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なんか、プロテインが流行ってるらしい
しおりを挟むアクティとコウセイが自領に帰ってからの数日間、セクシャルは魔力の訓練を中心的に行っていた。すっかりハマっちゃってるねぇ~。
レベルアップというファンタジー要素はあるものの、筋肉、筋力の強化だけを突き詰めていたらいずれ限界が来るかもしれない。
それを考慮すると、魔力による身体強化など別の要素を鍛えるのもいい考えだと思うね。
筋トレ以外にも手を出すなら、そろそろ武術とかやってみてもいいんじゃないかと思うが、セクシャルが追い求める強さはそういうんじゃないんだろうなぁ。
でもさぁ、大きな魔物相手にまともな武器も使わず、鉄の棒で無茶苦茶に殴っている姿を見ていると、こいついつか死ぬんじゃないかって思うんだよねwww。
我々を安心させるためにも、是非棒術くらいは習得してみて欲しいものである。
「ふぅ……。今日もやるかー」
例に漏れず今日も魔力トレーニングを行おうとしているようで、セクシャルは訓練室にてウォーミングアップを始める。
鍛えるのは魔力だが、訓練には体も使うのでストレッチは大切だ。筋トレ前ほどしっかりは行わないが、体が温まる程度には行う。
ウォーミングアップは進み、仰向けに寝っ転がり、開脚して股関節のストレッチをしていた時。タイミング悪く、セクシャルの母親であるジェンダー・ハラスメントが訓練室を訪れた。
「あっ……ごめんね、運動中だったかしら」
訓練室に入った瞬間、床に寝そべって股を開いているセクシャルを目撃し、まるで息子の自慰行為を見てしまったかのような気まずそうな反応をするジェンダー。
セクシャルの訓練室は割と開放的な設計になっている。ドアなどはないので、ノックしてから入れというのは酷だろう。
ただ、入る前に声くらいはかけてやって欲しいものだ。もし本当に自慰行為をしていたら、大惨事である。
「何の用だ?」
突然訪ねてきたジェンダーに対し、冷たく言い放つセクシャル。
普段、ジェンダーがセクシャルを尋ねることなど滅多にないので、何事かと怪しんでいるようだ。
「その……プロテインを貰えないかしら」
言い淀んだので何を言うのかと思えば、まさかのプロテインが欲しいときたか。謎すぎる展開である。
確かにプロテインは美容にもいいが、そんなことをこの世界の住人が知るはずもない。もっとも、セクシャルがそのことを教えていたら話は別だが。
「やらん。何に使う気かしらないが、今、俺の魔力は貴重なんだ」
勇気を振り絞って発言したジェンダーの要求を、セクシャルはバッサリと切り捨てた。
確かに、前までは魔力を多少使い切らずに眠る日もあったが、最近は訓練やら日課やらをこなすうちに全て消費しきってしまう日々が続いている。
ドンマイジェンダー。タイミングが悪かったとしか言えないな。
「ねえ、セクシャル。領民を助けてくれてありがとう。本当は、私たちがやるべきことだったのに」
「!?」
諦めて帰るかと思いきや、セクシャルに感謝を述べるジェンダー。しかも、領民を助けたことに対する感謝。前までのジェンダーには、考えられない行動だった。
「でももう、あなたが危険を犯すのは見てられないの……。毎日毎日魔境に行って、血塗れになって帰ってきて……。あなたはお母さん達のことを嫌いになったかもしれないけど、私たちからすれば、あなたは本当に私たちの宝物なの。」
ジェンダーは、悲痛そうな表情を浮かべてそう言った。握り締められた拳には、後悔の念がこもっているように感じる。
どうやらジェンダー達を変えたのは、セクシャルの行動が原因らしい。
確かに、6歳の息子が命を危険に晒して自分たちの尻拭いをしているのだ。まともな親だったら、そんな状況耐え切れないだろう。
だがまさか、このジェンダーがそのまともな親の部類に入っているとは思わなかった。
「だから、私たちにチャンスをちょうだい。あなたが危険な目に遭う必要がないような、豊かな領地を作ってみせるから……!」
ジェンダーの瞳には、確かな決意が宿っていた。
「それで、その話とプロテインにどういう関係があるんだ?」
その決意に心を動かされたのか、セクシャルはプロテインの使い道を尋ねる。
確かに、今の話とプロテインはどう考えても繋がらない。一体どういう意味があるのだろうか。
「それはね……」
それからジェンダーは、プロテインの使い道について語った。
まず、領地を変えていくに当たって最初に解決すべき問題は、やはり食糧不足。
これについては、他領からのハンターの派遣とハンターギルドの設立。森の開拓。農業など第一次産業を行う人々の待遇の改善などをとりあえず考えているらしい。
そして、そのためにはやはり他領を収める貴族に協力してもらう必要があるらしく、それをお願いするためのお茶会で、セクシャルのプロテインを振る舞いたいのだとか。
どうやら、先日のアクティ公爵令嬢の誕生日パーティーに参加していた貴族達やアクティ本人の口コミにより、セクシャルのプロテインが王都の夫人、令嬢達の中で話題になっているらしい。
まさかのプロテインブーム。他人にも筋肉を付けさせたいという思想の持ち主のセクシャルならば、喜んでこの話に乗るだろう。
「情けないけど、私たちは公爵家にしてはお金ももってないし、特産物なんかもなければ、戦力も小さくて……信用もない。だから、そのお茶会を成功させるためにも、力を貸して欲しいの」
6歳の息子に話しかけるとは思えないほど真剣な表情で、ジェンダーは頭を下げた。
「いいだろう。スペシャルなプロテインをやるから、成功させてみろ」
セクシャルは実の母親に対しても態度を変えず、クッソ偉そうにそう言った。
「ありがとう! 必ず成功させてみせるから!」
セクシャルから了承の言葉とともにプロテインを貰い、パッと顔を明るくしたジェンダー。
「もし、いつかお父さんとお母さんを許してくれる日が来たら、また一緒にご飯を食べたいわ。お父さんも、そう思ってる」
最後にそう言い残し、訓練室を去っていった。
「やはり、世界はプロテインを求めている。早々に準備が必要だな」
何を思ったのか知らないが、去っていくその後ろ姿を眺めながら、セクシャルはつぶやいた。
いや、マジでこいつ何考えてるかわかんない。
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