも厄介。
面白いもので、追いかけるたびに、隣の奈美と息が合ってくる。
上手く挟み撃ちにしたり、大和が駆け出すタイミングで互いに同時に反応したり、俺が捕まえ、奈美に引き渡す。
そんな呼吸も、初対面とは思えぬほどに足並みが揃っていくのが楽しかった。
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