10 / 15
その他
2024年2月24日 史上最悪で、最高の誕生日
しおりを挟むAM 5:30
ピピピッ、と無機質な電子音が鳴り響く。今日は僕の誕生日。いくつになっても、この日の朝は少しだけ特別な気分になる。……はずだった。
枕元の体温計が示した数字は「40.0℃」。
視界がぐにゃりと歪み、世界がスローモーションになる。なるほど、これが走馬灯というやつか。誕生日の朝に人生の終わりを悟るなんて、我ながら面白い。
「ははっ、マジかよ……」
乾いた笑いがこぼれる。頭はガンガンと警鐘を鳴らし、関節は悲鳴を上げている。それなのに、不思議と食欲だけはいつも通り。ふらつく足で食卓へ向かい、まるで他人事のように朝食を胃に収めた。我ながら、体の構造がどうなっているのか不思議でならない。
AM 7:00
外は、まるでシベリアからの刺客のような強風が吹き荒れている。気温は一桁。そんな極寒の世界へ、僕は半袖に長ズボンという無謀すぎる姿で飛び出した。
「さっむ……でも、気持ちいい……」
燃えるように熱い体と、突き刺すような冷気。そのアンバランスな感覚が妙に心地よかった。道行く人がぎょっとした顔で僕を見ている気がするが、もはや気にする余裕もない。これが僕なりの荒療治なのだ。
PM 1:00
なんとか昼寝から這い出し、昼食をかきこんだ直後、僕の胃は盛大に反乱を起こした。壮絶なリバースを経て、よろよろとバイト先へ向かう。今日のミッションは、確定申告の入力テスト。
朦朧とする意識の中、指先だけは正確にキーボードを叩いていたらしい。結果は……なんと満点!
「すごいじゃないか!」「よくやった!」と周りからの称賛の嵐。でも、割れるように痛む頭の中では、その声が遠くで鳴っているかのようだった。
心配そうに顔を覗き込む同僚に、インフルやノロの類ではなく、ただの知恵熱(ストレス性)だから感染の心配はないと告げる。すると、称賛は一気に呆れた声へと変わった。
「よくこの状態でここまで来れたよね(笑)」
「いや、普通に馬鹿じゃない?」
「体力おばけかよ」
口々に放たれる文句の数々。僕はニヤリと笑って、とっておきの一言を返してやった。
「ご心配なく! よく言うじゃないですか、『バカは風邪を引いても意識がない』ってね!」
その瞬間、事務所は大きな笑いに包まれた。うん、今日も世界は平和だ。
PM 7:00
家に帰り着き、夕食を済ませると、今夜のメインイベントが待っていた。リモートで開催される謎解きイベントだ。合計10問、果たしてこのコンディションで何問解けるか。
熱で潤んだ瞳で画面をにらみ、沸騰しそうな頭をフル回転させる。不思議なもので、追い詰められるほどに思考は冴えわたる。そして気づけば……全問正解の文字が画面に輝いていた。僕自身が一番驚いていたかもしれない。
PM 8:00
イベントの興奮も冷めやらぬ中、親が用意してくれた誕生日ケーキが登場した。大好物のチーズケーキだ。しかし、僕の体は正直だった。一口食べた瞬間、再び強烈な吐き気に襲われる。
「うっ……うっ……コケコッ……!」
自分でも意味不明な声を上げながら、トイレに駆け込む。それでも僕は諦めなかった。これは誕生日の証なのだと、半ば意地になってケーキを完食した。
その後、38度の体で風呂に飛び込み、案の定、頭痛が悪化して激痛と格闘することになったのは言うまでもない。
「最近流行ってる【冬頭痛】かもしれない」
そう訴える僕に、親は「お前はただのストレスによる熱だ!」と一刀両断。まあ、否定はできない。
高熱にうなされ、同僚に呆れられ、謎解きで覚醒し、ケーキに打ちのめされた誕生日。
本当に色々ありすぎた一日だったけど、なんだかんだで忘れられない、最高の誕生日になったのかもしれない。
みんなも、急な寒さで起こる「冬頭痛」には気をつけてくれよな!
10
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
皆が望んだハッピーエンド
木蓮
恋愛
とある過去の因縁をきっかけに殺されたオネットは記憶を持ったまま10歳の頃に戻っていた。
同じく記憶を持って死に戻った2人と再会し、再び自分の幸せを叶えるために彼らと取引する。
不運にも死に別れた恋人たちと幸せな日々を奪われた家族たち。記憶を持って人生をやり直した4人がそれぞれの幸せを求めて辿りつくお話。
課長と私のほのぼの婚
藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。
舘林陽一35歳。
仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。
ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。
※他サイトにも投稿。
※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。
『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』
しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。
どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。
しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、
「女は馬鹿なくらいがいい」
という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。
出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない――
そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、
さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。
王太子は無能さを露呈し、
第二王子は野心のために手段を選ばない。
そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。
ならば――
関わらないために、関わるしかない。
アヴェンタドールは王国を救うため、
政治の最前線に立つことを選ぶ。
だがそれは、権力を欲したからではない。
国を“賢く”して、
自分がいなくても回るようにするため。
有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、
ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、
静かな勝利だった。
---
リアンの白い雪
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
その日の朝、リアンは婚約者のフィンリーと言い合いをした。
いつもの日常の、些細な出来事。
仲直りしていつもの二人に戻れるはずだった。
だがその後、二人の関係は一変してしまう。
辺境の地の砦に立ち魔物の棲む森を見張り、魔物から人を守る兵士リアン。
記憶を失くし一人でいたところをリアンに助けられたフィンリー。
二人の未来は?
※全15話
※本作は私の頭のストレッチ第二弾のため感想欄は開けておりません。
(全話投稿完了後、開ける予定です)
※1/29 完結しました。
感想欄を開けさせていただきます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
結婚する事に決めたから
KONAN
恋愛
私は既婚者です。
新たな職場で出会った彼女と結婚する為に、私がその時どう考え、どう行動したのかを書き記していきます。
まずは、離婚してから行動を起こします。
主な登場人物
東條なお
似ている芸能人
○原隼人さん
32歳既婚。
中学、高校はテニス部
電気工事の資格と実務経験あり。
車、バイク、船の免許を持っている。
現在、新聞販売店所長代理。
趣味はイカ釣り。
竹田みさき
似ている芸能人
○野芽衣さん
32歳未婚、シングルマザー
医療事務
息子1人
親分(大島)
似ている芸能人
○田新太さん
70代
施設の送迎運転手
板金屋(大倉)
似ている芸能人
○藤大樹さん
23歳
介護助手
理学療法士になる為、勉強中
よっしー課長
似ている芸能人
○倉涼子さん
施設医療事務課長
登山が趣味
o谷事務長
○重豊さん
施設医療事務事務長
腰痛持ち
池さん
似ている芸能人
○田あき子さん
居宅部門管理者
看護師
下山さん(ともさん)
似ている芸能人
○地真央さん
医療事務
息子と娘はテニス選手
t助
似ている芸能人
○ツオくん(アニメ)
施設医療事務事務長
o谷事務長異動後の事務長
ゆういちろう
似ている芸能人
○鹿央士さん
弟の同級生
中学テニス部
高校陸上部
大学帰宅部
髪の赤い看護師
似ている芸能人
○田來未さん
准看護師
ヤンキー
怖い
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる