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下田市 郁美のこと
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細かな霧雨が嵐気となって、夏の湿気を含んで生温かい。
冷たい缶コーヒーが喉を突くように落ちると、俺は車に乗り込んだ。
細かな雨は昼には上がるらしい。
414号を南へ。
天城の峠を越えると河津に入り、目的の下田までは、もうすぐだ。
途中、2回転のループ橋で標高差45mを一気に下り、艶めいた照葉樹が何重にもなった山肌を縫っていく。
「いつ走っても目が回るな・・」
もともとは、山道によくあるような通常のつづら折れの国道だったのだが、地震で山が崩落し、道が寸断された痛い経験から、このような全国的にも珍しい道ができたのだという。
山を海に向けて下る。
弱っていた霧雨はついには止み、遥かに見えてきた海は、目線の上にあるように不思議に浮いて見え、そこはもう、伊豆の海の景色だった。
山を一気に下ると、海にぶつかった。
国道は、海沿いギリギリを走り、その海に沿って、南へ行くと、白浜の海岸に出る。
曇り模様とはいえ、そこは夏。若い連中がそぞろに歩いていて、けれど、海に入っている人は少なかった。
須崎を左手に見送り、やがて下田の街へ入った。
入ってすぐ、道の駅がある。
駅の敷地内から、下田の海を巡る遊覧船が出ていて、今日は日曜日とあって、沖に浮かんだ船には、何人かの観光客が見えた。
12時40分。
顧客とは、13時に待ち合わせをしていた。
かなり忙しい人のようで、昨日も仕事で、明日ももちろん、朝早くから仕事。
日曜日は昼間までぐっすり寝たいとのことで、この時間の待ち合わせになった。
彼女は、地元の小学校の先生。
メッセージのやり取りもタイムラグの多い人で、ようやく見つけた時間の隙間の中、俺と逢ってくれるらしい。
名前は郁美。
俺の一風変わった源氏名の由来を聞いてきた初めての人だった。
「邂逅神代って、どういった意味で付けたんですか?」
「ああ、御大層な名前でしょ」
「はい 笑」
「竜田揚げって」
「え?」
「竜田揚げって、なんで竜田揚げっていうか知ってますか」
「え、考えたこともないですっ」
「百人一首」
「はい」
「百人一首でね、、ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 からくれないに 水くくるとは、、、ってあるでしょ」
「ありますね。えっと誰だっけ」
「在原朝臣」
「業平さんだ」
「そう」
「うんうん」
「竜田川って、奈良の、紅葉の名所なんですよ」
「うん」
「竜田揚げって、ほんのり色づいた揚げ色が、竜田川の紅葉のようだと付けられた名前」
「え、初耳」
「んで、神代の昔より聞いたことがないぜ、こんな真っ赤な紅の見事な竜田川の紅葉よ!って、感動した歌が朝臣の歌で」
「ほぉ」
「邂逅は、思いがけない奇遇の出逢い」
「というと、、」
「つまり、神代の昔より聞いたことがないぜ、こんな奇遇の出逢い!っていう想いを込めたんです」
「そっかぁ、そうだったんですね」
「説明的になると、すんごい寒いんですよね、この手のネタって」
冷たい缶コーヒーが喉を突くように落ちると、俺は車に乗り込んだ。
細かな雨は昼には上がるらしい。
414号を南へ。
天城の峠を越えると河津に入り、目的の下田までは、もうすぐだ。
途中、2回転のループ橋で標高差45mを一気に下り、艶めいた照葉樹が何重にもなった山肌を縫っていく。
「いつ走っても目が回るな・・」
もともとは、山道によくあるような通常のつづら折れの国道だったのだが、地震で山が崩落し、道が寸断された痛い経験から、このような全国的にも珍しい道ができたのだという。
山を海に向けて下る。
弱っていた霧雨はついには止み、遥かに見えてきた海は、目線の上にあるように不思議に浮いて見え、そこはもう、伊豆の海の景色だった。
山を一気に下ると、海にぶつかった。
国道は、海沿いギリギリを走り、その海に沿って、南へ行くと、白浜の海岸に出る。
曇り模様とはいえ、そこは夏。若い連中がそぞろに歩いていて、けれど、海に入っている人は少なかった。
須崎を左手に見送り、やがて下田の街へ入った。
入ってすぐ、道の駅がある。
駅の敷地内から、下田の海を巡る遊覧船が出ていて、今日は日曜日とあって、沖に浮かんだ船には、何人かの観光客が見えた。
12時40分。
顧客とは、13時に待ち合わせをしていた。
かなり忙しい人のようで、昨日も仕事で、明日ももちろん、朝早くから仕事。
日曜日は昼間までぐっすり寝たいとのことで、この時間の待ち合わせになった。
彼女は、地元の小学校の先生。
メッセージのやり取りもタイムラグの多い人で、ようやく見つけた時間の隙間の中、俺と逢ってくれるらしい。
名前は郁美。
俺の一風変わった源氏名の由来を聞いてきた初めての人だった。
「邂逅神代って、どういった意味で付けたんですか?」
「ああ、御大層な名前でしょ」
「はい 笑」
「竜田揚げって」
「え?」
「竜田揚げって、なんで竜田揚げっていうか知ってますか」
「え、考えたこともないですっ」
「百人一首」
「はい」
「百人一首でね、、ちはやぶる 神代もきかず 竜田川 からくれないに 水くくるとは、、、ってあるでしょ」
「ありますね。えっと誰だっけ」
「在原朝臣」
「業平さんだ」
「そう」
「うんうん」
「竜田川って、奈良の、紅葉の名所なんですよ」
「うん」
「竜田揚げって、ほんのり色づいた揚げ色が、竜田川の紅葉のようだと付けられた名前」
「え、初耳」
「んで、神代の昔より聞いたことがないぜ、こんな真っ赤な紅の見事な竜田川の紅葉よ!って、感動した歌が朝臣の歌で」
「ほぉ」
「邂逅は、思いがけない奇遇の出逢い」
「というと、、」
「つまり、神代の昔より聞いたことがないぜ、こんな奇遇の出逢い!っていう想いを込めたんです」
「そっかぁ、そうだったんですね」
「説明的になると、すんごい寒いんですよね、この手のネタって」
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